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6-2.少女騎士たちのお風呂事情(三章裏のラグネ、ライナー、フランリューレ、ペルシオナ)


 連合国最大のお祭り『舞闘大会』。

 その出場選手には、規模に見合った待遇が約束されている。ヴアルフウラ川には世界中の豪華客船が集まっている――その中でも選りすぐりの客船の――最高クラスの客室前で、とある騎士たちが騒いでいた。


「ライナー! なぜ逃げるのです!?」

「同室なんて駄目に決まってるでしょうが……。そんなことしたら、先輩たちのファンに殺されますって……」


 フーズヤーズで『天上の七騎士(セレスティアル・ナイツ)』と呼ばれるヘルヴィルシャインの姉弟だ。

 その隣には同僚のラグネ・カイクヲラとペルシオナ・クエイガーもいる。

 今大会で戦乙女とまで呼ばれている美人騎士三人に囲まれて、少年ライナーは困った顔を作り続けていた。


「とにかくっ、僕は別の部屋を取ります! 一緒に寝られるわけないでしょう!?」

「しかし、ライナー……あなたにはわたくしを守る義務があるでしょう? それはどうするつもりなのです?」


 男女混同の部屋割りを断固拒否する弟に、姉のフランリューレは決して逃がしはしないと詰め寄っていく。


「確かに僕は姉様を命に代えても守れと命じられています。しかし、総長たちと同じ部屋なら、これ以上ないほど安全でしょう? 僕よりも総長とラグネさんのほうが強いんですから」


 徹底して正論を吐く弟に、姉は「ぐぬぬ」と唸る。

 そこで口論に決着がついたと見た一番の上司のペルシオナが、ようやく話に入っていく。


「ライナー、『天上の七騎士(セレスティアル・ナイツ)』用の部屋があるぞ。そっちも使わないのか?」

「すみません、総長。豪華な部屋だと落ち着かないので。ご好意は嬉しいのですが」


 ペルシオナは首を傾げる。

 思いもしない反論だったのだろう。確認のように、これから使うであろう客室の扉を開けて、中を確認する。そして、心底不思議そうに聞く。


「豪華か?」

「豪華どころか、ギラギラしてて目が痛いっす。私はライナーの言っていることがよくわかるっすよ」


 根っからの貴族であるペルシオナにはわからなかったが、そこは平民出のラグネがフォローを入れる。


「むう。ラグネがそう言うのならばそうなのだろうな。ライナー、許可する。気兼ねせずに、一人部屋を取ってくるといい」


 部下を信じている『天上の七騎士(セレスティアル・ナイツ)』総長は大した迷いもなく送り出す。正当な言い分であると判断したのだ。それにフランリューレは食い下がる。


「騙されてはいけません、総長! そこのライナーは平気な顔で嘘をつく卑怯者ですわ。豪華な部屋なんて、とっくの昔に慣れています。というか、わたくしが慣れさせましたわ」


 ライナーの主張する「落ち着かない」という話など、建前でしかないと言う。

 それを聞いたラグネとペルシオナの二人は、それはそれで酷い話だなと、後輩騎士のライナーの今日までの弟人生を憐れむ。その目に耐え切れず、とうとうライナーは走り出す。


「な、慣れたかもしれませんが、十分な休息を取れるかどうかは別の話です! ではっ、総長の許可は得たので、僕は失礼しますね!」


 ライナーは上司たちの同情を得ている内に逃げ出した。

 風の騎士に相応しい速度でフロアから消え去っていく。それをラグネとペルシオナは温かい目で見送り、姉だけが唸り続ける。


「んむむ……。あれは全く別のことを考えている顔……いまさら、男一人という境遇が嫌になったのでしょうか……? 最近ライナーの考えていることがわかりませんわ……」

「ライナーもそろそろ思春期なんっすよ。たまには自由時間をあげましょ」

「ただの思春期ならばいいのですが……」


 ラグネに宥められながら、フランリューレは客室の中に入っていく。ペルシオナも二人のあとに続く。


 最高級の客室に三人の少女が入り、その煌びやかな調度品と家具の数々に、まずラグネが歓声を上げる。


「うひょー、すごいっすねー。さて、私はライナーと違って、この豪華な部屋を堪能するっすよー。いやあ、家具が磨かれすぎて、輝いてるっすー」


 部屋の中を軽く走りながら、高価そうなもの全てを一つ一つ手で触っていく。

 それは騎士にあるまじき態度だったが、彼女の貧しすぎる過去を知っている残りの二人は生暖かい目で見守る。むしろ、こういった素直で新鮮な反応を好ましく思っていた。


「おぉ、『魔石線ライン』の通ってるシャワーまで付いてるっす! 広くて綺麗っすねー! ……あ、でもこれって、どうやって使うんっすかね。んー、お湯はこれ……? あっ、違う」


