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のけ者エルフのセレンディピティ  作者: ゆきんこ
第四章

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顔合わせ 2

 あっという間に一月が経ち、とうとうお城に行く日になった。緊張なのか何なのか、朝からソワソワする。アイリスちゃんにもらったメイド服に着替えてソワソワ。朝ご飯を食べてもソワソワ。ああ、落ち着かない。


「二人とも、ハンカチは持ちました?」


 スマラクト様の執務室で父さんの持ち物チェックを受ける。スマラクト様はどや顔でポケットからハンカチを取り出した。僕もメイド服のポケットからハンカチを取り出す。


「財布は忘れていませんか? 忘れたら、商業区で買い物、出来ませんからね?」


 父さんの言葉に、スマラクト様が僕を見た。今日は僕とスマラクト様だけでお城に行くから、僕がスマラクト様のお財布を預かっている。僕はエプロンのポケットから、スマラクト様のお財布と自分のお財布を取り出した。それを見たスマラクト様が、ホッと安堵の息を吐く。


「連絡用の護符は忘れていませんか?」


 今度は僕がスマラクト様を見た。連絡用の護符は、スマラクト様が持っているはず。と思ったのに、スマラクト様は服の胸元を見て、あれって顔をしたと思ったら、ポケットを漁って首を傾げた。


「持ったと思ったのだが……」


 そう呟いたスマラクト様は、執務机に向かった。そして、その上に置きっぱなしになっていたらしい護符を首に下げながら戻って来る。父さんはそんなスマラクト様をジトっとした目で見ていた。僕もたぶん同じ顔をしていると思う。スマラクト様ってば……。大事な護符を忘れるなんて……。


「あとは……」


 父さんがふむと考え、僕を見る。僕は忘れ物なんてしてないよ?


「アベル、魔力媒介は? 持って行くように言ってありましたよね?」


「ちゃんとあるよ!」


 ほらと、スカートを少し捲くってみせる。師匠が今日の為にと用意してくれた新しいホルダーで、魔力媒介は足に括り付けてあった。だから、スカートを少し捲くると、ナイフの鞘の先っぽが見える訳で。


「そんなところに付けていたのですか」


「師匠がね、こうしておけって。何かあった時、相手の虚をつければ、逃げる事くらい訳ないからって」


「確かにそうですね。丸腰だと思っていた相手から魔術が飛んで来たら、間違いなく虚をつけるでしょうね」


 そう言った父さんが、にこりと笑って僕の頭を撫でてくれる。うふふ。褒められた!


「ぼ、僕だって、魔力媒介の召喚護符は忘れずに持っているぞ!」


 スマラクト様が対抗するようにそう叫んだ。


「はい。偉い、偉い」


 父さんが棒読みでそう言う。思わず、僕は苦笑してしまった。スマラクト様は地団太を踏んでいる。父さんってば。普通に褒めてあげれば良いのに。


 そうしている間に、約束の時間になったらしい。執務室の扉がノックされ、スマラクト様の返事で扉が開く。扉の先にはこのお屋敷で働くおじさんの一人と領主様。


「父上!」


 領主様の姿を見たスマラクト様が目を輝かせた。何だかんだ、お父さんに久しぶりに会えて嬉しいらしい。でも、僕の手前なのか、駆け寄ったりはしない。


「久しぶりだね、スマラクト。アベルも元気にしてた?」


「はい。お久しぶりです、領主様」


 そう言って、僕は父さんに教えてもらった通り、スカートを少し摘まんで軽く膝を折り、頭を下げた。


「あら~。ちゃんと礼儀作法も教わったの」


「はい!」


「じゃあ、今日は大丈夫だね。期待してるからね!」


 領主様の言葉に、僕の顔から血の気が引く。期待されても困る! 期待に応えられる程、僕の礼儀作法は完璧じゃないよ!


