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のけ者エルフのセレンディピティ  作者: ゆきんこ
第二章

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誘拐 1

 おっかないおじさんに連れられて来たのは、裏路地にある薄汚い建物だった。おじさんが扉を開くと、薄暗いエントランスホールがあって、その奥には階段が。おじさんは僕を担いだまま、その階段を降りて行った。


 地下室は薄暗かった。けど、真っ暗って訳じゃ無い。ちゃんとランプが点いていて、床が見えるくらいの明るさはある。


 おじさんは地下室の一番奥、小さな本棚へと向かった。そして、並んだ本の一冊を押し込む。すると、カチリと何か音がした。軋んだ音を立て、本棚が奥に向かって開く。


 本棚の先は真っ暗だった。隠し部屋だ……。何も見えないけど、無人って訳じゃなさそうだ。わずかだけど、人の気配がある。もしかして、僕と同じように連れて来られた子が他にもいるんじゃ……。


「おら。ここに入って大人しくしてろ。いいか? 大声出して騒いでみろ? さっきよりも痛い目にあわせるからな!」


 そう言って、おじさんは僕を肩から下ろした。そして、僕の背を思いっきり蹴り飛ばす。衝撃で、僕は前につんのめって盛大に転んだ。そんな僕をもう一度おじさんは蹴り飛ばす。里を出ても、こうして乱暴に扱われるとは……。これが僕の運命ってやつなのかな……。


 ガチャンという音に続き、カチャカチャと小さな音が耳に届く。そうして音が止むと、今度は足音が。だんだん遠ざかり、隠し扉を閉められると、部屋の中は真っ暗になった。


 起き上がって手を伸ばしてみると、鉄格子が指先に触れた。どうやら、檻か何かに入れられたらしい……。困った。魔力媒介があれば逃げ出す事も出来るかもしれないけど、今日はあいにくと持っていない。こんな事になるなんて予想もしてなかったから、お屋敷に置いて来てしまった……。


「ねえ」


 突然、間近から掛けられた声に、僕は飛び上がるほど驚いた。人の気配があるなとは思ってたけど、こんなに近くに人がいるとは思わなかった!


「あんたも攫われたの?」


「うん……。君も、だよね……?」


「そうだよ。好き好んでこんな所に入る奴、いる訳無いじゃん」


 そりゃそうだ。特殊な趣味でも無い限り、こんな檻だか牢屋だかに好んで入る人はいないだろう。


「あんた、魔力媒介、持ってる?」


「ん~ん」


「チッ!」


 舌打ちされてしまった……。そりゃ、僕自身、失敗したなって思ってるけどさ……。でもさ、捕まったままって事は、この子だって持ってない訳で……。それなのに舌打ちするとは。何という理不尽!


「あんた、名前は?」


「僕はアベル。エルフ族だよ」


「ふ~ん。やっぱエルフ族か。見たまんまだね」


 見たまんまって……。もしかして、この子、この暗闇の中で僕の姿が見えてるの?


「もしかして、君、夜目が利く部族?」


「そうだよ。ワーキャット族だもん。こんな暗闇、屁でも無いね!」


 獣人種ワーキャット族は、この魔大陸中に広く分布している、比較的人口の多い部族だ。この部族、面白いのが、居住している地域によって身体の大きさが違う事。暖かい地域に住んでいるワーキャット族の一族程、身体が大きく、力が強いらしい。寒冷地であるこの地域に住んでいるワーキャット族は、身体が小さめだし、力も弱めだけど、凄く身軽だって本で読んだ覚えがある。因みに、魔大陸七人の王の一人の獣王様がワーキャット族で、さすが王族だけに、力も身体の大きさも、他のワーキャット族の人達とは一線を画する血筋なんだとか。


