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異世界学院の頂上を目指そう11



 ――僕がスノウさんを好きと同じくらいに、カラミア様も僕が好き。


 それがわかった。

 そして、その彼女の目的は、僕の『支配』。

 当然、それを許容するわけにいかない僕は、彼女から逃げて逃げて逃げ続けて……とうとう学院から居場所がなくなり、迷宮の奥まで押し込まれてしまった。


 一層の辺境にて、簡易キャンプを作り、数日もの時が過ぎた。

 そして、僕の友人であるアニエスが、キャンプまで学院の情報を持ってきてくれる。


「――カラミア様が『学院決闘序列(エルト・オーダー)』の序列一位になってたよ。シッダルク卿を倒して二位になったあと、すぐさまフィルティア様に挑戦して、あっさりと……」


 しかし、余りいい知らせは届かず、僕の顔は曇っていく。


「そう……。それで、エルは無事だった?」

「んー。重傷っぽく見えたけど、いつもの余裕は保ってたかなあ? 決闘に敗北して、もう口出ししないと誓わされたものの、「僕のライバル、カナミなら平気だ」と笑ってた」


 カラミア様から逃げ出す際、エルは僕たちのために決闘で時間稼ぎしてくれた。

 その彼が無事という知らせは、少しだけ僕の心を軽くしてくれる。


「なんにせよ、いまカナミ君が学院に戻れば、即捕まるだろーねー。後ろ盾のない編入生一人――というか、その後ろ盾がカラミア様だったわけで。そのカラミア様が、カナミ君を捕まえようと指示してるわけで。むしろ、アレイス家ご令嬢カラミア様の愛情を一身に受ける君を、妬んでる人のほうが多いねー」


 学院に戻っても味方はいないと、アニエスは軽く断言した。


 ただ、不思議と僕に不安はなかった。

 なにせ、いま目の前に、僕の為に学院調査してくれたアニエスという友人がいる。

 そして、もう一人――


「危ない、先輩!!」


 話している途中、壁のない簡易キャンプに虫系モンスターが侵入してきて、僕の背後から襲い掛かってきた。

 それを、もう一人の頼りになる友人ライナーが教えてくれる。


「ライナー、大丈夫。このくらいなら――」


 モンスターは危険だ。

 だが、昨日まで戦い続けていたエルと比べたら、余りに動きが遅い。

 初めての迷宮探索だったが、学院で得た経験値によって迷宮一層のモンスター相手は問題なかった。

 特訓用の剣でも、十分に打ち倒すことができる。


「ふう、よかった……。とはいえ、ずっと迷宮で生活するわけにもいかないですよ。先輩、早急にレベルを上げましょう。シッダルク卿の言うとおりならば、あなたの本当の才能は剣です。その才能に賭けて、カラミア様よりも強くなって決闘に勝つしか、平和な学院生活に戻る方法はありません」

「カラミア様に、勝つ……。そのために、レベルを上げる……」


 ここ数ヶ月ずっと一緒に過ごした主の顔を思い出す。

 正直、出会いは最悪だった。

 最初は威圧的で怖い方だと思った。

 しかし、すぐに根っこは可愛い方だと知れた。


 ただ、彼女は生き方が不器用なだけなのだ。


 ――カラミア・アレイスは『支配』以外の生き方を知らない。


 だから、学院生活を送る際、まず学院を『支配』したくなった。

 そして、僕という理解者を得て、恋をしてしまい……その僕を『支配』したくなった。


 いまならば冷静に彼女の気持ちがわかる。

 僕を束縛して、管理して、永遠にレベル1でいて欲しいというのは、たった一つの理由。


 ――好きだから。


 その単純な論理が、いまスノウさんに恋をしている僕にはよくわかる。


「先輩? 何を迷ってるんです? シッダルク卿の言うとおり、『英雄』への羽化ができれば、あのカラミア様の束縛から抜け出せるんです。すぐにでも、レベルを――」


 レベルを上げて、才能を羽化させて、跳ね除ける力を手に入れて、カラミア様を打ちのめせと、ライナーは言う。

 ここにいないエルも、目の前のアニエスも同じ考えだろう。

 しかし、僕だけはずっと思っている。実感があった。


 ――本当にそれでいいのか?


