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のけ者エルフのセレンディピティ  作者: ゆきんこ
第二章

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祭り 2

 お布団なる寝具に横になって少し眠ると、さっきまでの不調が嘘のように治まった。すっきりした目覚めで気分は最高! 閉めてあったふすまを開くと、隣の部屋ではスマラクト様、カインさん、師匠の三人が雑談に興じていた。


「あ! アベル、起きたか」


 僕の姿を見とめたスマラクト様がそう声を上げる。僕はそんな彼に笑みを返した。


「うん!」


「気分はどうだ?」


「もう大丈夫!」


「そうか。昼食まで少し時間があるから、少し里を見て回らないか?」


「行く!」


 そうして僕とスマラクト様は里の観光に出かけた。二人で手を繋ぎ、里の中を歩いて回る。僕達がお世話になっている家の周りには、小さな家――と言っても、僕が生まれ育った里の家々よりは大きい――が密集してあって、そこを少し離れると広大な畑が広がっていた。この畑、不思議なのは道よりも一段低くなっている事。これじゃ、水はけが悪くなっちゃうんじゃ……。


「どうした、アベル」


 僕、そうとう変な顔をしていたらしい。スマラクト様が怪訝そうにそう声を上げた。だから、僕は不思議に思った事をスマラクト様に訪ねた。すると、スマラクト様が一段低くなっている畑の秘密を教えてくれた。


 この畑、米を作る専用の畑なんだとか。因みに、野菜用の畑は、各々の家の庭にあるらしい。米は里のみんなで力を合わせて作って、野菜なんかは各々が食べる分だけ作ってるみたい。


「今はもう収穫が終わってしまって何も無いが、夏は緑の絨毯、秋の、もう少し早い時期は黄金色の絨毯のようになるんだぞ」


「へぇ~。見てみたいなぁ」


「夏の祭りの時に、緑の絨毯は見られるぞ。黄金色の絨毯は、祭りの時期には見られないからなぁ……。来年、稲刈りを手伝いたいとか何とか言って、じいに連れて来てもらおう!」


「うん!」


「ただ、稲刈りはなかなかの重労働だからな。覚悟しておいた方が良い」


「分かった!」


 そんな事を話しながら、二人で里を歩き回る。そうして里を一周し終わる頃には、だいぶ日が高くなっていた。そろそろ昼食だろう。僕のお腹の虫がそう告げている。だから、僕達はお世話になっている家へと戻る事にした。


 家に入り、部屋に向かう途中、後ろの方からドタドタと慌ただしい足音が聞こえてきた。何? そう思って振り返る。途端、衝撃が僕を襲った。怪我をした場所に衝撃が響くも、グッと奥歯を噛みしめ、蹲るのを我慢する。


「アベルだー! アベルぅー!」


 何で蹲るのを我慢したかって、衝撃の正体がサーシャだったから。手紙では怪我の事は書かなかったし、変に心配されたくない。だから我慢したんだけど……。痛い……。それに、半ばぶら下がられるように抱き付かれたから重い……。


