13-3.マリア・リーパー・グレン・シアパーティーの様子(五章裏のシア一行)
パリンクロン・レガシィによる『世界奉還陣』のあと、一度アイカワカナミのパーティーは離散した。
そのとき、マリアとリーパーは二人で大陸を回り、新たな仲間としてシア・レガシィとグレン・ウォーカーを迎える。
その新たなパーティーの目的は、消えたアイカワカナミの捜索と千年前の魔法の情報収集だった。
だが、一年間ずっと、それだけを行い続けてきた訳ではない。
――それは迷宮連合国から遠ざかり、アイカワカナミがいないからこそのイベント。
都会から離れた山村などに寄った際、マリアたちはモンスター退治を願われることが偶にあった。
そして、マリア、シア、グレンの三人は断れない性格をしていた。
三人とも、幼少の頃に田舎で苦労した経験があった。
小さな村で農作物を育てている際の敵の多さをよく知っていた。
ゆえに凶悪なモンスター退治の依頼を断り切れず、請け負い、時間と苦労をかけて――しまうことはなく、あっさりと終わらせて回った。
なにせ、マリアの戦闘能力は、比喩なく大陸を焼き払って地図を変えるレベルだ。
元来の狩人の才能もあって、モンスター相手だと一瞬だった。
なので、このパーティーが旅で苦労したのはモンスターではない。
相手が、人のときだった。
賊の退治を依頼されたとき、リーダーのマリアは困った顔になる。
そして、活躍するのはマリアでなく、グレンとリーパーの二人となる。
二人の山などに潜む賊たちの拠点を見つける能力。
夜に紛れて行動する能力。
マリアに向いていない問題を、二人は解決できた。
そして、この日も、マリアのパーティーが、山林の奥にある開けた空間で野営している賊たちを襲撃しようとしていた。
拠点では、使い込まれたテントが六つ張られ、焚き火が二つに、寝ずの見張りが二人。
その詳細な情報を魔法で集め終えたリーパーが、茂みに隠れたグレンに報告していく。
「グレンお兄ちゃん。これが、大体の敵の位置。攫われた人たちは全員、中にいたよ」
「……ありがとう。これなら、確実に任務を達成できる」
グレンは情報を全て頭に叩き込んでから、すぐに動き出す。
ここから先は、『最強』の探索者と言われた男の力が、遺憾なく発揮される。
寝ずの見張りがいようとも、関係などない。
見事な隠密から、無駄のない攻撃で紐を二本操り、見張り二人をほぼ同時に気絶させる。
そして、さらにテントを襲撃。毒塗りの短刀で、気づかれる前に『麻痺』させていく。余裕があれば、薬を使った短時間の尋問で、さらなる情報を敵から引き出す。
人質の救出は迅速で、その人柄をもって信用をあっさりと勝ち取っていく。
これができるから、彼は連合国で『最強』の称号を長年守ってきた。
――ただ、もちろん、いつも全てが順調というわけにはいかない。
夜盗に似合わない高レベルの敵に、不意を討たれることもある。
グレンが背後を取られて、死角から弓を構えられ、いまにも矢が放たれかけたとき――
「ひっひっひ。だーれだ?」
と、グレンの相棒となっているリーパーが敵の影から現れて、その頭部を闇で覆った。闇魔法の目隠しをされた敵は、すぐにグレンが駆け寄って処理をされる。
二人の相性は非常に良かった。
しかし、拠点を制圧し切ったあと、グレンはリーパーに駆け寄って、とても心配そうに話す。
「……リーパー君、僕なら平気だよ。こういう荒事の援護はしなくていい。ほらっ、紐付きのナイフは四本もあるんだ。防御用に、常に余裕を持ってる」
「だーめー。アタシも戦うよー。グレンお兄ちゃんばっかり活躍はさせない! ――単純に暇ってのもある!」
似たような問答は、以前に何度も行われている。
絶対にリーパーは引かない。
だから、グレンは大きな溜息をつきつつ――でも、少し嬉しそうに小さな死神の面倒を見る。
「はぁ……。それより、どこか怪我してない? 何かあったら、お兄ちゃんがいいお薬持ってるから、すぐ言ってね」
「怪我? それは大丈夫だよー。今日も無傷無傷っ」
とにかく、グレンはリーパーに甘々だった。
それはグレンの「……小さい頃のスノウさんを、ちょっと思い出す」というシスコンっぷりが原因で、しかしながら急造のパーティーながらも上手くいっている理由でもあった(とはいえ、グレンはマリアのことも「……ぐれ始めた頃のスノウさんを、ちょっと思い出す」とか言っている)。
そして、その面倒見良すぎるグレンのおかげで、後処理もスムーズに進んでいく。
グレンは『本土』でも名が通っている。
特に、四大貴族ウォーカー家の威光が絶大だ。
こういった依頼解決に彼は慣れていて、話は「連合国のグレン・ウォーカーが、責任を持ってきっちりと退治してきました」「これがウォーカー家の身分証明の印で」「行く当てのない救出者たちの紹介状はこちら」「僕の特殊な魔力が沁みこんでますので、大きな都市なら信用して貰えます」「それでは、急いでいますので――」と、とんとん拍子に纏まっていく。
