第59話 討伐隊出発してみた
来週は忙しくなりそうです。
今週の内にその分投稿が出来れば。
個人的な事情ですけどね!
大人数ともなると、只移動する、其れだけでも大事である。
ドラゴンが出現した、という伝令が有ったのは午前も午前、朝と言って良い頃だったのだが、今はもう午後だ。準備はまだ整っていない。が、食糧は食堂から
流用して、それでも早く用意した方なのだろう。騎士達が出陣するとなれば、その分は食堂に行く人数は減るのだからね。食堂は食糧の備蓄庫の意味も兼ねているのだね。
持って行くのは日保ちすることを考えて根菜類が主体だ。むう?念の為という事も有ろうが、何日掛かりになる想定なのだかね?
荷物は馬車に積む。となると、馬の飼葉と大量の水も必要になる。馬は一日二十リットル位の水が必要だったっけ?水は一立方センチメートル、一㏄で
一グラム、一リットルは千㏄、一キログラム、馬一頭は一日に二十キログラムの水が必要、とは言え生き物が物差しで計った様に一日二十キログラムぴったりで足りるとは限らないと思えばもう少し多めに?
馬を十頭も使えば、荷物を何十トン用意しなきゃあいけないんだろうねえ?勿論水だけでは済まないのだし。
食糧の準備は食堂のヒト達が主体だ。出撃準備も想定したヒト達なのだ。町の
食堂のヒトとは仕事の内容も違うのだろう。庶民兵の皆さんは只突っ立って眺めて居るだけだ。手を出したりしたら、寧ろ邪魔!って事だな。
そして。夕方、とまでは言わないが、午後もかなりになってから準備は整った。まあ、それでも遅くはないのだろう。だろう、けど…
もし、自分一人でさっと出掛けてたら、もう目的地に着いてんじゃね?言いっこなし?仕方ないかあ。
で、ドラゴンだ。騎士五十人位の編成で討伐隊を組む、となると。戦術級って
ヤツ?ああ、敵の強さの目安ね。戦術級、と言うのは現場的な軍隊の強さ。戦争
全体的な強さは戦略級と言う。詰まり国全体が戦う様な敵が戦略級。
…と、自分は記憶に有る日本の誰だかさんの知識から想定しているのだが。
間違っているだろうか?まあ、此処は異世界。ケチ付けて来るヤツもいないだろうが。いないよね?いないって言って?
だって、創作物では訳知り顔で、全く解説も無しにそんな言葉を使っているのだもの。そうだよ!ラノベ知識で言っているんだよ!
まあドラゴンは五十人からの騎士達が戦う想定をする程強い、と。犠牲も出ると織り込んでいるのだな。確実に。
後で団長さんから詳しく聞いておこう。敵を知り、己を知れば即ち百戦危う
からず、だ。
討伐隊は食堂脇の広場に整列する。そして、団長さんが言う。
「よし、これから皆で食事だ!全員腹一杯食っておけ!!」
がくっ!!思わず肩が落ちる。地面に転がる訳ではないけれど、ズッコケの第一段階!!
自分は盛大にリアクションしてしまったけど、騎士達は微動だにせず。庶民兵
さん達は一寸えー?って顔をしているな。
「食う事も任務の内だ!出たら食糧を準備しているとは言え、思う様には食えんのだからな!
任務中の飯を今此処で全部食って行くという積もりで食ってから行くぞ!」
そうだけど…そうなんだけども!
食い溜めって、そうそう出来るものでもない。食い過ぎると思う様に動けない。今食って行ったら、出発して直ぐ野営って事に!
…あー…理想的には、野営でも町中と遜色ない食事が用意出来るなら良いんだ
ろうけど、発展途上な世界では望むべくもないんだろうな。仕方ないんだろうな。折角準備した食糧を今使っちゃうのもアホだしな。
…出発何時になるんだよ!
