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のけ者エルフのセレンディピティ  作者: ゆきんこ
第三章

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父親 4

「アキム。ぼさっとしとらんと、姫さんの魔力媒介を出してやれ」


 ローベルトさんがそう言うと、慌てたようにアキムさんが懐を漁った。そうして取り出したのは護符だった。僕やスマラクト様が持っているのと同じ、魔力媒介を召喚する護符だ。それを使って、サーシャのだという魔力媒介を召喚する。


 アキムさんが召喚した魔力媒介は短剣だった。子どもが持つにはごく一般的な大きさのそれは、子どもが持つには幾分か装飾が多い。一目でお高そうと分かる逸品だった。以前見た、サーシャの魔力媒介とはだいぶ装飾が変わっていた。たぶん、屍霊術を学ぶに当たり、それに合った魔力媒介を新調したんだろう。


「なかなか良い短剣ではないか!」


 興味を示したのはスマラクト様だ。僕より目が肥えていそうなスマラクト様が褒めるんだから、かなり良い品なんだろう。そんな短剣を、アキムさんがサーシャに手渡す。


「じい……?」


 サーシャはローベルトさんが何を求めているのか分からないようだった。渡された短剣とローベルトさんを、不思議そうに見比べている。


「初級のアイスゴーレムの作り方、ついこの間、教えてやっただろうに……。もう忘れたのかい……」


 やれやれと、ローベルトさんが深い溜め息を吐く。サーシャはなおも不思議そう。


「だって、初級の術じゃ、雪、そんなに集めらんないよ?」


「頭を使えといつも言っておろうに……。確かに、アイスゴーレムは、儂がやったように、雪を効率良く集める事も出来る。じゃが、他の使い方も出来るとは思わんか?」


「ん~……」


 サーシャはぱっと使い方が思い付かないようだ。でもね、ローベルトさんの使い方の方が応用なんだよ。アイスゴーレムを含めてゴーレム類の使い方の基本は、術者の補助をする事。戦闘だったり運搬だったりを手伝わせる為にゴーレムは使う。


 教えるのは簡単。でも、それは僕の役目じゃない。師匠であるローベルトさんやアキムさんの仕事だ。みんなそれを分かっているから、誰も口を挟んだりしない。


「じゃあ、先に行ってるね」


 僕は、よいしょ、よいしょと雪の入った箱を引っ張り始めた。スマラクト様も自分の箱を引っ張り、二人並んで広場へと向かう。


「サーシャは、さっきの問題、分かると思うか?」


 そう声を掛けてきたのはスマラクト様だ。雪の入った箱を、大して重くもなさそうに引っ張っている。ドラゴン族は力持ちの部族だからね。僕と同じ大きさの箱に入った雪くらい、軽々引っ張れるのだろう。羨ましい。


「どうだろうねぇ。考えるの、あんまり得意じゃないだろうしぃ……。勉強をサボりまくったせいで、魔術の基本のきの字も出来てないみたいだし……」


「基礎が固まっていない中で、応用的な使い方を見せられたら、そちらにばかり気が行ってしまうよなぁ……」


「うん。でも、まあ、その辺はローベルトさんとアキムさんが教えて――」


 話している途中、突然、僕の木箱が軽くなった。驚いて後ろを振り返る。すると、小さなアイスゴーレムが、僕の木箱をお尻で押しながら、四つん這いで後ろ向きに進んでいた。この不格好でちょっと不気味な動きのアイスゴーレムは……。


