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クランマスターの異世界冒険生活  作者: 黄龍
1章 Visitor to abyss
16/31

15 デスネル村にて――対峙――

 もうすぐ日の光が完全に大地の下に隠れようとしている。

 恐らくそう遠くない時期に辺りは暗闇に包まれるだろう。

 しかしまだかろうじて日の光が差し込むその場所は先程まで激しい戦闘があったであろう様子を示していた。

 そしてその場所にたたずむ数十人の男――もしかしたら女性もいるかも知れないが――達がいる。

 そばに付き従う様に同じくたたずむモンスター達、魔法詠唱者スペルキャスター魔獣招来サモン・モンスターによって異次元から招来されるといわれる者達である。


 カレリアーニョもそんな場所で呆然と立ち尽くしていたうちの一人である。

 今まさに打ち倒そうとしていたアーデルハイドが目の前から忽然と消え去ったのだ。


「馬鹿な……」


「た、隊長これは一体……」


 近くにいた部下も何事が起ったのかわからずに声を上げた。


(これは一体どういう事だ!?)


「さ、探せ!まだ遠くには行っていないはずだ!」


 その時部下の一人が声を上げる。


「む、向こうから何者が来ます!」


 カレリアーニョがそちらの方向に目をやると、確かに何者かが近づきつつあった。


(誰だ?敵の救援部隊か?アーデルハイドが消えたのとなにか関係があるのか?)


「……油断するな……。そのまま戦闘態勢を保ちながら様子をみるぞ」


 そのまま待ち続ける事数分、その人影は一人の女性だった。もちろん先程まで倒れ伏していたアーデルハイドでは無い。

 その女性をカレリアーニョは戸惑いながらも観察する。

 軽装の剣士と言ったところであろうか?黒を基調とした帽子をかぶり、赤いガントレットをしている。そしてその体は真っ赤なタバード覆われており、左手には何者かの顔が描かれた高価そうな盾。左側の腰には細かい金細工がされた鞘にささった剣を身に着けてる。

 どれもこれも決して一兵士が身に着けているような代物ではない。

 もう少しで討ち取れるというところで消えたアーデルハイド、そしてそれと入れ替わるように姿を現した目の前の女性。何か関連性がある事は明らかだった。

 カレリアーニョは部下達に戦闘態勢を取らせたまま、招来しているマラーイカ達を自分達の前に盾のように配置していた。目の前の女もある程度の距離を取ったまま詰めようとはしてこなかった。

 そしてその状態のまま僅かな時が流れた後、目の前の女が不意に声を発した。


「こんにちわ。貴方達は先ほど村を襲った王国の兵士達の仲間なのかしら?」


 その声はとても澄んでいて、離れているのにかかわらずあたりによく響いた。

 カレリアーニョは返答しない。そのまま無言のまま相手を見つめているとさらにその女は言葉を重ねた。


「少しばかり話したい事があるのですが……大丈夫ですか?」


 この女は一体何者なのだろうか?これだけの数の魔法詠唱者スペルキャスターとモンスターを前に対して恐怖を感じている様子が見えない。それどころか余裕がある態度にも感じられた。

 その様子にただならない物を感じながらもカレリアーニョは黙って話を聞いていた。得体のしれない相手だ。ここは相手の話を聞いて情報収集をしたほうがよい、という合理的な判断が働いたためだ。

 カレリアーニョが沈黙していると、それを了承と判断したのか女はさらに言葉を続ける。


「無言ですか……。まぁ、言いたい事だけ言っちゃいましょうか。貴方達がどなたかは存じませんが、出来ればそのまま帰っていただけませんか?そうすれば私からも手を出すことはしません。無事にお国へ帰れますよ?」


 その言葉は本心のように聞こえた。要約するとこのまま逃げ帰るのならば手を出さないであげるが、敵対するのであればこちら側を打ち倒しますよ、ということだ。そして目の前の女は自分がそれを出来ると信じ切っている。

 舐められているな……。それがカレリアーニョの偽りざる心境だ。


「お前は何者だ?」


 カレリアーニョは初めて目の前の女に言葉を発した。


「私はただこの先にある村人を守ると約束をした者です。名前は……どうでもいいでしょう?貴方達がこのままお国へ帰っても、はたまた私に倒される事になっても、どちらでもきっと二度と会うことはないでしょうし」


 こいつ……。

 明らかに見下された態度にカレリアーニョの心に怒りが沸いてくる。

 その余裕そうな態度はただの勇気を履き違えた無謀ではないのか?愚か者なのだろうか?


