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クランマスターの異世界冒険生活  作者: 黄龍
1章 Visitor to abyss
15/31

14 デスネル村にて――戦闘――

「――はああぁぁぁ!!」


 アーデルハイドは気合を入れながら馬を駆けさすと隊員達もそれに続いた。

 駆けながらアーデルハイドは武器を抜く。

 そして一匹のマラーイカにその剣を振り下ろすとそのまま振り切る。

 その威力はマラーイカを切断するような威力に思えたがそこまでは至らずに剣は肉体の半ばで止まった。

 そして傷ついた体から噴き出すのは真っ赤な血……ではなく光の粒子だ。

 これはそのモンスターが魔獣招来サモン・モンスターによって別次元から招来された事を示す証拠だった。


「チッ」


 その結果にアーデルハイドは軽く舌打ちをする。今のは一撃で仕留めるつもりで放った一撃だった為だ。

 本来なら一撃で倒せた相手かも知れない。しかし相手は魔法詠唱者スペルキャスターが呼び出した魔獣招来サモン・モンスターだ。保護プロテクション等の物理攻撃を軽減する魔法がかかっていてもおかしくはなかった。

 深手を負ったマラーイカはもはや剣の届かない位置にまで逃げている。おそらくは傷を癒した上で再度攻めてくるだろう。


 そしてそれと入れ替わるようにして別のマラーイカが空中から武器を振りかざしてきた。


「なめるな!」


 アーデルハイドは瞬時に戦技〈闘争逃走反応ファイト・オア・フライト・レスポンス〉を発動させる。

 そして先程とは比べ物にならない一撃をマラーイカに放った。

 その剣はまるで柔らかなパンを切るようにたやすくマラーイカの体を切断すると、切断面からキラキラと光の粒子をほとばしりながらゆっくりと空気に溶け込むように消えた。

 それは戦闘中でさえなければとてもとても幻想的であり目を奪われる者もいただろう。

 しかし、戦闘中そのような物に目を奪われる者はその場にはいなかった。

 次の敵に狙いを定めようと辺りを見回したアーデルハイドは思わず苦笑する。

 敵の数が明らかに増えていたからだ。


「魔法というのは便利な物だな……」


 共和国軍には魔法詠唱者スペルキャスターの数は多くなく、もちろんアーデルハイドの隊にもいない。

 魔法を使えない者にとって魔法とは無から有を生み出すように見える者も多いだろう。

 正確な数は分からないが、こちらの人数よりも確実に多いだろう。

 だがそれこそアーデルハイドの狙い通りでもあった。

 此方に人数を集中してくれれば、村人達が逃れるられる可能性が高くなるのだ。


「今頃はもう脱出しているといいが……」


 そんな思いを抱きつつ一人でも多くの敵を倒すべくアーデルハイドは剣を振るった。

 剣を振るっているのはアーデルハイド一人ではない、あたりを見回せば隊員たちも必死で武器を振るっている。


「副長!ここは突撃させなさい。見ろ!敵が薄く広がってる、我々なら突破出来るはずだ」


 見回せば確かに敵は広がっている。おそらくは一人も逃がさないようにするためだろう。囲んで包囲殲滅しようとしているのだ。

 だが――。


「はっ?あの敵の群れに突っ込むのですか?……どうみても『薄く』は広がってるように見えませんが……?」


 敵は確かに広がっているように見える。が、それの数はアーデルハイド達よりもはるかに多く、副長にはとても薄いとは見え無かった。


「はー?副長……私の言っていることが間違っているとでも?」


 凄みのある顔で副長をにらむ、その顔はしらない人物が見ればとても味方に対する顔とは思えなかっただろう。

 しかし副長は一瞬ひるんだものの、スグに気を取り直し隊員達に対し声を上げる。


「い、いえ、隊長のおっしゃることに間違いはありません!全員!あれを突破するぞ!」


 副長の掛け声と供に隊員たちが突撃していく。狙いは囲みのスグ外にいる敵のリーダーと思える人物だ。

 隊員達とマラーイカはわずかに隊員達が押しているように見える。しかしそれはあくまでの一対一の場合であり、また敵は傷をおえば引いて癒せるが、こちらはそうもいかないのだ。