 見ると、少し後ろの方で、サーシャが得意げに手を振っていた。やっぱり、この変な動きのアイスゴーレムは、サーシャが作った物だったようだ。


「ん? どうした? お? サーシャ、使い方が分かったのか」


「みたい。でも、まさか、僕の手伝いをしてくれるなんてね」


「怪我人を思いやれる、優しい子なのだろう」


 うんうんと、スマラクト様が嬉しそうに笑いながら頷いている。その顔を見て、ちょっと意地悪したくなった。


「サーシャのそういうところ、好きなんだもんねぇ、スマラクト様」


「なっ! 何を! 言っている!」


 顔を真っ赤にするスマラクト様が面白い。前も思ったけど、本当に初心だよね、スマラクト様って。


「照れない、照れない。似た者同士でお似合いだと思うよ、僕」


「だから! 何を言っている!」


「えぇ~? サーシャの事、気に入ってるんでしょ? 大丈夫。僕、スマラクト様の味方だから!」


「だだ、誰が! その顔、やめろ!」


 やめろって言われても、ねぇ? スマラクト様をからかうの、面白いし? 勝手にニヤニヤしちゃうし? 難しい命令だ。


「スマラクト様さぁ、ゴーレム作るの得意なんだし、サーシャの木箱、ゴーレムで押してあげればぁ? きゃ~優しいって、サーシャの好感度が上がるかもよぉ?」


「だーかーらー! ニヤニヤするなと言っているだろう!」


「えぇ? 僕、元々こういう顔なんだけどぉ?」


「くそっ! 覚えていろッ!」


 スマラクト様は悪役の捨て台詞みたいな言葉を吐くと、魔力媒介を召喚した。そして、僕の助言通りにゴーレムを作る。あはは。素直ぉ~。


 そうして僕の木箱をサーシャのアイスゴーレムが押して手伝い、サーシャの木箱をスマラクト様のゴーレムが押して手伝い、雪運びを続ける事しばし。とうとう、雪山が目標の大きさに達した。思っていた以上に大きな雪山だ。僕が里でじいちゃんと住んでた家くらいはありそう!


「でっか~い!」


 サーシャがそう言うが早いか、雪山に駆け上った。そして、雪山を滑り降りてケラケラ笑う。楽しそうで何より、何より。


「後は、穴を掘るだけですが……」


 そう言ったヴィルヘルムさんの視線の先にはローベルトさん。今日、一番の功労者だ。彼は魔力を使い過ぎたのだろうか、力なく座り込んでいる。上級の術を何度も行使してたからね。そりゃ、ローベルトさんじゃなくても疲れるだろう。


「わしゃ、もう帰る……。おこたで昼寝するんじゃ……!」


「ああ。ローベルト、大義だった。ゆっくり休んでくれ」


 獣王様の労いの言葉に、ローベルトさんが片手を挙げるだけで答える。


「サーシャも、ローベルトと一緒に、一足先に帰っていなさい。我々も穴を掘り終わったら戻るから」


「えぇ~! あたい、もっと遊ぶ!」


「そろそろ、足先が冷えてきただろう? ローベルトと一緒に、こたつに入って温まっていなさい。終わったら、一緒に温泉に行こう」


「ん~!」


 不服そうにサーシャが唸る。でも、大丈夫だって言わないあたり、サーシャのつま先、キンキンに冷えているんだろう。たぶん、サーシャの頭の中は葛藤の真っ最中だ。寒い外でつま先の痛さを我慢して満足するまで遊び続けるか、温かいこたつでぬくぬく過ごし、みんなが帰って来たら温泉に行くか。


「坊ちゃまとアベルも先に帰っていて下さい」


 カインさんがそう言って、僕に目配せをする。これは……。僕が帰るって言えば、サーシャも付いて来るだろうから、帰っててって事だな。


「分かった。僕、つま先も手も痛いんだ。だから、帰ってこたつで温めたいなって思ってたの。スマラクト様もつま先痛いでしょ? 温めないとしもやけになっちゃうよ?」


「うむ。そうだな。しもやけになる前に、こたつで温めるとしよう」


「しもやけ……!」


 サーシャがそうだったとばかりに、自身の手を、続いて足を見る。しもやけは痛くてかゆいって、サーシャの記憶にしっかり刻まれているようだ。朝、しもやけの話をしていたのが、こんな所で役に立つとは。


「サーシャも。しもやけになる前に帰ろ?」


「分かった!」


 頷いたサーシャと手を繋ぐ。よしよし。説得する必要が無くて何よりだ。


「ほれ。お前さんも帰るぞ」


 立ち上がり、そう言ったローベルトさんの視線の先にはカインさん。みんなの視線が自然とカインさんに集まる。


「腕の傷、開きかけとるだろ。血の臭いがしておるぞ」


 な、何と! 驚いてローベルトさんを見る。冗談を言っている雰囲気は無い。本当に、彼にしか分からないくらいわずかに、血の臭いがしているんだろう。


「大丈夫ですよ、これくらい。痛みがある訳でもありませんし」


 誤魔化すように笑いながら、カインさんがそう口にする。とたん、ローベルトさんの眉間に皺が寄った。


「痛覚遮断のお蔭で、な。じゃが、薬師の立場から言わせてもらうと、そんな固有魔術、クソ食らえじゃ! 痛みっちゅーのはな、身体からの危険信号じゃ。それを無視するような無謀、儂は許さんぞ!」


