表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/1256

第65話 里帰りしてみた

「ちぃぃぃぃぃぃい!!」

 山林で。自分を呼ぶ、幼い声が響く。

 駆け寄って来たのは。赤茶色い髪の、理知の光が見える碧眼へきがんの少年だった。シャールだ。

 少年、男の子ではあるのだが、髪は伸ばしっ放しで一つに結わいているので、

まあ、初見では分からないかな?

 シャールは首抱きに抱き付く。おいおい、君、そんな子じゃあないだろ?まあ、危なげなく抱き留めるけれども!

「シャール、ピュアに成っちゃったの?」

「何ですか!それは!」

「皆まで言わずとも分かる癖に♪」

 詰まり。ピュアは自分によく抱きついて来る訳だが。ピュアは女の子である。

 男というものは。女の子みたいと言われれば、大変拒絶するものである。

 女の子が男みたいと言われれば、さっぱりした性格とか頼り甲斐が有るみたいな意味になるが、男が女の子みたいだなんて言われた日には先ず、変態みたいだろうがゴラアァァ!と成るからな。

 平成の終わり位にはそんな感じ薄らいでいるか?いや、やっぱり変態だよな?

 そういう事だ。

「…ちいは意地悪です!」

 シャールは頬を赤らめ、目をそらすものの、離れる気配は無い。

 何だコレ?可愛らしいな!背中をさすさすしてあげよう♡頭なでなでは体格と

姿勢の関係上、今出来ないんだ。

「で?また自警団やってんの?危ない事するなって言ったでしょう」

 此処は未だ村から離れている所だ。

 が、シャールはじとっと目を細める。

「そう言うちいは何と戦ったんです?」

 詰まり。刀を修繕する為に村に戻って来たのだろう、と言っている。

 ほら!そういう、細かい所で察するの、男がするなんて聞かないぞおぉ?

「此の女の子、誰です?」

 ライナが言う。やっぱり間違えている!

「シャールだよ」

「ちいい!!先ず訂正して下さいよ!僕は男です!!」

「えええ?!何でそんなにさらさらヘアーなんです?!!」

 そんなに大袈裟なものではないが。村では石鹸、シャンプーを使うのが当たり前になっているからな。

 でも。

「風呂、誰が入れているの?」

 自分が抜けたらまともにお湯や水が用意出来ないよな?

「えー、ちいが出た後はピュアが大活躍、と言いましょうか」

 …相変わらず謎な子だな、ピュア。

「失礼ですが、どちら様です?」

 今更だが、シャールは自分に付いて来た二人に尋ねる。

 ライナは胸を張って堂々と名乗る。

「わたしはライナ・ジャクシャア!師匠の一番弟子です!!」

 シャールはものっそい微妙な顔をする。

 シャールの事だから、十二分にライナの言葉を吟味して、その上で微妙な顔を

しているのだ。

「何しろ此の服装は師匠の弟子のあかしですからね!」

「待てコラ!」

 何時いつメイド服が自分の弟子の証に成った!!勝手にその格好しているだけ

だろう!!なんちゃってメイドの分際ぶんざいで!!

 恐らく、メイザスのアホに張り合っての事だろうが。メイザスがメイド服姿に

なるなんて…ぶうううっ!有り得ないからな!…笑わすなよ!想像しちまったよ!

「わたくしはメイで御座います。わたくしも、靴底魔法を教わりましたので、弟子と言えば弟子なので御座いましょう」

「!!」

 シャールはメイの名乗りに反応する。靴底魔法は村の子たちの他には、騎士の

訓練場でしか披露していないからな。地味だし。白けるし。

「何故か自分が養う事になった二人だよ」

「えっ…」

 シャールは言葉に詰まった。うん、変だよね。幼女が大人の女二人を養うとか

何でやねん!だよ。

 二人は中学生位だが、女の子は育ちきるのが早いし、文明度が低い所では当然のごとく大人扱いだ。

「さあ立ち話も何だし、帰りながら話そうよ」

「そうですね!」

「で?見回りはもう良いの?」

「うっ…オールグリーンです!!」

「シャール、役目と言うものはね?適当に済ませたら後が大変だからね?責任は

果たさなきゃあいけないよ?」

「は…はい」

「まあ、今はおかしな気配は感じないから良いけれども」

 シャールが本気で泣きそうになったので止めておいたけれども、気軽に役目は

負うものではない、とは言っておかなきゃあね。シャールはまぶしそうな眼差しで

見詰めてくる。

「気配察知ですか。僕も早く身に付けたいです!」

「えー?気配を察知した!とか言って目付きが鋭くなる幼児とか、ヤダ」

「「「…………」」」

 何故か三人が黙り込んだ。まあ良いや。帰ろう帰ろう!

 村に帰ったら、自警団の詰め所に行く様にはシャールに言った。役目を負うと

いうのは、面倒臭い事なのだよ?

