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クランマスターの異世界冒険生活  作者: 黄龍
2章 Friend of abyss
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21 城塞都市ブリム

 城塞都市ブリム、それはティリスファル・グレイズ共和国リパブリックの一都市である。

 最も近隣の村から舗装もされてないぬかるんだ、それも平たんではなく上り坂や下り坂もある道を日の出から日没まで歩いてようやくたどり着くことのできるその都市は現在の感覚ではとても大都市とは言えない規模だろう。

 しかし、この世界では首都には及ばぬものの軍団レギオンが常時駐留し、その為の物資を保管しておく倉庫が立ち並び、そしてそれにふさわしい警備が行われている中核都市の一つに名を連ねている。

 歴史を紐解けば独立騒ぎもあった事もあるというその都市ブリムの中央には市場があり、毎日のように露店が立ち並び雑多な人込みであふれ、店員の呼び込みの声が途絶える事はなかった。

 そんな雑踏の中、その場に相応しくないような二人組が歩いている。

 一人は年若い女性、いや少女といっても良いかもしれない。大人と子供の境界にいるようなかおである。

 クリクリっとしたそのお人形さんのような目は瑠璃玻璃るりはりのような光を反射し、艶やかな銀色の髪は一まとめにして右肩から前に流している。

 しかしその服装はその可愛らしいかおとは対照的だ。所々に金の細工がされた真っ蒼な鎧に全身を包み、露出しているのは唯一かおのみをいう状態である。そしてその左腕には金色で複雑な紋様が描かれた蒼い盾、そして左腰に吊り下げられている蒼に彩られた鞘には見事な細工が施されている。そのちぐはぐな印象は見るものを引き付けるのに十分だった。

 そしてもう一人も女性だ、こちらは妙齢の女性である。目じりはキリリと尖っており、そのの色は光の当たり方次第でルージュにもノワールにも視得みえ、腰まである漆黒くろの髪を背中に流している。

 身に着けているのは赤を基調とした胴衣タバードで、左腕には奇妙な、それでいて精密な細工でかおが描かれた盾を装着し、左腰には非常に細かな金細工が施された鞘を吊り下げている。頭には陽の光を防ぐためだろうか?黒を基調とした鍔が幅広の帽子をかぶり何かを探しているのか、時折キョロキョロと辺りを見回すような動作をしていた。

 そして目的の場所を見つけたのか、鎧を着た女性がもう一人の女性に耳打ちし指を指す動作をすると、二人はそちらの方角に向かって歩き出した。






§ § §






 城塞都市といえど一辺が二キロも無いような小都市である。そのうえ街の多くを軍事用施設が占めているため、ヨシコ達が目的の場所を探すのはそれほど苦労は無かった。

 目的の場所はとある建物である。そこは間口まぐちが7メートル程の二階建ての建物であり、正面からは奥行きまではうかがい知れない。入口には何かの絵のようなものが描かれた看板がぶら下がっており、何らかの商売を営んでいることが推測できた。

 再度周りを確認し、ここで間違いがないだろうと確信したヨシコ達はドアを開け恐る々々店内に入る。

 内部はとても薄暗かった、ヨシコは一瞬、暗闇に紛れ込んだ様な気分になったが、幸いにして目はすぐになれる事ができた。

 入り口から入ってすぐの所は食堂も兼ねているようで、奥には受付らしいカウンターがある。その先については分からないが構造からすると調理場キッチンだろう。

 カウンターには子供といって良い外見の女性が座っていてコチラ側を見ていた。

 まわりには何卓もある円いテーブルがいくつも配置されており、いくつかのテーブルには客とみられる者達が座っている。大半は壮年男性だが少数ながら年若い男性や女性もいるようだった。

 一部の者はカウンターの女性と同じくこちらに意味ありげな視線を送る。

 そんな視線を浴びていることを知ってか知らずが、ヨシコ達はカウンターに近づくと女性に向かって話しかけた。


「二人部屋を一つお願いしたいのだけど空いてるかしら?」


「空いてるよ、二人部屋は一晩25銅貨、賄いも付くよ」


 ヨシコは懐から袋を取り出すと一握りの硬貨コインをカウンターに置く、その中にある銀色シルバーに光る硬貨コインを丁寧に取り除いた後、一枚一枚数えるように硬貨コインを並べ、それがきっちり25枚ある事を確認して相手の方にそっと押しやった。