「旦那様。悪ふざけがすぎますよ。あまりプレッシャーをかけないでやって下さい」


 父さんが呆れたようにそう言うと、領主様がニヤニヤと笑った。


「すっかり父親らしくなったね、カイン」


「はいはい。無駄話はそれくらいで。あまり遅くなると、皆様をお待たせする事になりませんか?」


「え~。もっと父親してるカイン見たかったのにぃ!」


「そんなの、その気になればいつでも見られるでしょうに……。それより――」


「は~い。カインに怒られる前に行こうか、スマラクト、アベル」


『はい!』


 思いがけず、スマラクト様と返事が被った。スマラクト様と二人顔を見合わせ、笑い合う。そうしている間に、足元に転移魔術のだろう魔法陣が広がっていく。


 領主様は空間操作術師。複数人を同時に転移させる魔術も使えるようだ。ただ、僕は転移が苦手で……。隣にいたスマラクト様の上着の袖をギュッと握る。


「緊張しなくても大丈夫だぞ、アベル。竜王城はオーガ族の里よりも近いし、父上の転移は、そこまでグルグルしないはずだ」


「そ、そう……?」


「うむ」


 そんな話をしている間に魔法陣が完成したらしく、目の前が魔術の光で真っ白になった。次の瞬間、転移時特有の上も下も、右も左も分からなくなるような感覚が押し寄せて来る。でも、それも一瞬だった。


 オーガ族の里への転移が高速で十回転するくらいなら、今回の領主様の転移はゆっくり二回転する程度。確かに、そこまでグルグルしないで着いてしまった。


 着いた先は、青と白を基調としてまとめられた居室だった。ここが竜王城の領主様夫婦のお部屋なのかな? 豪華なのに上品な感じのお部屋だ。


「じゃあ、スマラクト、アベル。シュヴァルツとアオイさんに挨拶しよっか?」


 領主様にそう促され、スマラクト様が胸に手を当て、頭を下げた。僕も父さんに教えてもらった通り、スカートを少し摘まんで膝を折って頭を下げる。


「竜王様、アオイ様、お久しぶりにございます。本日は私事にわざわざお時間を割いて下さり、恐縮に存じます。こちら、私の従者候補のアベルにございます」


「竜王様、お后様、初めまして。エルフ族のアベルにございます。以後、お見知りおき下さいませ」


「はい。良く出来ました!」


 領主様の言葉に顔を上げる。彼は僕達を見て、優しく目を細めていた。こんなに優しそうで朗らかな人が、世界最凶とまで言われる破滅の魔術師とは……。世の中、奥が深い。


「スマラクト、久しぶりね」


「母上! お久しぶりです!」


 スマラクト様を呼んだ声の方を見る。そこには姿絵でしか見た事が無かった奥様が。姿絵と同じように、赤みがかった金髪をきっちり結い、青いドレスに身を包んでいる。彼女はスマラクト様を見て、穏やかに微笑んでいた。そんな彼女に膝を折って頭を下げる。勝手にお話するのはマナー違反だって父さんが言っていたから、この対応で合っているはず……。


 奥様の斜向かいの奥の席に、若い黒髪の夫婦らしき男女が。領主様やラインヴァイス様とはと色違いの黒い服を着た男の人が、たぶん、竜王様だろう。特徴的な紫色の瞳は、睥睨するように僕達二人を見ている。スマラクト様や領主様以上に整った顔は芸術品のようだけど、目つきが……。怖い……。


 隣の女の人がお后様のアオイ様かな……? 奥様に負けず劣らずの豪華なドレス着てるし。こっちの人も何か怖い……。綺麗なんだけど、やけに目に力がある。なんか、竜王様と似た者夫婦感が……。


 竜王様と思しき男の人の正面にはラインヴァイス様。僕達を見て微笑んでいる。彼の姿を見て、僕はちょっと安心してしまった。知っている人っていうのもあるし、穏やかな顔つきと性格だから。この面子の中、唯一の癒しだ。


