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7-3.透視防止結界を作ろう(四章裏の船旅カナミ一行)


 僕たちが購入した『リヴィングレジェンド号』は、本当にいい船だ。


 商人さんからは燃費の悪い売れ残りと言われたものの、その短所に目を瞑れば世界最高水準と言っていい。船内の設備は、まるで貴族の屋敷そのもの。ふんだんに魔石が使われ、あらゆる魔法道具が備えつき、生活をする上で便利なことこの上ない。その代表となるのが船内にある浴室だ。海の上でありながら湯船につかれるというのは『リヴィングレジェンド号』ならではの贅沢だろう。


 ――ただ、今日、その贅沢に文句が一つついてしまう。


 それは男女共同の旅では見過ごせない話で……マリアが浴室の前で腕を組み、唸るように声を出す。


「素晴らしい浴槽ですが……。これ、カナミさんに覗かれ放題ですね」

「え、ええー……」


 まさかの僕の覗きについての話だった。

 緊急事態と言われて浴室前に呼ばれた僕だったが、正直もう逃げたくて仕方ない。


「以前はカナミさんの能力を把握しきれてなかったので、何も考えずに近くで入浴していましたが……。よくよく考えると危険な行為でした。この船の浴室には結界がないので、《ディメンション》で覗かれ放題です。なんとかしましょう」


 僕の魔法を危惧して、魔法を弾く結界を欲しがるマリアだった。

 その話に僕と同じく浴室前に呼ばれた仲間たちが答えていく。

 まずはラスティアラだ。


「いやあ、私は構わないけど……? というか、今更なような?」

「ラスティアラさん、もう少し慎みを持ちましょう。実年齢は三つと聞きましたが、身体は大人相応なんです。決して、軽々しく異性に肌を見せてはいけません」

「それはわかってるって。でも、ここにいる異性ってカナミだけだから、別に問題ないような……」


 うちの一番の美人が警戒心ゼロであることが発覚してしまい、この場に男一人の僕が居た堪れなくなる。

 そして、さらにスノウのやつが面倒な言葉を足していく。


「私もカナミになら見られても構わないかな……? えへへ……」


 ちらちらと僕を見ながらの発言である。

 流石、スノウ。僕を追い詰めることに定評がある。ただ、そのバカみたいな発言には、マリアが厳しい口調で咎める。


「スノウさん。これ、あなたの盗聴対策会議でもありますからね」

「え、えぇ!? 私の魔法も対策するの!?」


 当然過ぎる話だったが、スノウは本気で驚きの声を上げて、おろおろと困り顔で周囲を見回す。もちろん、誰も助け舟は出さない。


 その自業自得のスノウを置いて、マリアは話を続けていく。


「ディアはどう思います?」

「マリアの言うとおりだ! べ、べべべつに俺が覗かれて困るってわけじゃないが、こういうのはきっちりと対策しとかないとな! うん!」


 大変困るらしい。

 なんだかんだで一番女の子らしい情緒を持っているディアは、顔を真っ赤にして結界の増築を訴えた。


「ふむ。ナイスです、ディア。次はリーパーですね。意見をどうぞ」

「アタシは元々お兄ちゃんと繋がってるしねー。肉体を見られるかどうかなんて些細な話だよー。なので、別にいらないかなー?」

「……カナミさん。これはどういう?」


 リーパーの発言によって、マリアの矛先が突如僕に向けられてしまう。

 さらに、リーパーの発言を聞いたセラさんが、肩を震わせながら詰め寄ってくる。


「き、貴様ぁっ! よもやリーパーのような子供にまで手をぉお!!」

「いやっ、待って! 待って待って待って! た、確かにリーパーの身体のサイズとかわかるかもだけど! そういうのはなるべく見ないようにしてるから! ほんとに! 《ディメンション》のほうも同じ! みんなの身体とか全く意識してないから!」 


 このままだと要らぬ嫌疑がかかりそうだったので、かなり強めに僕は反論してみる。

 だが、それはそれで駄目というのがマリアから返答される。


「……そうですか。カナミさんのことですから、その話に嘘ではないでしょう。ただ、意識されていないというのは、それはそれでなんか悔しいですね」


 なら、僕にどうしろと……。

 どう答えても責められるパターンであることがわかり、この場を全力で逃げ出すことを僕は決める。


「ね、ねえ……。こういうのって、僕のいないところで相談したほうがよくない? 一旦、僕は部屋に帰っていいかな……?」

「駄目です。とりあえず、魔法を弾く結界をディアに作ってもらうので、それを突破して浴室を覗けるかどうかカナミさんの《ディメンション》で試します」


 いまから浴室に結界を張り、その耐久実験的なものをやるらしい。

 しかし、その実験を僕がやってしまったら意味がないような気がする……。

 僕の手加減次第でいくらでも耐久度を操作できちゃうような……。


 言いたいことは一杯だ。ただ、それを言う前に、楽しければいいという信条のラスティアラが、その耐久実験に嬉々として食いついてしまう。


「へえっ、それは面白そう! それじゃあ、扉の向こうで私が立ってるから、ディアがカナミの《ディメンション》を防げるかどうか試して試して!」


 ――こうして、浴室の結界作成が始まる。


 僕の覗きを防ぐ為に、僕が協力しての結界作成だ。正直、わけがわからない。

 そして、案の定――その結界作成は順調にいかない。

 扉の向こうのラスティアラがなぜか本当に着替え中だったりしたり、スノウが盗聴防止を阻止する為に邪魔をし始めたり、リーパーが途中で飽きてお風呂に入りだしたりして――本当に作業は難航しまくった。


 その日の夜、僕の胃壁と引き換えに、浴室の結界は完成したが……僕の胃壁に穴を空ける案件はこれで終わりではない。


 恐ろしいことに、まだ僕の船旅は始まったばかりなのである……。







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― 新着の感想 ―
[良い点] カナミさんの能力ほんと諜報とか犯罪に向いてる……カナミさんじゃなかったらどうなっていたことか。 スノウの盗聴もカナミさんがなぜか受け入れてるのがおかしいだけなんだよな……。 そしてセラさん…
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