「サーシャ、元気だった……?」


 何とか声を絞り出す。でも、僕の声は僅かに震えていた。けど、サーシャはそれに気が付いていない。何よりだ。


「元気だったよー! あたいね、アベルに会うの、とっても楽しみだったの!」


「そ、そっか……。僕もサーシャに会うの、楽しみだったよ……」


「うふふ。嬉しいなー! ねえ、アベル! 今日、一緒に遊べるよね? あたいと遊んでくれるでしょ?」


「うん。三人で一緒に遊ぼう」


「三人……?」


 サーシャが怪訝そうに眉を顰める。そして、僕から離れた。彼女の視線の先にはスマラクト様。


「息災だったようだな、サーシャ!」


「……誰?」


「わ、忘れられている、だと……?」


 愕然とした顔でスマラクト様が呟く。すると、サーシャがケケケと笑った。この笑い方、覚えているのにわざと忘れたフリしたな……。


「んもぉ。サーシャ、意地悪したら駄目だよ。お姉ちゃんの格好をしたお兄ちゃん、しっかり覚えてるんでしょ?」


「えへへ。この間は驚かされたから、その意趣返し!」


 驚かされたっていのは、あれか……。スマラクト様がサーシャと同じように王族で、サーシャとは似た境遇だってやつか。あの時はサーシャ自身がかなり戸惑っていて、話すのはもちろん、目を合わせる事すら拒否していたけど、今回はどうやら違うらしい。この半月ほどの間に、彼女自身の心の整理が出来たのだろう。


「あ。そうだ! アベルに渡したいのがあるの! こっち来て!」


 サーシャが僕の手を取り、グイグイ引っ張る。押しが強い性格だ。スマラクト様も押しが強いけど、サーシャはそれ以上かもしれない。引っ張られるまま、僕はサーシャに付いて行った。そんな僕達の後を、スマラクト様も付いて来る。


 サーシャに連れられてやって来たのは、僕達が泊まっている部屋から少し離れた部屋だった。たぶん、サーシャと獣王様が泊まる部屋なんだろう。


「父ちゃん、ただいまぁ! アベル連れて来た! あと、おまけにスマラクトもいるよー!」


 ふすまをスパンと勢い良く開いたサーシャが僕の手を引っ張りながら部屋に入る。そこには獣王様が。


「おぉ。お帰り、サーシャ。しかし、スマラクト殿をおまけとは……。会って話がしたいと言っていなかったか?」


「父ちゃん! 余計な事は言わなくて良いのッ!」


「そうか。すまん、すまん」


 スマラクト様と会って話がしたかったって……。思わず、スマラクト様と顔を見合わせる。


「座って、座って! お茶は父ちゃんに淹れてもらってね!」


 そう言ったサーシャがドタドタと奥の部屋に駆けて行く。何と言うか、行動の一つ一つが騒々しい子だ……。スマラクト様と二人、呆気に取られてサーシャを見ていると、視界の端に獣王様が茶器を手にしたのが映った。


「あ! お茶、僕が淹れますから!」


「良い良い。娘に出来た初めての友なのだから、これくらいのもてなしはさせてくれ」


「でも……」


「獣王よ。今回もお忍びなのか?」


 そう言ったスマラクト様が獣王様の正面の席に腰を下ろす。僕もおずおずとそのお隣に座った。


「ああ。だから、前回同様、気兼ねは無用だ」


「そうか。分かった。アベル、この方々は、他国よりこんな辺鄙な里の祭りを見に来た風変わりな一般人だ。そう思っておけ」


「う、うん……」


 そうは言ってもなぁ……。一国の王様にお茶を淹れてもらうとか……。落ち着かない。と言うか、恐れ多い!


「やっぱり、僕が淹れます!」


 だから、僕は獣王様から茶器を奪うように取った。そして、人数分のお茶を淹れていく。


「あ~! 父ちゃん! 何でアベルにお茶淹れさせてるのさ! アベルはあたいの恩人なんだから、ちゃんとおもてなししてよッ!」


「すまん、すまん」


「んもぉ!」


 ぷりぷりしながらサーシャは僕の正面の席についた。そして、小さな布袋をローテーブルの上に置く。


「これ、アベルにあげるね!」


 そう言って、サーシャは袋を逆さまにすると、中身をローテーブルの上にぶちまけた。


「これね、ずっと前に地底王の国の、鉱山のお祭りに行った時にあたいが拾ったんだよ! この間のお礼! 父ちゃんがアベルにちゃんとお礼してくれないから、あたいがお礼しないとだもんね!」


 ローテーブルの上には、色とりどりの小さな魔石。たぶん、鉱山の端にでも捨てられていたのを拾ってきたんだろう。大きいもので小指の先よりちょっと大きいくらい、小さいものに至っては、欠片って言った方が正しいくらいの大きさしかない。