「じゃあ、二人とも、そこに座って待っててね」


 そう言うが早いか、領主様の姿がパッと消える。転移でどこかに行ってしまったようだ。


「座ろう、アベル」


「うん……」


 スマラクト様に手を引かれ、空いている席――奥様の正面の席に二人で隣同士に座った。僕を値踏みするように見る奥様の視線が怖い……。


 そうして少しの間、領主様が帰って来るのを待つ。その間に、僕の脇は汗でびっしょりになってしまった。奥様と竜王様とお后様。この面子で緊張しない方がおかしい。


 長い間だったとも思うし、あっという間だったとも思う。突然、床に転移魔術のものらしい魔法陣が広がったと思ったら、領主様とアイリスちゃんが姿を現した。領主様はアイリスちゃんを迎えに行っていたのか。アイリスちゃんはスマラクト様の義理とはいえ妹だし、この面子でアイリスちゃんだけいないとか無いな、うん。


 アイリスちゃんはラインヴァイス様に手招きされて、その隣に腰を下ろした。領主様も空いている席――奥様のお隣に座る。


「んじゃ、役者も揃った事で、改めて紹介するね。この度、うちのスマラクト付の従者になる事になりました、アベルで~す」


 領主様が明るい声で僕を紹介する。でも、これは想定外。もっと、こう、硬い紹介をされるものだと思っていた。僕は慌てて頭を下げる。


「アベルって、男の子の名前じゃ……。それとも、こっちだと女の子の名前なんですか?」


 そう言ったのはアオイ様。不思議そうな顔で僕と、領主様を見比べる。


「この子ね、ちょ~っと訳あって、男の子として育てられたんだ。少しばかり腕白な所があるけど、まあ、良い子だから」


 え? 僕って腕白だったの? 思いがけない領主様の発言に、スマラクト様やアイリスちゃん、ラインヴァイス様を見る。すると、彼らはうんうんと頷いていた。が~ん。僕、腕白だったんだ……。


「ブロイエやラインヴァイスがこれをスマラクトの従者にと推すには、それなりの実力があると思って良いのか」


 静かに問いかけたのは竜王様。睨む、いや、値踏みするように僕を見ている。声といい、視線といい、凄い威圧感……。これが魔大陸七人の王筆頭と言われる、竜王様、か……。


「年齢に対しての実力は、申し分ないと思います。向上心もありますし、伸びしろも十分に期待出来ます」


 そう言ってくれたのはラインヴァイス様。雑談する時とは違った、きりっとした顔と声。これもお仕事の一環だからだろうか?


「お前がそう言うのならば、間違いないのだろうな。私からは何も言う事は無い。従者の件、承認しよう」


 腕を組み、竜王様がそう口にする。良かった……。こんな生まれも育ちも分からない奴、スマラクト様の従者に出来ないって言われたらどうしようって思ってたから安心した。ラインヴァイス様の、竜王様からの信頼は篤いらしい。


「はっ。ありがとうございます」


「ありがと~、シュヴァルツ」


 ラインヴァイス様はきりりとした顔のまま頭を下げ、領主様は満足げに笑ってお礼を言った。


「んじゃ、一応、みんなの紹介をしておくね。今後、顔を合わせる機会もあるだろうし。この怖くてお綺麗な顔のお兄さんがシュヴァルツ。現竜王で、スマラクトの従兄ね。んで、こっちの美人さんがシュヴァルツの奥さんでアオイさん。アオイさんは中央神殿のメーアに異世界から召喚された勇者様」


 領主様の紹介に、竜王様が一つ頷き、アオイ様はぺこっと頭を下げた。僕も慌てて頭を下げる。


「んで、ラインヴァイスは会った事あるけど、一応ね。近衛師団長で、シュヴァルツの弟。今は寄宿舎の先生もしてて、アイリスの婚約者」


 アイリスちゃんの婚約者? 僕が会った時、二人は師弟だったはず。いつの間にか恋人になって、婚約までしてたとは! 思わず、アイリスちゃんとラインヴァイス様を見比べる。二人は僕を見て、いたずらっぽく笑った。「驚いた?」とばかりに。


「で、こっちの絶世の美女が僕の奥さんで、スマラクトの母親、ローザさん」


 領主様にそう紹介された奥様はにこりと笑うと頭を下げた。僕がスマラクト様の従者になるのを反対している様子は無い。という事は、大嫌いなエルフ族の僕が、スマラクト様の従者になる事、納得はしているのだろう。でも、逆に何で……?


