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のけ者エルフのセレンディピティ  作者: ゆきんこ
第二章

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祭り 3

 みんなで大広間に移動して、昼食に舌鼓。大広間には、僕達と、サーシャと獣王様親子、そして、カインさんの遠い親戚だというおじさん――じゃなかった、お兄さんが一人。名をヴィルヘルムさんというらしい。七人が囲炉裏とかいう、室内で焚火をする為の場所を囲むように円座になって食事をする。


 今回、このお屋敷でお世話になるお客さんはこの七人だけらしい。他のお客さん達は、族長さんの家だったり、族長さんの弟さんの家だったりにお世話になってるんだって。たくさんのお客さんをもてなすのは大変だから、毎回こうして分散させているって、カインさんが教えてくれた。


 僕達を出迎えてくれた奥様や、このお屋敷の主だというオーガ族の族長さんの息子さんの姿は見えない。別室で食事を摂っているのか、お祭りの準備で忙しいのか……。たぶん、後者だな。うん。給仕の人も配膳が終わったらいなくなったくらいだし。


 昼食は、米なる穀物が主食で、結構量があった。でも、あっさりした味付けの物が多いから、胃に重くはない。茹でた菜っ葉を食べ、焼き魚を食べ、スープを飲み終え、いざ! 米を一口、口にする。うむむ……。


「味が無い……」


 美味しいって聞いてたのに……。こんなに味が無いなんて……。ちょっとガッカリ……。


「米はおかずと一緒に食べるのですよ」


 そう言ったのは、この食事に一番慣れているだろうカインさん。おかずを一口食べては米を一口。ほうほう。ああやって食べるものなのか。でも、僕、おかず全部食べちゃったよ……。もっと早く教えて欲しかった……。


「父ちゃん……。これ、あげる……」


 そう言ったのは、一緒に食事をしていたサーシャだ。彼女もおかずだけ先に食べてしまって、米が進まないらしい。ほとんど手つかずの米を、獣王様に渡そうとしている。


「ちゃんと食べないと大きくなれないぞ?」


「でも、味しないんだもん、これ。もっと味がするの食べたいッ!」


「そうは言ってもなぁ……。これがここの普通の食事だからなぁ」


 僕もサーシャの意見に賛成! もっと味がするなら、米だけで食べられるのに!


「塩でも振ってみますか?」


 そう言ったのは、黙々と食事を進めていたヴィルヘルムさんだ。正直、このヴィルヘルムさん、あまり愛想は良くない。口数が少ないし、表情もあまり変わらないから。言ってみたら、バルトさんみたいなタイプだ。けど、彼はバルトさんとは違って、周りの人をよく見ているらしい。


「塩振ったら美味しい?」


 僕がそう尋ねると、ヴィルヘルムさんの視線が僕に移った。そして、静かに頷く。そうか。塩を振ったら美味しいのか。じゃあ、試しに、と。置いてあった塩のお皿に手を伸ばし、塩を一つまみ米に振りかけて、と。改めて米を口に運ぶ。


「あ。本当だ。これなら食べられる!」


 お塩の塩気で、米の甘みが引き立った! 米をもしゃもしゃと食べ始めた僕を見て、サーシャも米に塩を振りかけて食べ始める。


「この食事は、バランス良く食べられて一人前なんだぞ!」


 そう言ったスマラクト様を見る。彼の食事は残り三分の一くらい。米もおかずもバランス良く減っている。むむむ! 何だか悔しい!


「アベルもサーシャ様も、この里で初めての食事だったのですから。あまり意地悪を言うと嫌われますよ、坊ちゃま。それに、箸ではなくスプーンを使っている時点で半人前です」


 カインさんがスマラクト様を嗜めてくれる。この里の出身のカインさんもヴィルヘルムさんも、箸なる二本の細い棒を使って器用に食事をしているけれど、それが出来ているのはこの二人だけ。他はみんな、スプーンを使っている。


 箸なる棒は、水妖王様の国ではスプーンやフォークの代わりに使う物らしい。その影響を受けて、この里でも箸で食事をするのが一般的らしいんだけど、使い慣れていないとかなり難しい代物だ。


 お嫁に来て間もない女の人だったり、僕達のようなお客さんだったりは箸でなんか食事が出来ないから、スプーンがどこの家庭にも置いてあるらしいんだけど……。箸、僕も使えるようになりたいな。だって、何だか凄く器用そうに見えるんだもん!


「俺はよぉ、米より酒が飲みてぇ……」


 そう言ったのは師匠だ。不服そうな顔で、もそもそと食事を進めている。


「祭りは夜からです」


「でもよぉ……」


「祭りが始まれば嫌というほど飲めますから。我慢なさい」


「へいへい……」


 そうして他愛ない話をしながら食事を終え、僕とスマラクト様、サーシャの三人は外に遊びに出掛けた。でも、外とは言っても、お世話になっている家の敷地の中だ。


 何でも、夜の祭りでは、僕達もオーガ族の伝統衣装を着せてもらえるんだとか。その準備があるから、おやつまでしか遊べない。だから、遠出をするのは止めて、近場で遊ぶ事になった。


 庭の中を三人でウロウロする。探しているのは柿の木。どこの家にも一本くらいは植わっている程、この里ではメジャーな木なんだとか。だから、今日のおやつの調達をしようと、三人で探しに出た。でも、僕もサーシャも柿を知らない訳で。柿を見た事があるスマラクト様頼りなんだけど……。


「ねえ、スマラクトー! 柿は~? どこー?」


「う~む……」


 サーシャの言葉に唸ったスマラクト様がキョロキョロしながら歩みを進める。敷地が広いせいで、柿の木、なかなか見つからないんだよね。


「あ! あったぞ! あの木だ!」


 スマラクト様がそう言って指差した先には、枝いっぱいにオレンジ色の実を付けた一本の木が。おお。あれが柿かぁ!


