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3.前提を覆す力。

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「はぁ……はぁ……っ!」

「追ってきてる人は、いないです……ね!」



 ボクとデルタは、肩で大きく息をしながら。

 王都の中でも最も広い公園へとやってきていた。ここは酒場からも遠く離れているし、逃げ切ったと考えても問題ないだろう。

 ひとまず備え付けの長椅子に腰かけて、呼吸を整えた。

 するとデルタも倣ったので、二人で必死に肺へと空気を送り込む。



「それにしても、ルインさん。本当にありがとうございました……!」

「え……?」



 息もあらかた整った頃合い。

 うな垂れながら汗を拭っていると、不意に少年がそう声をかけてきた。

 ありがとうとは、いったいどういうことだろう。ボクはそのことに首を傾げながらも、彼の顔を見つめた。すると、デルタはうっすらと頬を染めて言う。



「格好良かったです! それに、ルインさんのお陰でスカッとしました!」

「あー……」



 それを受けて、ボクは苦笑しつつ頬を掻いた。

 デルタとしてはムカつく魔法使いに、一泡吹かせたと考えているのだろう。しかしボクとしては、結果的にそうなったものの、命の危険があったことに変わりない。何よりデルタの声掛けがなければ、ボク自身諦めていた。

 だから、素直にこちらも感謝を伝える。



「いいや、こちらこそ。ありがとうな、デルタ」

「へ、あ……う……?」



 ボサボサの頭を撫でてやると、少年は言葉に窮していた。

 そして、照れたようにうつむいてしまう。そんな彼を見ながら、ボクはふと考えた。――あの時の不思議な感覚は、いったいなんだったのか、と。

 目の前で急速に途絶えた相手の魔法。

 ボクは自分の手を見つめて、必死に思考を巡らせた。



「それにしてもルインさんはあの時、何をしたんです?」

「分からない。でも――」

「…………でも?」

「いや、やっぱり何でもない……」



 デルタも気になるのだろう。

 ボクの横顔をジッと見て、そう訊いてきた。

 答えはない。それでも、ほんの微かにだが可能性を見出していた。しかしながらそれは前例がなく、ボクの憶測にすぎない。



 だから、口にはしなかった。

 もしかしたら、魔法を【打ち消した】のではないか、など。




「……ひとまず、今日はもう解散にしようか」




 ――夢のような力。


 その淡い可能性を明日、確かめよう。

 ボクはそう思いつつ、少年にそう告げたのだった。













「――お父様。只今、戻りました」

「あぁ、おかえり。クレア」



 一方その頃、アークライト家。

 家長であるアデルの部屋に、一人の少女が訪ねていた。

 彼女の名前はクレア・アークライト。アークライト家の長女であり、次期跡取り。赤い髪に金の瞳をした見目麗しき才女。魔法学園での成績は抜きんでており、並び立つ者はいない。

 そんな彼女は恭しく頭を下げると、父に向かって言った。



「あの子のこと、ですか?」――と。



 するとアデルは、静かにこう返す。



「あぁ、そうだ。ルインがアークライト家を出て、三年が経った。己の道を歩めと告げ、半ば勘当するように追い出してから三年だ」

「………………」



 クレアは静かに父の言葉に耳を傾け、目を細めた。

 数秒の沈黙を置いてから、アデルは続ける。



「ルインには、たしかに魔法の才はないとされていた。だが――」



 そして、こうクレアに訊ねるのだった。





「――クレアよ。お前は、あの子に【特異な才能】があったと、言うのだな?」





 静かに。

 ただ優しく確かめるように。

 するとクレアは、ゆっくりと頷いてこう言った。



「……はい、お父様」――と。




 確信を秘めた眼差しで。



「ふむ……」



 クレアの言葉を聞いたアデルは、ゆっくりと腰かけていた椅子から立ち上がる。そして窓際に移動し、眼下に広がる王都の宵闇の明かりを見た。

 この明かりのどこかに、ルインはいるのだろうか。

 そう考えて、アデルはクレアに言った。



「それでは、聞かせてもらおうか。クレアの考えるルインの【力】を……」




 その言葉を受けて、クレアは頷く。

 そして、ハッキリとした口調でこう口にするのだった。




「ルインには幼き頃より、本人も知らない【才】がありました。それは――」




 それは、魔法の常識外に位置する。





「前提を覆す唯一の力です」――と。





 


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