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のけ者エルフのセレンディピティ  作者: ゆきんこ
第三章

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雪 2

 僕達が住んでいる地域は、気温が低い割に雪が少ない。空気中の水分が凍る細氷は毎朝のように舞うけど、まとまった雪はほとんど降らない。だから、こんな大量の雪を見るのは生まれて初めてで――。


「雪だぁ!」


 僕は思わず叫んでしまった。地面にはフカフカの新雪! 道の脇には雪の壁! 興奮しない方がおかしいと思う。


「雪ー!」


 僕は誰も踏んでいない新雪の中をずんずんと歩いて行った。雪を踏みしめる独特の感触! 楽しい!


「おいおい。今回は転移酔いしてねえのか?」


 心配する師匠の言葉を半ば聞き流し、ずんずん、ずんずんと進んで行く。


「あれだけ元気なら大丈夫なのでしょう」


「なら良いんだけどよぉ」


「僕達も行こう、じい、グリンマー。このままではアベルに置いて行かれる」


「ええ」


「だな」


 後ろで何やら話している男性陣をそっちのけで、僕はずんずんと雪の中を進んで行った。そうして辿り着いたのは、前回のお祭り同様、族長さんの息子さんの家。今回もここの家にお世話になるんだって予め聞いてあったから、道案内は不要! まあ、みんな、すぐ後ろから付いて来てはいるんだけどね。


「こんにちはー!」


 玄関扉を開けて元気よく挨拶をして少しして、奥の方から奥様と、この家の使用人さんをやっている男の子が姿を現した。


「遠いところ、よくいらして下さいました。さ、どうぞ。おこたに当たって、温かいお茶でもお飲みください」


 ニコニコと笑う奥様は、今日も素敵なオーガ族の伝統衣装に身を包んでいた。でも、前回と一つ違うのは、何やら上着を着ているところ。やけに厚みのある上着だけど……。中に綿でも入ってるの? 使用人の男の子も着てるけど……。あの上着、冬の伝統衣装なのだろうか?


「今回は良い物を用意してあるんです。後程、お部屋にお持ちしますね」


 奥様はうふふと笑うと、使用人の男の子に僕達をお部屋に案内するように命じ、奥に戻って行った。たぶん、良い物とやらを取りに行ったのだろう。


 案内されたお部屋は、以前泊まったのと同じお部屋だった。これなら、おトイレとか食事とかで部屋を出ても迷わないね、うん。そう思いながら部屋に入る。すると、そこには見慣れない物が。


「何、これ……」


 ローテーブルがお布団被ってる……。いや、正しくは、ローテーブルの天板と脚の間にお布団が挟まっている。


「こたつだぁ!」


 叫んだスマラクト様が飛びつくようにローテーブルの前にある脚の無い椅子に座った。ローテーブルに布団が被さっているとそんなに嬉しいの? 何で?


「アベルも早く入れ! 暖かいぞ!」


「う、うん……」


 ご機嫌のスマラクト様に促され、僕もスマラクト様の隣に腰を下ろし、布団の中に足を入れてみた。な、何だ、これ!


「あったかぁ~い!」


「そうだろう、そうだろう」


 得意げに頷くスマラクト様。そんな彼を横目に、僕は冷え切った手をこたつの中に突っ込んだ。う~。手がジンジンするぅ!


「アベルもこたつが気に入ったようで何よりです」


 そう言って、カインさんもこたつに入る。もちろん、師匠も。この部屋、暖炉が無いから、こたつの中以外は寒いもんね。でも、思うに、これじゃこたつから出られなくなりそう。でも、ぬくぬくだから何でも良いや。はぁ~。暖か~い。幸せぇ。


「失礼致します」


 こたつでぬくぬく寛いでいると、ふすまの向こうから奥様の声が聞こえた。カインさんが返事をするとふすまが開き、その先には大きな包みを手にした奥様が。そして、意外と言えば意外だし、意外じゃないと言えば意外じゃない人達が。


