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のけ者エルフのセレンディピティ  作者: ゆきんこ
第三章

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研究 1

 昼食を食べ終わってしばらくすると、何だか眠くなってしまった。時折吹く暖かな風と心地よい音楽。これで眠くならない方がおかしいと思う。大人たちもまったりと過ごしているし、里の子ども達は敷物の上に横になってお昼寝していたり、親に連れられて家に帰ったりしている。


 このお祭り、今夜一晩中続くらしい。かなり長丁場のお祭りだ。だからか、疲れたらいったん家に帰って休んでも良いらしい。どうするって父さんに聞かれたけど、僕達はお祭り会場に残る事にした。だって、せっかくのお祭りだもん。お昼寝してしまうなんてもったいない。


 くぁっと大きな欠伸が出たちょうどその時、僕が着ている伝統衣装の袖がくいくいと引っ張られた。何? そう思って袖を見る。すると、そこには四足歩行のゴーレムが。こんな独特な形状のゴーレムを作る人物の心当たりなんて、一人しかいない。


 そう思って、サーシャの席を見る。そこはもぬけの殻だった。いつの間にか席を立っていたらしい。振り返ると、敷物の外にサーシャが。満面の笑みで僕を手招きしている。スマラクト様とアキムさんも一緒だ。どうやら遊ぶ事にしたらしい。飽きちゃったんだね、きっと。


「父さん、スマラクト様とサーシャが遊ぶみたい。僕も行ってきて良い?」


「ええ。ただ、あまり騒がしくしないように。寝ている子どももいますからね」


「分かった」


 父さんの言葉に頷き、僕はスマラクト様とサーシャの元に向かった。そうして僕達三人はゴーレムで遊び始めた。因みに、アキムさんは見守り係。彼は一応、サーシャの護衛も兼ねているからね。これもお仕事の一環だ。


「待て待てぇ!」


 サーシャのゴーレムがカサカサと機敏な動きで僕のゴーレムやスマラクト様のゴーレムを追いかけ回す。扱いがちょっと上手になったんだよって言っていただけあって、サーシャのゴーレムは、前回遊んだ時よりもかなり良い動きをするようになっていた。


 一番動きが良いのはサーシャのゴーレムだ。次いで僕、スマラクト様と続く。見た目が良い順とは真逆の結果。これが適正ってものらしい。そう教えてくれたのはアキムさんだった。


 ゴーレムの操作は屍霊術の適性が、形成は土属性の魔術の適性が高いと上手に出来るんだって。サーシャは屍霊術への適性が、スマラクト様は土属性への魔術の適性がずば抜けて高いから、結果として見た目と動きがちぐはぐになっちゃってるんだろうって。僕はどっちも普通だから、普通に形成も操作も出来る、と。


