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のけ者エルフのセレンディピティ  作者: ゆきんこ
第三章

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投げナイフ 1

 オーガ族の里で雪とお祭りを目いっぱい楽しんだ僕達はお屋敷へと戻って来た。そうして普段通りの生活へと戻る。


 でも、違う点が二つ。一つは僕のカインさんへの呼び方。父さんって呼んでも良いって言われたから、遠慮なくそう呼ばせてもらっている。そしてもう一つは――。


「じゃあ父さん、師匠のところ、行ってくるね! スマラクト様、頑張ってね!」


 戦闘訓練真っ最中の二人にそう声を掛け、僕はお屋敷の建物へと足を向けた。


 僕は今、師匠のところにあった投げナイフ用のナイフの手入れをしている。肩を怪我してしまったせいで戦闘訓練が出来ないから、その代わり。


 これがまた、けっこうな量があるから大変なんだ。しかも、長年手入れをされてなかったから、研ぐのも一苦労で。でも! 師匠から合格が出たナイフは僕が貰えるから頑張らないと!


 投げナイフの事は、父さんには秘密なんだ。練習して、ちゃんと出来るようになったら、戦闘訓練で使って驚かせたいの。僕が投げナイフを練習しているのを知っているのは、このお屋敷では師匠だけ。師匠には口止めしてあるから、たぶん父さんには言ってないと思うんだ。だって、師匠言ってたもん。「何も、馬鹿正直に手の内を明かす必要は無い」って。だから、父さんは、僕が師匠の所で研究でもしてるんじゃないかなって思ってるはずだ。


「師匠! おはよう!」


「おお。おめえ、今日も元気だな……」


 作業場の隅に置いてあるソファにごろりと横になった師匠が、土気色の顔をこちらに向ける。


「うん! 師匠は今日も二日酔いだね!」


「おお……。だから、あんまでかい声で話すな……」


「分かった!」


 元気よく返事をし、昨日中断した作業からさっそく始める。そうして集中する事しばし。


「どうだ? 出来たか?」


 ひと眠りしてちょっと体調が回復したのだろう師匠が、僕の手元を覗き込んだ。そして、研ぎ終わったナイフを一つ手に取る。


「ふ~ん……。悪くはねえな」


「じゃあ、それは貰っても良い?」


「いや。合格には一歩足りないな。ちょっと待てよ。今見てやっから」


 そう言って、師匠が研ぎ終わったナイフを見分してくれる。師匠はナイフを二つの箱に分けた。そのうち一つの箱を僕に手渡してくれる。箱の中には二本のナイフ。おお! 今日は二本もあった!


「その二本は合格だ。こっちは初めからな」


「うん! 分かった!」


 頷いた僕は、いそいそと二本のナイフを手拭いで包んだ。そして、ジャケットのポケットに突っ込む。


「そういや、おめえ、ホルダーはどうする予定なんだ?」


 師匠の言葉に首を傾げる。もしかして、こういうナイフを仕込むのも、ホルダーが必要なの? えぇ~! 知らなかった! 全然考えてなかった!


「その顔、考えてなかったな……」


「えへへ」


「ちょっとこっち来い。古いので良ければ見繕ってやっから」


 そう言って、師匠が作業場の奥の倉庫に向かう。僕もその後に続いた。そして、倉庫の奥にあった一つの木箱を、師匠が上半身を突っ込みながら漁る。それを見守る事しばし。


「あった、あった」


 師匠が引っ張り出したのは革のホルダーだった。ほとんど使われていなかったのだろうそれは、古いと言う割に、全く傷みは無さそう。


「ちょっと付けてみ?」


「うん」


 頷き、師匠から受け取ったホルダーをしげしげ眺める。腰につけるホルダーはベルトみたいになっているけど、これは違う。縦横にベルトが交差しているような形状だ。


「これ、どうやって付けるの?」


「おめえ、ホント、手がかかるな……。付けてやっから、こっち来い」


「うん!」


 頷き、僕は師匠にホルダーを手渡した。すると、師匠がそれを慣れた様子で僕に付けてくれる。


「ぶかぶかだ……」


「だな」


 ホルダーはジャケットをベルトで作ったような代物だった。ところどころサイズを調整する金具があるんだけど、それを締めてもぶかぶかで。思わず呟いた僕に、師匠が苦笑を返す。


