4-3.ウィル・リンカーとスノウ・ウォーカー(一章前の幼少期スノウと『エピックシーカー』)
――とある連合国の一日。
ラウラヴィア国の迷宮前で、探索を控える一団が最後の確認をしていた。
「――それじゃあ、そろそろ行こうか。今日、俺たちギルド『エピックシーカー』で、この連合国に新たな歴史の一ページを刻むんだ。張り切って行こう。そうだろ、スノウちゃん?」
先頭を歩く背の高い青年――ウィル・リンカーは激励と共に、まず作戦立案者である私に話しかけた。
「うん。あ、でも、これは私の立案だからね、私の。そこをお間違えなく」
「ああ、わかってる。今日のためにスノウが色々と頑張ってくれたのは知ってるさ。君たち兄妹のおかげで、俺たちはとても助かってるよ」
「当然。なにせ、私たちはウォーカー家だからね」
私は踏ん反り返りながら、この『エピックシーカー』のギルドマスターであるウィルさんに答える。
そう、彼はギルドマスターで、私はメンバーの一人。
その上、年の差は大きく離れ、大人と子供くらいに背の高さも違う。それでも、私はとても偉そうな態度を崩すことなく、『最強』の『英雄』と名高いマスターと張り合おうとしていた。
「ス、スノウさん……」
それを見て、後ろを歩く兄グレン・ウォーカーが心配そうに私の名を呼ぶ。兄の斥候としての実力は年若くも連合国で一番なのに、いつまで経っても自信をつける様子がない。
今日も震えながら、自分よりも小さな妹の後ろに隠れている。
「兄さんもウォーカー家の人間なんだから、もっとしっかり。兄さんがしっかりしないとパーティーが危険なんだよ?」
「う、すみません……」
私は兄さんを咎める。
探索の成否は斥候にかかっていると言っても過言ではないのに、その兄さんがこんなに弱気では困る。
なにより、今日の迷宮探索は絶対に失敗は許されないのだ。
今日、私たち『エピックシーカー』は迷宮の前人未到の領域へ向かおうとしている。
そのメンバーは連合国『最強の英雄』ウィルさんから始まり、エピックシーカーのサブマスターたちも揃い、いま話題のルーキーであるグレン兄さんに私。他にも探索者の精鋭たちが勢ぞろいだ。
ただ、残念なのはサブマスターの一人が欠席していること。
どうも、パリンクロンさんだけは日程が合わなかったらしい。とはいえ、あの人は実戦向きの能力ではない。この探索計画に大きな支障はないと判断して、決行に至った。
「スノウちゃん、グレン君。迷宮に入るぞ」
最後のお喋りが終わり、とうとう『エピックシーカー』一行は迷宮の中に入っていく。
「了解、マスター。もちろん、私の心配は必要ないからね。それどころか、今日はマスターよりも活躍して見せるつもりだから。――えへへ。迷宮の前人未到の領域は、この私が最初に踏み入ってみせる!」
私は先頭を歩く『英雄』に負けまいと息をまく。
そうだ。
私は負けられない。絶対に――
失った故郷のため――いや、殺してしまった家族のため、ウィル・リンカーという『英雄』に勝たなければ、私は生まれた意味も何もかも失ってしまうから。
だから――!!
「はは。期待してるよ、スノウちゃん。いや、本当に。君たちウォーカー家の天才児二人こそが『本当の英雄』になるって、私は心の底から期待してる」
その命がけの決意をウィルさんは優しい目で見守る。
「『本当の英雄』……? とにかくっ、余裕をかましていられるのはいまのうち! その『最強』の『英雄』の称号は近い将来、私のものになる予定だから! 覚悟するように!!」
「スノウちゃんは本当に頼りになるね。これは、私も負けてられないな。はは」
薄く笑いながら、ウィルさんは迷宮の闇の中へ向かって、一人歩いていく。
その余裕たっぷりの物言いに私は頬を膨らませながら、彼の背中を追いかける。
そして、その私の背中を追いかけるのがグレン兄さん。さらに、そのグレン兄さんを『エピックシーカー』の仲間たちが追いかける。
――思い出せば、それが『エピックシーカー』というギルドの全てだった気がする。
こうして、私たちは迷宮を進んでいく。
『最強』のウィルさんに、竜人の末裔である私。さらに、連合国最高の斥候である兄さんに、この時代で考えられる限り最強のメンバーたち。障害など、迷宮の中に存在しなかった。
だから、幸か不幸か――いや、確実に不幸か。
私たちは辿りつく。迷宮の二十層『闇の理を盗むもの』ティーダの待つ階層に。
闇の中に現れた過去最高の『化け物』相手に誰もが息を呑んだ。
大陸に敵なしと謳われるウィルさんと私でさえ、冷や汗を流した。
そのとき、二人の頭の中に浮かんでいたのは全く逆で、私はウィルさんに負けまいと目の前の闇の『化け物』をどう倒すかだけ考え、ウィルさんは私だけは絶対に助けると考えていた。
そして、その戦いの結果は――もう思い出したくない。
その日、私と兄さん以外は全員死んだ。
それにより二十層の守護者は有名となり、以後何年も探索者の中で噂される伝説となる。
そして、私は『本当の英雄』なんてどこにもいないと知るのだ。
この後、『人造の英雄』が生まれ、ウィルさんと同じ苦悩をスノウ・ウォーカーとグレン・ウォーカーは味わうことになる。
これが私の記憶。忌まわしい記憶。
三度あった内の二度目の失敗の記憶。幼い私の――忘れたい記憶。
だから私は諦めた。
あの『化け物』を倒せる『本当の英雄』なんてどこにもいないって諦めた。
諦めた……のに、出会うのだ。
数年後、その『化け物』を倒してしまった存在に。
その少年はあまりに強くて優しくて、英雄譚に出てくるかのような少年で――
だから私は……。私は……――
設定上、ウィルとテイリは、リンカー家フィリオン家レガシィ(ネイシャ)家ヘルヴィルシャイン家などの裏側や繋がりを少し知ってます。学者さんのおうちな感じでした。




