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第七話:スペクルム・エンカウント2

「いきなりどうしたんだよっ、全く…」



突然走り出した深月を追いかけるが、その姿を見失ってしまう。廻廊は構造的に道なりに進めば次の扉まで辿り着けるためいつかは合流できるが…と、竜斗は考えながら走っていると、不意に『パキッ!!ピシシッ!!』という音が踏み込んだ足元から聞こえてきた。



「…」



足元に視線を下ろすと…そこには、大きな()が倒れており、自分の姿が写っていた。その時、初めて廻廊に来た日に言われた立夏の言葉を思い出した。



『あぁ、そうそう。いい忘れてたけど…もし()を見つけたらすぐに視界から外して、写らない範囲に逃げてから、突き当りの扉を開けて逃げるんだよ?結構危ないことになるからね〜』



「あっ、やらかした」と思った瞬間、その鏡の中の自分の姿が勝手に動き出し、こちら側へ出ようと両の手を鏡に叩きつけてこちらと目を合わせてきたが…



「ん?」



…何故か、鏡の中の自分が急に頭を抱えて苦しみだした。腕を振るって何かを振り払おうとする動作や、見えない何かに怯えているかのような動きをし…『バンッ』という音と共に鏡全体が紫色になった。



「…?って、今度はなんだ!?」



突然、廻廊が青から紫色へ変化し、構造が廻廊から広い部屋の中に入れられるようにして拡張されていった…



…そして、拡張が終わるとそこは壁に不気味な絵の数々が展示された大きな部屋の中だった。いや、これは…



「どっかの展示会みたいだな…」



廻廊とは違い、木材ではなく大理石のような床をカッカッと音を鳴らしながら部屋の両扉を開ける。すると、そこには深月玲がおり、首だけを曲げてこちらを見た。



「お、ここにいたのか。全く、急に走ってくんじゃ…かぁっ!?」



深月の顔が紫色の砂嵐のような柄をしたスキンヘッドに変わり、こちらへ手を伸ばして襲い掛かってきた。



「ちょちょちょっ!?」



「【悲哀:哀響】ッ!!」



その時、廊下の先から青い残光を奔らせて深月が現れ、『ギイィンッ』という音と共に腰に構えた刀を抜刀し、偽物の深月の首を斬り飛ばした。



「おおっ、深月…深月だよな?」



「…さっさと行くぞ」



深月はちらっとこちらを見ただけで、すぐに廊下へ走っていく。竜斗も今度は見失わない様に急いで追いかけた。



「…で、どこに行くんだ?」



「ここは虚飾の神秘、しかもフィールド型だ…虚飾の神秘は侵入者の姿や身体能力、そして神秘能力まで複製する。そして、フィールド型は大規模な神秘空間で…現実世界から出口を生成できない」



