第60話 星の降る夜に
野営で料理中でーす☆
鍋を火に掛けて、これから具材に火を通す所だぞー!
少々水を張ってね。焦げちゃうからね!油?無えし、自分は使わねえよ!
具材をひたすらかます。火を通すのは均等にね!材料を細かく切ったり、薄く
したり穴あきにしたりは全部火を通す為にやっている事だ。現代日本ではナンやらドーナッツやらの形は只の見栄えみたいなものだろうけど。文明度低いと火の通りがまだらなのが当たり前みたく出るからな!
具材に火が充分通ったら鍋になみなみと水を張る。スープですな。まだまだ
ずっとかまし続ける。料理に空気を大量に含ませると、味はやや弱まるがまろやかになり、幾らでも食べられそうになるのだとか。料理マンガでやってた。
混ざれ混ざれ~と念じながらかき混ぜる。魔法が念じれば発動するのだから、
多少は効果有るんじゃない?
其れから、具材に汁が染みるのは、加熱する時ではなく冷める時なのだとか。
冷めるみたく染みろ~とも念じておく。
ひたすら念じながらかき混ぜることしばらく。完成って事で良いだろうという頃には星空になっていた。
現代日本では町明かりのせいやら空気が汚いやらであまり星は見えないと言うが、発展途上な世界である此処では満天の星空というヤツだ。
流れ星が割と頻繁に降っている。現代日本の町ではホントに極たまにちょろと
見えるだけなんだけどな!
願い事を三回言うとかってヤツ、流れ星一つ分の間に、じゃあないよな?流れ星一つだと、あ!終わり!ってしかならないぞ?あっと言う間だろ!正しく!!
此処は異世界であるので、知っていた星座はひとっつも見えやしない。本当に
異世界なんだなあ。
そろそろ冬の星座で一番見付け易いオリオン座というのが出る時期なのだがな!ああ、勿論、あっちの世界の星座ね?
配膳位は庶民兵さん達も当たり前に出来るのでさっさと皆に配り、さあ頂き
ますって所だ。
「美味い?!」
「旨い!!」
「「「うまいうまい!」」」
大騒ぎだな。こんなに騒ぐのは、今までの野営のメシはよっぽど不味かったと。
何処ぞの特殊部隊みたく、任務中は羊のゲロでも食うんだ!とか?
いや~ん、御飯時にゲロとかやめて?まあ自分はあんまり気にしないんだけどな?
「うまい……な…………うっ………ううう」
騎士の一人が泣き出した。
「おっお前!!やめろよ!!そんなっ………うくっくっくうう………」
ケチ付けた騎士も泣き出した。
うっううぅぅっっ
全員とは言わないが、結構な人数がすすり泣く。ああ、うん。恐いよな。
例え王だか国だかに忠誠を誓っていたとしても。
生きている時に頑張ればあの世の中でも良い所に行けるとか信じ込んでいたと
しても。
死人が出ると想定される戦いに臨むだなんて恐いに決まっている。
体を動かしていれば恐怖心を忘れるとか、戦闘で興奮している間は分からなく
なるだとか言うけれど、落ち着く時間が出来てしまえば恐怖は込み上げてくる。
当たり前だ。
自分は輜重隊だ。今は何を言っても余分な一言になってしまう。
只黙って騎士達を眺める。
創作物の登場人物達は、どれを見ても平気な顔してぽんぽん死んでいく様に
見受けられるが。現実的にはそんな事は有ってはならない!絶対に!!
世の中、どうも死ぬのが格好いいとか思う者も居る様だ。カウンセリングの話の一例なので、精神病んでいる奴だったが。
又、作り話に限っては、だが、ある程度目立ったキャラクタが死ぬ場面は話を
盛り上げる為によくやる手法ではある。死ぬのが当たり前ではない話でだってよくやっている奴が居る。スポーツものとか。
綺麗な顔してんだろー?死んでいるんだぜ?じゃねえよ!
