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クランマスターの異世界冒険生活  作者: 黄龍
1章 Visitor to abyss
11/31

10 デスネル村にて――村長宅――

「――うぎゃああああああぁぁぁぁぁぁ」


 人の絶叫がある方角から響き渡った。

 同じような叫び声はヨシコも何度か耳にしたことがあった。それは主に映像の中のフィクションでだが……それは人が断末魔のみに出せるという死への最後の抗い、魂の叫び声だった。


「あっちね……」


 方角を確認するとヨシコは極楽鳥マウントを召喚する。


〈システムコマンド mountマウント 極楽鳥〉


 空間の歪みから現れた大鳥に先に騎乗し、いつものようにヤスコを引っ張り上げると同時に極楽鳥マウントは羽を羽ばたかせ、その巨体に似合わない軽やかな動きで空へと舞い上がった。

 叫び声がした方角へ速度を上げながら移動する。体に吹き付ける風には嫌な臭いが混じっているような気がしてヨシコは少し顔をしかめたが、その時間は短時間で済んだようだ。

 下を見ると、デュラハンが最後の兵士に向かってその巨大な戦斧を振り上げていた。

 兵士もただ座して死を待つのではなく剣を振るう。

 お互いの武器同士がぶつかったと思った瞬間、兵士の剣が真っ二つに切断されそのまま体も左右から真っ二つに分かれると、中身がまき散らされる。

 嫌な臭いが周囲に広がり、それは上空にいるヨシコの鼻にも届くように感じられた。


「うっわぁぁ~グロすぎ……」


 ヨシコはその光景を目の当たりにすると顔をしかめて目を一時的に背ける。

 その後、上空から他に兵士がいないことを確認すると極楽鳥マウントをゆっくりを地上に降下させ、地上に降り立った。もちろんヤスコを抱き寄せる様に下ろすのも忘れない。


「デュラハン、もう大丈夫よ、そこまででいいわ」


 その声はその場所では不自然のように響いた。その声を合図にしたようにその首なし騎士は武器を下ろすとヨシコの傍で動きを止めた。

 その姿はまるで貴族に付き従う人間の騎士のように感じられる。

 ヨシコ達が下りた場所は丁度開けた広場のようになっており、村人が集められていたようだった。

 おびえる目で、一体何が起こったのか分からない、というようにヨシコ達の事を見つめていた。


「ヤスコ、アレはここの村人よね?」


「そう思います。……もしかしてアレらとも戦うのですか?」


「そうなる可能性がゼロではないってだけね。まだ可能性の段階よ、だけど油断しないでね」


「お姉様に刃物を向けるような愚か者でないと信じたいですが……。アレらは先ほどの兵士よりずいぶんと弱そうに見えます」


「……私もそう願っているけど」


 ヨシコは苦笑しながら言った。

 先ほどの兵士達と戦ってもデュラハンは無傷に見える。

 と、いうことは兵士達のレベルは50よりも随分と下なのだろう。

 その兵士に襲われていた村人達のレベルはさらに低いと想像できた。


「もし万が一お姉様より強者が出てきても、私がお姉様が逃げる時間ぐらいは稼いで見せます!」


「ありがとうヤスコ。もし万が一そのような事態になったらお願いするわね」


 そのあたりのことは地上に降りる前にヤスコと散々話し合ったことだった。「お任せください!」とヤスコはあまり厚くない胸を張って微笑んだ。

 村人達はいまだ自分達をおそった混乱から立ち直っていない様だった。

 ヨシコは油断しないように慎重に近づきながらも声を掛ける。


「兵士は全て排除しました、貴方達はもう大丈夫ですよ」


「……本当ですか?あ、貴女方は一体……?」


 若干身なりのよい中年の男性が前に出て口を開く。その表情からは恐怖や疑問がまじりあった感情が浮かんでいる。


「ここの集落から煙が上がっているのが見えましたので立ち寄った所、兵士が襲っているのが見えたから助けに来ました」


 その瞬間「おぉ~」と周りの村人達から声が上がり幾分表情が明るくなる。


「それで、少し話したい事があるんだけれど……。代表者は貴方で良いのかしら?」


「は、はい。では私の自宅にて話を伺います」


「そうね……ではその前に、森で助けた娘達がいるの。その娘を連れてくるからその後でゆっくり話しましょうか」


 そう口を開くとヨシコはニコリとほほ笑んだのだった。






§ § §






 案内されたその家は大きく立派な建物だった――周りの家に比べての話だが――しかしヨシコからみたらみすぼらしいと言える建物だった。

 そして中の一室に案内されると勧められるまま椅子に腰かける。

 室内は家具などは殆どなく粗末な椅子と机が中央に鎮座している。

 もの珍しそうにヨシコとともにヤスコも辺りを見回していた。……ちなみにデュラハンは外で待機させている。


(これは相当貧しい村ね……)