…ついでに団長さんから話を聞いておくかあ。
だって、犠牲が出るのを確実視している戦いなのだ。騎士達は皆此れが最期の
まともな食事になるかも知れない、と思って食うのだ。止められる訳が無い!
食堂で。自分は団長さんの隣りに座る。座る場所にも地位が関係するだろうが、自分、神様!団長さんの隣りに座ったって良いじゃあないの!
「おお、武神殿!これはこれは」
「どうも!ドラゴンの事、訊きたいのだけれども」
「もうお察しは付いているのではないですかな?」
「只の想像と確認する事実は違う。実際に目の当たりにするのは更に違う」
「成る程!流石武神殿は言う事が違いますな!」
数字の話、割り算やら掛け算等と比べると只の言葉はやや意味が曖昧になる。が。
此の世界にしては、だが、高度な計算を既に知っている、という所を見せているので、只の言葉も説得力が増すというものだ。
「百聞は一見にしかず、と言いまして。
話を沢山聞いても、一回、目にするのには適わないのですね」
「はは!武神殿のお言葉は含蓄が違いますな!
ドラゴンですか。今回は風のドラゴンという話ですからな。空を飛び、竜の吐息はエアブレスですな」
エアブレスなんて聞くと只の呼吸みたく聞こえるが、そんな訳は無いな。それ
よりも。
「飛ぶんですか」
「飛びますな」
日本の在るあっちの世界での、想像上のドラゴンそのままなのだろうか。其れ
から、その言い方だと属性が風の場合に限り飛ぶと言う事か。
強さなんて聞いたらデリカシーが無いという事になるだろう。情報収集は此処
までという所か。
騎士達は本当にメシを腹に詰め込んでいる、という感じだが、自分は適度にしておいた。当然でしょう。
で、出発。やっぱり夕方になった。その日は食事は無しでそのまま野営になった。もう食える訳無い。
次の日も、朝食は無し。自分は適度な食事にしていたので少々腹が減ったのだが、団体行動で一人だけ食っていられる訳が無いので、仕方ない。そのまま行軍
しましたとも。
「武神殿、馬に乗ってみませんかな?」
団長さんが誘って来るが。現代日本人でも聞いた事位は有るだろう。
馬に乗ると兎に角尻が痛い、と。現代日本でも乗馬をしようと思えば出来なくもないが、初心者さんが、見ていて笑っちまう様な乗り方を一生懸命しているのを
思い浮かべると、迚も乗る気にはなれない。自分の足が一番っすよ。やっぱり。
どうせ、騎馬は十騎だけなので、行軍速度は徒歩程度なのだ。
「遠慮しま~す♪」
「…明るく断りますな?」
「暗く断った方が良い?」
「あはは……しかし、武神殿は健脚であらせられるな。
昨日は距離は少々でしたが、大人にも平然と付いて来られましたからな」
「本気なら一人だけどんどん行けますけどね?」
「あははは……」
別に自分は人智を超える歩きが出来る訳ではない。此の世界、靴の質が悪い
ので、大人でもそれ程進めないのだ。自分は、スニーカーには性能が劣るとは
言え、靴底魔法を使っているしね。
靴底魔法は、性能は現代日本のスニーカーに劣るが、靴の買い替えは気にしなくて良いのが現状に合っている、といった所か。
しかし、本当に、一人でさっと行っていればもう事は片付いている頃じゃね?
相手が一人で戦える様な想定ではないから仕方ないのかねえ。
結局、この日も野営になった。いくら何でも今晩は食事有りだ。
作るのは勿論、輜重隊の仕事だ。
騎士が五十人位、庶民兵も五十人位。百人近くの食事を作る事になる。
食糧にも限りは有るし、水増しだな。文字通り、水で料理の量を増やす。具より液体が多い、まあぶっちゃけて言えばスープって事になる。
元は水とは言え、具材から味が出た汁は立派に料理の一部だし。腹一杯食って
くれよって事で。
煮込み料理と言うものは、兎に角具材が多い程味が良いのだとか。それだけの
具材から味が出るからだ。百人近くの食事を作るとなれば、家庭料理では出せない味が出ると言う事。家庭で百人分とか有り得ないからねえ。
先ずは根菜を洗って皮剥きだな。洗い桶に魔法で水を張って、庶民兵さん達に
言う。
「はーい、野菜を洗って!」
「い………今の何?」
ああ、魔法で水を張ったからな。
「魔法だよ。細かい事は気にしなーい!」
「え?魔法??聞いてないよ??」
ザワザワ
庶民兵さん達がざわめいた。あれ?騎士達もかあ。
自分、水道感覚で使っているだけなんだけどな?ああうん、現代日本って、便利な生活しているよね?