「あの、聞いても……?」


 僕はおずおずと口を開いた。すると、奥様が微笑みながら静かに頷く。


「奥様はエルフ族がお嫌いだと聞いていました。だから、僕をすぐにスマラクト様の従者にする事は出来ないんだと。どうして急に、僕に会ってみたいって……?」


 領主様のお手紙には、奥様が僕に会ってみたいって言い出したってあったらしい。スマラクト様がそう教えてくれた。スマラクト様は、奥様は気分屋なところがあるからって言っていた。でも、それじゃ僕は納得出来なくて。


 だって、説得しなくてはならないくらいエルフ族が嫌いな奥様だ。三年も説得を試みて、その結果、何が奥様の心を動かしたのか。僕じゃなくても気になると思う。


「あら。私、エルフ族が嫌いなのではありませんよ? エルフ族の男性が嫌いなだけで」


 言いたいことが分かるような、分からないような……。僕がエルフ族でも、女の子だから会ってみたいって思ってもらえたって事、だよね……? ただ、そうすると、新たな疑問も湧く訳で。奥様は何で、エルフ族の男の人がそんなに嫌いなの?


「あの……?」


「エルフ族の男性って、男尊女卑的な考え方をするでしょう? それが大嫌いなの。男性と女性は対等であって、どちらかが優れていてどちらかが劣っているなんて事はない。そうは思わなくて?」


 そうは言われても……。力仕事も、魔物の駆除なんかの危ない仕事も、男の人がやってくれるから、女の人は家の事や軽作業だけして暮らしていける訳だし……。純粋な仕事量は男の人の方が多いし……。


「でも、女の人は男の人より力が無いですし……」


 だから、僕は思っている事を口にした。とたん、奥様がスッと目を細める。


「それは得意分野の差よ? 貴女もだいぶ、凝り固まった考え方をしているようね」


 僕、答えをまずったらしい……。不機嫌そうにそう言った奥様の視線から逃れるように、僕は縮こまった。と、盛大な溜息を吐く人物が一人。スマラクト様だ。


「母上。あまりアベルをいじめないで頂きたいのだが?」


「あら。いじめるだなんて人聞きの悪い。私は、凝り固まった考え方に固執していると、割を食うのは女性なんだって教えてあげているのよ? 淑女教育よ、淑女教育」


「それにしたって、言い方というものがあるでしょう……」


「ふふふ。そうね。少し意地の悪い言い方だったかもしれないわね。ごめんなさいね、アベルさん」


「い、いえ!」


 僕が慌てて首を横に振ると、奥様がにこりと笑った。でも、目は笑っていない。凄みのある笑い方だった。


「あのエルフの里出身だもの、色々と分からない事が多いかと思うけれど、カインの言う事をよく聞いて、スマラクトの従者として恥ずかしくないようになって頂戴ね?」


「は、はい! もちろんです!」


 僕は必至でこくこくと頷いた。そんな僕達のやり取りに、スマラクト様は呆れたように溜息を吐き、他の人達は苦笑していた。


 ここまで刺々しいって事は、僕、奥様にあんまり歓迎はされていないらしい。ただ、それは、僕がエルフ族だからってよりは、排他的なエルフ族の里出身で、世間知らずだからみたい。スマラクト様の恥になるんじゃないかって心配なんだろう。


 エルフ族だからって反対されるんじゃ、僕にはどうにもならない問題だ。でも、世間知らずは僕の努力で何とかなる。何とかしてみせる! 今日までに父さんに教えてもらった礼儀作法。せめてそれだけは、今日、失敗しないようにしないと!

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