必殺の悪役令嬢 キィラ・ゼッコロー
1月3日20:24→ひっさつれいじょー
にしたかったのですが、間に合いませんでした……
「キィラ、俺との婚約を破棄して欲しい」
夜。王宮の裏庭は人気もなく魔術灯も僅かな明るさを放っている。
そんな場所にシーニャス王国の第一王子であるアンラキース・シーニャスは、次代の女王として選ばれたキィラ・ライヴァールを呼び出し開口一番に告げた。
しかし、その様子はどこか不安げであり相手の様子を伺うような表情を浮かべている。対してキィラは不敵な微笑みを絶やさず威風堂々としていた。
絹糸よりも滑らかな銀髪、陶器の如く透き通った白い肌、ほんのり色づく桜色の頬、紅を必要としない艶のある唇、目鼻立ちが整いすぎた華々しい美貌とは対照的に、首元まで肌を隠した貞淑なデザインの薄墨色の地味なドレスを着ている。
キィラの淡い金色に輝く瞳をアンラキースは複雑な思いで見つめた。
光の加減で金色に輝く黄金の瞳は王家の色と呼ばれるシーニャス王国の王族特有の証である。
「理由を伺ってもよろしいですか」
「……キィラが、暗殺を」
その時だった。挙動不審な王子の背後で怪しげな影を捉える。キィラの身体は即座に動き出していた。たとえ刺し違えたとしても”殺られる前に殺る”とキィラは心に誓っている。派手な血飛沫とスローモーションで見える王子の驚いた表情を最後に、キィラの意識はそこで途絶えた――
***
燃え盛る部屋の中と充満した黒い煙。
ベッドで眠っていたキィラは異変に気づき目を覚ました。咄嗟に飛び起きようとしたが身体は鉛のように重い。
(動けませんわね。私に効く毒が、まだあったなんて……)
炎のせいか、毒のせいなのか熱に苦しむキィラは朦朧とするなかで冷静に今の状況を把握しようとした。しかし火の手は増すばかりで室内の息が苦しくなり、意識を手放しかけた時に前世の記憶が蘇り思いもよらない悲鳴を上げた。
「ぁ……あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁっ!!!」
頭が割れるように痛い。すさまじい情報量と”前世の私”が”今の私”と混ざり合う。数秒か数分か。時間の感覚がわからないまま叫び声を何度も上げ続ける。
そして、すでに七歳の誕生日を迎え人格もしっかりしていた”今の私”が”前世の私”を取り込むような形で落ち着いた。
(……前世の死因が火事だからって、こんな時に思いだすのはちっとも嬉しくありませんわ)
一般人以上オタク未満な前世の”私”。
メジャーなジャンルであれば幼少の頃からアニメもゲームも嗜んでいるがグッズなどには手を出しておらず、友人にも趣味を隠していた。だが、スマホを持ちネット環境が整ったことで二次創作やなろう小説を読み漁り、地雷なしの立派な雑食となった私が死ぬ間際までハマっていたのが――
「こっちだ! 声が聞こえた!!」
「おいっ! 誰かいるのか!?」
「ベッドにいる! まだ息があるぞ!」
「急いで運び出せっ! 屋敷はもうもたない!!」
「私が運びましょう。貴女だけでも必ず助けますよ……キィラ」
キィラと名前を呼ばれ、抱きかかえる男の顔に時に”前世の私”が反応した。
さらに寝室の鏡に映る銀髪金眼の美幼女を見て確信する。
(よりにもよって『黄金の太陽』の”悪役令嬢”に転生なんて悪夢でしかありませんわっ!!!!)
そして限界だった意識を手放した。次に目が覚めたのは一週間後の母の兄であるシーニャス王国の将軍ノーキンス・ライヴァールの自宅だった。家族が死に知らぬ間に叔父の養女となっていて気づけば名前がキィラ・ゼッコローからキィラ・ライヴァールへと変わっている。前世の記憶から状況を察すると、キィラはこれから起こる自身の不幸に乾いた笑みを浮かべることしかできなかった。
***
お相手は五人の王子さま!?
強さ(物理)だけが取り柄の貧乏貴族な主人公がいきなり側室候補に選ばれた!次代の王配へなる為に女王様から与えられた課題をこなす王子たちと絆を深めていくけど……どうしてそんなに死にやすいの!?城の中でも外でも命を狙われる王子や主人公たち。果たして主人公は愛する者を守り切ることはできるのか!!
