出会い
新作です。
力作です。
よろしくお願いします。
道端に座っている男の子、7歳くらいであろうか。虚ろな目で空を見上げている。道行く人は気にする風もなく、当たり前かの光景のように通りすぎていく。
その男の子は何年も洗ってない様に見えるもはや服とも呼べない物を身に纏っており、痩せこけ今にも風で飛んでいきそうだ。
その男の子だけではない。通りすぎる人、小さな格差はあるものの皆似たり寄ったり、みすぼらしい印象を抱く。
「こんなところでどうしたのですか?」
その男の子に声をかける者が居る。
その男はこの場所には場違いな雰囲気を漂わせている。
髪は綺麗にセットされており、中世の貴族のような服を着ている。
周りからは柑橘系の香水の香りがして、他の人の飢えている様な目と違って暖かな目をしている。
「...」
その男の子は黙ったまま警戒した目でこちらを見てくる。
何故、話しかけてくるか分からないような顔だ。
「お腹、空いてるんじゃ無いですか?」
そう言って貴族風の男はポケットに手を突っ込み、棒切れの様なものを取り出す。
何を出されて居るのか分からない様な怪訝な顔をしている男の子を遮るように
「栄養バーですよ。1本食べるだけでお腹も膨れますし、栄養も取れます。...味は保証出来ませんけどね。」
男の子はさらに不思議そうな顔をして
「...くれるのか?」
警戒を続けたまま恐る恐る訪ねる。
「えぇ。どうぞ。」
男の子はその貴族風の男の手から栄養バーを奪い取り、口へ運ぼうとした瞬間に貴族風の男に取り返される。
「マナーがなって無いですね。人から物を貰ったら"ありがとう"でしょう。常識ですよ。」
貴族風の男は男の子をからかうように諭す。
「あり...がとう?」
男の子は栄養バーから目を離さず、何故そんなことを言わなければ成らないのか分からないと言った口調で言う。
「そうです。気をつけて下さいね。」
そう言って貴族風の男は栄養バーを男の子に手渡す。
男の子はそれを急いで無言で食べる。
「あまり急いで食べるとむせますよ。」
貴族風の男が優しくそう言うと、案の定その男の子は喉に詰まらせ咳をする。
貴族風の男はしょうがないといった様子で手に持っていた水筒を手渡し、
「水です。飲んでください。」
男の子は黙ってそれを開け、凄い勢いで飲んでいく。
食べては飲み、食べては飲みを30秒くらい繰り返し栄養バーを食べ終わる。
「美味しかったですか?」
貴族風の男がそう訪ねると、男の子は首をこくこくと頷かせる。
「それは良かったです。」
男の子は水筒を返すと共に貴族風の男に問いかける。
「何で、こんな事をしてくれるんだ?」
疑心と不安が入り交じったような問いかけ。
「困っている者は見過ごせないでしょう?」
その返答に男の子は不思議そうな顔をして
「俺に返せるようなもの何て何もない。」
「返す必要なんて無いんです。」
「自分の力で生きて行かなきゃいけないのに?他人を助けるの?」
男の子はまるでそれが当たり前かの様に、そして、本心からそれを言っていた。
「君くらいの年齢の子がそんな悟った様なことを言わないでください。」
貴族風の男は悲しそうな顔をして男の子に言う。
「でも、そうしなきゃ生きて行けないって。お母さんから言われた。いずれお前も一人で生きて行けるようにならないとって。」
男の子はお母さんと言う単語を言った途端に悲しげな表情になる。
「お亡くなりになったんですか?」
「生きてる。だからここで帰りを待ってる。ずっと。」
「いつからですか?」
「一週間くらい前に、いつも通り、日銭を稼いでくるって外に出ていって...それから。」
「...」
貴族風の男は何かを男の子に伝えようとするが言葉にならない。
「...言わなくても分かってる。だから一人で生きていかないと。お母さんの分まで。」
少年は決意に満ちたような顔をしている。
「君は随分と大人びてますね。これも時代のせいですかね。」
辛そうな声で呟く。
「君の名前は?」
貴族風の男は男の子をに問う。
「名前...?」
不思議そうに貴族風の男を見る
「君は親から何て呼ばれてましたか?」
「...それとか、ねぇ...とか?いつ死んでもおかしくないからっていってた。」
死ぬと言う単語は別に今の時代では何ら不思議な言葉ではない。
むしろ、名前をつけてしまうと、愛着がより深くなってしまい、失ったときの悲しみが倍増する、と言った理由から名前をつけないのはメジャーだった。
「じゃあ私が、名前をつけてあげましょう。今日から君の名前は"レノ"そう名乗りなさい。」
「何で?別に必要ない。」
そう言った男の子に対し、貴族風の男は困った顔をして、数秒後閃いたように
「じゃあ、栄養バーのお礼ってことでどうですか?」
少年は驚いたような意味の分からないような感じで
「そんなことで良いのか?」
「じゃあ、君は今日から"レノ"です。」
レノは少しだけ口元に笑みを浮かべて
「お前は不思議な奴だな。」
そう言って、恥ずかしいのか顔を逸らした。
「よく言われます。私の名前はヴェル=クレチアです。気軽にクレチアとでも呼んでください。」
「クレチア...」
レノはまた口元を緩める。
誰かに心を許したのは久々のようで、気が少し抜けたらしい。
「ここで会ったのも何かの縁です。レノ。文字と地図は読めますか?」
そう言ってクレチアはポケットから紙切れを取り出す。
「うん。お母さんから必要最低限のことは教わった。」
「ならよかった。」
クレチアが取り出していたものは地図であり、それをレノに渡す。
「困ったことがあったらここを訪ねてください。今の時代は君みたいな子が一人で生きるには危険すぎる。」
「本当不思議な奴。でも、一人で生きていける。仕事も出来る。」
レノは誇らしげにクレチアに言って、その場から走って立ち去っていく。
その背中をクレチアは眺めている。
ある程度離れてから不意にクレチアは口をこぼす。
「1週間前から戻ってない...ですか。人間同士のトラブルなら言いですけどね...」
そう言ってポケットに入っていた栄養バーを齧る。
「あいつらの可能性も十分あり得ます。調べてみても良さそうですね。」
そう言ってクレチアはレノとは逆方向に歩き出す。
読んで頂き感謝です。