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のけ者エルフのセレンディピティ  作者: ゆきんこ
第二章

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祭り 4

 手の中の立派な柿に目を落とす。綺麗なオレンジ色をしていて、ツヤツヤしていて、何だか甘い匂いがしていて。美味しそうなんだけどなぁ……。


「これ、そのまま食べたらどうなるの?」


「口が曲がります」


「く、口が曲がる……?」


 どういう事? ヴィルヘルムさんの言わんとしている事が分からない。だから、僕は首を傾げた。


「それだけ渋いって事だ」


 そう答えたのは師匠だ。僕達が持つ柿を、苦笑いをして見ている。もしかしたら、師匠はこの柿を食べた事があるのかもしれない。この、口が曲がるという渋い柿を。あの顔、絶対食べた事があるな!


「甘柿は族長の家にありますから。カイン殿と獣王様がもらいに行って下さっています。その柿は、庭の隅にでも捨てて、彼らの帰りを待っ――」


「あたい、この柿が食べたい!」


 ヴィルヘルムさんの言葉を遮り、サーシャが叫ぶ。自分で取った柿だもんね。気持ちは分かる。でも、これ、食べられない柿なんだよ、サーシャ……。


「加工というのは、ジャムか何かにするのか?」


 そう言ったのはスマラクト様。彼も食べられるなら、自分が取った柿を食べたいようだ。ジッと手に持つ柿を見つめている。


「いえ。里では、干して保存食にします。干す事で渋みが抜けるので、冬場の女子どもの甘味ですね」


 保存食……。じーちゃんへの仕送りに丁度良い気がする……。僕も手の中の柿に視線を落とした。


「ふむ……。では、捨てるのも勿体ないし、その保存食を作ろうではないか!」


 スマラクト様が高らかとそう宣言した。賛成とばかりに、僕もサーシャも笑顔で頷く。この柿、じーちゃんに送ってあげるんだぁ! じーちゃん、甘い物、好きだから。


「子どもってのは、本当に好奇心旺盛だなぁ……。ヴィルヘルムよぉ、この三人でも作れんのか、その保存食ってのは」


「難しくはないですが……」


「何だ?」


「皮剥きが必要です」


 師匠の言葉にそう答えたヴィルヘルムさんの視線の先にはサーシャ。あの子には刃物を持たせられないって言いたげな目をしている。


「じゃあ、サーシャの分は僕が剥いてあげるね!」


「うん!」


「あと、スマラクト様の領地は寒冷地ですから問題無いのですが、サーシャ様のお国は……。気温が高すぎて、干しあがる前に腐ると思います」


 な、何と……。サーシャの国では保存食を作れないようだ。ど、どうしよう……。サーシャの目がウルウルしてるんだけど……。


「皆で集まってどうしました?」


 突如掛けられた声に驚いて振り返る。そこにはカインさんと獣王様が。二人は紙袋を抱えるように持っている。中身はたぶん、族長さんの家でもらった甘柿だろう。みんなでお腹一杯食べても食べきれないくらいもらって来てくれたようだ。


「とーちゃぁぁぁん!」


 ああ……。サーシャが泣いちゃった……。彼女は獣王様に駆け寄ると、そのお腹の辺りにひしと抱き付いた。


「あたいも寒いとこ住むぅぅ!」


「ど、どうした? 何があった?」


「それが、だな……」


 スマラクト様が事の経緯を獣王様に説明する。獣王様は困ったように、カインさんは微笑ましそうにそれを聞いていた。


「で、だ。うちの領地で干して、出来上がったら送ってやると言う前に泣いてしまって……」


「折角ですし、一人一つだなんてしみったれた事を言わず、この木の柿を全て干してしまわれてはいかがです? 干し場所はそこの軒先でも借りて。この家では奥方くらいしか干し柿を召し上がらないでしょうから、食べきれない量を分けてもらえますよ、きっと」


 そう言ったのはカインさん。たくさん作ればたくさん分けてもらえるのも分かるんだけど……。でも……。


「勝手にそんな事して良いの? 怒られたりしない?」


 おずおずとそう口にする。すると、カインさんが苦笑した。


「怒られたりはしませんよ。どちらにしても、誰かが干さないといけないものですし。ただ、どうしても気になるのなら、私が許可をもらいに行って来ましょう。たくさん分けてもらえるように、交渉もしてきますよ」