「おい、それって…」



「ここから出られないんじゃ?」とリュウとは呟きかけるが、「いいや…」と迫るエンティティを斬り裂きながら、深月は否定した。



「出口を生成できないのは、この神秘空間の核がそれを阻害しているからだ。だから…」



「つまり、その核を見つけてぶっ壊せばいいんだなっ!?で、それはどこにッ!?」



「分からん、だから今っ、片っ端から開けているんだっ、ろうッ!!」



突然、道を塞ぐように動き出した彫像を、深月は斬り伏せ、竜斗が蹴り上げて踏み潰しながら突き進む。



「これっ、合言葉とか決めて二手に別れたほうが良いんじゃないか!?」



「駄目だっ!!虚飾の神秘は記憶も複製するッ!!返って危険ーーーっ!?」



廊下の角を曲がった瞬間、壁にあった鏡から白い腕が伸び、深月の首を掴んで締め上げた。



「ーーーラァッ!!」



すぐさま追いついた竜斗が、掴んでいた腕を下から殴りつける。するとその腕は骨が砕ける嫌な音をあげて曲がり、竜斗は空いた手で鏡を叩き壊す。



「大丈夫か!?」



「ゴホッ…問題ない…っ!!」



竜斗は慌てて駆け寄って心配するが、深月は喉を少し押さえながら、すぐに立ち上がって走り出す。



それから、エンティティを倒しながら目的の部屋を探していると…



「…ッ!!見つけた!!」



「…これが?」



深月が開けた両扉の先には、巨大な空間が広がっており、壁中に絵画や鏡が無数にある中、中央に台座が設置されてその上を紫色の大きな結晶が10センチほど浮いていた。



「…あれを壊せばいいんだな?」



「あぁ…だが、気を付けろ。フィールド型にはボスが駐在しているはずだからな」



深月の話を聞いて、竜斗は警戒を強めて神秘の核へ近づいていく…その時、上の方から何か視線を感じた。



「…?」



「…っ!!マズイぞッ!?」



天井にはこのフロア全体を写すような鏡がつけられており、その鏡の中からぼとりっと紫色のドロドロが飛来した。深月に後ろから腕を掴まれて引っ張られたため、それに触れることは無かった。その間にもドロドロは蠢いて、腕が6本もある人型へ姿を変えた。



「あれが大ボスだ…っ!?来るぞッ!!」



『ーーーー!!!』



6本の腕が叩き潰すかのように上から振り下ろされ、竜斗達は左右に退避して躱す。



「【憤怒:活性】ッ!!」



「【悲哀:哀情】…」



竜斗と深月はそれぞれ赤と青のオーラを纏い、六本腕のボスへ接近しようとする。しかし、その行く手を阻むかのように、天井の鏡から白いマネキンがボトボトと降っており、竜斗達へ攻撃を仕掛けてくる。



「ああッ…クソが!!」



「…」



竜斗が悪態をつきながらマネキンを吹き飛ばしている中、深月は黙って迫る敵を淡々と斬り裂いていた。しかし、減らす量よりも追加されていく方が多いのか、次第に後退させられる。さらに、あの6本腕のボスも攻撃してくるためかなり状況は悪い。



「…竜斗、立夏から“蓄積”は教わったか?」



「蓄積?」



「…腕がデカくなるやつだ」



そう言われて理解したのか、竜斗はなるほどという顔をする。



「…あぁ、あれなら使ったことあるが…」



「それを片腕だけ…そして全力で力を蓄積させろ。コイツらは少しの間ならば私一人でも抑えられる」



「…分かった。死ぬなよ?」



「ふっ」



竜斗の心配する声に深月は振り向かず、逆に鼻で笑い返した。それを見て安心し、竜斗は左腕に帯を集中して巻き、力を込め始めた。



「さて…アイツが準備を終える前に、もし私がコイツら全員を倒したら…どんな顔をするだろうな?」



深月はその時の竜斗の顔を面白おかしく予想し、刀の切っ先をだらりと下げると…顔から表情が抜け落ちる。



「【悲哀:哀哭】」



深月の纏うオーラが大きくなり、その身体に青い線が這うようにして浮かび上がる。そして、敵に向けて一歩踏み出した瞬間、周囲に寄っていたマネキン数体が地面とともに氷へと包まれ、氷像となった。



「ーーーさて、次は誰だ」



吸い込まれそうな程青く澄んだ瞳で敵を写し、深月は刀を向けた。



…数分後、竜斗はまだ蓄積に苦戦していた。



「チッ、どうしても右腕に力が漏れるな…って、深月大丈夫か!?」



竜斗の視線の先には、凍った地面に大量の氷像が倒れ伏せる中、2つの人影が戦い合っていた。押されている片方は本物の深月なのだが、もう片方は深月の姿をした偽物だ。その証拠に、瞳の色が本物と違い紫色になっている。



「…っ」



『…』



偽物は深月が振るった刀を弾き、最小限の動きでカウンターを放ったが、深月はそれを転がって回避し、お返しに脚を狙った攻撃を仕掛けようとするが、上から6本の腕が振り下ろされたため、大きく距離をとって逃げる。



「しょうがないか…おいっ、もう核へ直接攻撃するぞッ!!」



「分かった…っ!!」



深月は偽物へ接近し、構えた刀をーーーわざとすっぽ抜かす。それによってカウンターをしようとした偽物の動きが固まり、その隙に深月の拳が偽物の顎をかち上げ、駄目押しとばかりに回し蹴りを叩き込み、偽物は核のある方へ地面をバウンドしていった。



「やれっ、竜斗!!」



「吹き飛べッ!!」



赤い砂嵐のような帯に巻かれた巨腕を核へ向けて、一歩踏みこんで殴るように振り抜く。その瞬間、ドゴンッ!!という音と共に巨腕から赤い光が絞り出され、それが核と6本腕と偽深月を呑み込みーーー爆発した。