その作業を隣で付き添うリーパーは、終わり際にグレンを称賛する。
「ひゃー。こういうとき、グレンお兄ちゃんが大貴族出身の『最強』さんって思い出すよね。……でも、戦闘スタイルのほうは、かなり意外だったかな。グレンお兄ちゃんは探索者って話だったけど、本業は暗殺者さん?」
「……探索者です。そんな事実は一切ありません」
そのリーパーの質問は、的を射ていた。
今回は山に潜伏していた集団が相手だったが、都会の中でもグレンならば同じことが出来る。
要人を暗殺した上で、事故死に偽装することさえ可能だ。
その力を隠したいグレンは、辺りを見回して、他の仲間たちの姿を探した。
距離を取って静観していたパーティーのリーダーと参謀の二人が、愚痴を零しながら合流しようとしてくれていて、グレンは助かる。
「グレンさん、リーパー、お疲れ様です。ですが、私に任せて貰えれば、一発解決だったのですが……」
「マリアちゃんの一発解決は絶対駄目です! 第二迷宮のときのような強引な解決は、この私が許しませんよー! ……だって、山が消えちゃいます!」
「消えませんって。シアは、私をなんだと思ってるんですか。魔法のコントロールはできます。……そりゃあ、中にいる悪党以外の方を、ちょっと焼くかもですが。そのくらいは我慢してもらうべきことです」
「マリアちゃんのちょっとは、ちょっとじゃないんですぅー! ……それに、最近私はわかってきました。このシア・レガシィの役目は、マリアちゃんの手を握って、暴走させないことだったと! だから、この手は離しませんよー! 世界平和の為にも!」
「この子は、思い込み強くて……、ちょっと困りますね」
マリアは苦笑で応えるしかなかった。
そして、面倒なシアを置いて、一仕事を終えたグレンにお礼を言う。
「何にせよ、グレンさんがいてくれて助かりました。ありがとうございます。まさか、迷宮だけでなく、外でもここまで動けるとは……。あと、妹のスノウさんと違って、働き者なので驚きます」
いてくれてありがたいと、グレンに向かって口にした。
「僕も少しは役に立てることを証明できて嬉しいよ。……スノウさんは、これからに期待ということでお願いします」
ただ、いてくれてありがたいと思ったのは、グレンのほうだった。
「では、そろそろ行きましょうか。遅れた分、道を急ぎましょう。行きますよ、シア」
「はい、マリアちゃん。手は繋いだまま、行きましょう。レッツゴーです!」
「はぁ……」
歩く二人の少女の背中を、グレンは見送る。
いまマリアは冷静に見えて、漏れ出る魔力は禍々しい。
ふと漏れる殺気は凄まじく、仲のいいリーパーでさえも、なかなか軽口を叩けないときがある。
カナミが行方不明になってから、マリアの中にある熱は増すばかりだった。
だが、物怖じしないシアのおかげで、なんとか抑えられているように見える。
このパーティーのリーダーはマリアだ。だが、裏のリーダーはシアであると、グレンは感じていた。
「リーパー君。彼女がいてくれて、本当に良かったね……。ありがたい」
「だねー。ほんと助かってる。彼女は只者じゃないよ、きっと」
シアは生まれが普通ではなく、その血には『何か』があると、二人は感じていた。
その『何か』の答えは、大聖都に辿りつき、そこで待つ使徒と出会えばわかるような気もしていた。
「もう大聖都かー。そろそろ、このパーティーも終わりなのかな。ねえ、グレンお兄ちゃん」
「かもしれない。それでも、行かないといけない。僕は呼ばれてるから……」
大聖都に近づくにつれて、パーティーの終わりの兆しは強まる。
それを勘のいい二人は仲良く感じながら、前を歩くマリアとシアの背中を追っていく。決して、後戻りすることはなく。
これにて特典投稿は終わりとなります。
そして、今日から新しいことをしたかったのですが……、実行できずに申し訳ありません。
一年ほど投稿をほぼお休みしていましたが、身体の良くないところは減るのではなく増え、その痛み止めで頭が鈍くなっているのもあって、色々と断念した形です(文章にするとちょっとおおごとに聞こえますが、そこまで大病ではないのでご安心を。10章の時は少し大変でしたが、後日談くらいの軽いノリのものなら普通に書ける程度のものです)。
ずっとあとがきで暗い話は避けてきましたが、ここまで読んでくれた読者さんには活動半停止の説明が必要と判断して、理由(言い訳)を書き残させて頂きました。
もちろん、色々と慣れてきたらこっそり復活して、また楽しく何かやってると思います。
細々と書き溜めてるいぶそう外伝とか、ポッと出の変なのとか、予定していた新作とか。
ただ今回は、感想欄でいつか書きたいと約束したものを投稿できず、本当にすみませんでした。
それでは、またいつかどこかで。




