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のけ者エルフのセレンディピティ  作者: ゆきんこ
第三章

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雪 3

 奥様に案内されてやって来たのは、お米を作る畑があった場所だった。でも、雪が積もった今、そこはただのだだっ広い広場と言っても差し支えない場所となっていた。そこに大人達も子ども達も集まって、何やら雪山をいくつも作っている。


「この山、何……?」


「かまくらというらしい。雪の簡易住居を作って、そこで飲み食いするのがこの里の冬の祭りだ!」


 そう教えてくれたのはスマラクト様だった。流石、何回もオーガ族のお祭りに来ているだけあって、良く知ってるなぁ。


「準備は今日と明日しかありませんから。早速、我々も始めましょう」


 そう言ったカインさんが、てきぱきと僕達に指示を飛ばす。まずはみんなで雪集め。木箱に紐を括りつけた物を引きずって、雪下ろしなるものが終わった家に向かう。


 道中、カインさんが雪下ろしについて説明してくれた。何でも、たくさん雪が降るこの里では、定期的に屋根に積もった雪を下ろさないと、雪の重さで家が潰れちゃうんだとか。


 生まれてこの方、僕はそんなにたくさんの雪が降る所に住んだことが無いから、雪下ろしをどんな風にやるのか、どれくらいの頻度でやるのかは分からない。でも、大変だろうなっていうのは、カインさんの話を聞いていて分かった。だって、雪下ろしがまだ終わってない家の屋根、僕の背丈くらいの雪が積もってるんだもん。どんなやり方をしたとしても、あれは重労働になる。


「丁度、あそこの家がやっていますね」


 カインさんが指差した先を見る。すると、屋根の上に数人の男の人が乗っていて、道具を使ってごそっと雪を取り、屋根の上から下へと、文字通り雪を下ろしていた。


「作業中の家には絶対に近づいてはいけませんよ。あの下ろしている雪に巻き込まれたら、最悪、死んでしまいますから」


「あれくらいじゃ死なないよ、きっと!」


 そう言ったサーシャに、カインさんが厳しい顔を向ける。


「上で作業している者達には、下の様子は見えていません。万が一巻き込まれたら、雪に埋まって窒息です。苦しいですよ、窒息死は。すぐに意識を失う訳じゃ無いですから、真っ暗な中、苦しんで苦しんで、死の恐怖が最高潮に達した時、やっと意識を失い――」


「じい、あまりサーシャを脅かすな。泣かれるぞ」


 スマラクト様の言葉にサーシャを見ると、彼女はちょっと涙目になっていた。想像したら怖かったようだ。僕もちょっと怖かった。


「作業中の家に近づかなければ安全ですから」


 ちょっとバツが悪そうにカインさんはそう付け足した。たぶん、スマラクト様を脅かす要領で話してしまったんだろう。年齢差とか性差とか、あんまり考えて無かったんだろうな。


「……お。サーシャ。あそこにいるのはアキムではないか? ほら。あの屋根の上」


 獣王様が指差した先、雪下ろし中の屋根の上に視線をやる。でも、何人も人がいるから、どの人がアキムさんなのか、僕には全く分からない。


「本当だ! アキムー!」


 サーシャがピョンピョン飛び跳ねながら、屋根の上に向かって両手を大きく振る。すると、それに片手を挙げて答える人が。ほうほう。あの人がアキムさんか。


 アキムさんの歳の頃は獣王様に近い。獣王様と同じように、がっちりした骨太の体形に、獣王様やサーシャと同じ黄土色のくせ毛の男の人だ。この距離じゃ、顔がはっきり見える訳じゃ無いけど、雰囲気は獣王様に似ていると思う。


 ああ。だからか。サーシャが懐いている感じがするの。サーシャが好きなタイプの人を自分で選んだんだね。まあ、それでサーシャがちゃんと勉強するなら、誰も反対する人なんていなかっただろう。元師匠以外は、だけど。