「…おーい、生きてるか?」



「やれと言っておいて何だが…もう少し衝撃波を何とかできなかったのか?」



竜斗が指し出した手を掴んで、深月はそう文句をいいながら立ち上がる。そして爆煙がはれ、その先には…ヒビだらけになりながらも健在な核が姿を現した。



「なっ…ッ!?」



ゴウッと音がなり、その方向へ視線を向けると…紫色の瞳をした深月がこちらへ全速力で駆けてきていた。そして、刀の切っ先は深月へ向かられている。



「くっ…!!」



「なっ!?」



どんっと深月を押し退け、身代わりになるようにして竜斗が立ちはだかる。しかし、その腕に帯は巻かれておらず、赤いオーラも消失していた。そして、偽深月の刀が竜斗へ突き刺ーーー「よっと!!」ーーーさる前に、偽深月の動きがぴたりと止まり、その身体はガラスが砕けるかのようにして崩壊した。



「ん…?」



「え…?」



「いや〜、間に合って良かったよ♪」



そこには、虚飾の核があった場所にナイフを持って立っている立夏がいた。



「え、なんで立夏がここに…?」



「え?あぁ、そういうこと。フィールド型は入ること事態は廻廊と同じでできるからさ。それに、海雪ちゃんとの会話を聞いてたし…ん?」



立夏は急に竜斗と深月を交互に見て…何かに気付いたように、にやりと笑った。



「あれ?もしかしてお邪魔だったかな?」



「…?何の話だ?」



「いやだって、そんなに竜斗の腕に絡みついて、胸まで押しつけちゃって…ねぇ?」



竜斗は驚いて横を見ると、左腕にひしりと抱きついている深月の顔が目の前にあった。戦闘後だからか乱れた髪と服、そして汗の匂いに混じって女性特有の甘い匂いが鼻を刺激し、さらに腕からとても弾力のあるーーー



「ふんっ!!」



「ぐぁっ!?」



顔を真っ赤にした深月の膝蹴りが鳩尾にクリーンヒットし、竜斗は地面に呻き声を上げながらうずくまる。



「ぐぅっ、おおぉ…っ」



「おぉう、いいの決まったね…」



「う、うるさいッ!!さっさと帰るぞ!!」



深月プンスカしながら去ったが、立夏だけは「…大丈夫?」と言って竜斗に肩を貸して帰還した。…尚、立夏がからかった事でこうなった事に後から気付き、部室で立夏の頬をムニムニして反省させた。ちなみに、結構柔らかくて癖になりそうだったという。



メモ:


今回のフィールド型の虚飾の神秘は、美術館の形を取っていたためフィールド型の中で危険度が段違いに高い部類だ。美術館は廊下にランダムでエンティティが配置される。

絵画エンティティによる監視&エンティティへの密告

鏡型エンティティによる複製&奇襲

彫刻型エンティティによる奇襲&妨害

徘徊型エンティティによる妨害&複製

…など、相手をするにはかなり面倒な能力を持っている。


・フィールドボス

フィールド型の神秘には空間を形成する神秘核が存在する。その神秘核が破壊されると徐々に空間が崩壊していき、やがてその空間は消えてしまう。初期の頃はフィールドボスの存在は無かったが、六回目のフィールド型への侵入時に出現が確認された。詳細は【実験記録:Slaughter(虐殺)】


………



……





???:音声記録


『我々は勘違いしていた、あれは未知の自然現象なんかじゃない…あれは【削除済み】』



『あいつらには何らかの目的がある。いや、目的だけを埋め込まれた人形みたいなものだ…あのアホは妖精か精霊のようなものだ何だと言ってたが、出会ったやつを消し炭にしたり、バラバラに解体してくるアレのどこが妖精なんだと聞きたいね』



『まぁ、そのアホは自分の言う妖精さんに解体されていたがな…それと、変な機会を持って対話をしたようだが、作り方をアイツ書かずに死にやがったから再現が出来ない…あのアホマヌケは…はぁ』



『しかも、その対話のせいでボスみたいなのが現れて…全滅した。それ以降他のフィールド型でもボスが確認されているから、十中八九うちのせいだろうなぁ…』



…このあとは暫く愚痴が続くだけのため、記録を終了します…


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