3.前提を覆す力。
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「はぁ……はぁ……っ!」
「追ってきてる人は、いないです……ね!」
ボクとデルタは、肩で大きく息をしながら。
王都の中でも最も広い公園へとやってきていた。ここは酒場からも遠く離れているし、逃げ切ったと考えても問題ないだろう。
ひとまず備え付けの長椅子に腰かけて、呼吸を整えた。
するとデルタも倣ったので、二人で必死に肺へと空気を送り込む。
「それにしても、ルインさん。本当にありがとうございました……!」
「え……?」
息もあらかた整った頃合い。
うな垂れながら汗を拭っていると、不意に少年がそう声をかけてきた。
ありがとうとは、いったいどういうことだろう。ボクはそのことに首を傾げながらも、彼の顔を見つめた。すると、デルタはうっすらと頬を染めて言う。
「格好良かったです! それに、ルインさんのお陰でスカッとしました!」
「あー……」
それを受けて、ボクは苦笑しつつ頬を掻いた。
デルタとしてはムカつく魔法使いに、一泡吹かせたと考えているのだろう。しかしボクとしては、結果的にそうなったものの、命の危険があったことに変わりない。何よりデルタの声掛けがなければ、ボク自身諦めていた。
だから、素直にこちらも感謝を伝える。
「いいや、こちらこそ。ありがとうな、デルタ」
「へ、あ……う……?」
ボサボサの頭を撫でてやると、少年は言葉に窮していた。
そして、照れたようにうつむいてしまう。そんな彼を見ながら、ボクはふと考えた。――あの時の不思議な感覚は、いったいなんだったのか、と。
目の前で急速に途絶えた相手の魔法。
ボクは自分の手を見つめて、必死に思考を巡らせた。
「それにしてもルインさんはあの時、何をしたんです?」
「分からない。でも――」
「…………でも?」
「いや、やっぱり何でもない……」
デルタも気になるのだろう。
ボクの横顔をジッと見て、そう訊いてきた。
答えはない。それでも、ほんの微かにだが可能性を見出していた。しかしながらそれは前例がなく、ボクの憶測にすぎない。
だから、口にはしなかった。
もしかしたら、魔法を【打ち消した】のではないか、など。
「……ひとまず、今日はもう解散にしようか」
――夢のような力。
その淡い可能性を明日、確かめよう。
ボクはそう思いつつ、少年にそう告げたのだった。
◆
「――お父様。只今、戻りました」
「あぁ、おかえり。クレア」
一方その頃、アークライト家。
家長であるアデルの部屋に、一人の少女が訪ねていた。
彼女の名前はクレア・アークライト。アークライト家の長女であり、次期跡取り。赤い髪に金の瞳をした見目麗しき才女。魔法学園での成績は抜きんでており、並び立つ者はいない。
そんな彼女は恭しく頭を下げると、父に向かって言った。
「あの子のこと、ですか?」――と。
するとアデルは、静かにこう返す。
「あぁ、そうだ。ルインがアークライト家を出て、三年が経った。己の道を歩めと告げ、半ば勘当するように追い出してから三年だ」
「………………」
クレアは静かに父の言葉に耳を傾け、目を細めた。
数秒の沈黙を置いてから、アデルは続ける。
「ルインには、たしかに魔法の才はないとされていた。だが――」
そして、こうクレアに訊ねるのだった。
「――クレアよ。お前は、あの子に【特異な才能】があったと、言うのだな?」
静かに。
ただ優しく確かめるように。
するとクレアは、ゆっくりと頷いてこう言った。
「……はい、お父様」――と。
確信を秘めた眼差しで。
「ふむ……」
クレアの言葉を聞いたアデルは、ゆっくりと腰かけていた椅子から立ち上がる。そして窓際に移動し、眼下に広がる王都の宵闇の明かりを見た。
この明かりのどこかに、ルインはいるのだろうか。
そう考えて、アデルはクレアに言った。
「それでは、聞かせてもらおうか。クレアの考えるルインの【力】を……」
その言葉を受けて、クレアは頷く。
そして、ハッキリとした口調でこう口にするのだった。
「ルインには幼き頃より、本人も知らない【才】がありました。それは――」
それは、魔法の常識外に位置する。
「前提を覆す唯一の力です」――と。
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