「うむ。じい、行って来てくれ」


「かしこまりました」


 スマラクト様に深々と頭を下げたカインさんが踵を返す。獣王様も踵を返し、カインさんを追った。可愛い娘の為に、頭を下げる気満々って感じ。あの二人に任せておけば、許可は絶対に下りるだろう。と言うより、断れる人はいないと思う。


「では、我々は干し柿作りを一足先に始めましょうか。スマラクト様とサーシャ様と私は柿を取る係、グリンマー殿とアベル嬢は皮を剥く係りとしましょう。道具を持って参りますので、ここで少々お待ちを」


 ヴィルヘルムさんがそう言って、お屋敷の方に足を向ける。彼もやる気満々だ。もしかして、干し柿、好きなのかな?


 少しして、ヴィルヘルムさんが戻って来た。色んな道具が入った箱を抱えて。箱の中にははさみや紐、皮剥き用なのだろうナイフも入っている。


「取った柿は、水で洗って皮を剥きます。そこの井戸に桶がありますので、それを使って下さい」


「は~い!」


「あと、これを。取り扱いには十分注意して下さい」


 そう言ったヴィルヘルムさんがナイフを僕に手渡してくれる。けど、心配だなって彼の顔に書いてあった。ま。僕の歳じゃ、やっとこさナイフを扱えるくらいが普通だもんね。でも、僕は違うんだな。だから、僕はヴィルヘルムさんにニッと笑って見せた。


「心配しないでも、僕、こういうの慣れてるよ。ボーゲンさん――スマラクト様のお屋敷の料理長さんにも上手だって褒められたんだから! 手の皮まで剥いちゃったりしないから、安心してて良いよ!」


「そうでしたか。それは失礼しました」


 ヴィルヘルムさんの言葉に、僕はフルフルと首を横に振った。僕としては、心配されて悪い気はしないんだ。だって、誰からも顧みられないよりはずっと良いもん!


「じゃあ、師匠! まずは水汲みからだよ!」


 タタタッと井戸に掛けて行き、ヴィルヘルムさんが言っていた桶を確認する。桶は二つ置いてあった。大きい方の桶に水を張って、そこに取った柿を入れて洗おう。それで、皮を剥いた柿は小さい方の桶に入れていけば良いだろう。


「力仕事は師匠の仕事だからね! 水汲み、頑張って!」


「おうおう……。お前ぇよぉ、師匠使いがちょっと荒くねえか?」


「そう? じゃあ、ヴィルヘルムさんと交代する? サーシャの面倒見るの、大変だと思うけど?」


 そう言ってヴィルヘルムさん達の方へ視線をやる。ヴィルヘルムさんはサーシャを抱っこして、一番下の枝に届くように持ち上げていた。サーシャは嬉々として柿取りをしている。サーシャは楽しいだろう。けど、持ち上げるヴィルヘルムさんは、いくら子どもと言っても人を一人、しかも、落ち着きなく動き回るような子を持ち上げているんだから、大変なのは容易に想像出来る。


 師匠はヴィルヘルムさんよりずっと背が低い。だって、ドワーフ族だから。師匠がサーシャをあの高さまで上げるには、肩の上に立ってもらわないとだろう。それで、お互いに背伸びをしてやっと届くって感じ。曲芸師もビックリな体勢だ。


