第109話 鍛冶仕事見学してみた
日曜日です!もう真昼です!
未だ春だというのに、
夏日がちらほら在りますよね。
要らねええ!
汗搔きたくないんだよ!!
やはり激しく汗を搔くヒトの方が
ニオイが出てしまうもので
御座います故!
早朝、と言うよりも未だ日が出ていない頃。
炉に入れた火だけが光源で怪し気な雰囲気が漂う部屋に、十九人の男女が立って居た。
なんてな!自分を入れて十九人だ。
年長の男、年は中年位かねえ?詰まりオロチが皆の前に立つ。
「まあ、何じゃな。今日始めるこつでもなかが、今日片付くこつでもなかばい。
途中っちゃあ途中なんじゃが、大事な所っちゅうんば間違い無かが。
んじゃからのう、取り敢えず何日か見ちょってくれれば其の内分かって貰えるかのうち、思うんじゃがな?」
…オロチは口下手なのだ。
オロチの横に立ち、自分は口出しする。好きでやってる訳じゃないんだが!
「説明はごちゃごちゃ言ったら聞く方も混乱するから、すっきり纏めて言おう!」
「其うかい!わしん出来るこつぁ鉄ば打つ!其れだけじゃあ!!」
口出しを気にする事無く、オロチは豪快にがははと笑いつつ言う!
「良いねえ!後は見ていろ、と!分かり易い!」
自分は相槌を打つ。あ、例えの方の意味ね。此処は鍛冶場だけど本当の意味で
やる訳じゃあないよ?
「おう!じゃあいくぞ!!」
「うんうん。自分から言う事が有るとすれば、一打一打が他とどう違うか、
考えながら見たら上達が早いんじゃないか、と思うよ!」
オロチと自分以外、刀鍛冶の弟子候補達だな!連中に聞かせる為に言う。
勿論、最初から見分けが付く訳が無いのは承知だが、其れでも気を付けるか
付けないかで今後大きく変わってくると思うのだ。
其れから、注意もしておかなくてはいけない。
「気分が悪く成ったヒトは素直に言ってね!部屋から連れ出して上げるから。此処は暑い、いや熱いからね!」
蛇足かも知れないが。気温的なあつさは「暑」の字だが、此処は
火を燃やしていて「熱」いからね!
自分が注意を促す内、オロチは何やらを取り出す。
先端に、金属板…と言うには厚さが有り過ぎて幅が狭過ぎる金属塊が付いた金属の棒だった。棒は角張っていて、持つ所に布、いや、紐と言った方が良いものが
巻き付いている。
「何?其れ」
自分、見た事無いモノだからね!
「何ち言うたかて、鋼ば造っちょる所じゃけえ!」
「はあ?鋼ねえ?」
「玉鋼ち言う塊をじゃな?薄く延ばしてから砕くのじゃが……」
「おお!玉鋼!!文字で見た事有る!
砂鉄と木炭を交互に積んでひたすら焼き続けるんだよね!」
弟子候補達に聞かせる為も有って自分は言う!まあ、初めて聞いた所で何が
何やらではあるだろうが!其れでも昔ながらの、只黙って作業し続けるだけよりも発達すると思うのだ!
「お?おう!まあ、玉ち言うてもゴツゴツの塊じゃがな?」
「其うなの?!」
「おう!どげん雑に見たばってん、丸くばなかぞ?」
「おお…文字で見ただけじゃ分からない事も有るモノだねえ」
「文字ち言うて、何ちゅう書物ば見よっとか?」
「えー…と。娯楽小説…って所かね?」
ラノベでぇす!とか言ってもオロチには通じないからな!
「娯楽?!暮らしの足しにゃ成らんと、面白がって読む本っちゅうこつかい?」
「其んな感じ!」
「ほぉお?随分凝った娯楽じゃのう!
………んでじゃな?玉鋼ば砕くと砕け具合でどの部分に使うか
大体判ってじゃな?」
「おお!炭素量で区別する訳だね!!」
「タンソ?」
オロチには元素の名前が分からない様だ。やっぱりオロチが持つ日本人の記憶は昔のヒトという事なのだろう。
「炭の素と書く。焼くと炭に成る存在、ぶっちゃけ生き物の材料って所。
鉄に炭を混ぜているでしょう?」
「お、おう!其うじゃな!」
「で、混ざった炭素量が多い程硬く脆い鋼に成る。砕け易く成るって事だね!」
「ほおう?何ち言うか、ちいの知識ば偏っちょるのう?」
「書物を読んだだけだからねえ」
書物と言えば作り話、という訳でもないが、作り話に出て来る様な妖刀の類で。
熔鉱炉にヒトを放り込むだか自ら飛び込むだかして焼いた鉄で造った刀。其れが普通ではない妖しい能力を持った刀に成る、なんて設定が有ったりするが。
現実的に言おう!ヒトだって焼けば炭に成るのは確かだ!ならば若しかしたら
偶然炭素の割合が丁度良い鋼が出来る可能性も、有る、かも知れないねえ?とは言っておこう。だが其れだけだ!ヒトを炉に放り込んだからと言って必ず妖しい
能力が付くだなんて誰が決めたのか!はっきり言って無駄な行為でしかない!!