 この話を聞いて、興味を示したのはスマラクト様だった。僕とサーシャにはよく分からないけど、何かかが彼の琴線に触れたらしい。


「アキム殿はどうなのだ?」


「私ですか? 私はアベル嬢タイプですね。ごくごく普通です」


「ちょっとゴーレムを作ってくれぬか?」


「ええ」


 アキムさんは嫌な顔をするでもなく、スマラクト様のお願いをすんなりと聞いてくれた。魔法陣を展開して、小型のゴーレムを一体、作ってくれる。


「見た目はアベルのよりも良いな」


 スマラクト様の言葉の通り、アキムさんのゴーレムの方が、ほんの少しだけ僕のゴーレムより手足が長いスリム体形だった。でも、似たり寄ったりだと思うよ、これくらい。


「それは年齢も関係していると思います。人体の絵を描いた時、大人と子どもでは、大人の方が上手に描けるものでしょう?」


「なるほど……。ちょっと殴ってみても良いか、そのゴーレム」


「ええ。どうぞ」


 アキムさんの返事と同時に、スマラクト様のゴーレムがアキムさんのゴーレムを殴った。パカンと良い音を立ててアキムさんのゴーレムが砕ける。


「アベルのもちょっと壊して良いか?」


「良いけど……。って言うか、何で壊れる前提?」


「僕の思っている事が正しければ、多分壊れる」


 スマラクト様がそう言った通り、スマラクト様のゴーレムに殴られた僕のゴーレムは簡単に崩れ去った。


「ふむ……。強度は若干アベルの方が上だったな……。サーシャのも良いか?」


「えぇ~。壊しちゃうの? あたいのゴーレムぅ……」


「う……。いや、その……。ちょっと実験を、だな……」


「サーシャ。また作れば良いじゃん。協力してあげなよ」


 僕の言葉に、サーシャはゴーレムを、続いてスマラクト様を見た。そして、小さく頷く。よしよし。良い子だ。


「正直、壊れるか壊れないか、僕にも分からぬのだ。すまんな、サーシャ」


 スマラクト様はそう言うと、自分のゴーレムをサーシャのゴーレムのすぐそばに立たせた。そして、構えて殴りつける。すると、パキッと良い音を立てて、スマラクト様のゴーレムの腕が折れた。サーシャのゴーレムの手足はあんなに細いのに、今の衝撃に耐えられたようだ。


「強度はサーシャのゴーレムがずば抜けているな……。強度は、土属性魔術への適性だけでなく、屍霊術への適性も関係しているのか……?」


「ねえぇ! もう良いでしょぉ! もっと遊ぼうよぉ!」


 そう言ったサーシャは、四つ足ゴーレムを器用に反復横跳びさせていた。驚くくらい器用に操作するものだ。そもそも、四つ足の反復横跳びってどうやってやるの? あの動き、僕には真似出来ない……。


「ああ、そうだな。続きをしよう」


 スマラクト様は頷くと、腕の折れたゴーレムを破棄し、新たにゴーレムを作った。僕も壊されたゴーレムの代わりに、新しいゴーレムを作る。そうしてサーシャが満足するまで、ゴーレムで遊び続けたのだった。


 そうして少し日が傾いて来た頃、父さんが僕達を呼びに来た。とうとう、父さんの演奏の順番らしい。僕はいそいそと席に戻り、スマラクト様とサーシャもその後に続く。


 席に着いて、壇上に目をやると、父さんとヴィルヘルムさんが並んで立っていた。な、なんと! 仲が良いんだか悪いんだか分からない二人が一緒に演奏するとは! これは予想外。ドキドキ、ワクワクしながら演奏が始まるのを待つ。


「ほう……。カイン殿もヴィルヘルム殿も、良い楽器を持っとるのぉ」


 壇上で演奏を始めた二人を見て、そう呟いたのはローベルトさんだった。父さんは分かる。銘付きの笛だもん。でも、ヴィルヘルムさんも? そう思ってヴィルヘルムさんが手に持つ笛を見ると、冬に吹いてくれた時とは違った笛を持っていた。


 一目見て違うって分かったのは、材質が全然違うから。冬に吹いてくれた笛は木製だったけど、今回持っているのは金属製。父さんの笛と同じような見た目の笛だった。


「流石、城の楽団で吹いているだけあって、ヴィルヘルムもセイレーン族謹製の笛を持っておったのか。冬に吹いていた笛とはまた違った、良い音色の笛だな」


 そう言ったのはスマラクト様。一目見て、ヴィルヘルムさんの笛がセイレーン族謹製の楽器だと分かったようだ。でも、何で?


「ねえ、スマラクト様? 何でセイレーン族謹製って分かるの?」


「うん? 一目見れば分かるだろう。ミスリル銀の楽器など、セイレーン族謹製以外考えられん」


「ミ――!」


 ミスリル銀。それは僕でも知っている、超希少価値の高い金属だった。拳サイズの塊で、しばらく遊んで暮らせるくらいの値が付くとか、耐腐食性は一級品で、永遠の輝きとか何とか本に書いてあった覚えがある。


「因みに、僕はもう一台、ミスリル銀の楽器に心当たりがある」


 スマラクト様が目をやった先、そこには僕の竪琴ケース。彼はこう言いたいのだ。僕の竪琴もミスリル銀製だ、と。


 良い竪琴だとは聞いていた。セイレーン族謹製の竪琴だとも聞いていた。師匠が持っている竪琴とは違って金属製だなとも思っていた。でも、まさか、だ。まさか、もらった竪琴がミスリル銀製だったとは……!