 一番大きな家でこれなのだ、おそらくこの部屋は客間だろう。他の家の内装はもっと貧相に違いない。

 ほどなくして先ほどの代表者――村長――が女性と共にもどってくると、女性はヨシコ達の前に温かい飲み物を置く。

 その中身はお茶やコーヒーなどではなくただの白湯だ……。

 お茶やコーヒーがそもそもこの世界に存在しない、という可能性もあるがおそらくは貧しさゆえに購入できない可能性が高いのだろうと思えた。

 ヨシコ達は軽く会釈をすると白湯には手を付けず話を切り出した。

 交渉は最初はヤスコがすると打ち合わせている。


「私達は貴方方を危機から救いました、それは良いですね?」


「は、はい。その節はありがとうございました」


 と目の前にいる村長と女性――きっと奥さんだろう――が頭を下げる。


「それで物は相談なのですが、貴方方はそのお礼としてどれほどの事が出来るのです?……もちろん、命を、村を救ったことに対してのお礼という意味です」


「それなんですが……」


 と、言葉を濁す村長。


「……その態度からすると何か言いたい事がありそうですね?もったいぶらずに言ってよいですよ?」


「お気づきかもしれませんがこの村は貧しく、貴女達に差し出せるものが少ないのです……い、いえ!決して貴女方に助けていただいた恩を仇で返すわけではありません!しかし……」


「……ふむ……命は助かったとはいえ貴方達もこれからの事を考えると大変でしょう。命の対価とはいえ私達……特にお姉様は貴方達が困窮するほどの報酬を要求するほど強欲ではありませんよ」


 その言葉を聞き安どの表情を浮かべる村長。元々ヨシコ達が欲しているのは情報や食料なのであって金銭そのものではない。もしこの村が食料も少ないようなら他の伝手を紹介してもらえば良いだけだ。

 チラリとヤスコがヨシコに視線を向けると、ヨシコはわずかに頷いた。


「そういっていただけると此方としても大変助かります。えーと……なんとお呼びすればよろしいですか?」


 と、頭を下げる村長。


 再び視線をヨシコに向けるヤスコ。

 名前を教えてもいいかどうか確認しているのだ。

 ここまで名前は名乗っていなかったし、ここで名乗るとしても別に偽名でも問題ない。様々な状況が未知の中にあって相手にどこまで情報を与えるかによって新たに問題が発生する可能性も否定できない。