 しかし、隊員達も必死だ。明らかに普段以上の力を発揮している。複数体相手に互角に戦っている者も多いのだ。


「ほう……やっぱりお前たちもやれば出来るようだな。普段は力を隠していたのか?ほら!この調子でガンガン行くぞ!」


 隊員達の乗った馬がいななきながら突撃していく。敵に馬を狙われ落馬したのか降りて戦っている者も多い。

 見ると、また一人落馬し大地に叩きつけられうめき声をあげていた。

 しかしそれは一瞬の事であり、スグに立ち上がると敵に向かって武器を振るう。

 敵はその勢いに一瞬ひるんだように見えたが、それを座して見ているような敵でもなかった。


「隊長!正面に新たに敵マラーイカ数十体確認!増援のようです!」


「はー?粉砕しろ!ここを突破すれば敵のリーダーは目の前だぞ!」


「し、しかし……」


「副長、隊を二分割する。私と数名でここで敵をひきつける。副長は別動隊を率いて向こうの敵を撃破しながら回り込め!武器のない奴は敵の死体から鹵獲して使いなさい!」


「そ、それは……」


「何か文句でもあるのか?なければ早く行くんだ。ほら!行った行った!」


 副長を追い出すように向かわせるとやれやれと溜息でも付いたあと、アーデルハイドは正面の敵をにらみつけた。

 狙うは敵のリーダー。

 無事殺害できても敵が引くかどうかは五分五分だろう。

 しかしアーデルハイド達が生き延びるにはそれしか方法が無いと思えた。

 そして目の前には新たに現れた数十体のマラーイカ達が文字通り立ちふさがっている。


「邪魔をするな!死にたくない者は道を開けろ!」


 召喚された魔物に対し何を言っているんだとアーデルハイドは自嘲しながらもそう叫ばずにはいられなかった。

 そしてもちろんの事、立ちふさがるマラーイカ達が道を開ける事は無い。

 アーデルハイドは馬を走らせながら戦技を発動させた。


高速剣ファストブレード


 目にもとまらぬ速さで高速の剣が振りぬかれ、アーデルハイドの周りを囲んでいた複数体のマラーイカが両断され光の粒があたりを舞う。

 その光に包まれるアーデルハイドはまさに戦女神ヴァルキリーのように見えたに違いない。

 隊員の士気がいやがうえにも上がる。

 大技に息が若干上がるが体力的には問題は無い。そして味方の仇を討ちに来るかのようにまた複数のマラーイカが群がるように向かって来て一斉に武器を振るった。


見切サードアイ


 一斉に武器を振り下ろすマラーイカの攻撃を馬から飛び降り躱す。そしてその着地の隙を狙って後方から振り下ろされた武器もまるで後ろに目がついているかのように躱しざまアーデルハイドは剣を振るった。

 一撃で天使を両断し、そのまま流れるように周囲のマラーイカを一斉に切りつけ消滅させる。

 その姿に周囲の隊員からは「おー!」「いけるぞ!」「隊長に続け!」などの歓声が上がった。


「何!突破を許しただと!予備のマラーイカを回せ。マラーイカを失った者は速やかに魔獣招来サモン・モンスターをせよ。こっちにゼーゼマンを近づけさせるな!」


 その言葉と共に更なる増援が壁となって現れる。


「くっ、まだ出てくるのか……」


 アーデルハイドは軽く舌打ちしながらもマラーイカを次々と倒していく。

 だがもう先ほどのように隊員たちが歓声を上げる事はなかった。

 隊員達の顔には先ほどのような希望に満ちた表情は見えない。しかし、それでも必死に武器を振るっている。

 だがそれでもこのままいけば死への時間が若干伸びるだけだろう。

 隊員達はともかくとしてアーデルハイドは剣を振るうたびにマラーイカを消滅させているが、倒しても倒しても終わりが見えないのが今の現実だった。


(――余り長くはもたない……)


 今のアーデルハイドの希望は副長が率いている別動隊の働きだ。

 狙い通り敵の主力は全てこちらにひきつけられているとみていいだろう。

 別動隊が囲みを突破し、狙い通り後ろから回り込んでリーダーを倒す、もしくは倒さずとも肉薄してくれれば敵は混乱状態に陥るだろう。そうすればその隙をつくことができる。

 アーデルハイドは肩で息をしながら別動隊の健闘を祈っていた。






§ § §






 なんど大技を振るっただろう。もう戦技は数えきれないほど使っている。これほどまでに戦技を使ったのはアーデルハイドにとって実戦はもちろん、訓練を入れてもおそらく初めてだろう。

