9.終幕
パティの待つ街へ戻った俺は彼女に電話した。
ようやく出た彼女は泣いていた。
理由はわかっていた。
映画館で待っているからと泣きながら彼女は言った。
〝あなたはひょっとしたら劇の中の俳優かもしれない〟などと書かれた看板が並ぶロビー。
レイトショーも終わった深夜一時。
もう誰も、観客は誰もいない。
だが窓の外から月の光が射し込む暗いロビーに人がいるのは感じていた。
前へ進む俺にまるでスポットを当てるように、細いサーチライトが当てられた。
立ち止まる俺の目の前にはパティ。
眼鏡を外し制服姿で立っているパティがいた。
最初からわかっていた。
彼女がEBI捜査官だということは。
「……ビリー……いえ、ウィリアム。ウィリアム・スタンス。それがあなたの本当の名前」
「そう。そして君が思っている通りの男だ」
パティは右手に持ったバッジを見せる。
見せつけるその手が震えていた。
「言って。サンダース・ファミリーから依頼されたんだと」
「違う。俺の意思でやったことだ」と答え、俺は自分の胸に手をやりシャツの内側のラピスラズリを露わにした。
「聞いていたろう? 俺は」
「あなたは! ……二年前私の父を殺した。ハイホープス本部ビルの前で、私の父ドナルド・スカーロックを撃った。そうなの?」
「……ああ。そう。俺が殺した」
パティは顔を赤く染め、髪をくしゃくしゃにまさぐり懐から拳銃を抜き出した。
食いしばる歯と泣き濡れる瞳。
ガクガクと俺に銃口を向けた。
「よくも父を!」
それから彼女の両脇に浮かび上がる影。捜査官たち二人。ビフが依頼した三人がそこに並んだ。
まだ後ろにも捜査官はいた。一人が彼女に言う。
「撃つなパティ。奴は法で裁く」
「そんなことはわかってる! 黙ってて!」
もう一人が口を開く前にパティが言う。
「……ビリー。どうして……どうしてサンダースの指示だって言えないの? ……そんなにウェンディ・ダイスンを守りたいの?」
俺のことはレオ・フットプライドを襲った後の追跡で捜し当てた……似た風貌の男をしらみ潰しに当たった……全部調べたんだと彼女は言った。
俺もかつてドナルド・スカーロックを殺すまでの下調べで君の存在は知っていたと答えた。
彼女が何を思いブロンドを赤毛にしてまで俺に近づいたのかは訊かなかったが、〝ライセンス・トゥ・キル〟を本気で捕まえたかったことはよくわかった。
その時の彼女の本心も読唇でよく伝わった。
愛してしまったと。
俺は手を広げ、まるで舞台俳優のように声を響かせた。
「俺を今しっかり捕まえなければ、君たち三人を殺すことになる。いいか? 俺は〝ライセンス・トゥ・キル〟。超一流の殺し屋だ」
この時も俺はパティのためなら死んでもいいと思っていた。