「サーシャ。それに、獣王。もう着いていたのか」


「うむ。つい先ほどな」


 スマラクト様の言葉に獣王様が頷き、部屋に入る。サーシャと奥様もその後に続いた。僕達は奥に詰めるように座り直し、こたつに獣王様とサーシャが入れるようにする。


「見て! これ、暖かいの!」


 上機嫌にそう言ったサーシャは、オーガ族の伝統衣装だろう上着を着ていた。奥様も着ている綿入りっぽい上着だ。見ると、獣王様も黄土色の上着を着ている。


「可愛らしいですね、その花柄の赤い袢纏」


 カインさんの言葉に、サーシャがはにかみながら頷く。あの伝統衣装らしき上着は袢纏というらしい。それよりも。オーガ族には小さな女の子はいないはず。小さいサーシャが着られる花柄の赤い袢纏って……。男の子がそんなのを持っているはずもないし、サーシャの為にわざわざ準備してくれたのだろうか?


「気に入って下さって良かったわ。アベルさんにもあるのよ」


 嬉しそうに笑った奥様が、持って来て傍らに置いてあった大きな包みを開く。そこには、男物らしき渋い色の袢纏と、サーシャのとは色違いの、花柄の桃色の袢纏が入っていた。


「この間は、女の子がいると聞いていなかったので伝統衣装を準備しておりませんでしたけれど、今回はちゃ~んと準備しておきましたからね」


 そう言った奥様が桃色の袢纏を僕に手渡してくれる。僕の為にわざわざ準備してくれたの? もらって良いの? そう思ってカインさんを見ると、彼は薄く笑いながら頷いていた。もらっても良いらしい。


「あ、ありがとう、ございます……」


「着てみてちょうだい?」


 僕は受け取った袢纏に、おずおずと袖を通した。袖も襟ぐりもゆったりしているのは、オーガ族の伝統衣装の特徴だ。秋のお祭りの時に着せてもらった伝統衣装もそうだった。


「思った通り、その色、よく似合ってるわ!」


 そう言った奥様が嬉しそうに笑う。もしかしたら、この袢纏の生地は、奥様が見立ててくれたのかもしれない。僕やサーシャの為に。


「暖かいでしょ、アベル!」


「うん。暖かい!」


 サーシャと二人、うふふと笑い合う。やっぱり、女の子らしい服を着られるというのは嬉しいものだ。しかも、似合うって褒められたし!


「さあ、皆様もどうぞ。お寒いでしょう?」


 奥様がそう言って、一人一人に袢纏を手渡していく。スマラクト様は髪色に合わせたのだろうグリーンの袢纏で、カインさんは濃い紫の袢纏、師匠はこげ茶の袢纏だった。


「これね、寝る時以外、ずっと着てて良いんだって!」


 サーシャの言葉に、僕は首を傾げた。ずっとって、ずっと……?


「寝る時以外って、外に行く時も? これ着て行っちゃって良いの?」


「大丈夫ですよ。袢纏は、ガウンでもあり、コートでもあるんです。ただ、濡れてしまうと乾くのに時間が掛かりますから、この後、お祭りの準備に参加される時には置いて行って下さいね」


 そう教えてくれたのは奥様だった。僕はそれにほうほうと頷く。この里、こたつの中以外、寒いもんね。各部屋に暖炉がある訳でもないし、室内でも防寒具を着るのが当たり前なんだろう。


「ところで、サーシャ。今日は新しい師と一緒じゃないのか? 息子の方は護衛も兼ねていると聞いていたから、てっきり、一緒に来ると思っていたのだが……」


「一緒に来てるよ。ローベルトじいはこたつが気に入っちゃって出たがらなくてね、部屋に置いて来たの。それでね、アキムは一足先にお祭りの準備、手伝ってるんだよ!」


「む。そうだったのか。そうと分かれば、我々もゆっくりはしていられぬな。こたつから出るのは辛いが、行こうか」


 スマラクト様の号令で、みんなのそのそとこたつから出る。う~……。もう少し暖まってたかったよぉ……。こたつって、入っている時は良いけど、出る時が辛い……。

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