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第九話:ドローレム・サマー

…次回からは毎週月曜日の投稿になります。もうストックがないんで…あ、一応最終話までの内容はメモしてるんで大丈夫です!!

それは、十年前のとても蒼い空が広がっていた夏の日だった…



「早く、早くっ!!」



「ちょっと、ゆっくり行こうよ〜!?」



その日は、兄と一緒にプールへ行くことになっていた。私は楽しみで仕方がなくて兄を急かした。



「玲?あんまり深月を困らせないのよ?」



「はーい!!」



「行ってくるね」



「行ってきま〜す!!」



「行ってらしゃい」



何てことはない、私達家族の平凡な日常。



だけど…



これが、私と兄と母のみんな揃って交わした最後の言葉だった…



「…?ねぇ、あそこどうしたの?」



「ん?何処?」



川岸の道路に多くの人が集まり、花束やジュースなどを置いているのだ。当時の私は、それがまだ良く分かっていなかったのだ。



「あぁ、多分あそこの川で誰か亡くなったんだと思うよ?お酒じゃなくてジュースとかだから幼い子だったのかな…」



そこで、私達はハンカチで涙を拭っている人達に話を聞くと、どうやら5日前に川で溺れたそう。何とか河川敷まで上がれて病院に搬送されたが亡くなってしまったらしい。



「私達の、大切な一人息子で…」



「あの時、一瞬でも目を離さなければ…うぅ…」



「…そうなんだ、まだ子供なのに…可哀想(・・・)



『何でこんなことに』

『どうしてあの子が』

『こんなに幼いのに』

『幼い子だったのかな…?』

『私達の、大切な一人息子で…』

『あの時、一瞬でも目を離さなければ…』

『まだ子供なのに…可哀想』



…突然、ノイズと一緒に色んな人の声が何度も繰り返されて響いた。その中には、私達と親御さんの声も混じっていた。



…風がいつの間にか止んで、自然の音は息を潜めるように消え、辺りをノイズと声が支配する。声がする方へ恐る恐る向くと、そこにはーーーテレビの砂嵐のような柄の身体をした…青い人型のナニカがいた。



『ーーーーー』



「…っ」



「えっ」




【神秘の侵食…】



【侵食に対して対抗…】



【『何でこんなことに』『どうしてあの子が』『こんなに幼いのに』『幼い子だったのかな…?』『私達の、大切な一人息子で…』『あの時、一瞬でも目を離さなければ…』『まだ子供なのに…可哀想』】



【ERROR】



………



【ERROR ERROR ERROR ERROR ERROR ERROR ERROR ERROR ERROR ERROR ERROR ERROR ERROR ERROR ERROR ERROR ERROR ERRORエラーエラーえらーえるなんゆのゆ4xk・<〒えゆにの】



【神秘空間の分離…】



………



【成功】



【観測:環境型神秘、呼称…】



【|悲哀の神秘《Dolorem Arcana》】



………



……





目を開けると、そこは河川敷にある橋の下だった。顔を上げると、そこには兄の顔があった。



「あっ、お兄んぐっ!?」



「しっ、声を出したら駄目だよ…耳を塞いで目を閉じてて…」



頭を撫でながら抱きとめられている私は言われた通りにした。それは決して兄と仲が良いだけではなく、さっきから撫でている手が震えているのと、血生臭い匂いが鼻についているからだろう。そうして、暫く私は現実から目を逸らしていると…



「くそっ、駄目か…玲、これから目を開けていいけど、絶対に声を出しちゃ駄目だよ…?」



「ーーーッ!?」



ーーーそこには、地獄が広がっていた。



河川敷は血飛沫で真っ赤に染まり、死体が川に浮いて紅色に染め上げている。そして、ゆっくりとした足取りでこちらへ向かってくるあの人型(・・・・)



「いいかい…?あそこ、見える?あの青色の結晶みたいなのがあるんだけど…」



確かに、台座の上でふわふわと上下に浮いている長方形の形をした、青色の宝石のようなものがあった。



「多分、アレのせいでこんな状況になってると思うんだ…確証はないけどね」



「…それが、どうしたの…?」



兄は悲しそうな顔を浮かべたけれど、無理矢理作ったような笑みを私に向ける。



「僕がアイツの気を引きつけるから…玲、君がアレを取るんだ」



「え…?」



アイツの気を引くということは、それは…



「大丈夫、秘策があるから…」



………



……





実の所、この秘策が決まるには玲自身が強く関わっている。というのもあの怪物に襲われ、目を覚まさない玲を抱えながら逃げていた時に偶然、怪物に掴まったのが事故で子供を失った親御さんで、子供の名前を悲しそうに呼びながら泣いていた時、あの怪物の動きが止まったのだ。



恐らく、ここでは悲しい感情でなくてはいけないんだと考えている。そもそも、アイツが現れたのも皆が涙を流して憂いていたからの可能性が高い。



「…まぁ、僕自身にはあんまり関係ないけど…」



玲には出来るだけ、悲しい思い出を考えるようにいって柱の陰で隠れさせている。そして、僕はその橋の更に後ろで立っている。



正直に言うと怖い、すごく怖い…でも、これでいい。悲しいと感じている間はアイツは襲ってこない。裏を返せばそれ以外の感情を襲うってことでーーー



「ーーーよしっ、来た!!」



あの怪物がこっちへ走って来た。そして、玲の隠れている場所を素通りした瞬間、頷いて合図する。それを見て玲は悲しそうな顔をしながら一目散に走り出した。そう、それでいい…