魔術と技術の発展した世界”ジエラ”の代々女王が治める"シーニャス王国"で物語は始まる。千年の歴史を誇るシーニヤス王国に初めて姫が生まれなかった。
特例として王家の血を引く貴族令嬢を次代の女王として迎え五人の王子の中から次代の王配を選ぶことに。しかし血筋を絶やすことを危惧した女王は王国内で優れた人材を側室候補として招いたのだが、それにより王位争いが加速することになってしまった――
そんなプロローグで始まる恋愛RPGゲーム『黄金の太陽』
主人公に対して攻略対象が男女十八人。隠しキャラも合わせて二十人。さらに追加ソフトで主人公の性別が選べるようになりNL、BL、GLの全てが楽しめる詰め込みすぎソシャゲとして一世を風靡した。
詰め込み要素以外にも話題になったのがキャラの死亡率の高さである。その中でも死にやすい原因としては暗殺だ。暗殺を目論む黒幕とされるのが伝説の暗殺一族ゼッコローの当主”ディエアス”であり物語は”ディエアス”と死闘を繰り広げるのだが……
(逆ハー手前まで攻略はしましたげど、まさか”悪役令嬢”が隠しキャラだったなんて。しかも私の設定が重すぎる上に人生ハードモード過ぎますわ)
”前世”で知りえなかった”悪役令嬢”の過去を現在進行形で体感しているキィラは深い溜息を吐く。主人公のライバルにして最大の敵である”悪役令嬢”がゼッコロー家の生き残りで今代の”ディエアス”なのは闇が深すぎるとキィラ本人は笑うしかない。
この三年後に初代女王の娘が降嫁したライヴァール家の令嬢として次代の女王へと指名され、その十年後に原作が始まるのだが、未来を知るキィラはこの先に待ち受ける数々の試練に頭を抱えた。
そして、月日は流れ原作通りに次代の女王として王宮で暮らすことになるのだがプレイヤーの時とはまた違う苦労と苦悩の日々が始まった。
***
キィラ・ライヴァールの朝は早い。
太陽が昇る前に起床し自室へ訪れる暗殺者を始末することから一日が始まる。
黒と金色を基調としたロココ調の豪華絢爛な乙女の寝室にはキィラの他に三人の物言わぬ暗殺者が転がっていた。冷気の籠った部屋を暖かくするべくバルコニーの窓を開ける。すると庭園に隠れていた暗殺者が襲い掛かってきたので、キィラは右手で相手を指さし呟いた。
「”氷針発射”」
どさりと音を立て暗殺者は横向きに倒れる。丁寧に剪定された花々を目に写したまま死んでいた。その眉間の間には細長い氷の針が突き刺さっている。まだ体温のある死体により溶け出した氷は左目を伝って涙のように流れていった。目の前の死体を眺めているキィラへ声がかけられる。
「手間取らせて悪かったな、お嬢様」
「かまいませんわ。おはようございますスィーパ」
「……コイツは俺が処理しておく。ついでに部屋のヤツらも片付けてくるから寄越せ」
「ありがとう。ですが、この方々は凍らせただけなので尋問して雇い主を吐かせないといけませんの」
「俺がやっておく。さっさと身支度しろ」
「あら。見苦しい格好で失礼しました。では、お言葉に甘えますわね」
「吐かせた後は処分するぞ」
「えぇ。いつも通りにお願いね。夜警ご苦労様ですわ」
音もなく忍び寄って来たのは執事服を着崩したキィラ専属の侍従スィーパだった。キィラの寝室に入り氷漬けの暗殺者達に触れると、空間魔術で次々に回収していく。ネグリジェ姿のままだったキィラはガウンを羽織り頭一つ分ほど背の高いスィーパを見上げ労った。眉間に皺を寄せ不機嫌そうな表情をしてるがスィーパは茶髪黒目の正統派なイケメンである。ただし攻略対象ではない。
「失礼しまーす。お嬢様もう起きてる?」
「起きてますわ。おはようグーナ」
「おはよーお嬢様……って! もう! また暗殺者が来たの!?」
「えぇ。夜更けから三人ほど連続で来たわ」
「王位継承が近いからって信じられない!乙女の安眠を妨げるなんて最低だよ!!」
「グーナの言う通りですわ。寝不足はお肌と美容の大敵ですのに」
「おい、無駄口を叩いてないで仕事しろ。部屋が汚れている」
「スィーパってば相変わらず潔癖だよね。さて、こっちの部屋は綺麗にしておくからお嬢様は今日の服を選んでてね」
