第八話:メンダークス
…ストックがなくなり次第、週一投稿になりますので…
「…ちかれた」
昨日よりもさらに大変な出来事が連続して起き、もう竜斗の精神はかなり削られていた。それによって、姉がべったりとして過保護になったのも追い打ちをかけた。
「はぁー…なんか、まだ腹が痛いような気がする…」
立夏に肩を貸されて神秘空間から脱出したのだが、からかって面倒なことをしてくれた立夏にほっぺむにむにの刑に処している間も、深月は顔を背けていたのが印象に残っている。
…目を閉じれば、今でもあの鼻をくすぐった汗と女性特有の甘い匂いに加え、腕にあたった柔らかい感触と…鳩尾を襲った拳を鮮明に思い出せる。
「よしっ、忘れよう…」
竜斗は頭をガンガンと叩き、嫌な思い出を忘れるようにベッドに横になって眠りについた。
…完全に眠りに落ちようとした寸前、ギシッとベッドが軋む音と共に、月明かりを遮って顔に影がさす。
「…ん?」
目を擦りながら瞼を開けると、そこにはコートを着た糸目の女性がいた。確か、立夏と一緒にいた…
「“ムメイ”…?」
自分の口から、よく知らない名前がすらすらと出てきた。その瞬間、女性は目を大きく見開き、瞳が不自然に揺れる。
「…っ、君はーーー」
「えっ…?」
女性が覆い被さるようにして上に乗り、その顔を近づけてーーー直後、ドゴンッという音がなり、壁を突き破って現れたのは…遠坂祐奈であった。
「…何を、している」
「ん〜?なんのこと?」
「え?え?」
祐奈はスポーツブラとタイツの上に赤い砂嵐のような帯を展開して、臨戦態勢を取る。それに対して、覆い被さっていた女性はいつの間にか離れており、その顔にはのっぺりとした仮面を被っていた。竜斗は状況が理解できず、二人の間に視線を漂わせていた。
「私はちょ〜っと君の弟くんに用があってねぇ〜?」
「ーーー気安く触れるなァッ!!」
仮面の女性は竜斗の頭を抱き寄せ、むにゅっと胸を押しつけて挑発するような声をかける。祐奈の瞳がすっ…と細くなり、怒気を孕んだ声を叫んだ瞬間、仮面の女性が唐突に窓を突き破って外へ吹き飛ばされた。
「おっとと…うわっ!?」
何とか着地した直後、真上から振り下ろされた踵を仮面の女性は転がるようにして避ける。祐奈は踵を軸に回って仮面の女性へ拳を叩きつけようとする。
「あっぶな!?」
「ふっ!!」
アスファルトを踏み砕きながら、祐奈は仮面の女性へ一発一発拳を振るう。女性はその対処に神経を削いでいる為か仮面を変える暇がない。
「捕まえたッ!!」
「しまった…っ!?」
仮面の女性の方腕をがっしりと掴んで移動を制限し、空いた腕が憤怒の神秘の蓄積によって巨腕となり、女性へと叩き込まれる直前、顔めがけてナイフが飛来する。
「…っ、消し飛べッ!!」
「ーーーッ!!」
祐奈は首を傾けてその刃をギリギリ躱し、女性へ巨腕を叩き込む。しかし、女性の顔には模様が描かれた仮面が被せられており、さらに掴まれていない片方の腕を間に挿し込んでいた。
拳が振り抜かれた直後、赤い光が夜空を照らすように爆発し、仮面の女性を直線状に呑み込んだ。
「…っ」
祐奈は生死の確認をするため、片腕を振って煙を吹き飛ばしたが、そこに仮面の女性の姿は影も形もなかった…
………
……
…
「ゲホッ、エホッ…っう〜、痛いなぁ〜…ガードしてこれ?」
「…」
仮面の女性は一人の少女に肩を貸されて、隠れ家の一つにしている空き家へ身を隠していた。肩を貸している少女は、女性と同じくのっぺりとした白い仮面をつけている。
「…でも、苦労して接触した甲斐があったよ。いやぁ、弟子の見る目があって嬉しいよ〜!!」
「…」
女性はワシャワシャと少女の髪を撫でるが、やられている本人は特にこれといった反応を示さない。
「すっごく欲しいなぁ…竜斗くん。ますます興味が湧いてきたなぁ♪」
「…っ」
「ん?あぁ…大丈夫、殺したりしないよ。ちょっと調べたりして用事を済ませたら、ちゃんと君にあげるから…全く、若い子はすぐ盛るんだから」
女性は少女の頭を今度は優しく撫でながら、自分を照らしている月を壊れた屋根から見上げた。