 先ずは使った刀をオロチの所に持って行かなきゃあね。

「おう、ちい!代わりを持って行け!!」

 何と、二振りも寄越して来た。もう造ってあるのだ。有難く受け取るしか

あるまい。

「自分が兵役明けたら、弟子候補を沢山連れて来るからね」

 自分が居ない間に見知らぬ他人を入れるのは恐いので、兵役が明けたら村に

連れて来る事にしたのだ。王にも話を通してある。

「そうじゃな!そうしたら、本格的に造れるのう!!」

 刀を造るには本来、何人もの専門職が居るべきなのだ。と、言うか、超高級な

着物、友禅ゆうぜんとか言ったっけ?其れの様に一つの品を何人か掛かりで作る事が

日本には多いよな。それも有って、トナー・リーの町の職人の皆さんに、みんなで協力してねーと言ったのだ。

 そして今晩は、流石に自宅で寝る。のだが。

「みんな、いらっしゃーい♪」

 母、サラは上機嫌で迎えたのだが。

 シャール、ワット、ピュアがお泊まりする様だ。何でそんなにうちに泊まりたいの?

「さーて、みんなぁ♪わたしのおっぱい吸う?」

「何言っとるかああああああああああ!!!」

 何て恥ずかしい母親だよ!!

 シャールとワットは…

「え…遠慮させて頂きます」

 シャールは眼が泳いで、ワットはそっぽを向いているものの、何だか惜しいものを振り切っている様で…

 まさか、断ったものの、魅力的なご提案です!とか、思っていないよな?

 ピュアは相変わらず只にこにこしているだけだ。

「そーお?じゃあライナちゃん、メイちゃん、吸う?」

「ダメだろおおおおおおおおおおお!!!」

 一寸ちょっと勿体なさそうな顔すんな!ライナ!メイ!!

 バカ母は何故かしてやったり、という顔をして。

「ちいちゃんはままのおっぱいを独占したいって事ね♡」

「言ってねえええええ!一っ言もっ!!言ってねえええええええええ!!!」

 自分、生まれた時から独占はしてねえだろ?!!ネネが、そのっソレを大好き

なんだからよ!!口に出したらこだわっているかの様だから言わないけれども!!

「成る程、似てますね!」

「なに言っとるか!!ライナああああああああ!!!」

 突然何を言い出すか!此のお馬鹿は!!

「だって師匠がからかって、あの、三段階変身するヒト?が騒いでいたじゃあないですか。

 丁度、今の御母ごぼどう様と師匠の様に」

 ああ!シッカクはそんな風に認識されているのな!いっそホントに変身

しちまえ!!しかし!!

「自分がコレと似ているっての??」

 痴女じゃねえかあ!!

「ちいちゃん、ままをコレって、ヒドいなあ♡」

「コレで充分じゃあああ!!!」

「ふふふ♡さあさあ、ご飯にしましょう♪」

 何がそんなに楽しいのか、母の音頭で夕食が始まった。

 自分一人が村の税二年分を引き受けたからな。村の税として納める筈だった物資がうちに来ているのだ。村の家としては有り得ない程の料理が並ぶ。

「ちい!刀を使った時の話、聞かせて下さい!!

 僕は獣との戦いも盗賊との戦いも見ていないのですからね!」

「未だ言ってんのお?!」

 シャール、どんだけ見たかったんだよ!と、其れよりも!

「シャール、冒険者には盗賊って職業が有るから、一般人を襲う様な連中は野盗

とか山賊って言わないと。

 此処を襲おうとした奴らは山賊団だね」

「盗賊が職業ですか?悪そうですよね?」

「其れを言ったら戦士や魔法使いは生き物殺しまくりだよ?」

「うっ…そ…そうですね?」

「トレジャーハンターは探検家気取りだろうけれど、遺跡の発掘屋は学者気取り

だろうけれども。どっちも泥棒だしね?」

「は…はい」

 正義なんてモノは、振りかざす奴の方がずっと悪いのだ。自分も悪い事は

しちゃってんだなーと認識しろ!と言いたい。

 まあ、シャールに言うのは少々大人げないか。正義を夢見る少年心って年齢だしなあ。

「で、刀を使った時の話だね?」

 ひょいっ

 話の途中、自分の目の前の料理が取り上げられた。

 もう、母は其れを食っている。おい!!

「さーて、ちいちゃん♡いらっしゃーい♡♡」

 何で態々(わざわざ)自分の目の前のを取って食っちゃうの?!!

 で、来いって、詰まり?

 ネネはさっさと母の膝に座り。

「ちいー!はやくー!!」

 何故か期待に目を輝かせて此方こちらを見る。

 …

「シャール!ワット!!ピュア!!!」

「僕達は断りました」

 ピュアは言葉自体を発してはいないが。微動だにせず。

「タク!!」

 自分が居ない間、キョウダイの下から二番目な筈の兄ならば!!

巫山戯ふざけんな!!」

 あれ?そのポジション、ヤだったの?料理の器をしっかり押さえているし。

「わたしは?」

「黙れ!!」

 だから!ライナは駄目って言っているだろう!!

 ひょいっ

 今度は自分自身が母に抱えられた。自分、小っちゃいもんでええええ!!!

「ぎゃあああああああ!!王都に戻るうううううううう!!!」

「御母堂様、大変ですねえ」

「そうなの♡分かるう?」

 ライナと母親あ!!にこやかに話しているんじゃあねええ!!

 結局。

 休みの日一杯に引き留められた。

 王都に戻りたかったのだが!戻りたかったのだが!!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