其れにだな?燃焼という現象は、派手ではあるが実は威力は見た目程ではない
のだ!本気で生き物を焼き殺そうと思ったら、何時間もじっくりと焼き続け
なければいけないのだ!焼け死ぬというのは迚も苦しい死に方だと言うぞ?!!
超悪趣味な拷問漫画で、もう上半身だけ、其れも焼け爛れている火炙りにされているヒトが「早く殺してェ」とか叫んでいる場面が有ったな!其れはまあ作り話であるにしろ、焼いたからって中々直ぐには死ぬモンじゃあないって事だな!
火炙りの理由だが、魔女狩りの場面だったので、悪い奴だから処刑した、なんてモノではありはしないぞ?!!魔女狩りと言うのは昔の西洋の、愚かで無知な
馬鹿野郎どもの所業だからな!!
其れは其れとして!玉鋼を砕いたら、という話だ!
「砕いた欠片ば組み上げてじゃな?紙で包んで灰ば塗す。更に粘土ば溶かした水ば掛けてじゃな、焼いて鍛える。
此いつが出来上がったヤツっちゅうこっちゃな!」
「積み沸かしって奴だね?」
「ばっははは!其うじゃあ!!」
オロチは豪快に笑って鋼を炉に突っ込む。其してしばらく火に当てて…
赤熱した鋼を取り出す。
「此ん色ば良う覚えちょくがええ!日ば出ない内に見るんが骨じゃな!」
さらりと。オロチは秘伝を言った!ラノベでは一子相伝の秘法だった筈だぞ!
…ラノベで語っている時点で一子相伝?(笑)ってモノだが!
其してオロチは鋼を打ちだす!
きん!きん!きん!
金属を金属で叩く割には少々くぐもった様な音がして。割と火花が飛び散る。
「おお!不純物を叩き出して、炭素量を調整する訳だね!」
弟子候補達に解説する為も有って自分は語る!
「不純物?」
オロチの方が訊いてきた!器用にも、鋼を打つ動作を妨げない様に
言葉を紡ぐのが感じられる!
「飛び散っている火花は鉄に混じっていた別の金属なんだよ!其れから、鋼を打つと、炭素量も減る。其れで丁度良い量に調節する訳だね!」
「ほうかい!」
オロチは返事をしながらも鋼を打つ手を休めない!職人だね!
喋りながら動くって、やってみると凄く難しいぞ?
其して不純物を叩き出す此の作業。単分子化、等と表現しているお話も有ったが。此れをするには昔ながらの炉の温度が丁度良いのだと言う。現代の熔鉱炉は
温度が高過ぎて金属が全て熔けてしまい、分離出来なく成るのだと。
詰まり、鉄は熔けないが銅や錫等、まあ混ざり物の金属だな!其れ等は熔ける
温度で焼いて、熔けた混ざり物を叩いて飛び散らせる、という訳だ。
勿論、熔けたからと言って金属を叩き出すのは容易ではない。なさ過ぎる。
手間は気が遠くなる程掛かるし、技術力が大きく影響する。大き過ぎる。
長年磨いた技術を持つ職人が、嫌に成る位の手間隙を掛けてようやく
為し遂げられる事なのだ!…昔のヒトって…凄いね?
其れに、言葉もまともに使わないで良く弟子に伝わるモンだね?…いや、
やっぱりまともに伝わる場合はほんの一握りで、殆どは
廃れてしまうのだろうね?
ききん!ききききん!きききききん!
おおっ?!鋼の打ち方が連打に成ってきた?!!其れに!!
オロチの手を見ると、槌をしっかりとは持っていない!!槌を放るかの様に
打っているのか!!
とは言え、完全に手放している訳でもない。何と言うか、手を翳して槌を操っているかの様だ!オロチは魔法を使える訳でもなければ、槌には操り人形の様な糸が付いている訳でもない!純粋に物理的な指づかいで槌を操っているのだ!!
放っている、とは言っても、狙った場所に、思い通りの強さで当てている!
広範囲に、満遍なく。まるで絨毯爆撃の様だ!!
更に!拍子も一定な感じがする!!オロチが使っている槌は楽器な訳でもないし、鉄を打つのは演奏な訳でもない。明らかに音楽とは別物ではあるが。
其れでも!
此れが何時ぞや言っていた、七音階を鍛冶に採り入れる、という事か!!銅や錫等混ざり物と共鳴する拍子で叩く事に因り、より確実に混ざり物を叩き出すと!!其う言う事の様だ!!