「良いから洗え!!」
「「「はいいい!!!」」」
庶民兵さん達は根菜を洗い始める。が。
「手際悪いね?」
「そ………そうっすかね?」
「男でも料理は出来た方が良いよ?」
況してや此処は発展途上な世界、店だって充実はしていないから、自分で料理
出来ないと食事事情がかなり限られる。
「男が料理だなんて!」
あー、昔の日本みたいな感覚か?でもな?
「料理人は殆ど男だよね?」
「料理人は仕事じゃないっすか!」
あー…仕事と家庭は別ってか。家庭の料理は女がやるモンだってか。
「モテないよ?」
「え"………へっへ~ん!お子様に言われたってビクともしませんさ!」
「まあどーでも良いか」
「「「酷っっ!!」」」
何だか何人かが反応しているが、事実どうでも良いからね。
元々庶民兵さん達は当てにしていないので、自分は自分でさっさとこなす。流石に百人分は一人じゃ無理だけど。
根菜類を洗って皮剥き、後は少々だけ用意されていた葉野菜を全部軽く洗う。葉野菜は保たないだろうからね。肉は熟成させたらしき干し肉が少々。材料はこんなものか。
「ああ!そこお!!皮剥き過ぎ!!」
庶民兵さん達は根菜類の皮を、かなりの身と共に剥いていた。ベタな事をおお!!
「ジャガイモは芽と緑色の部分だけはしっかり取る!」
所でジャガイモって、根菜類に含まれるだろうけど、実は地下茎、茎なんだぜ。だから日に当たると緑色くなっちゃうんだぜ?で、緑の部分は毒なんだぜ?
毒と言っても即死する様なものではなく、腹を壊す位ではある。のだが、文明度が低い所では腹壊す位でも充分命に関わる可能性が高い、危険な状態なんだぜ?
コワいね?
やっぱり一人で全部の準備は無理だから、庶民兵さん達の様子も見ながら材料を捌く。
さて、そうしたら材料を鍋にぶち込んで火を通すぞ、と。火が通り難いモノから順にね。根菜、肉、葉野菜の順だな。所で、文明度が低い所では生野菜のサラダ
なんか食うモンじゃないぞ?寄生虫が恐いからな。
鍋に水を張って、簡易的に組んだ竈に点火する。
「………それも魔法?」
「うん」
ガスコンロでも使っている様な感覚なんだけどな?うん、現代日本の(以下略)。
其処へ団長さんがやって来る。食材に火を通すのはこれからだよ?
「武神殿は料理も出来るのだな?私は食う専門だが、少なくとも私から見る分には迚も慣れている風に見える」
「まあ料理だなんて大袈裟なものではないですけどね。
だからその分失敗も有り得ないですから、ご安心を」
「ふふふ。楽しみにしていよう」
「楽しみですよねえ。わたしもう、お腹ペコペコです!」
ライナが言った。
メイドの格好をしているライナが言った。
メイドの格好はしているけど、調理には全く手を出していないライナが言った。
メイは一応調理は出来るが、行軍に付いて来た時点でへばっていたので、命令だと言って休ませていた。今度ライナとメイに靴底魔法を仕込んでおかなきゃあねえ。
「……………」
団長さんは絶句して、ものっそい微妙な表情でライナを見ていた。