「……いや。俺はこっちが良い」


「でしょ? じゃあ、水汲み!」


「おう……」


 師匠が肩を落として水汲みを始める。そうして大きな桶に水を入れると、それを待っていたとばかりに、サーシャが柿の実を両手で抱えて駆けて来た。


「見て! アベル! たくさん取ったよ!」


「うん。じゃあ、この水の中に入れてね」


「分かった!」


 頷いたサーシャが水の中に柿の実を落とす。もちろん、しゃがんだりせずに、だ。ドボン、ドボンと良い音を立てて水に柿の実が落ちる。


「冷たっ! サーシャ! 水に入れる時は、しゃがんで静かに入れるの!」


「えへへ。次からは静かに入れるねー!」


 悪びれもせずに笑ったサーシャが柿の木に駆け戻って行く。そして、再びヴィルヘルムさんに抱っこしてもらって柿の実を取り始めた。


「んもぉ……。これだからお子様は……」


「大丈夫か、アベル」


「うん。まあ、慣れてると言えば慣れてるし……」


 顔に跳ねた水を袖で拭きつつ答える。水なら、里で泥団子をぶつけられた時よりはマシだ。乾いたら綺麗だし。泥団子なんて、冷たい上に、乾いても汚いんだから。


「見ろ! アベル! たくさん取ったぞ!」


 どこかで聞いたような台詞を吐き、今度はスマラクト様が駆けて来た。人型に戻るのが面倒だったのか、竜化した姿のまま、両手で柿を抱えている。高い所は空を飛べるスマラクト様、低い所はサーシャで手分けをしているようだ。


「じゃあ、この水の中に入れてね」


「うむ!」


 頷いたスマラクト様が抱えていた柿を水に落とす。もちろん、彼もしゃがんでいない。


「冷たっ!」


 またか! 何でしゃがんで静かに入れないのさ!


「スマラクト様! 水に入れる時は、しゃがんで静かに入れるの!」


「そうか。次からは静かに入れるとしよう!」


 悪びれずにそう言ったスマラクト様も、柿の木に駆け戻って行く。


「んもぉ……。二人とも、何で静かに入れないのさ……」


「そりゃ、見てれば分かんだろ。傍若無人でがさつだからだよ。それによ、気遣いってのは、他者との関わりで学ぶもんだ。あの二人には、今までその機会が無かったんだ。まあ、諦めろ」


 うぅ……。それにしたってぇ……。ちょっと考えたら、水が跳ねるって分かるじゃん……。近くにいる人に水が掛かるって分かるじゃん……。


「ほら。しょぼくれてないで皮剥きするぞ。あの二人、こっちの都合なんてお構い無しに取って来るだろうからな。桶がすぐにいっぱいになっちまうぞ」


「うん。そうだね……」


 今度は僕が肩を落とす番。小さく溜め息を吐き、柿の実を一つ手に取る。そして、皮を剥き始めた。でも、師匠の予想通り、こっちの都合なんてお構い無しにスマラクト様とサーシャが柿を持って来るものだから、あっという間に水の入った桶は一杯になってしまった。帰って来たカインさんと獣王様も皮剥きに加わって、やっと桶の中の柿が減っていく。


 そうして剥き終わった柿を、今度は室内に運び入れ、囲炉裏で沸かしたお湯にくぐらせて紐で括っていく。甘い匂い。剥いている最中も思ったけど、柿の匂いって食欲をそそるね。こんなに美味しそうな匂いがするのに、そのままじゃ食べられないなんて。不思議だ。


「ぐぇ……」


「うぇ……」


 突如、変なうめき声が聞こえた。見ると、スマラクト様とサーシャが柿を片手に顔を顰めている。それぞれ手に持っている柿には、綺麗に歯形が付いていた。そのままじゃ食べれないって言われていたのに齧ったようだ。


「坊ちゃま。この柿は、そのままでは食べられないと聞いていたのではありませんか? 何故、そういう物を齧ってしまわれるのですか……」


 呆れたようにそう言ったのはカインさん。僕も同意。うんうんと頷いておく。


「サーシャが食べてみようって言ったから……」


「坊ちゃまの方が年長者なのですから、一緒になって齧ってないで、そこは止めましょうよ……」


 カインさん、たぶん、それは無理だと思うよ。だって、スマラクト様とサーシャって、何気に似た者同士だもん。変に好奇心旺盛なところとか、押しが強いところとか。行動も似てるし、思考自体が似てるんだと思うよ。


 スマラクト様が興味あるものはサーシャも興味があるし、サーシャが興味あるものはスマラクト様も興味があるんだよ。サーシャが食べてみようって誘ってなかったら、スマラクト様が誘ってたと思うよ。


 まあ、それだけ気が合うという事で。王族同士、気が合う事は悪い事じゃないよ。たぶん……。

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