 アーデルハイドにとってはマラーイカを一体倒すのは容易である。

 しかし同時に攻撃をしてくる複数体を相手にするのは決して容易とは言えない。

 体力も無限ではないし普段は戦闘に支障がない小さな傷でさえ、長引けば少しづつ戦闘にも影響を与えてくる。

 大きく肩を上下させながら、アーデルハイドはまるでふいごのように息をする。顔からはしとどに汗が流れ、それに小さな傷から流れ出た血と混じって雫となっていた

 そこには戦い初めた当初の戦女神ヴァルキリーのような神々しさは無かった。


「ほぅ……がんばるな。だが時間を稼ごうという意図が見え見えだぞ?」


 敵のリーダーらしき男から声が飛ぶ。


「もしかして待っているのはアレかな?」


 敵のリーダーらしき男は右側にむかって指を指す。

 アーデルハイドはマラーイカに警戒しつつもチラリとその方向に目をやる。そして顔が大きくゆがんだ。

 そこには多数のマラーイカに囲まれた別動隊の姿がみえたからだ。

 戦線は膠着……いや、押されているように見える。もはや突破は難しいだろうと言うのは誰の目にも明らかだった。


 アーデルハイドは息を整えると剣を構え直した。その顔には悲壮な表情が浮かんでいる。何らかの決意の表れだろう。

 アーデルハイドの息が段々と静かになっていくが、その間にもマラーイカは少しづつ間合いを詰めていた。


「はあぁぁ!!」


高速剣ファストブレード


 ――鋭い気勢を発し、踏み込みと共に一閃、二閃と、その剣は何度もひらめく。

 その速い剣戟はまるで光を纏いながら残像を跡に残し、次々とマラーイカを消滅させていく。

 そしてそのまま前方に駆け出すとリーダーらしき男に向かい距離を大きく詰めた。

 しかし――。


「そら、獲物が檻を食い破ろうとしていぞ。おとなしくさせてやれ」


 あくまでリーダーらしき男は冷静だ。


 次々と襲い掛かってくるマラーイカがまるで壁のように立ちはだかり、そこでアーデルハイドの足が止まってしまった。

 恐らく魔法か何かだろう。不意の衝撃で体勢が大きくよろめいた。そしてアーデルハイドの顔が驚愕にゆがむ。


「獲物を休ませるな。奴は凶暴だぞ?十分に距離をとれ。マラーイカを倒された者は再招来をわすれるな」


 みると隊員達はすでに地面に伏している。曲がり成りにも立ち上がっているのはアーデルハイドただ一人、もはや敗北は誰の目にも明らかだった。

 もはや戦技を使用するだけの体力はなかったが、それでも必死に剣を振るう。

 その時、足に大きな痛みを感じ思わずアーデルハイドは膝をついた。

 視覚外から放たれた攻撃がアーデルハイドの足を貫いていたのだ。


「終わりだな。だが獲物にまだキバはあるぞ?最後にかまれないように注意しろよ」


(ここまでか……)


 死を意識した瞬間、力が全身から抜け落ちる。もはや気力も殆ど喪失していた。

 しかし、まだ一度ぐらいは剣を振るえるはずだ。そう思い直し震える腕で剣を握り締める。


「ゼーゼマンを倒してもまだ終わりではないぞ。この後に村人達を殺し、無事に本国に帰還するまではな」


 その言葉にかっと目を見開き手足に力を籠めようとする。

 あの男だけは倒さなくては……、もはや思いはそれだけだ。


「最後に言い残すことはあるか?お前ほどの兵士だ。聞いてやるぞ」


 そう言いながらも用心しているのか、リーダーらしき男はアーデルハイドに決して近づこうとはしなかった。


「む、村人達に……手は出すな……」


「この期に及んで村人の心配か、まぁ聞くだけは聞いてやったぞ。まぁ村人達は殺すがな」


「あ、あそこには……私より……強者がいる……手を出したら……お前たちでも……ただでは済まないぞ……」


「お前より強者が?馬鹿な事を。……仮にお前より少しばかり強い者がもし本当にいたとしても同じ事だ。我々には勝てんよ。お前と同じようにして倒すだけだ」


 その言葉にアーデルハイドは苦笑する。あの者達は本当に私より『少しばかり』強いだけなのかと。


「もういいぞ、最後の言葉は聞いた。アーデルハイド・ゼーゼマンを……殺せ」


 せめて一体でも多くマラーイカを多く倒してやる、そう思い剣を振り上げようとしたアーデルハイドの目の前が急に暗くなった。

 そして徐々に明るくなる視界に必死で目を凝らすとそこには――。

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