一時期、少年漫画雑誌で、死んだ事にしたキャラが実は生きてましたとか言って出て来て、そりゃあもう何度も死んだ!いや、実は生きてた!とか繰り返したり、実写の刑事モノで渾名付きの刑事が出て来ちゃあ死んで、を繰り返したりとか、
本当に昔からやっている事ではあるのだが。
…いや?自分、昔の漫画雑誌とかテレビ番組とか、全く知りませんよ?
腹から噴き出る血を手にとって、なんじゃあこりゃああああ!!!とか、全然、これっぽっちも、知りませんで御座るよ?
…こほん!兎も角!
現実というものは!死んだら終わり!!あの世とかうそぷー!!!もっと生きている時間を大切にしなさい!!!もっと死を怖がりなさい!!!それが当たり前だから!
…と、ガンバルさんが近付いて来る。泣いてはいないが重い表情だ。
「武神サマよう。おれは甘ったれる気じゃあねえんだがよう」
「うん」
「甘ったれる気じゃあねえんだが。拝んで良いか?」
「それで気が済むのなら」
現代日本の感覚で言えば。
拝むとかやめてええ?!と、物凄く思う所だが。おくびにも出さない。出せる訳が無い。
騎士達は命懸けの戦いに臨むのだ。本気で言っているのだ。
正直、気休めにさえなるかどうかは疑問だ。が、此れが、溺れる者は藁をも
つかむ、という事なのだ。
ガンバルさんは跪き、西洋風に両手を握り合わせて拝む。
自分は只黙って見詰める。…と。
他の騎士達も拝んでいるぞ??!因縁が有る筈のシッカクとマッケイヌさんまで拝んでいるぞおぉぉ?!!
まあ、自分は見た目平然と佇んでいるけども!
後に、荘厳な場面であったと語り継がれているとか何とか。自分、関知してないよ?!関わるなら握りつぶしてやるさ!!
次の朝も食事有りだ。当たり前だ。今度は小麦粉を汁に混ぜてとろみを付け、
シチューの様にする。小麦粉で炭水化物、主食の代わりになるか?
騎士団団長さんはにこにこ顔で食べながら言う。
「武神殿は本当に料理上手であるな!
将来は結婚する気はお有りか?結婚相手はそれは幸せであろうな!」
此の身は女である故、結婚するとなると相手は男…だよな?
「え~?ヤダぁ~」
男はキタナい、男は下品、男はブサイク!よ~く分かっていますとも!
「そ……そうであるか。まあ武神殿は独り身でも強く生きてゆけるであろうがな」
「何を言っているんですか!!わたしがもう結婚しているじゃあないですか!!」
ライナが強く反論している。相手は騎士団の団長さん、ライナは一応騎士だった筈…だよな?頭大丈夫?ホント。
「ライナ既婚者だったの?それはお目出とう?相手は誰?」
「何を言っているんです?わたしは師匠のお嫁さんじゃあないですか!」
「頭大丈夫??」
今度は口に出てしまった。色々な意味で、本当に大丈夫??
「わたくしもちい様のお嫁さんです!」
「メイも同類かっ!!!」
「わたくし、武神様への捧げ物ではないですか。同じ事で御座います」
「こじつけだよね?!!」
「わたし達、元気な師匠の子を産みますからね!」
「頭イカれているだろうっ!!」
「ちい様は神様で在らせられます。普通のヒトの女を孕ませる位――」
「出来ねえよ!!それに幼女相手に教育上良くない事言ってんじゃねえよ!!!」
世の中バカばっか!!!メイのアブない発言を止める為に食い気味で叫び
ました!!
「良く……ないので御座いますか?」
…
「えー…メイは赤ん坊はどうやって生まれると思っているのかな?」
「はい、キャベツの真ん中に赤ちゃんが居りまして、其れを食べるとお腹に宿る
ので御座いますよね?」
あーはいはい!メルヒェンメルヒェン!!