 浴室に入って、備え付けの魔法道具に軽く魔力を通していく。しかし、どれが正しい起動キーなのかわからず、頭から冷たい水を浴びかけてしまう。その様子を見て、目を輝かせたフランリューレが浴室に飛び込む。


「ラグネさん! わたくしが詳しいですわ! せっかくですので一緒に入りましょうか!」


 そして、すぐさま衣服を脱ぎ捨て、その染み一つない白い肌をさらした。


「え、え?」

「さあさあ! わたくしが懇切丁寧に説明してあげますわ!」

「脱ぐの早い! というか、恥じらいがないっすね!!」


 その予期せぬ行動にラグネは驚く。目の前に一糸纏わぬ少女の裸体――ここ数日で友人と言える関係になったとは思っていたが、ここまでとは思っていなかったのだ。


「わたくし、同性でそういうのは気にしないタイプですわ!」

「いや、貴族様としての慎みってのは――」

「そういうのも気にしないタイプですわ! 仕事上だとラグネさんは先輩ですが、こういったことではわたくしがお姉さんですので、たっぷり教えて差し上げますわ!!」


 ラグネは予感する。

 この物理的にも心理的にも、何一つ包み隠さない少女の性格はよく知っている。一言で言い表せば、極度のお節介好きで猪突猛進。一秒もじっとしていられない人間だ。そのフランリューレが、いつも傍にいる弟という玩具を失った。それはつまり――


「――これ、ライナーがいない分、私が疲れるパターンっす……?」


 次の玩具が自分であることを予感する。

 すぐさま、助けを呼ばなければ面倒くさいと直感し、叫ぶ。


「総長! そーうちょぉおおーー!!」

「む、私も入るぞ。せっかくの同性の部下との交流だ。遠慮はせん」


 なぜか、総長もフランリューレと同じように、衣服を脱ぎ捨てようとしていた。結い上げていた髪留めを外し、いつもは鳴りを潜めている女性らしさが前面に出てくる。その長身と低めの声のせいで、周りからは男性と間違われやすいペルシオナだが、本来は多くの男性を虜にできる豊満な体つきなのだ。フランリューレと同様に、女性としての魅力に満ち溢れている。その二人に挟まれたラグネは、女性としての自信を喪失しかけていた。


「え、えぇえ……?」


 ついでに、思い描いていた貴族像も壊れかける。

 貴族生まれの娘たちは、もっと慎み深いと思っていたのだ。


「それはいいですわ! 総長、お供しますわ!」

「うむ。ラグネも一緒に入るように。命令だ」


 ラグネの困惑は加速する。貴族様たちは高貴さが一周回って、逆に平民の私相手に肌をさらすのに抵抗がないのかと思うしかなかった。


「う、うぃっす……?」


 ここで抵抗するのは『普通』ではないのかもしれないと思い、『普通』を心がけるラグネは疑問系で頷く。

 そして、フランリューレとペルシオナは当然のように裸で談笑しながら広い浴室に入っていく。それにラグネは首を傾げながら、服を脱いで、子供同然の体つきを露にしてからついていく。


「ラグネ。随分前から、おまえのなよなよとした身体は気になっておったのだ。私の鍛え抜かれた身体を見習え」

「流石は総長! 大変美しい身体ですわ! スリムながらも、薄らと乗った筋肉の形が完璧ですわ!」

「ふむ。フランは中々わかっているようだな。スピードとパワーを兼ね揃えた完璧な肉体作りだと、私は自負している」

「でもわたくしは遠慮しますわ。それは女性が男性に求める筋肉であって、乙女がつける筋肉じゃありませんもの。ふふふ、総長が女性騎士の人気者になっている理由がよくわかりましたわ」

「いや、待て。騎士として必要な力の話をしているのだぞ、私は……。む、ラグネ。恥ずかしがることはない。早く、おまえもこっちに来い」


 ――その日、同僚の裸同士の付き合いという名目で、ラグネは人生最大とも言える恥辱を味わう。


 とにかく、その年齢の割りに未成熟な身体を二人に指摘されて、涙目にされてしまうのだ。そして、後日――ペルシオナは他人の筋肉を見るのが趣味で、フランリューレは頭のねじが緩んでいるだけだったと知って、次からはライナーと同じように別の部屋を取ろうと、ラグネは固く誓うのであった。



特典だと2000文字に削減しましたが、本来3500文字だったのでこちらを。

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― 新着の感想 ―
[良い点] すごくサービスシーンっぽい特典! レア感! これも特典はこういうのがいいよとオススメされたのかな……? 三章時点だと、カナミさんが絡んでなくて正気なライナーは貴重な気がします。襲撃のための…
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