「あ。ヴィルヘルムもいるぞ、アベル」


「え? あ。本当だ!」


「あのね、ヴィルヘルム兄ちゃんがね、手伝いに出る時にあたい達、着いたの。でね、アキムがね、手伝うよって一緒に行ったんだよ!」


「休憩もせずに、か。働き者なんだな」


 そう言ったスマラクト様に、サーシャが笑顔で頷く。


「そうなんだよ。すご~く働き者なの! あのね、アキムね、身体動かすのが好きなんだって。でもね、おしゃべりするのは苦手でね、そういうのはローベルトじいの仕事なんだって!」


「やはり、座学と実技で役割分担をしていたのか」


「そう! ローベルトじいはね、お話が上手なんだけどね、外で遊ぶのは大嫌いなんだって。だからね、ローベルトじいと遊ぶ時は、ボードゲームするの。あ! あとね、この前はね、一緒にゴーレムでも遊んだんだよ! アキムと遊ぶ時はね、お外でいっぱい身体動かすの!」


「そうか。楽しそうで何よりだ」


「うん!」


 満面の笑みで頷いたサーシャの頭を、スマラクト様がグシャグシャと撫でる。


「良い師に巡り合えたようで安心したぞ!」


「うん。でもぉ……」


 ほんの少しサーシャの表情が曇る。師匠が変わって多少環境が良くなっても、楽しい事ばかりじゃないんだろうな。


「あたいの事、遊ばせてばっかりだって、陰でみんな言ってるんだよ。あたい、前よりはちゃんと勉強してるのに……! アキムとローベルトじいの言う事はちゃんと聞いてるし、使える魔術だって少しずつ増えてるのに……!」


「サーシャ。僕が助言してやろう。面と向かって意見を言えないような者達の戯言に耳を傾ける必要は無い。そういう者達は、ただ単に粗を探して文句を言いたいだけなのだから」


「うん……」


「ところで、ボードゲームとは、具体的にどういうのをやっているのだ?」


「ん? ん~……。最初はね、さいころ振って出た数だけ駒を進める簡単なゲームやってたんだ。でもね、それしか出来ないの、つまんないってローベルトじいが言ってね。それでね、色んなゲーム教えてくれてね、最近は白と黒の駒使って、相手の王様を追い詰めるゲームとかしてるの」


「ほう……。そのゲームなら、僕もよくやるぞ。今夜にでも一緒にやろうではないか!」


「え~。あたい、アベルと遊びたい!」


 サーシャ……。せっかくスマラクト様が遊びに誘ってくれてるのに……。こんな断り方して……。ほら。スマラクト様が落ち込んじゃってるじゃん。


「サーシャ。せっかくたくさん人がいるんだから、みんなで遊ぼう? カードゲームとか、大人数でやったら楽しいと思うよ?」


「えぇ~! アベルと遊ぶ!」


 懐いてくれるのは嬉しいんだけど、あんまり懐かれすぎるのは……。どうせ懐くなら、スマラクト様にして欲しいんだけど……。王族同士なんだし。


「一緒に遊ぶよ? ほら、みんなで遊べば一緒に遊んだ事に――」


「ならないッ!」


 ならないんだ……。参った……。助けを求めるようにカインさんを見る。けど、彼は苦笑しながら首を横に振るだけだった。一緒に遊ぶって言わない限り、サーシャのご機嫌はどんどん下降するんだろうなぁ……。困った……。どうしたら納得してくれるのか……。う~ん……。懸命にサーシャを納得させる言葉を探していると、獣王様が口を開いた。


「サーシャ。あまり我が侭を言ってはならぬぞ? アベル嬢はスマラクト殿の従者なのだから。サーシャの従者ではないのだぞ?」


「アベルはあたいの友達だもんッ!」


「友と主なら、主を優先するのが従者だ。諦めるんだ、サーシャ」


「嫌だ! アベルと遊ぶのッ!」


「何も一緒に遊ばないと言っている訳ではないだろう? 皆で遊ぼうと言われていたではないか」


「嫌!」


「サーシャにはローベルトもアキムもいるではないか」


「でも、ローベルトはおじいちゃんだし、アキムはおじさんだもん! アベルと遊びたいぃぃ~!」


 ああ……。泣いちゃった……。そんなサーシャを、獣王様がよいしょと抱き上げる。


 たぶん、あれだ。サーシャは同年代で同性の遊び相手が欲しいんだろう。気持ちは分かる。大人相手に遊んでいると、見守られている感が強いもんね。楽しくない訳じゃ無いけど、せっかくなら同年代と遊びたいよね。


