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LICENSE TO KILL  作者: ホーリン・ホーク
10/10

10.玉蜀黍畑

 一九七八年九月。

 弁護士のエミリオ・ウィズダムは山を越え橋を渡り峡谷を目指した。

 それはかつて弁護をしたブリウス・プディングからの頼みだった。

「彼は紳士だ。話を聞いてやってくれ」


 エミリオはデスプリンス刑務所の門の前に降り立ち、鉄の扉を叩いた。

 〝ライセンス・トゥ・キル〟と呼ばれたウィリアム・スタンスに会うために。



 ウィリアムはエミリオに自分の生い立ちからこれまでを語って聞かせた。

 しわがれた声で訥々と語る印象は穏やかだったが、その壮絶な過去にエミリオは息を呑んだ。


 犯行は全て自供。

 かつての裁判で、決して依頼人が誰だとは口にしなかった。

 ビフ・キューズはただの友人で全部自分がやった事、暗黒の正義のもとにやった事だと。

 そして犯した事件全ての殺害の凶器、証拠は見事というまでにいっさい何も発見されなかった。


 彼は、

「それは悪魔かもしれんし神様かもしれん。とにかく君も誰かに仕えなくてはならない」

「君の誇りを支えているものが崩れたらもう後戻りはできない」

「俺から殺害許可証を取り上げたのは何なのか君たちにはわかるまい」などとぶつぶつ呟き続け、異常者として無期懲役、長く独房に幽閉された。



 ブリウスとの脱獄の日を思い浮かべ、ほんの気の迷いだったと彼は笑った。

 だがラウルとどこか似た、輝くいい瞳をした若き友を得たと頷いた。

 

 ――俺の死ぬべき場所はここ。

 下された判決に不服はない。


 ウィリアムは目尻にしわを寄せ、エミリオに頭を下げた。

「ただ一人。君だけに私の物語を話した。聴いてもらって感謝する」

「あなたはただ()()()()()、生きてきた」

「君にもいるはずだ。守りたい人が」

 聴いてもらったことで俺は癒されたと、ウィリアムはエミリオを見送った。



 ****



 夏の涼しい風が玉蜀黍畑を吹き抜けた。

 一生懸命働く父親の傍で男の子がオケラと遊んでる。

 地を這って逃げる蛇を鎌で殺した父に息子が言う。

「どうしてそんなかわいそうなことするの?」

 母親が息子を抱きしめ、父親がごめんなと二人を抱きしめ、さぞつらかったろうと婆様がなだめた。





 運命(みち)が違えば、死ぬまで愛し合い来世まで誓う二人になれたかもしれないと、彼は夢見た。

 彼女は(かよわ)く、傷口をそっと彼の胸に寄せた。

 赤毛のポニーテールが瞼を覆い、静かに幕を閉じた……。





 END


挿絵(By みてみん)


 二〇二〇年 三月十七日 ホーリン・ホーク



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― 新着の感想 ―
[良い点] 洋画(フィルム・ノワール?)のような渋い世界観と粋なセリフ回しに圧倒されて、一気に読んでしまいました! イラストもセピア色の物語とマッチしていて素敵です。
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