「君も名前教えてよ?」


「あたいはサーシャ」


「サーシャちゃんね」


「呼び捨てで良いよ。ちゃん付けとか、鳥肌立つから」


「うん。分かった。僕の事も呼び捨てで良いからね」


「分かった」


 そうして自己紹介が終わると、話す事が無くなってしまった。真っ暗な室内に沈黙が訪れる。けど、和気藹々とおしゃべりする気にもなれない。


 スマラクト様とカインさん、僕の事、探してくれてるかな? まさか、このまま見捨てられたりなんて……。いや。そんな事無い! きっと、今頃探してくれているはず。信じて待っていれば、きっと見つけてくれる。そうだよ。見つけてくれるよ……。


 膝を抱えて蹲りながらそんな事を考えていると、隠し扉が開いた。開けっ放しのまま、男の人が二人、部屋に入ってくる。一人は僕をここに連れて来た奴で、もう一人は尽き出したお腹が凄く邪魔そうな体型をしたおじさんだ。因みに、このおじさん、頭が手入れなんて必要無いくらい薄くなっている。


 差し込む光でやっと部屋の中が見れたけど、僕とサーシャが入れられているのは、かなり大きな檻だった。僕が悠々と立ち上がれるくらいの高さがあって、広さは、大人が三人くらい、詰めれば寝転がれるくらいだ。僕のすぐ傍にはサーシャの姿。思っていたよりも小さい子だ。僕よりも明らかに年下の子。そんな子に、僕、舌打ちされたのか……。


「ほう……。エルフ族のガキか。こりゃ、高く売れそうじゃないか」


 口を開いたのは、頭の薄いデブのおじさん。二人ともおじさんだから、太っている方をデブおじさんと名付けよう。僕を攫ったのはヒゲおじさんで。


 デブおじさんがにたりと、いやらしい感じで笑みを零す。すると、ヒゲおじさんが揉み手をしながら愛想笑いを浮かべた。


「でしょでしょ。流石アニキ。分かってらっしゃる」


 アニキって言っても、この二人、たぶん、兄弟じゃないだろう。だって、身なりが違いすぎるし、全く似てないもん。それに、ヒゲおじさんが凄く気を遣ってる。たぶん、何かの組織――人身売買をする組織の兄貴分と弟分なんだろう。


「そっちのちっこいのは?」


「さぁ? でも、獣人種か悪魔種でしょ?」


「この馬鹿がッ! 部族が分からないんじゃ、値が付けらんねえだろうが! 何年この仕事やってんだッ! アホが! すぐに聞き出せッ! このクズッ!」


 そう怒鳴ったデブおじさんは迫力があった。怒鳴られ慣れている僕が思わず怯んでしまう程に。この人は怒らせたら駄目な人だ。ヒゲおじさん以上に、何をするか分からない部類の人だ。


「お、お前! 部族は何だ! 教えろ!」


 怒鳴られて慌てたヒゲおじさんに、そう問われたサーシャ。けど、彼女は涙目でフルフルと首を横に振るだけで口を開かなかった。怯えているのか、口を利きたくないのか、部族を教えたくないのか。そのどれなのかは分からない。けど、このままじゃまずい。僕の勘がそう告げていた。


「お前はいつも甘いんだよッ! 見とけ! こうやってやるんだッ!」


 そう言って屈んだデブおじさんが、鉄格子の間に腕を入れ、サーシャの腕を掴んだ。そして、力任せに引っ張り寄せる。抵抗する素振りを見せたサーシャだけど、力の差は歴然で。あえなく地面を引きずられてしまった。


「獣人種でも悪魔種でも、こうやってやりゃ、すぐに本性見せんだよッ!」


 そう言ったデブおじさんが、サーシャの腕を掴んでいる方とは反対の手で彼女の首を押さえつけるように締め上げた。逃れようと手足をばたつかせるサーシャだけど、デブおじさんの手は緩まない。


「死にかけりゃ、どんな部族でも本性を見せんだ! よく覚えとけッ!」


「へ、へい!」


「あ……ぐ……!」


 サーシャから苦悶の声が上がる。もしかしたら、彼女はこんな奴らに部族を教えたくなかったのかもしれない。けど、このままだと殺されちゃうかもしれない!