「まあまあ、父上。あまりカッカすると身体に毒ですよ。カイン殿、ここは我々に任せて、一足先に休んでいて下さい」


 アキムさんがそう取り成してくれる。その言葉に、獣王様がうんうんと頷き、口を開く。


「戦時ならいざ知らず、今、この平和な時代に無理などするものではないぞ? ローベルトに傷の処置をしてもらって、祭りまでゆっくり休んでいると良い」


「しかし――」


 カインさんが何かを言い掛ける。でも、スマラクト様が手を挙げてそれを制した。


「じい。帰って傷の処置をしてもらうぞ。ローベルト殿、疲れているところ手数を掛けるが、宜しく頼む」


 スマラクト様の言葉に、ローベルトさんが目を細めて笑った。そして、口を開く。


「スマラクト坊は優しい主だのぉ。姫さんや、将来、婿にするのなら、こういう男にするんじゃぞ?」


「ばば、馬鹿な事を言わないでもらおう!」


「ありゃ。振られたな、姫さん……」


「振ってない!」


 もうね、スマラクト様ってば、見てて面白くなるくらい動揺してるんだけど。何を口走ってるかも分かって無さそうだ。しかも、サーシャはきょとんとしてるだけだし。片思いの一方通行って感じ?


 そんなやり取りの間に、カインさんがヴィルヘルムさんと二言三言、言葉を交わしていた。たぶん、この後お願いねって感じのやり取りだと思う。残る面子の中で、ヴィルヘルムさんだけがオーガ族だし。カインさんがやっていた指示出しは彼の役目になるんだろうから。


 そうして僕達は、お世話になっているお屋敷へと帰って来た。僕はスマラクト様、サーシャと共に、僕達が泊まっている部屋のこたつに当たる。


 ローベルトさんとカインさんは、獣王様達が泊まっている部屋で、カインさんの怪我の治療をしている。薬とか包帯とかはあっちの部屋にあるからね。


「温かいねぇ……」


 こたつでぬくぬくしていたら、サーシャは眠くなってしまったようだ。幸せそうな顔でそう言うと、ウトウトし始めた。かく言う僕も、ちょっと眠くなってきてしまった……。


「アベルもサーシャも、横になったらどうだ? ローベルト殿もこっちに来て昼寝するだろうし、今日はみんなで昼寝だ……」


 スマラクト様もちょっと眠いみたい。このぬくぬくで眠くならない人がいたら、その人はたぶん超人だ。僕はごろりと横になると、肩までこたつに潜り込んだ。そんな僕を真似るように、サーシャも横になってこたつに潜る。それを見届けたスマラクト様も横になった。


 遠くの方から人の気配が近付いて来た。たぶん、カインさんとローベルトさんだ。傷の処置、随分早く終わったんだな……。あんまり酷くなかったのかな……。そんな事を考えていたら、襖がスッと開いた。僕の予想通りの二人。


「こたつむりが三匹……」


 僕達の姿を見たカインさんが呆れたようにそう言った。こたつむり……。ああ。こたつとカタツムリを掛けてるのか……。確かに、こたつから頭だけ出すこの姿、ちょっとカタツムリみたいかもしれないな……。


「四匹じゃよ」


 そう言ったローベルトさんが、空いている席に腰を下ろすと、ごろりと横になった。これじゃ、カインさんが入る隙間が無いや……。僕は眠い目を擦りつつ起き上がり、端に寄ってカインさんが入るスペースを空ける。


「気を遣わせてすみませんね、アベル」


「ん~ん……」


 僕はフルフルと首を横に振ると、机に突っ伏した。この、机に触れているほっぺだけひんやりするのも気持ち良い……。そんな事を考えながらウトウトしていると、あっちの方からもこっちの方からも寝息が上がり始めた。そうして僕達は、束の間の休息を満喫したのだった。

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