「ねえ、サーシャ? せめて三人で遊ぼうよ? 僕とサーシャが二人で遊んでたら、スマラクト様が独りぼっちになっちゃうよ? そういうの、仲間外れみたいで良くないと思う」


「アベルと遊ぶぅ~!」


「分かった。でも、二人だけじゃなくて、スマラクト様も一緒。それで良い?」


「遊ぶのぉ~!」


「三人でね!」


 獣王様の腕の中でおいおい泣くサーシャにずいっと詰め寄る。すると、サーシャは泣きながらもこくりと小さく頷いた。どうやら納得してくれたようだ。これで一件落着!


「じゃあ、お祭りの準備しよう!」


 そうして僕が先頭に立ち、雪下ろしが終わった家に向かった。何で僕がこんなにお祭りの準備を張り切っているかと言うと、大手を振って雪遊びが出来るからだ。僕が住んでいる地域はあまり雪が降らないし、たとえ雪が降っても、里にいる間は仕事があって、雪で遊ぶなんて出来なかった。だから、これは生まれて初めての雪遊びなんだ!


 雪下ろしが終わった家に着くと、引きずって来た木箱に入れてあったスコップで、屋根から下ろしたのだろう雪をすくって木箱に入れていく。う~。雪のこの感触! 楽しい!


「あまり入れすぎると、引きずれなくなりますからね。最初は控えめに」


「は~い!」


 カインさんの言葉に笑顔で頷き、サックサックと雪をすくっては木箱に入れていく。そうして少しすると、木箱にこんもり雪の山が出来上がった。


「これくらいかなぁ?」


「引きずれそうですか?」


 カインさんにそう尋ねられ、僕は試しに木箱の紐を引いてみた。地面にも当たり前に雪が積もっているから、僕の予想以上に木箱は軽く動いた。おお。楽しい!


「片手で引っ張れるのなら大丈夫そうですね。では、祭り会場に戻りましょう」


 そうしてみんなで雪の入った木箱を引きずってお祭り会場に戻る。そして、木箱の雪を地面にあけ、また雪を集めに行く。


 いったい、何往復しただろう。途中、雪下ろし作業を交代してもらったアキムさんとヴィルヘルムさんも合流して人数が増えたにも関わらず、雪山はなかなか大きくならなかった。僕達四人とサーシャ達四人、そして、ヴィルヘルムさんが使うかまくらを作るから、計九人が入れる大きさが無いといけないのに……。あ。でも、師匠はまた族長さんの所に行くかな? それでも八人……。大きさが全然足りない。


「難しい顔をしてどうしました?」


 雪山を見つめる僕に、カインさんがそう尋ねる。僕は視線を雪山からカインさんへと移した。


「これ、祭りまでに間に合うかなって……」


「心配しないでも、順調に進んでいますよ。それより、アベルも遊んで来ては?」


 僕もというのは、スマラクト様もサーシャも、作業をサボって遊んでいるからだ。二人は今、雪玉を楽しげにぶつけ合っている。


「でも……」


「これだけ大人がいますから。それに、ほら。里の子らも遊び始めていますよ」


 カインさんの言葉にぐるりと辺りを見回す。すると、真面目に作業をしているのは大人だけになっていた。子ども達は、大人達が作っている雪山を滑り下りたり、祭り会場の中央のぽっかり空いた空間を目一杯使って雪玉をぶつけ合っていたリ。雪のモニュメントっぽいのを作っている子達もいる。


「えぇ……。お祭りの準備は……?」


「子どもは大抵、最初だけ手伝って、あとはずっと遊んでいますよ」


「そんなで良いの……?」


「良いんですよ、楽しければ。祭りは楽しむものですから。ほら。アベルも行って来なさい?」


「う、うん……」


 カインさんに促され、僕は雪玉をぶつけ合って遊んでいるスマラクト様とサーシャの元へと向かった。

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