「ワーキャット族! その子、ワーキャット族だよ!」


「ああ? 何だ? 何でお前が知ってんだ? 適当言ってんじゃねえぞッ!」


 デブおじさんに怒鳴れた。けど、ここで怯んだら駄目だ。嘘だって思われる。一刻も早く、サーシャを解放してもらわねば!


「適当じゃない! さっき、その子が言ってた!」


「ふ~ん。おい! お前、本当にワーキャット族なのか?」


 手を緩めたデブおじさんがサーシャに問う。けど、サーシャは激しく咳き込んでいて答えられなかった。そんな彼女を僕は助け起こし、守るように抱え込んだ。


「聞いてんだろうが! 答えろッ! このクソガキがッ!」


 そう言って立ち上がったデブおじさんが、僕達のすぐ傍の鉄格子を思いきり蹴飛ばした。ガシャンと大きな音が鳴る。と、サーシャは咳き込みつつ、ボロボロと涙を流しながら必死に何度も頷いた。


「ワーキャット族か。ま。悪くはねえな……」


「でしょ!」


「でしょじゃねえだろ! お前はあと二、三人攫って来い! 今日みたいなチャンス、年に一、二度しかねえんだ!」


 デブおじさんに、ヒゲおじさんが頭を叩かれる。手加減なんてしていないんだろう。かなり良い音がした。


 そうして二人のおじさんが部屋を出て行くと、静かになった部屋の中に、サーシャの嗚咽が響いていた。あんな風に引きずられて首を絞められるなんて経験、普通に生きていたら無いだろうから、相当怖かったはずだ。僕だって、初めて里の奴にやられた時は、死ぬほど怖かった。このまま殺されるんじゃないかって……。


「怖かったね……。でも、もう大丈夫だよ。あいつら、行ったから」


 僕の腕の中ですすり泣くサーシャの頭をよしよしと撫でる。すると、彼女はフルフルと首を横に振った。


「だ、大丈夫、じゃない……。あたい達、売られちゃうんだ……。もう、父ちゃんと会えなくなっちゃうんだ……!」


「今頃、サーシャのお父さん、サーシャの事、探してくれてるよ。僕の友達だって、きっと、僕を探してくれてるから。信じて待とう?」


「で、でも、この部屋、転移妨害の魔法陣、あるし……。きっと、あれのせいで、父ちゃん、あたいの事、見つけられないんだ……!」


 転移妨害は、その名の通り、転移魔術を妨害する魔術だ。お城とか砦とかの、重要拠点には必ずと言って良い程使われている、空間操作術に属する魔術。そんな高度な魔術の魔法陣がこんなところにあるなんて……。


 でも、まあ、考えてみると、転移が簡単に出来るようなところじゃ、攫って来た子が転移魔術を使えるとすぐに逃げられてしまう訳で。それに、攫われた子の親とかが転移魔術を使ってその子の元に飛んで来たら、これまた逃げられる訳で。攫った子を閉じ込めておくには、転移での逃亡をどうにか防がないといけないな。うん。


「父ちゃん……父ちゃん……」


 サーシャはお父さんを呼びながらすすり泣き続けた。そんな彼女の背を、優しく何度も撫でる。


 お父さん、か……。僕には生まれてからこの方、縁が無い存在だ。里の奴らの誰かが、血の上では僕の父親に当たる人なんだろうけど、あんな奴ら、こっちから願い下げだし。じーちゃんは、母さんが父親のように慕っていた人だから、どちらかと言うとおじいちゃんに近い感覚だったし。


 サーシャはきっと、お父さん子なんだろうな。それだけお父さんに可愛がられて育ってきたって事で……。お父さんに可愛がられるってどんな感じなんだろう……? お母さんに可愛がられるのとはまた違うのかな……? 不安と心細さを誤魔化す為に、僕はサーシャのすすり泣きを聞きながら、そんなどうでも良い事を考えていた。

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