第20話 五行の構え始めました
「もっこく、どこくすい、こっか、こっきん、こくもく」
言いながら空中に五芒星を描く。五芒星とは、尖った部分が五つ有って一筆書き出来る、所謂お星さまである。
今は村に向かって歩いている。村に住む事を希望するオロチと共に。
そして歩きながらシャールとワットに話して聞かせているのだ。
「これは五行相克と言って、五つ有るからちょっと複雑だけどジャンケンみたいなもんだね。どれかは別のどれかに勝てるという」
陰陽道の陰陽五行説というヤツだ。
ジャンケンは既に村の子達に普及している。自分が広めたのだ。
「刀の構えにも有利不利が有る。両者真剣を抜けば構えが有利だからって必ず勝てるとは言えないけれど。
実は自分、何処にどの構えが当てはまるか全部は知らないんだ。君たちが解明してよ。先ず上段の構えは”火”ね」
だって漫画には詳しい解説は無いんだもん。ってマンガ知識かああ!!なんて心の中でセルフ突っ込みしたり。でも漫画知識もバカにならないよね。
「よおし!オレが解明してやるぜえええ!」
ワットは喜び勇んで言う。野望に燃える少年心だ。
が、一方シャールは冷めた目で自分を見る。
「僕達はまだ構えを五つ教わってませんね?」
「あ!」
ワットやっと気付いた。遅いっての。ぶふっ
シャールはふうぅーっと息を吐き、言い始める。
「先ずは中段、上段、下段。それから八双と…ちいがオロチに対抗してたあの姿勢ですか?」
「そう!脇構えって言うんだよ!構えのキモは相手に武器を見せない事!」
「成る程。体で武器を隠してましたね」
「これら五つの構えは刀の基本で、五行の構えという。五行相克と同じく有利不利の関係が有るって訳だね。
ちゃんと理屈で何故有利か、何故不利かを考えてね」
「ほ~、そうなのかい」
「オロチ知らないのかよ!」
「わしは剣客じゃあないからの!」
ワット平気で突っ込んでいるけど、怒るヒトだったら大変だぞ?
それを余所にシャールは思考を始める。
「ふむ、ちいがオロチに向かって脇構えをした、ということは八双の構えに有利。となると脇構えが他の構えに有利という事はなくなり、少なくとも水の構えということは有り得ない。構えの属性はひとまず、何故脇構えが八双の構えに有利か…」
「むむ?シャールはどうしたんじゃい?」
「考えているんだよ。シャールはウチの村自慢の頭脳だからね」
「ええええ???!!」
シャールは思考中にも関わらず抗議の絶叫を上げる。何で?!!
「えー、ちい。東郷示現流とはどういった流派なのです?」
「先ず主体としている蜻蛉の構え、詰まり八双の構えは上段の構えと同じく防御を考えない構え。
だけど高速連打の攻撃により相手が近づいたら一瞬で終わりにして防御は必要無い、そして相手が多数でも近い方からどんどん片付ける、て流派」
「凄まじいですね」
「すげえええええ!!オレそれやりたい!!絶対それやる!!!」
シャールは冷静に聞いているがワットは大興奮だ。
「分かった分かった。帰ったら練習道具用意するから」
ワットを宥めている間にシャールは思考完了した様だ。
「ふむ、東郷示現流は高速連打を旨とする流派。となると攻撃射程は短く、移動もままなりませんね?」
「何でだよおおおお!!!」
ワットはこれからやろうとしている事に悪口言われた気になって文句言う。しかしワット、欠点を知っておく事も重要だぞ?
「高速で攻撃したいなら武器を振る距離は短い方が良い、という結論にどうしてもなる筈です。況してや連打すると言うなら後の攻撃の為にも長い距離は振れない筈。
そして連打するには体を固定しなければならない筈です。勿論足から根っこが生える訳ではないので姿勢と体重で擬似的に、ですが」
「そうそう!!その通りだよ!!!!」
思わず大絶賛してしまった。思考だけでそこまで至れるとは!!なんたる頭脳か!!