「あー、私は貴方達の先ほどの戦闘のログを……いえ、戦闘の経過を観察していました。あれが貴方達の普段の戦闘だとすれば貴方達ではまず私には勝てませんよ。というか絶対勝てるから来たんだけど?」


 だから無駄な事はやめなさいと言いたげに女はそこで言葉を切った。

 なるほど……とカレリアーニョは思考する。

 この余裕そうな態度も先程の我々の戦いを見ていて、必勝であると判断したのなら納得がいく。

 何をどう思ってそう判断したのか知れないが……何か奥の手でもあるのだろうか?


「それで……どうでしょう?貴方達は引いてくれますか?」


 そして女が緊張感も何もない様子で再度尋ねて来た。


「……身の程知らずが……。我々にそのような口を聞いた報いはその身で受ける事になるぞ」


 カレリアーニョの言葉は決して強がりではない。今まで多くの戦闘を無事に切り抜けて来た経験がその言葉を肯定していた。


「はぁ……。そうですか、めんどうくさいなぁ~」


 そして女は順番に指をさすと言った。


「うーんと、その五匹がマラーイカソードマスター、そっちにいる六匹がマラーイカランサー、そっちの集団がマラーイカウィザード、あれはマラーイカクレリックの集団、あらパラディン、ダークナイト、レンジャーの集団もいるのね。結構バランスがいいじゃない」


 その声に部下からざわめきが生じる。もちろん的確に当てられたからだ。

 基本、魔獣招来サモン・モンスターによって招来されるマラーイカは人と同じ職業ジョブを持つとされている。が、その種類は多くまたそれぞれ姿の差異もそれほどない物が多い。

 それを的確に当てて見せたその女はかなり魔獣招来サモン・モンスターに詳しいと思える。

 しかしヨシコにとってはどれもこれも見慣れたモンスターばかりだった。全部腐るほど戦ったモンスターだ。

 ソルトアースオンラインでのマラーイカは武装のちょっとした差によって眷属の種類をかさ増ししているのだ。

 しかもモンスターとしてのマラーイカはフィールドにPOPするまで職業ジョブが決まっていないため、狙い通りのモンスターを出現させるのに下手をすればかなりの時間が必要になる。