「師匠、そんな事、何にも言ってなかったよ……?」


「普通、セイレーン族謹製の楽器で金属製ならば、ミスリル銀製だと思うものだ」


 そ、そうか。常識の範囲内の話なのか。だいぶ色々分かって来たなと思っていたけど、僕はまだまだ世間知らずらしい……。


「そんな良い物、ほいほいもらっちゃって良かったのかな……?」


「グリンマーには子や孫はおらぬ。奴が死んだら、奴の財産は宙に浮く。そして、最終的には国に接収されるのだ。生きているうちに、やりたい奴にやるののどこがいけないのだ? 本人がやると言ったのだし、気にする必要はあるまい」


「そう、なのかな……?」


 視線をやった先、そこには、いつの間にか席を移動し、族長さんと酒盛りを始めていた師匠。楽し気に笑いながら、族長さんとお酒を飲んでいる。


「あれはあれなりに、お前の行く末を案じておるのだ。まあ、僕とじいがついているのだから、心配は無用なのだがな」


 そう言ったスマラクト様が、ふふんと得意げに笑う。まあ、確かに、スマラクト様と父さんが後ろ盾になってくれて、こんな心強い事は無いんだけど。自分で言ったらだめだと思うよ、スマラクト様。


「棺桶に片足突っ込んでいる歳で取った弟子だからな。一人前になるまでは面倒を見られないのは分かりきっている。だから、ノウハウを譲れない代わりに、財産を譲ろうと思っているのだろう。言われたのだろう? 武器庫の武器類は好きにして良い、と」


「うん」


 自分で手入れするならって話だけど。確かに好きにして良いって言われている。だから、僕はスマラクト様の言葉に素直に頷いた。


「将来、あそこにある武器で、武器屋でも始めろという事だと思うぞ?」


「でも、僕、将来、スマラクト様の補佐するんだよね?」


「ああ。だが、人を雇って店をするもよし、空いている時間に店を開くもよし。他に生業があれば、僕に何かあっても安心だ」


「何かあってもって……。やめてよ、そういう不吉な事言うの」


「仮の話だ。しかし、王族とはそういう可能性もあるものだと思っておけ。でなければ、じいやアキム殿のような立場の人間は必要無いし、近衛師団だって必要無い。僕やアベルが、毎日じいにしごかれる必要だって無いんだ」


 そう言ったスマラクト様の声は真剣そのもので。驚いてそんなスマラクト様を見ると、彼は自嘲気味に笑っていた。その目はどこか悲しげで。きっと、スマラクト様は、物心付いた時から、いつどんな理由で殺されるか分からない、そんな覚悟をして生きて来たんだ。


 ああ、そうか。だから、か……。スマラクト様がいついかなる時でも全力なのは。好きな事だけやりたがるのは。いつ殺されても悔いが残らないように生きているんだ。


 サーシャもきっと同じだ。スマラクト様と似た者同士だもん。こういう覚悟をしているんだ。二人ともまだ子どもなのに……。ぎゅっと握り締めた両の拳に、ぽたぽたと涙が落ちる。


「な、泣くな、アベル。仮の話だと言っただろう?」


「でもぉ……!」


「どーしたの、アベル? 具合悪くなっちゃったの? ローベルトじいに診てもらう?」


 とととっと僕の元に駆け寄って来たサーシャが、僕のそばにちょこんとしゃがみ込むと、慰めるように頭をよしよしと撫でてくれた。そんなサーシャにがばっと抱き付く。ついでに、スマラクト様も一緒に抱え込む。そうして僕は二人に抱き付きながら、おいおいと声を出して泣き続けた。

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