「いつも悪いわねグーナ」
キィラ専属メイドのグーナが魔術で黒い絨毯の血抜きをしていく。機嫌よく鼻歌を歌う黒髪焦げ茶目の清楚なメイドは見た目に反して容赦がない。主人であるキィラの眠りを妨げる暗殺者には特別なプレゼントを渡した。ちなみに攻略対象ではない。
「スィーパ。どうせこの後に尋問するんでしょ? コレあげる」
「一応聞くがコレはなんだ」
「もちろん最新作(毒)だよ。お喋りが好きになる特別性だから私に感謝してくれてもいいよ!」
「いらん。お前の毒は効きすぎてすぐに死ぬ」
「どうせ”ディエアス”の依頼でしょー。本当のことなんて末端は何も知らないよ」
「実証実験したいだけなら自分でしろ」
「えー! スィーパのケチー」
二人の物騒な会話を聞きながらキィラは支度を進めていく。着替える段階になるとスィーパは退室しており、グーナが器用な手つきでキィラの服装を整えていった。
キィラ・ライヴァールの昼は遅い。
王宮では揃って食事を取るのだが、この日は翌日の王位継承式典の為に皆の予定が合わずキィラを待っていたマモリ・ストロングと二人きりの食事となった。緊張して食事に手を付ていけないマモリと、主人公と二人きりの食事に内心では大慌てのキィラへ料理が運ばれていく。
「……キィラ様、聞きたいことがあるのですが」
「なんでしょうか」
「さっきキース様の隣にいた私を突き飛ばしたのって、なぜですか」
「邪魔でしたので」
キィラの言葉を補足すると、「(暗殺者から貴方達を守る為には)邪魔だったので」が正しい。マモリは冒険者の実績を持ち武に優れた令嬢として側室候補といて王宮に滞在しているのだが、気配に敏感でも正攻法での戦い方しか出来ないので、キィラが二人を怪我なく守る為には突き飛ばした方が早かった。
「キィラ様が、キース様に買ってもらった髪飾りを壊したのって」
「髪飾り? あの粗悪品のことでしょうか」
「そんな、ヒドイ! アレは王宮に来た商人の人が売ってくれた」
「始末しましたわ」
「え」
「王宮には不要ですもの」
再びキィラの言葉を補足すると、「王宮には(盗聴盗撮なんて)不要ですもの」となる。なんの因果かキィラは女王教育を受けてから肝心な言葉をぼかす技を覚え、為政者や貴族としては優秀でも上流階級の腹の探り合いを知らない者との日常会話において致命的なほどに言葉が足りなかった。
「「…………」」
重苦しい空気だけが漂う中キィラはマモリの装いを見て気づいた事がある。すぐさまキィラは水の入ったグラスを手に持ちテーブルの向かい側に座るマモリの顔へ水をぶっかけた。
いくら武に優れた冒険者でも、己以上の実力者からの攻撃を避けることは出来ない。ぽたぽたと顔から水を滴らせマモリは呆然とした。
「着替えてらっしゃい。そして、戻ってこないで」
マモリは勢いよく席を立つと部屋を後にした。テーブルに並んだ食事を注意深く観察しながらキィラは近くに控えていたグーナへ声をかける。
「食事当番を調べて頂戴。それと彼女の服もね」
「また毒?」
「えぇ。スープの湯気がいつもと違うもの。それと彼女からは遅効性の皮膚毒の香ね」
「さすがお嬢様! 私はパンが怪しいと思ってたけどスープが本命だったかー」
「パンはフェイクのようね」
「ドレスの方は業者かメイドが怪しいかな?」
「洗濯当番も調べておいて」
「洗剤も確認しておくね。お嬢様、大丈夫?」
「……まったく、死にやすいのは攻略対象だけだと思ったのに私も主人公も暗殺者たちは容赦なしね」
キィラが微笑みを止め疲れた表情をするのをグーナが嬉しそうに慰めた。キィラが弱音を吐くのはグーナとスィーパの前だけだからだ。次代の女王ではなく、昔から仕える”お嬢様”が話すゲームの世界を知る二人は何としてでも、この日常を守りたいと思っている。しかし、事態は急変した。
二人がキィラから聞いていない想定外が起きたのだ。
その日の夜。
マモリから話を聞いたアンラキースがキィラを呼び出し冒頭に戻る。王位継承式典の朝になってもキィラの意識はまだ、戻っていなかった――――
ネタが浮かんだ走り書き短編です。後日きちんと長編にします。