 カウンターの女性はその硬貨コインをしまうと小さな鍵をヨシコに差し出す。ヨシコはそれを受け取ると同時にその小さな手に硬貨コインをやさしく包むように握らせる、すると女性の顔に笑みが浮かんだ。


「どうぞ二階へ~」


 先程とはうって変わって急に愛想良くなった女性はそう言って先頭に立ち二階へ上がっていく。

 そしてそれを耳にしたヨシコ達は連れ立って二階へ上がって行こうとしたその時、一人の男が女性とヨシコの間に割り込んだ。

 嫌らしいかおをした男だ。何らかのシミがついた汚らしいシャツ、同じぐらいに汚れてシワがよったズボン、脛まであるブーツに薄皮の手袋、腰には鞘に入った刃物を身に着けている。その整えられていない髭には何らかの食べかすらしきものが付着しており、ただえさえ嫌らしいかおを一層不快なものにしている。


「嬢ちゃん達はあまり見ないかおだな?ここは女だけじゃあまり宜しくない場所だぜ?」


「そうそう、だけど良かったら俺達がちゃんと、嬢ちゃん達の面倒をみてやってもいいんだけどな」


 正面の男からだけでなく、近くにいるテーブルからも声が飛ぶ。見ると男達が数人、嫌らしい視線をヨシコ達に向けていた。


(はぁ……)


 ヨシコは呆れたように溜息を付くと、その男を躱して二階に行こうとする。


「チッ、ちょ待てよ」


 その男は舌打ちをするとヨシコの腕をつかむ。その腕は太く盛り上がっており普段から荒仕事を生業としている事を予想させた。


「ん?どうしたんだ?」


 近くのテーブルから男が数人近づいてくる。


「俺がやさしく忠告してやってるのに、この嬢ちゃん達が無視するのよ、どう思う?」


「そりゃ礼儀がなってないってもんだな」


 男は仲間が増えて強気になったのかニタニタと嫌らしいかおを隠そうともしない。

 周りのテーブルに座っている客もこちらを注目しているようだ。本来なら止めるべき店員である女性だが、困ったような表情かおを浮かべるばかりだ。


「お姉様!」


 そう叫んだヤスコを手で制すると、ヨシコは前にいる女性に声を掛けた。


「こういう場合ってどうなの?私達が力ずくで対処しても良いものなのかしら?傷つけても罪にならないわよね?」


「そ、それは……」


「相手が先に危害を加えようとしたら……身を守るために反撃しても大丈夫よね?」


「それは……身を守る為でしたら……仕方ないと思います……」


「もし相手が武器などで斬りかかってきたら……場合によっては死んでも罪にならないわよね?」


「そ、そうですね」


 ヨシコは男達を一瞥する。


「――と、言うことでヤスコ、相手が手を出して来たら反撃して良いわよ。出来れば殺さない様にお願いね。殺すと面倒事が増えるかもしれないから」


 その言葉にヤスコは「はい」と返事をすると声を上げる。


「スグにお姉様から手を離しなさい、離さない場合は攻撃の意思ありとみなします」


「コイツ、女だと思って親切にしてりゃ調子に乗りやがって。荒っぽいのが好きならお望み通りにしてやるよ」


 その言葉を聞いたヤスコはまるで可哀そうなものを見るような表情かおを浮かべる。


「私も無益な戦いは好みませんが振りかかる火の粉は払わなくてはなりません」


「――てめぇ!ぶっ殺すぞオラァー」


 その言葉を発すや否やのタイミングでつかみかかろうとした男に対してヤスコは体躯からだに拳を振るった。


「――うげぇ!!」


 軽やかに放ったその拳は男の体躯からだに深くめり込むと、まるで放り投げたかのように体躯からだが飛んで行った。そしてその方向にあったテーブルと巻き込まれた不運な客に激突し止まった。テーブルや椅子、そして食器が壊れる音が響き渡る。そして一瞬の静寂の後、遅れて男達が叫んだ。