其して!!此の連打!!!まるで東郷示現流を参考にしたかの様だ!!いや!
したのだろう!!!言う成れば右肱切断!!………ああ、いや。衝撃が手に
伝わらない様にしている、って事、ね?
広い世の中、鍛冶師が主人公のお話はちらほら有りまして。しかし、詳しくは
鍛冶仕事が知られていないからでしょう、殆どの作品では不思議パァウァーで、
材料がパーっと光りました!其して一瞬で製品に成っちゃいました!!…って、
感じだけども。ゲーム脳?
所が極一部だけ。本格的な作品も有りまして。背景もね!鍛冶師の息子で、大学だかも其っち方面の学部を出た昔と現代のハイブリッドな主人公とか言ってね!
其んな主人公さんの槌の持ち方は。手が槌に吸着したかの様にピタッと握る。
ってものだった。しかも、未だに槌の握り方は追求している最中だ、と。一生追求し続けるのだろう、と。
はっきり言って、オロチの使い方は真っ向から反発している!
本格的な作品に対して!!
しかし、だ。
此れも一つの答え、なのだろう。と、思う。どちらも否定しては
いけないのだろう。
槌をピタッと吸着したかの様に握る主人公さんは。途中、腱鞘炎に苦しんだ。
腱鞘炎。無理な姿勢を維持したまま長時間、単純な動作を続けると罹る、体の
不具合だ。現代日本だったらパソコンで仕事をするヒトなんかに見られるだろう。キーパンチャー病とか呼ばれる職業病とされている。
其れの解決策は。機械を導入する事だった。大きな力を出したいなら道具を
使えば良い。只、機械には細かい作業は無理だから、其処はヒトの手で微調整
する、と。
対して。オロチには機械を使うなんぞという知識も無ければ設備も環境も無い。己が手で鉄を打ち続けるしかない。ならば鉄を打つ手に衝撃が伝わらない様にするしかないだろう。
槌を放る様に打っていても、巫山戯ている訳ではない!必然なのだ!!
東郷示現流を参考にして、音楽の要素をも採り入れる。オロチも頭は悪くない上に閃きも光るのだ!!喋らせると一寸アレだけど!
打った鋼が延びてきたら鏨を入れる。切れ目、というか折り目を付ける道具ね。
其して鋼を折り畳んで再び打つのだ。金属は、延ばせば何処までも薄く広がる
性質が有る。金箔とか有るでしょう?勿論、柔らかい金属だって叩いて延ばすのは容易ではないが。
言う成れば、クロワッサン、いやデニッシュやらミルフィーユやらの様に、
多層構造にして打ち続けるのだっ!!例えが変?御免ねえ?!!
何故なら、叩き出せる不純物は表面だけだからだ!延ばしては畳んで
叩き続けて、少しずつ不純物を除いてゆくのだ!!職人の根気は半端ないね!!
次に切れ目を入れたのは。縦だった。最初は横に入れていたのだが。
即ち!!
「十文字鍛え!!」
其れを聞いたオロチは。
「がははははは!!ちいよ!!お主が読んどる娯楽小説とやら、わしにも
見せちゃあくれんかのう?!!」
「いや、此処じゃ手に入らないから!」
此処、異世界ですし?
「がはははは!!残念じゃのう!!」
「残念だね」
其れより、がはははっての、接頭辞なの?
十文字鍛えは十回を超えて続いた。今日はここまでだろう。
「じゃあ、自分は此れからご飯作らなきゃね!」
「がははは!!楽しみじゃのう!!」
オロチは、汗でもうずぶ濡れと言って良い状態だったが其れでも豪快に
笑っていた。
今回執筆中、
パソコン様のご機嫌が
怪しく成りました。
自分、もう充電切れるまで
電源付けっぱなしとか
してねえぞう?!
あ、其の件は42話から48話までの
前書き、後書きをご参照下さい。
心当たりを羅列致しますと
「セキュリティで保護されていない」と
表示される作品を眺めた後執筆したら
上書き保存がおかしかった。具体的には
保存は出来るが完了に矢鱈時間が掛かる。
其の時タスクバーにセキュリティのアイコンが
無かった。いつもは自動で出るのに。
思い返してみると、其の少し前
セキュリティのマークが白黒で
タスクバーに四つだか五つだか出ていた。
其の日は終了して電源を落とし、
次の日電源を入れてみると、
デスクトップのアイコンも
タスクバーのアイコンも
全て繋げなく成った!!詰まり
通信関係が全滅の様だっ!!
と言う次第で御座います。
まあ、今投稿しているのですから
パソコン様のご機嫌は直っておりますが。
皆様、お気を付け下さいね!
アドレス?ですか?画面の上二段目の欄に
時々セキュリティで保護されていないって
表示される作品が有るのですが、
何なのでしょうね?
自分の作品には出ないよな?!ですよね?