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領主の館 4

 ウルペスさんは僕の説明で納得してくれたようだった。誤魔化されてくれてありがとう! ウルペスさんが変に疑り深い人じゃ無くて助かったぁ!


「アイリス達が戻って来るまでまだ時間があるだろうし、何をして過ごそうか……。アベル、まだ帰らないよな? もう少しいられるだろう?」


「うん。それより、アイリス様って、さっきいた女の子? 赤毛の」


「そうだ。僕の妹だ。因みに、一緒に付いて行ったのは、僕の従兄のラインヴァイス兄様だ」


 妹……? 姉じゃなくて? アイリス様の方が年上っぽかったけど……。でも、スマラクト様が妹だって言うんだし、そうなんだろう。嘘を吐く理由が無いもん。アイリス様は背が高くて、大人っぽい女の子って事だ。


「そういえばさ、スマラクト様とウルペスさんは何族なの?」


 魔人族には、妖精種、悪魔種、獣人種の三種族がある。そして、それを更に細分化したものが、エルフ族だったりオーガ族だったりの部族だ。


 三種族の中で、妖精種だけは一つの姿しか取れない。人族を基準とすると、妖精種は人族とは少し違った身体的特徴がある。妖精種エルフ族の僕は、人族よりも耳が尖っていて長い。この耳は結構便利で、獣の言葉すらも聞き取れる。この特技を持っているのは、たくさんある部族の中でもエルフ族だけ。これは、エルフ族の固有魔術なんじゃないかなって僕は思っているんだけど、そうすると、一般的にエルフ族の固有魔術として認識されているエレメント耐性っていう、地水火風属性魔術全般が効き難い特性の位置付けが分からなくなる。ただ、エレメント耐性に近い特技を持っている部族は他にもあって、そういう部族は、それが固有魔術としては認識されていない。ただ単純に、身体が頑丈な部族なんだろうっていう認識をされている。だから、エルフ族のエレメント耐性も、そういう部類の話なんじゃないのかなぁ、なんて。と、まあ、それは置いておいて、と。


 悪魔種と獣人種は、人族と変わらない姿と、人族とは違った本性と呼ばれる姿を取る事が出来るのが特徴だ。まあ、人族と変わらない姿と言っても、髪色だったり瞳の色だったりが、人族には無い色だったりするんだけど。その良い例がスマラクト様だ。人族には、緑色の髪の人も、金色の瞳の人もいない。


 んで、悪魔種と獣人種の見分け方は、悪魔種の方が、本性が人族に近い姿をしているって事だ。獣人種の本性は、完全な獣の姿になる獣化と、身体の一部を獣にする部分獣化の二種類ある。


「僕はドラゴン族だ」


 獣人種ドラゴン族……。それって、この国の王様、竜王様と同じだけど……。スマラクト様って、王族、なのかな……? こんな小さいのに、領主代行を任されるくらいだし、王族の可能性が高い、かも……?


「俺はワーフォックス族だよ」


 獣人種ワーフォックス族は、中型の獣の姿になれる部族だ。確か、ワーウルフ族に近い部族で、俊敏性に優れていてぇ……。固有魔術は……何だったっけかなぁ……? ……あ。思い出した。知覚強化だ! 視覚とか聴覚とかを鋭く出来る便利な固有魔術。これ、狩りにはうってつけだなって、本で読んだ時に思ったんだった。


「実はね、僕、他の部族の人見たの、初めてなんだ。ウルペスさんには昨日会ったけど、何族かまでは聞けなかったし……」


 今日はオーガ族にも会えたし、ドラゴン族にも、ワーフォックス族にも会えた。今まで生きてきた中で、最も貴重な経験をしていると思う。


「僕の里、他の部族の人が訪ねて来る事なんて滅多に無いから……。あのね、僕、里の外――狩場以外の所に出たのも、今日……初めてで……」


 言っていて悲しくなってきた。何で僕、エルフ族になんて生まれたんだろう……。他の部族だったら、男として育てられる事もなかったし、他の部族の人とだって自由に交流出来たのに……。もっと自由に生きられたはずなのに……!