 しかし今はこの村と友好を結ぶチャンスであり、その場合ここで偽名を名乗ったことにより将来的に不利益を被る可能性もある。

 どちらの選択を選んでもそれなりにリスクがある。それならば名前ぐらいは正式に名乗ったほうが良いだろう。

 ヨシコは軽く頷く、了承の意だ。それを受けたヤスコは同じように頷いた。


「こちらの……お姉様の名前はヨシコといいます」


 誇らしげにヤスコが言う。

 こうしてヨシコの名前は初めてこの世界に伝えられたのだった。


「あっと、私の名前はヤスコといいます。まぁ私の名前などは覚えても覚えなくてもどうでもいいことですが」


 先程ヨシコの名前を告げた時とはうって変わって、心底どうでも良いという風に自分の名前も告げる。


「ヨシコ様にヤスコ様ですね。その御尊名、助けられた者にも伝えておきます」


「では話を元に戻しましょうか。……単刀直入にいってどの程度のお礼をいただけますか?」


「……三十銀貨相当でどうでしょうか?というより今はそれ以上はお支払いできません……」


 内心でうーん、と唸るヨシコ、まず貨幣価値が分からないのだ。

 村長の言い方からするに、おそらくはこれは村を救ってくれたお礼としては明らかに過小な額なのだろう。

 一つはっきりしたことはソルトアースオンラインの基本通貨であるゴールドは使えないことである。

 まぁ、そもそもとしてゴールドは現物の無いいわば電子マネーでありこのような村で使えるとも思えなかったのだが。


「現金がそれ以上無理であれば、そうですね……食料などでもかまいませんよ?」


 それを聞いた村長はそれでも「いや、しかし……」と言いよどんだ。


「……?どうされたのですか?」


「いや、その……何と言っていいか……」


 その村長の煮え切らない返事に、今まで笑みを絶やさなかったヤスコの表情が変化する。


「はっきり言ってください。……それとも――何か私達に対して含むところがあるのですか?」


「!!そ、そんな事はありません!ヨシコ様、ヤスコ様に対しては私達村の者は非常に感謝しております!」


 ヤスコの美しい顔が一変し、はっきりといら立ちが表情に現れる。

 と、同時に向かい合う村長の表情にも焦りが色濃く浮かび始めた。

 ヤスコの肉体レベルは99、そして装備をいれた総合レベルでは100を優に超える強さだ。これは兵士を皆殺しにしたデュラハンよりもはるかに強く、村人達なぞ皆殺しにするのはたやすい。

 そしてヤスコは、ヨシコを守る為なら文字通り『なんでも』するだろう。


(またヤスコが良くない感じになってるわね……)


 ヤスコの交渉能力は正直な所ヨシコには良くわからなかった。

 そのヤスコに交渉を任せたに本人たっての希望だった為だ。

 おそらく今提示した額がこの集落にとっては本当にギリギリなのだ。これ以上ビタ一文も出せないのだろう。

 無理をすればおそらく出せるのかもしれない、しかしその場合は恐らく餓死者が出る可能性もあるのだろう。

 そこでヨシコは前もって合図をしておいたサインを出す。


「ヤスコ」


「はい、お姉様」


 ヨシコの方に視線を移すとサインを確認し、そして頷く。

 そして表情をやわらげると先ほどとはうって変わってやさしい表情を作る。


「なるほど。わかりました……今提示した額が貴方達にとって本当に精いっぱい、これ以上は例え食料などでも無理。そういう事なのですね?」


「は、はい!今私が提示した額がとても貴女方の働きに対して見合わない額なのは分かっています。……しかしながら本当にこれ以上出せないのです……村には家を焼かれた者も家族を殺された者も多くいます。その者も村で面倒を見なければなりません」


「そういう事でしたか、わかりました。本当はその銀貨三十枚ですら厳しいのでしょう?であれば、別のお礼をいただきましょう」


「はぁ?別のお礼と申しましても……我々には他に差し出せるものが……」


 村長は緊張し何を要求されるのか?と戦々恐々としている中、考える素振りをしていたヤスコが少し時間を置き、口を開いた。


「では代わりにこの周辺の地理などの情報をいただきましょうか。私達は遠くから来たのでこのあたりの事情には不慣れなのです。貴方達にとっても金銭や物資よりを渡すより都合が良いでしょう?」


「なるほど、そうでしたか。それでしたら私が知っている全てをお教えしましょう!」


 初めて村長の顔に笑顔が浮かんだ。何を要求されるか分からず戦々恐々としている中、想像をはるかに超える安い代償で済んだことへの心からの喜びが顔に出たのだろう。


「そしてもう一つあります」


 突然のヤスコの言葉に村長の顔が強張るが、次の言葉を聞き再び笑みを浮かべた。


「私達のことは極力他の人には口外しないようにしていただけませんか?もちろん後日、国などから調査等が入った場合等はやむを得ませんが、その場合でも最小限に。軽々しく私達の事を吹聴してほしくないのです」


「了解しました。誰にも言わないよう村民にも言い含めておきます」


 ヨシコ達が欲しいのはまず情報だ。今の所金銭の価値さえ分からないのだ。

 金銭については今手に入れなくても、とりあえず手持ちの不要なものを売却して現地通貨を手に入れる、という手もある。

 また先ほどの兵士の件もある。あの兵士達の強さを基準にしてもいいのか?ということだ。

 あれが選りすぐりの精鋭部隊、というのであれば何も問題がないが、あれはただの雑兵であり精鋭部隊は私達より強かったりした場合、他の兵士には敵対行為はうかつにできなくなる可能性がある。


「では早速お時間をいただきますが、いろいろとご教示ください」

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