「おめえ、もうちょっと太れよ」


「そのつもりなんだけど……」


 なかなか太れないんだよね。食事はお腹いっぱい食べてるんだけどなぁ。これはたぶん、僕がエルフ族だから。華奢で細身が多いのも、エルフ族の特徴だったりする。


「手直しが必要だな……。まあ、良い。それは俺がやっといてやる」


「ホント? ありがとー!」


 そうして僕はホルダーを師匠に託し、自室へと向かった。自室と続き間になっている書斎の机の真ん中の引き出しを開き、箱を取り出す。その中には、今日までに師匠から合格を貰って譲ってもらったナイフ。その中に、今日、合格をもらったナイフを入れる。


「結構溜まってきたな」


 箱の中のナイフを見つめ、ムフフと笑う。投げナイフ用のナイフは、基本、消耗品らしい。戦闘時、放ったナイフを回収する暇は無いから、投げたらそれはそれで終わり。だから、魔力媒介みたいに、一本に愛着を持つものじゃなくて、使い捨て出来るようにたくさん準備しておくものらしい。それは師匠が教えてくれた。だから、たくさん手入れをして、たくさん持っておけって。


 言い換えると、どれだけあっても困る物じゃない。だから、僕はこれをヴィルヘルムさんへのお礼にしようと考えている。投げナイフの基礎を教えてくれたお礼だ。手紙も添えて――。


 コンコンと、部屋の扉がノックされる音がわずかに聞こえてきた。スマラクト様の戦闘訓練、終わったのだろうか? 今日はちょっと早かったんだな。そう思いながら扉に向かい、それを開く。その先には父さんとスマラクト様。


「アベル、今日の戦闘訓練は終了ですので、風呂に入って食堂で昼食にしましょう」


「うん! でも、やけに終わるの早かったね、今日は」


「冬場は駄目ですね……。坊ちゃまのやる気が無くて……。それに、雪が降ってきてしまったので……」


 雪だって? タタタッと窓に駆け寄り外を見る。すると、チラチラと粉雪が舞っていた。


「雪だー! スマラクト様、雪だよ! 積もるかな? 積もったら雪遊びしようよ!」


「雪なら、ついこの間、オーガ族の里ので思う存分遊んだだろう……。それよりも、早く風呂に入って温まりたい……」


 ガチガチ震えながらスマラクト様がそう言うと、父さんがはぁと呆れたように溜息を吐いた。


「どこのじじいだよ……」


「お前、最近、ちょくちょく素を出していないか?」


「そうですか? 坊ちゃまの気のせいですよ。それよりも、早く風呂に入りたいのでしょう? 行きましょう」


 微笑んだ父さんがスマラクト様の背を押す。僕は廊下を歩き出した二人を見送り、洗面所へと向かった。そうして手早くお風呂に入って食堂へと向かう。


 食堂で待っていると、スマラクト様と父さんがやって来た。戦闘訓練中はそこまででもなかったけど、スマラクト様は着ぶくれしてコロコロしている。オーガ族の里から帰って来たとたんこれだ……。本当に寒がりなんだから……。


 昼食を取って、お昼寝をして、スマラクト様は執務、僕は研究の時間となった。でも、今日、研究はお預け。その代わりにと、便箋と封筒を準備する。


「アベル、今日は手紙を書くのか?」


「うん!」


 スマラクト様に笑顔で頷き、席に着く。


「誰に出すのだ? サーシャか?」


「ううん」


「では、オーガ族の里の、族長の息子の奥方か?」


「ううん」


「では誰だ?」


「ヴィルヘルムさんだよ」


 僕はそう口にすると、羽ペンを手に取った。そして、羽ペンの先にインクを付ける。


『ヴィルヘルム?』


 スマラクト様と父さんから同時に怪訝そうな声が上がる。便箋から顔を上げると、二人が二人とも、僕をまじまじと見ていた。


「何?」


「ヴィルヘルムに手紙など……。いつの間に、そんなに親しくなった?」


「別に、親しくはないけど……」


「親しくないのに手紙を出すのか?」


「駄目? お礼したかったんだけど……」


 変だったら止めようかな……。投げナイフ教えてもらったし、魔物を倒して助けてもらったし、お礼したかったのにな……。


「だ、駄目ではないぞ。僕は駄目とは一言も言っていないぞ。だから、そんな泣きそうな顔をするな!」


「だってぇ……」


「礼というのは、魔物を倒してもらった礼か?」


「それもあるけど、朝の鍛錬に付き合ってもらったから……」


「朝の鍛錬だと! 僕も参加してみたかった! 何故、起してくれないんだ!」


「だって、スマラクト様、起しても起きないじゃん……」


 ジトっとした目で僕がそう言うと、父さんが同意するようにうんうんと頷いた。スマラクト様はぐぬぬと唸っているけど、反論は無い。起こしても起きない自覚があるなら、ちゃんと起きる練習してよ……。まったく……。

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