「ほう。では、ドラゴン族の本性、見た事が無いのだな!」


 そう言って、スマラクト様はにやりと笑うと、僕達から少し離れた。と思ったら、彼の足元に緑色の魔法陣が浮かび上がる。そうして、魔法陣から出た光にその姿が包まれたかと思うと、光が膨らんで治まった後、緑色の鱗に覆われた一匹の獣がいた。大きさはユニコーンくらいで、全体のシルエットはトカゲに近い。けど、決定的に違うのは、その背に翼が生えている事だった。


「本で読んだけど、本当に獣の姿になるんだ!」


「そうだぞ! 凄いだろう!」


 そう言ったスマラクト様の声は、ほんの少しくぐもっていた。けど、身体の大きさも見た目も大きく変わった割に、声の変化はその程度。逆に不思議だ。


「ウルペスも本性を見せてやれ!」


「へ~い」


 ちょっと気の抜けた返事をしたウルペスさんが、僕から少し離れた。そんな彼の足元に白っぽい魔法陣が浮かび、彼がその中で宙返りをする。と、一瞬でその姿が獣に変わった。


 髪色と同じ銀色のモフモフの毛に覆われた身体は、本の挿絵で見た魔物の雪狼をもっと丸っこくして、顔を優しくしたようだった。頭から生えた尖がり耳が、音に反応するようにピコピコ動いている。


「凄い! 凄~い!」


「そんなに喜ばれると、本性を晒した甲斐があるねぇ」


 そう言って、獣姿のウルペスさんが笑うように目を細めて口を開けた。裂けた口から小さな牙と赤い舌が覗く。けど、怖い感じは全然しない。銀色の瞳に知性と理性が感じられるからだろうか? 獣人種の本性は、野生の獣とは全然違う。実物を見ないと分からない事だ!


「少し背に乗ってみるか?」


「坊ちゃまッ!」


 スマラクト様を嗜めるように、カインさんが叫んだ。見ると、その顔はかなり険しくなっていた。


「良いではないか。せっかくなのだから」


「良くありません! お立場を考えて下さい! 旦那様や奥様がそんなお姿を見たら、何とおっしゃるか!」


「今、父上も母上もここにいないだろう。それに、母上はともかく、父上は笑いながら、楽しそうで良いねぇとか何と言うと思うが?」


「あはは。言いそぉ~!」


 スマラクト様の言葉に、ウルペスさんが笑いながら同意する。と、カインさんがぎろりとそんなウルペスさんを睨んだ。睨まれたウルペスさんは、首を竦めて耳を畳んでいる。


 迫力あったもんね、今の睨み。怯んじゃうの、分からなくもない。けど、カインさんって、おいそれと人を殴るなんかの害を与えるような人には見えない。なんとなく、だけど。


「ほら、アベル。じいの言っている事は気にせず、乗ってみると良い。僕では人を乗せて飛べないが、走るくらいは出来るぞ!」


 ドラゴン族の背中に乗るなんて、一生に一度も出来ない貴重な経験だ。という事で、遠慮なく! そう思ってスマラクト様の方に一歩踏み出した僕のカバンの肩掛け紐を、カインさんが掴んだ。おっとっと!


「その前に、これを置いて行きなさい。それと、ポケットの中、確認させて頂きます」


「うん!」


 それくらいでドラゴン族の背中に乗れるのなら安いものだ。だから、僕は肩掛けカバンを下ろし、続いて、上着やズボンのポケットを全部ひっくり返した。


「これで良い?」


「まあ、良いでしょう……。ただ、信用はしていませんから。カバンの中も確認させてもらいます」


「うん。良いよ。……あ。魔力媒介入ってるから気を付けてね。一応、鞘には入れてあるんだけど、肝心の鞘がさ、だいぶくたびれてて、先っぽの方に穴が開いてるんだ」


 魔力媒介は、魔術を使う時に必要になる道具だ。簡単に言うと、体内の魔力に干渉して、魔法陣の展開を助けてくれる道具。


 魔力媒介が無くても、魔石の粉末を使用した顔料を使って魔法陣を描けば、魔術は使える。けど、それじゃ実用的とは言えない。魔力媒介を初めて作った人が誰なのかは分かっていないけど、その人はたぶん、魔術を実用的にする為に魔力媒介を開発したんだと思う。


 魔術を勉強している者なら誰でも、一人一つ魔力媒介を持っている。僕の魔力媒介は大振りのナイフ。元々はばあちゃんが使っていた物だったらしい。それを、僕がじーちゃんに師事して魔術を習い始めた時、母さんがくれた。言ってみたら、ばあちゃんの形見だ。つまり、かなり古い品な訳で。そろそろ鞘を交換しないとなって思ってはいたんだけど、里での僕の立ち位置的に、良い革なんて手に入らない。だから、穴あきのまま使い続けている。


「あと、魔術の研究資料も入ってるんだけど、それはあんまり、中、見ないで欲しいかなぁ……。あとあと、ちっちゃい魔石が袋に入ってるんだけど、ごみじゃないから絶対に捨てないでね?」


「アベル! まだか!」


「今行く~!」


 僕を呼ぶスマラクト様に返事をすると、僕はカインさんに背を向け、スマラクト様の元に走った。

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