 打ちのめせば、それはカラミア様の否定だ。

 それも、ただ気持ちを否定するだけではなく、約束の否定となる。


 彼女はエルと話すとき、僕と交わした雇用契約書を大事そうに自慢していた。

 エルたちは「ただの紙」と見ていたが、カラミア様にとっては違った。


 彼女は信じていた。これは人生の『契約』だと、とても純粋な気持ちで……。


 それだけは、僕も一緒の気持ちだった。あれは束縛じゃなくて、確かに『契約』だった。だから、カラミア様より強くなるにしても、その『契約』に沿う必要がある。


「ごめん、ライナー。いまのままの僕で、僕はカラミア様に勝ちたい。そして、彼女を助けたい……」

「は、はあ!? いまのままの先輩で勝つって……、馬鹿ですか!?」 

「ああ、僕は馬鹿だ。……正直、浮かれてた。スノウさんと出会って、周りが見えなくなってた。でも、同じ周りが見えない彼女を見て、ようやく目が覚めたよ。この学院に来て、僕は本当に、カラミア様のお世話になった。返しきれない恩がある。それを返す前に、逃げる気はない」


 カラミア様からは衣食住に、錬金術師として必要な道具と部屋まで与えてくれた。

 なにより、この異世界生活で最も必要だった安らぎも、主として確かに――


「だから、彼女が僕にレベル1のままでいて欲しいって言うのなら、それに従う。従った上で、僕は彼女に勝って、学院に戻る」


 そう決めた。

 その判断にライナーとアニエスは呆然としつつも、理解を示してくれる。


「……はあ。本当に、先輩は馬鹿ですね。けど、そう決めたのなら、もう僕は止めませんよ。正直、嫌いじゃあないです」

「カ、カナミ君……。なんかちょっと変わった?」

「うん。そろそろ変わらないといけないみたいだから……」


 そう言って、僕は自分のステータスを『表示』させる。

 ずっとレベル1のままだ。

 けれど、後天スキルだけは『錬金術』の文字が足されている。


「もちろん、勝算はあるから安心して。……まず、カラミア様は僕の作った魔法道具を身に着けていること。だよね、アニエス」

「あ、うん……。大事そうに、ずっとカナミ君の魔法道具を付けてるよ。あれは、もう完全に恋する乙女の目だったね」

「それとアレイス家に保管された『呪い』の魔法道具で、限界を超えた力を得ていること」

「その力で、カラミア様は一位になったっぽい。一位から引き摺り下ろされたフィルティア様が、逆にカラミア様を心配してるレベルでやばい一品みたいだね。話を聞けば、「恋は盲目なんて理由で、学友に自滅されては困る」とぼやいてたらしいよ」


 元一位さんは『学院決闘序列(エルト・オーダー)』よりも、僕の意中の少女スノウさんにこだわっている節がある。

 なので、今回の騒動では、とても冷静に動いてくれているようだ。

 思いがけず、また一つ朗報を得た。


「よし、付けてるならオーケー。あれは、たぶん僕に有利な材料だ」


 授業で『呪い』の説明を受けたときから、ずっと僕は『呪い』という単語に違和感を覚えている。

 そして、それが突破口になると、いまは信じている。


「エルには悪いけど、僕は『英雄』のように勝ちはしない。あくまで、カラミア様の執事として、専属錬金術師として、助けに行く――」


 そう誓って、僕は友人たちに手を伸ばす。


「そのために、アニエス。友人として協力して欲しい」

「……っ! あー。いやー、まー、うん。仕方ないか。それなりに付き合い長いからね」


 アニエスは僕のくさい台詞に照れたのか、顔を背けつつも手を取ってくれた。


「ライナーは……、ヘルヴィルシャインの家の都合があるからちょっと難しい?」

「いや、付き合いますよ。ここに来て、仲間外れは嫌ですって」

「ありがとう。それじゃあ、これから僕の言うモノを集めてきて欲しい。準備を終えたら、すぐ再戦だ。――今日、僕は『学院決闘序列(エルト・オーダー)』一位になるよ」


 レベル1のままだが、頼りになる友人の協力のおかげで、僕に不安はない。

 むしろ、自信が溢れる。


 こうして、カラミア様と決着を付けるため、僕たちは動き出す。







設定的には、ここでアニエスは本編のようにカナミに惚れます。

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― 新着の感想 ―
[一言] ああ……数少ない癒やし要員まで……
[良い点] レベル1のまま挑むのか……! 本当に本編とは色が違っていて面白いです。 異世界迷宮の最深部はまったく目指してなくて、タイトル通りの物語だ……(迷宮の1層でキャンプしてるし)。 フィルティア…
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