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LICENSE TO KILL  作者: ホーリン・ホーク
6/10

6.殺害許可証

 報復を怖れる前に報復に向かう種を一つずつ摘み取った。

 血眼で奴らは捜したが、俺はボロを纏い足を引きずる浮浪者を装った。

 アンダーボスは通いつめの風俗店で絞め殺した。

 そして州外へ高飛びしようとしたドン・レッド・ブラッドアイズは、タクシーの運転手に扮した俺が地獄へと送り込んだ。

 奪って使った銃もナイフも鈍器も、書き連ねた処刑リストも全て鉄工所の溶鉱炉に投げ捨てた。



 ラウルの奥さんに当面の金を渡し、別れを告げた。

「ウィリアムさん……わかっています。あなたが」

「考えない。あなたは実家に戻ってこれから先のことを考えなきゃ。その子のために。ラウルの子のために」

 告げながらラウルの無念が痛切に響いた。

 俺は両手をそっと奥さんの肩にあて、慰めた。

 ラウルの形見にと俺は彼が愛した本一冊をもらい、立ち去った。



 ****



 北風が吹き荒ぶ駅のベンチ。

 煙草を吹かす俺の隣りにベージュのコート姿の男がどしりと座った。

 小粋なハンチングに口髭丸顔の男は「うまそうだな」と言い、咥えた煙草に火を求めた。


「……ありがとう。君はどこから来た? 誰に仕えてる」

「はあ?」

「ブラッドアイズを全部やったの、君だろ? ウィリアム・スタンス」


 並んで吹かす、ちらりと俺を見る丸顔。

「ウチが経営してるあの繊維工場で、ウチのもんが君らしき男を目撃してた。〝ダイスンズ〟の奥の席によくいたんだろ? ここまで調べるのに時間がかかったが……まさかその間に奴ら総勢三十人全員抹殺するとはな」

「……あんた。何者だ?」

「サンダース・ファミリーのビフ・キューズ。相談役でナンバー2だ」


 よろしくと握手を求める彼、ビフ。

 その手を横目に俺はビフの目的を探る。


「俺に何の用だ?」

「君はどこへ行く?」

「さあ」

「ウチに来い」

「はあ? 何だそりゃ」

「我々は横暴で礼儀知らずなブラッドアイズに手を焼いていた。それを君が綺麗に掃除してくれたわけだ。とても、助かった。きっと町の皆んなも感謝してる。……そして俺はその腕を高く買った」


 俺は煙草を揉み消し辺りを見回す。

 ビフは悠然と遠くを見つめている。


「ちょっと待った。確かに……あんたらがエルドランド最大のマフィアだってのは知ってるが、生憎俺には興味がない」

「……やはり、一人なのか君は」

「ああ。ラウルが死んで、また一人だ」

「復讐……か」

「そんなところだ」

「鉄工所はやめたんだろ? ウチの家族になれよ。仲間が大勢いる。仕事も山ほどある。食うに困らない」

 ビフは顔を向け帽子をとり、ついに頭を下げた。

「ドン・ストーン・サンダースが会いたがってる。頼む。力を貸してくれ」


 乗るはずの列車をそのまま見送り、俺は長く考えた。

 ビフ・キューズは心配事は全て取り除くからと懇願し、石のように動かなかった。



「じゃあ、キューズさん。ラウルの奥さんの身の周りその子供の一生、守ってくれるんだな?」

「ああ。彼女のことも調べてある。故郷でのこれからの暮らし、我々が安全を保証する」

「信じていいんだな?」

「ああ。信頼の上で我々は成り立ってる」


 しばしの黙考。

 次に彼の目を見た時、俺はこの手を伸ばしていた。


「わかった。……じゃあ、ドン・サンダースに会おう」




 仕事に対して俺は常に冷静だった。

 感情で動くことなく失敗もなかった。

 感情で動かなければ手も震えない。

 闇に息を潜め、冷徹に生きた。



 ビフは俺に〝LICENSE(ライセンス) TO KILL(・トゥ・キル)=殺害許可証を持つ男〟と敬意を込め、その名はいつしか暗黒街の伝説になった。

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