 封魔獣鏡によるモンスターのコンプを狙っていたプレイヤーにとっては何ともはらただしい仕様だった。

 そしてヨシコもその仕様に振り回されたプレイヤーの一人だった。


「後ろにいるのは……あぁ、マラーイカサモナーとテイマーか。その二つはマラーイカ自体が眷属を呼び出すからちょっとめんどくさいのよね。でも……」


 女の軽口のような言葉使いにいら立ちを覚えながらカレリアーニョは女の言葉をさえぎって問いかけた。


「女、お前アーデルハイドをどこ隠した?お前の仕業なのだろう?」


「あぁ、アレね。村に移動させたわよ」


「なん……だと……!?」


 ありえない、そう思い直したカレリアーニョは再度問いかけた。


「一体どうやって?ウソをついてもスグにわかるぞ!」


「嘘なんかついてないんだけどね。持たせたアイテムのおかげで彼女の座標は分かってたし、あとはその座標を元に魔法で引っ張っただけよ?」


 座標?魔法で引っ張る?カレリアーニョには女が何を言ってるのか不明だった。


「どうでもいいけど村にいるのは分かっても探しにいくのは無理よ?」


「なぜだ!」とカレリアーニョは苛立ちながら叫ぶ。


「だって……貴方達は今からここで……私にたおされるんですから」


 その言葉とともにその女の雰囲気が大きく変わったのは気のせいではない。


「しかしうまくいかないものですね、村ではうまく立ち回れたと思ったのに……」


 女は小さな溜め息をついた。


「こんなんで私はこれからこの世界でうまくやってイケルかしら……」


 次は、はぁ~と大きなため息をつく。


「まぁ、そう思い通りにならないのが人生よね」


 そして、そこには今まで軽く笑みを浮かべていた顔はすでになくカレリアーニョ達をにらみつけていた。


「私は貴方達に逃げ出すチャンスを与えました。そしてそれを選択してくれれば良いとも思っていました」


「……我々がお前相手に逃げ出すなど本当に思っていたのか?」


 その急変した雰囲気に威圧されながらもカレリアーニョはあくまで強気の態度を崩しはしない。


「倒すことは決まったけど、無暗に抗わないほうがいいとおもうわよ?人をいたぶって喜ぶ趣味はないけどね。それでもイラっときたら何をするか自分でも保証できないし」


 そして女はゆっくり前方に歩みを進めた。だたそれだけのはずなのに――。

 気が付くとカレリアーニョも部下たちも数歩あとずさりしていた。


「な……」


 あちこちから怯えをかみ殺すような音が漏れる。もちろん部下たちが発した音だ。

 そしてカレリアーニョもその例外ではなかった。

 幾多の戦場を経験してきたカレリアーニョにとっても怯えるなどそうそうなかった事だ。

 十数年来無かったといっていい。

 直接的には今の状況よりもはるかに厳しい状況になったことはある。

 その時も死の危険は感じても、戦いの前に怯えるということはなかった。

 それほどの圧力プレッシャーをこの女から感じているのだ。


(わ、私にこれほどの圧力プレッシャーをかけるこの女は……一体何者なんだ?)


 このままではまずい、そう感じたカレリアーニョは部下達に命令を下す。


「その女を近寄らせるな!殺せ!」


 その命令をまっていたかのように一番先頭にいたマラーイカソードマスターが女に剣を振るった。

 多くの者は避けるか盾で受けるかを予想しただろう。

 しかしその女の行動は誰もが予想外の事だった。

 そのまま何もしなかったのだ。

 そして剣はその勢いのままに女の体を切断するように見えた。


「ふふふふ……フゥーハハハハハハ!」


 なんてことはないすべてはハッタリだったのだ。

 カレリアーニョは思わず笑い声が漏れ出る。

 こんな女相手に圧力プレッシャーを感じていたのは一体なんだったのだろうか?

 でももう過ぎ去った事。あとはあの女が言った通り村でアーデルハイドを探しだし村人共々始末するだけだ。

 あの女の正体も気にはなるが殺すまえに村人から聞けばよい。

 そう考えていた時だった。


「た、隊長……」


 部下の呼ぶ声で考えを中断する。


「どうした?早いとこ村にいってアーデルハイドを探さねばな」


 さっさと行くぞ、という風に部下に声を掛けたのだが、部下から返って来た言葉はカレリアーニョの予想とは異なるものだった。


「あ、あれをみてください……」


 その声で再び女に視線を送る。

 マラーイカはその翼をはためかせて、先ほどと同じように剣を振るった姿勢のままだ。

 いや、よく見ると先ほどとは違う。

 女の手がマラーイカの剣をつかんでいた。

 そして……

 女が口を開いた。


「マラーイカソードマスター、レベル14~34、基礎ダメージ値18。そしてその基礎ダメージ値に攻防比を引数とする攻防関数によってダメージが決定されるけど……」


 女は一旦そこで言葉を区切るとさらに続ける。


「私は自己強化魔法によってそのダメージ値を最大60までカットできるの。だから攻防関数によって決定されるダメージ値から60引いたものが、私に与える最終ダメージになるわね」


 女はウンウンと頷きながら言葉を紡ぐ。

 この女は何を言っているんだ?


「このマラーイカソードマスターの正確なレベルは分からないけど、レベル34だったと仮定しても攻撃力は185しかないの。そして私の防御力は1172ね。これは魔法や特殊技術スキルを使っていない素の状態での話よ?強化魔法や特殊技術スキルを併用すると2200を超えるんだから。それに私は体力自動回復リジェネレーションが……」


 女は得意げになにかを話している。まるで出来の悪い生徒にかみ砕いて教える先生のように。


「ま、まて!お前はさっきから何をいっているんだ?」


 そしてカレリアーニョはたまらずその言葉を遮った。

 何を言っているのか理解できない。


「あー、そうか。この手の話はプレイヤーでもよく分からない人は多かったもんね。つまり貴方達にもわかりやすく言うと……」


 女はニィと笑みを浮かべ、カレリアーニョに向かって再び足を踏み出す。

 そして次の声はあたりに大きく響きわたった。


「貴方達のマラーイカだと私の体を傷つける事はできないの」

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