「そうなると蜻蛉の構え、詰まり八双の構えに有利な脇構えの強みは射程距離の長さという事になりますか」
「いつ脇構えが有利なんて話になったんだよ!」
「ちいがオロチに脇構えで対抗していたでしょう?」
「うん」
ぶふぁっ!!ワットが文句言ってシャールに一言で黙らされた!!笑わすなよ!!
「相手に武器を見せないという事は実際の武器の長さ以上に下手に近付けないという状況にさせられる訳ですね。それで射程距離の短い八双の構えを抑え込んだという訳です」
「ほ~、それでちいは脇構えとやらをしたのかい」
「分かってなかったんですか?!!!」
今度はオロチがボケた事を言ってシャールを驚かせた。
世の中おバカやうっかりさんの方が圧倒的に多いんだよ。だからシャールは貴重な才能なんだよ。
「あの、聞いておきたいのですが。
五行の構えはそれぞれどれ位主体とする流派があるのでしょうか」
「自分が知る限り、殆どは中段が主体だね。で、変わり種として八双が有って、後他の構えを主体とするのは聞いた事無いなあ」
「成る程!そうなると…
中段が殆ど主体となるのはやはり攻防一体の構えだからですね!
そして八双の構えが変わり種として存在出来ているのは防御は考えなくても高速連打で補えているからです。更に恐らく相性的に中段に対して有利なのです!」
「そうか!!!」
驚きだ。やはりシャールの思考は自分よりも深く巡っている!!うかうかしてられないな!
「僕はやはり中段の素振りを続けて行きたいですが、他のも時々ちょっと試す位は良いですか?」
「勿論!若いうちは色々試してみなくちゃあね」
そう話しているシャールと自分を見てオロチとワットが言う。
「ふむ、ちいとシャールは飛び抜けて賢い様じゃな」
「なー。一緒に居ると自信無くしちゃうぜ」
「それに、ちいはナリは小さい癖に男の背中を見せてるしのう」
「「は??」」
ワットと、それから今はオロチと話していないシャールまで同時に反応した。
「ん?」
「ちいは女の子ですよ?」
シャールが訂正しなくても良いんじゃね?
「はああああぁああ????」
服装と髪型は皆一緒で区別付かないしねー。まだ幼いしねー。女の子は実は小学生位で第二次性徴始まっちゃうからそうなったらすぐ分かっちゃうだろうけどねー。
「そ、そうか…」
オロチ、他にどう言えと、という感じだ。どうでも良いけど。
「オロチ、鍛冶場だけど」
「うむ」
「珪藻土っていうの必要だよね」
「む!」
「何だそれ」
ワットが聞いてくるが、それ以前にオロチと話が通じているか確認はしなければならないだろう。
「鉄が溶ける温度でも耐える土」
「うむ!確かに!」
「自分には見分けは付かないけど、土探しの間の護衛は任せて貰って良いよ」
「護衛?ちいがか?」
「ちいは村の誰よりも強いんです!」
シャールが興奮して割り込む。君、そんな子じゃあないだろ?!
「ぶっ村の誰よりもか!」
オロチが噴き出しちゃってんじゃないかよ!
「刀は勿論、魔法だって使いますし!」
「ぶふっ魔法もか!!」
「気配だって探るので周囲の警戒だって万全なのです!」
「がぁーっはっはっははあっは!!そいつは凄い!!はぁーっはっはっははあっは!!!」
シャールは賢そうだけどやっぱり妄想いっぱいの幼児だったなって絶対思ってるぞ、オロチのヤツ。
というか一緒に歩いている村の大人達も笑ってるし。放って置こう。
「あー、良いかな?そういう事で」
「おう!頼むぞ最強の護衛!くっくっく」
結局自分の事は笑い話になってしまって村に入って行く。
「ようこそ、我が村へ!」
村の名前は…何だっけ。今まで言う必要も無かったから出て来ないよ。
まあいっか。
目敏い読者様、お気付きでしょう。本当に自分、五行の構えの各属性を知らないのです。だから後に「これ違う!」とおっしゃられた時に、自分は知らなかったんだ!けど考えに考えた結論としてこうなったんだ!と言い訳する為の保険なのです!と言う訳で大目に見て下さい!ダメ?賢いシャール君助けてくれないかなあ…