「来いよッ、妹には…玲には指一本触れさせないッ‼」



妹を、玲を何があっても守ること…それが、父と最後に約束したことだから。



そのためならば、大空 深月は自身の命すら惜しくはない。



………



……





「はぁっ、はぁっ、はぁ…ッ!!!」



早く、疾く、一秒でも速くッ!!アレを手に入れればここから出られるッ!!そうすれば兄が助かる可能性が上がる。



「うぁぅ…ッ」



足を掬われて転びそうになっても、すぐに体勢を直して走り出す。一瞬でも遅れることは許されないし、私が許さない。もし転んだら一生後悔する。



…あぁ、こんなことならもっと運動して鍛えれば良かった。だけど、それは二人で生きて帰ってから。



そうして、私は台座の元まで辿り着いた。



「…えいっ!!」



私はすぐに台座に登って、青色の宝石を手に取った。だけど、元の世界に戻るような兆候は示さなかった。



「大変、お兄ちゃーーー」



振り返った先、そこにはあの化け物が私に向けてナイフように鋭利な指を振り下ろそうとーーー



「…させるかァッ!!!」



そこへ、兄が体当たりをして怪物を横に転倒させる。それで兄も体勢を崩して…



「…ッ!!お兄ーーー…」



兄の身体にその指が振り下ろされた…血が飛び散り、私の真っ白なワンピースと頬を紅色に染める。



「あ、あぁ…」



世界から急速に色が無くなるような幻覚に襲われる。希望も、未来も何もかもが打ち砕かれて消えていく。ただ、悲しみだけが心を支配したのは幸いだったのだろうか…?



「いやーーーッ!?」



私の悲痛な叫びと共に、手に取った宝石が光を放つ。私は必死に倒れている兄へ手を伸ばす…その時の兄の表情は、嬉しそうでいて悲しそうな笑顔だった。そして、声は聞こえなかったが…



「ごめんね」



…と、口元が動いていたのが見えたと同時に、私は河川敷で目を覚ました。



………



……





私は、アルカナ・オブザーバーという団体に所属している人達に保護された。なんでも、あの宝石?を持った状態で現実に帰ると特殊な力を与えられるらしく、あの空間とその力を隠す為に保護したのだそう。



「今の君は世間的には失踪した事になっている…残念だが、君を家に帰すのは難しい」



そう言われた時は荒れに荒れた。ただでさえ、父が亡くなった時は色々と不安定な状態だった母が独りぼっちになってしまう。



そうして、彼らを恨みながら過ごして何年か経った頃、真実を教えられた。



「え…?精神病院に?」



…あの日、あの人達が私の母親に私達が|事故にあってお兄さんが亡くなった《・・・・・・・・・・・・・・・・》と言うことを伝えたらしい。当初はそういうシナリオにして、私と母を保護しようとしていたそうだ。だが、精神的に大きな傷を負って錯乱しまい、それにより記憶を失ってしまったそうだ。そして、ただでさえ目の前で兄が死んだ当時の私も精神を病んでしまう可能性があるとして、その事を私に教えなかったのだ。



「そんな…それじゃあ私は…」



「貴方が傷つくことはないわ、全ての元凶はアルカナだもの」



「私が…」



「…?」




「…私が、アルカナ・オブザーバーになるにはどうすればいいですか?」



私は、自身の担当職員である彼女の悲しそうな顔を絶対忘れないだろう…それでも、私の兄を殺して、母をそんな状態にした元凶を…私は、許せなかった。



…そうして、私は大空という苗字を捨ててその日から深月 玲と名乗るようになった。



………



……





「いつも私なんかの為に…ごめんなさいね」



「いえいえ、私が勝手にしているだけなので気にしないで下さい…葵さん」



「そう…?深月さん(・・・・)がそう言って下さると嬉しいわ」



…まだ、母の記憶は戻らない。私の顔を見て「貴方は誰なの?」と言われた時は本当に泣いた。ただ、それを見てオロオロしている母を見ると、昔と変わっていなくて安心した。



「ごめんなさい…まだ、貴方の事を思い出せなくて…」



「大丈夫ですよ…貴方が私達の事(・・・・)を忘れてしまっても、私にとって大切な人ですから…」



医者が言うには、急激な記憶の復元はダメージが大きいため少しずつ思い出すのが効果的らしい。



「あの…私達(・・)って…?」



「あっ、ただの言い間違いです…それより、私のお気に入りの駅前のケーキ屋さんが新作を販売していて…」



「本当にっ!?私もそこのケーキ屋さん好きなのよ♪」



…これでいい。別に忘れられていたとしても、母の幸せそうな顔が見られれば…私だけが、覚えていれば…それで皆幸せなのだ。




夕焼け色に染まった外から、オレンジ色の日差しが病室の窓から差し込む中、深月は何かを堪えるような顔をして笑った。



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