「綺麗でしょー。これね、あたいの宝物なんだよ!」


「そんな……。もらえないよ」


「何で? 気に入らない? あたいの宝物……」


「ち、違うよ。宝物だからもらえないんだよ。そういうのは人にあげたら駄目だよ!」


「分かっていないなぁ、アベル。サーシャは、それが宝物だからこそ、アベルにもらって欲しいんだ」


 そう言ったのはスマラクト様。それに同意するように、サーシャは頷いている。


「ところで、サーシャ。僕に礼は無いのか?」


 そうそう。実質、攫われた僕達を助けてくれたのは、スマラクト様とカインさんだ。何かお礼があっても良いと思う。だから、今度は僕がうんうんと頷く。


「スマラクトに? お礼? 何で?」


「助けてやっただろう?」


「誰も助けてって頼んでないよ? 勝手に助けてお礼欲しがるとか、スマラクトって意外と欲深なんだね」


「ぐふッ!」


 サーシャの言葉に、スマラクト様が奇声を上げ、胸を押さえて顔を伏せてしまった。流石に傷付いたよね、今の。と思ったのに、よく見ると、俯いたスマラクト様の口角は上がっていた。笑ってる……。えぇ……。


「ま。そんなに欲しいなら、あげなくもないけど。でも、一個だけだからね?」


 そう言って、サーシャが小さな包みをスカートのポケットから取り出した。それをスマラクト様の前にことりと置く。スマラクト様がいそいそとその包みを開くと、そこには小さな魔石が。


 護符なんかで使えるくらいの大きさがあるそれは、たぶん、町で買えば僕のお給料三月分以上のお値段がするだろう。僕に対してのお礼は質より量で、スマラクト様に対してのお礼は量より質らしい。


「サーシャよ。それは我が鉱山の祭りで買ってやった魔石ではないか……」


 おっと。あっちの方で獣王様がちょっと切なそうな顔をしてる。でも、サーシャはそんな獣王様を見向きもしない。


「スマラクトなら、それくらいの魔石、腐るほど持ってるんだろうけどさ。あたいがあげられる物なんて、そんなのくらいしか――」


「サーシャ!」


「な、なにさ……」


 スマラクト様に突然名を呼ばれ、サーシャが怯む。でも、そんな事、気にしないのがスマラクト様だ。彼はニパッと良い顔で笑った。


「これ、大切にさせてもらうぞ!」


「う、うん」


 サーシャはスマラクト様の言葉に頷き、はにかみ笑いを浮かべた。僕にくれた魔石を、彼女は宝物だと言っていた。きっと、スマラクト様にあげた魔石だって、サーシャにとってみたら大切な宝物だったはず。だって、出掛けた先でお父さんに買ってもらったんだから。僕だったら間違いなく宝物にする。それを僕達にくれる意味。お礼でもあるし、友達の証でもあるんだろうな。


「僕も。この魔石、大切に使わせてもらうね」


「使う? こんな小さな魔石だよ。飾って眺めて楽しむんだよ」


 そう言ったサーシャに、僕はニッと笑ってみせた。普通だったら、サーシャが言うように、飾って眺めて楽しむものなんだろう。少なくとも、サーシャはそうしてこの魔石を大切にしていたんだと思う。でも、僕は違うんだな。


「僕、魔術の研究用に、こういう小さな魔石が欲しかったんだ」


「研究って? アベル、何を研究してるの?」


「魔術の同時行使についての方法論!」


 どやっと胸を張ってみせるも、サーシャはきょとんとした顔をしていた。獣王様は面白そうな顔で僕を見ている。


 小さいサーシャには、まだ、僕の研究の偉大さが分からないようだ。これだからお子様は……。だから、僕はサーシャに、いかに魔術同時行使が難しいか、それが出来たらどれだけ素晴らしいのかを懇々と、この家の人に僕達がここにいるって聞いたらしいカインさんと師匠が迎えに来るまで説明し続けた。

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