 それにしても、でっかい木だ。一番下の枝で、僕が背伸びして、一生懸命手を伸ばしても届かない位置にある。登って取るか、魔術で空を飛んで取るか……。魔力媒介は一応、持ってはいるけど……。ちらりとスマラクト様を見る。彼も難しい顔で柿の木を見上げていた。


「じいを呼んで来るべきか、空を飛んで取るべきか……」


「あたい、木、登れるよ!」


「あ! 待て!」


 スマラクト様の制止を聞かず、サーシャがタタタッと木に登る。部分獣化した手と足の爪は、木登りするには打ってつけだろう。現に、一瞬で木のてっぺん近くまで登ってしまった。


「サーシャ! 危ないから降りて来い! この木は柔らかいから登っては駄目なんだ!」


 え? そうなの? それは知らなかった!


「サーシャ! すぐに降りてぇ!」


 僕もスマラクト様と一緒に叫ぶ。すると、サーシャは不思議そうな顔で僕達を、続いて木の幹を見る。


「降りるって……? どうやって……?」


 な、何と! サーシャってば、降りられないのに登ったの? 後先考えないにも程があるよ!


「登る時と同じだ! 爪を幹に突き立てて――」


「分かんないー! 降りらんないよー!」


「大丈夫だ! 降りられる!」


「降りらんないー!」


「ゆっくりで良いんだ!」


「降りらんなくなっちゃったよー! とーちゃぁぁぁん!」


 スマラクト様が一生懸命励ますも、サーシャはとうとう泣いてしまった。あんな風に泣いてたら、ますます降りられないだろうに……。はぁ……。


「僕が迎えに行って来るよ」


 魔術でサーシャの元まで飛んで、抱えて降りて来れば良いだけだ。幸い、魔力媒介は持ってるし、すぐに迎えに行ける。そう思ったのに、スマラクト様に腕を掴まれてしまった。


「迎えにって、サーシャを抱えたら怪我に障るだろう!」


「でも、このままって訳にもいかないでしょ。それとも、スマラクト様が迎えに行ってくれるの?」


「それは……その……。実を言うと、僕は飛翔の術が使えないんだ。竜化すれば飛べるから、習得していない。竜化して、サーシャを背負っては飛べないし……」


「だったら僕が迎えに行くしかないじゃん」


「い、いや。じいを呼んで来る! アベルはサーシャを見ているんだ!」


 そう言ったスマラクト様が駆け出す。僕はその背を見送り、続いて木の上に視線をやった。サーシャはおいおいと泣き続けている。


「もう……。面倒臭いなぁ……」


 ぽろっと本音が口をついて出てしまった。何で降り方を知らないのに、木に登ろうと思うかな……。これだからお子様は……。


 そうして少しの間待っていると、スマラクト様が戻って来た。師匠とヴィルヘルムさんを連れて。おかしい。カインさんを呼んで来るって言っていたはずなのに。


「スマラクト様? カインさんは?」


「じいは獣王と外出中らしい」


「お~お……。随分上まで登ったなぁ……」


 師匠が木を見上げ、そう口にする。ヴィルヘルムさんも師匠の隣で木を見上げていた。


「お願い出来るか、ヴィルヘルムよぉ」


「ええ」


 師匠の言葉に頷いたヴィルヘルムさんが魔法陣を展開し、飛翔の術を使う。そうしてサーシャの元まで飛んで行き、泣き続けていたサーシャを抱えた。は~。良かった。これで一安心。そう思ったのも束の間、サーシャがヴィルヘルムさんの腕から逃れようとでもするように身を捩る。


「サーシャ! 危ないよ! じっとしてなよッ!」


「でも! 柿ー!」


 僕の叫びに答えたサーシャが、手近な柿の実に手を伸ばした。そして、一つもぎ取る。涙でグシャグシャの顔を、誇らしげに綻ばせたサーシャが柿を掲げる。もうね、脱力するしかないと思うんだ……。何だか疲れたよ、僕……。


「アベル。僕達も柿を取ろう……」


 流石のスマラクト様も疲れたらしい。脱力気味にそう言ったスマラクト様に僕は頷き、飛翔の術を使って飛ぶ。そうして一つ、枝から柿をもぎ取った。スマラクト様も竜化して空を飛び、柿を一つ取る。


 地面に降り立った僕達の手には、それぞれ一つずつの柿。片手で持つには少し大きくて、両手で持っている。立派な柿だ。今日のおやつ!


「美味しそうだね、スマラクト様! サーシャ!」


「うむ!」


「うん!」


「このままでは食べられませんよ、この柿。加工用ですから」


 盛り上がる僕達に、涼しい顔でヴィルヘルムさんが爆弾を落とす。僕達三人はその言葉に愕然とするしかなかった。こんなに大騒ぎしてまで取った柿なのに……。まさか、食べられない柿だったとは……。

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