「お、おい!?大丈夫か?」


「てめぇ!?どういうつもりだ!」


「女だからって、無事で済むと思うなよ!」


 男達はヤスコ達を取り囲み、一斉に怒声を上げる。

 その様子をみたヤスコはまるで挑発でもするかのように小馬鹿にしたような表情かおを浮かべる。


「これ以上お姉様の邪魔をしたら、こんなものじゃすみませんよ?」


「て、手前!!!」


 その挑発にガマンできなくなった男達が一斉に殴りかかろうという気配を見せた瞬間とき、まるで図ったかのように声が響いた。


「お、おい……。コイツ息をしてなく無いか?」


本気マジかよ、大丈夫か?」


 男が吹き飛ばされた方角からそんな声が聞こえ騒がしくなる。


「ま、まさか死んだんじゃないだろうな?」


「うそだろ?おい?」


「こ、安宿屋ここで殺しなんて……」


 それらの声を聴いた男達は一斉に武器を抜いた。


「ヤスコ、貴女は剣を抜いてはダメよ」


「はい、分かってますお姉様。こんな者達の血でお姉様からもらったあの美しいジョワユーズを汚したくありませんからね」


 挑発するかのように微笑むヤスコ。


「――ぶっ殺す!!」


 男達はヤスコの言葉に、今まで抑えて来たものが我慢できなくなったかのように一斉に武器を振るってきた。


「貴方達には、その身で警告を無視した愚かさを感じてもらいます」


 ヤスコはそう呟くと男達へ向かっていった。






§ § §






「うーん、やっぱり面倒くさいわね……」


 血で赤く染まった床を歩きながらヨシコは呟く。


「ソルトアースオンラインでは戦利品ドロップアイテムは勝手にストレージの中に入ったんだけど……。ヤスコ、ちゃんと見落とさないで金目の物を回収するのよ?あと武器や装備ももらっておきましょう」


「はい、お姉様」


 嫌そうな顔一つせず血染めの床を歩きまわりながらヤスコが倒れている男達の懐を漁っている。

 そして嬉しそうな表情かおをしながらヨシコに金品を渡しているヤスコを見ながら、ヨシコはまるでソルトアースオンラインで貴重な戦利品ドロップアイテムを入手した時のような不思議な感覚が沸き上がった。

 一通り戦利品ドロップアイテムを回収すると、息の無い者にも虫の息の者にも念のため死なない程度になる様に〈治療キュア〉を掛けておき、安宿屋の外に放り出す。

 そして騒ぎの間中ひきつった表情かおを浮かべていた店員の女性と、騒ぎを聞きつけて奥から駆けつけて来た店の主人らしき男性に声を掛ける。


「私達が悪いのではないとはいえ安宿屋ここの備品を壊してしまってごめんなさい。これで足りると良いのだけれど……」


 そう言って女性に手渡した硬貨コインが入った袋には血がこびりついているのを店の主人は見逃さなかった。


「あ、あの……これは……?」


「彼らからのお詫び料よ。足りなかったら外の彼らが目覚めたら請求するといいわ」


 恐る々々袋の中身を見ると銅貨の中に銀貨もチラホラ視得みえる、そしてその硬貨コインにも血がびっしりこびりついているのが視得みえたが、何事も無かったかのように袋を閉じた。


「い、いえ!これだけあれば大丈夫です!し、心配には及びません!」


「そう?それは良かったわ。それでは邪魔が入っちゃったけど改めて私達を部屋に案内して頂戴」


「は、はい!ただいま!」


 慌てたように二階へ駆け出す女性の後ろをヨシコ達は微笑みながら着いて行く。そしてふと入ってきた方角を見ると、先ほどの騒ぎで壊れたドアの隙間から、どこからか集まって来た人達が外に放り出した男達の衣服を剥いでいるのが視得みえた。

 それを視たヨシコは何事かを頷きながら前に振り返ると足を進めた。






§ § §






 二人の姿が視得みえなくなると、それまで巻き込まれないように食堂の隅にいた者や、一旦外に避難して戻って来た者がざわめき始める。


「……なんだあの女達は……」


「みたか?あの男が一撃であそこからソコまで吹っ飛んできたぞ?」


「い、いくら向こうが先に手を出したからといって、あそこまでやるなんて……」


「立ち上がれないほど痛めつけた上にみぐるみ剥ぐなんて。悪党の一歩手前じゃねーか」


「でも金は全部店に渡していたみたいだったぞ」


「あいつらが身に着けていた装備品見たか?ありゃかなり高価なものに違いないな」


 様々な意見が飛び交うが、ヨシコ達がただ者ではない、という意見だけは一致していた。

 そして、その話題の中心人物であるヨシコ達の冒険は、まだ始まったばかりだ。

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