所で、メルヘンよりもメルヒェンって言った方がより原語的だよね。ドイツ語か?
「食っちまったら消化されるだろう!」
「消化?」
あーはいはい!!此処、発展途上!!!
「口から腹に入る、其れから尻から出る、其の部分を消化器と言って、食ったモノは消化される、詰まり目に見えない細かいレベルで分解されるから、正に原形を
留めないんだよ」
「ちい様!お尻から出るだなんてお下品で御座います!」
「てめえが言わせているんだよ!!」
もうやだぁああ!何でコイツ等こんなにおばかなの?!!
団長さんは居たたまれない風にそっと目をそらしている。ホントに優しい雰囲気のヒトだねえ。ライナに言いたい事が有る様だが、団長さんも食う専門なので
言えないでいる様だしな。
はあ…さて、今日は幾ら何でも目的地に着く、というか、そのまま戦闘に突入
する事になるだろう。
危なそう、と思えば自分は介入する気満々だ。犠牲が出そう、と思えばいっそ
一人で戦ってやらあ!とも思っている。
只問題は、だ。
普通に走って行ったら、騎馬で簡単に追い付かれてしまうだろう。人智を超える走りが出来る訳じゃあなし。
一人で戦うには、ドラゴンの攻撃を受けない場所から、馬にも追い付けない移動で一気に戦闘圏内に入るしかないな。
で、自分は考えた。トランポリンみたいなのでびよーんと跳んで行ったら
どうか?と。
トランポリンなんて何処から調達するのか?それこそ魔法でしょう!
でも、細かい所はもっと詰めなければ不具合は色々出るだろう。行軍中に考え
られるだけは考え続ける。そして、不測の事態が生じたら臨機応変に対処する。
此れこそが実戦の心得でしょう。
何も考えない奴は勝てない。考えに凝り固まる奴は弱いのだ。
そして。
とうとうドラゴン?と思われるモノが見える位置に到達した。遠過ぎて黒い点にしか見えないけどな!
しかし空中に有る動く点なので目立つと言えば目立つのだ。未確認飛行物体
やん!ゆっほ!ちゃかちゃちゃんちゃんちゃん!…はっ?!自分、何も言ってないぞ?!モバイルなんちゃらのCMで流れてたよね?とか全然知らないぞ?某子ども番組の着ぐるみがお父さんお母さんだね?とか、なーんも知らないぞぉ!!!
「あれは何だ!!」
誰だか目敏い騎士が言った。…ヤラレャークさんじゃん!ホント、目敏いな!
しかし、他は誰も分かってくれなかった。
自分は遠見の魔法を使う。
………ドラゴン?
戸惑ってしまったのは、だ。何と言おうか。
細い管にでも詰まってしまったトカゲ?とでも言う感じなのが空に浮いていた、という光景だったからだ。
詰まり、四肢を外側に突っ張るかの様に広げた、全身を真っ直ぐ伸ばしたトカゲだったのだ。
なにぶん空中なもので、周囲には大きさを比較出来るモノは無いが、オオトカゲサイズであろう。
トカゲと思って甘く見てはいけない。オオトカゲは超危険生物だ。シカ位の生き物を取って食うのだ。ヒトなど、奴らから見れば、食いでは無いが逃げるのすら
ままならない簡単なエサだ。
そんな奴らも、普通なら木にでも登れば何とか逃げられる。でかいだけに、奴らは木には登れないのだ。
しかし、今回のオオトカゲは空に浮いている。うん、木に登っても逃げられ
ない。
暴虐が過ぎる!どういう理屈で空飛んでんだ!!戦争の作り話でも言う
だろう!!制空圏を握った者は天地の差程に圧倒的優位に立てるのだ!!!
現実的な怪獣大襲来、という感じだ!三分戦える巨人なんて、此の世界には
いないぞ?!いや、あっちの世界でだって作り話だけれども!




