第58話 ファンタジー来た!!(ドラゴンです)
自分は木刀を中段に構え、向かい合うレイジは木槍を…槍で言う中段に構えて
居る。
自分は只心を静かに。レイジは何だか少々顔を引きつらせているなあ。緊張とも一寸違う様な。戦いへの恐怖かねえ?
「始め!」
騎士団の団長さんが勝負開始を合図する。瞬間。
「ふっ!!」
レイジが突を放つ!自分との勝負に限り解禁しているのだ。
がんっっ
弾!!向かって右上に槍の穂先を弾き飛ばす!!
レイジは体を開いてしまう!自分は中段の構えのままだ。
摺り足で近間に入る!レイジは石突きで迎撃!!
がががががっ
レイジは石突きで縦横無尽に攻撃を繰り出す!!が。
自分は見た目微動だにせず全て弾き飛ばす!中段の構えのまま。詰まり、レイジに木刀の鋒を突きつけたまま、だ。
「ままま参った!!参った参った!!!!」
見た目にはレイジが一方的に攻撃し続けただけなのだが。
「ちいの勝ち!」
団長さんが宣言し、勝負は終わってしまった。
「もう終わり?」
刀で槍使いに勝った!!…と言うには。
レイジは槍使い歴が短過ぎて微妙なんだよなあ。
一週間である。自分が教え始めてからだ。それ以前は全く計算に入っていません。教官とか役職が就いていた連中は一体何やっていたんだ!今訓練場に居るん
だがな?
「カタナ?をずっと突き付けられてたら恐怖なんだってば!!」
ふうむ。元々戦いは好きそうでもないし。穏やかそうだし。
「レイジは優し過ぎるな。これからは剣レイと名乗れ!」
「…………は?」
「冗談だ。真に受けるな!」
「……えーと………笑えないんだけど……?」
ですよねえええ!此の世界にネタが通じる奴は居ないだろうしねえええ!!
「えーとえと……ちいって、凄いよなあ!
本当の武器はその、カタナ?なんだろ?幾つ武器を使えるんだい?」
「別に数えてないし」
「そ……そうですか……」
「刀にしても、です!師匠は一体幾つの技を使えるんですか!!」
ライナが話に割り込んで来る。うん、当たり前の顔をして騎士達の囲いに混ざって居るんだよ。で、なんちゃってメイドだし。
「別に数えてないし」
答えは同じだ。
「師匠!わたしにはひとつだけ練習しろとか言っておいて!凄い!!凄過ぎ
ます!!!
師匠はわたしの師匠なんです!!わたしは師匠に貰われちゃったんです!!」
「ライナ、一寸黙ってて?」
「はい!!」
元気なお返事ですねえ。
「レイジ、そろそろ騎士と勝負してみる?」
「え"っっ?!」
「騎士にさ、レイジと自分と、どっちと勝負する?とか聞いてさ」
「おれはレイジと勝負するぞ!」
「おれも!」
「「おれもおれも!!」」
詐欺の電話かよ!
「レイジ、もてもてだね?」
全く嬉しくないだろうけど。
「あ"ははは……」
レイジは顔が引きつっている。
「「「「ちいがおっかな過ぎるからだよ!!!」」」」
ほお~?
「ショーン、ミーン、来て?」
二人の庶民兵を呼ぶ。
二人の名前を続けて言ってみよう。ショーンミーン、ショーミーン、ショミン。
…ひどっ!
「さあて、自分を入れてこの四人、騎士達は四人毎に全員を指名しなければいけない、としよう。三人は自分を避けられる、けど、自分が残ったら、四人目には、
恨まれるんじゃあ、ないかな?」
「「えっっ??」」
ショーンとミーンの方から戸惑いの声が有った。まあ、頑張って?
「おっ……お……お……脅す気か!!」
「自分~、陛下とお~、約束しててえ~。
みんなを鍛えて上げないといけないからね?
自分と勝負出来るの、名誉だとでも思って?」
「「「「嫌だ!!!」」」」
ぶふっ!!笑っちまったじゃないかよ!!何だよその返事!!
「くっくっく!武神殿はもう見違える程成果を出してくれているよ!」
「おお!団長さん!たまには一勝負いかがです?」
「ぐはっ……また今度なっ?!」
コレ何時まで経っても勝負しないヤツや~。
「おれがやる!」
ガンバル・チュウノゲさんが名乗りを上げた。
「みんな!済まんが、おれが先ずちいと戦るぞ!!」
「「「「どうぞどうぞ!」」」」
其れ懐かしのネタか何か?!!
まあ兎も角相手が決まった。
「ちいよ。カタナとやらはおれは初めてだ。技を見せて貰うぞ!」
そう。初顔会わせの時は槍で勝負した。勿論、騎士相手には全勝で通しているから、ガンバルさんにも勝っているけれども。印象的にはヘイキンさんよりやや劣るかな?という位の実力だ。名前のせいか。
しかし全体的には半数よりやや少ない位はガンバルさんより下だな、と思う。名前のせいか。って、どういう名前だよ!ホントに!
で、だ。強いヤツというのは本当に尖っているから、ヘイキンさんより上というのは人数的に少数だ。メイザスのあほとか。後は名乗りを上げてないかなあ?何やらオーラを漂わせて様子見しているみたいなのが居るけれども、虚仮威しな可能性大だし。
ま、取り敢えずお望み通りガンバルさんに技を見せてあげよう。
正眼の極意!
「うおおお?!!」
勝負開始前にガンバルさんは戸惑いの叫びを上げてしまう。
自分が鋒の後ろにすっぽり隠れてしまったからだ。
「始め!!」
かーん!からららん
開始早々ガンバルさんの木剣を打ち落とした。
「お?!おおお!終わりか……」
「はい残念又どうぞー!」
「あっさりし過ぎだろう……」
「次は三人、頑張ってね?」
庶民兵さん三人組に声を掛ける。
「お………おれ達騎士様?と勝負すんの??」
「大丈夫大丈夫!槍は剣より強いから!」
「そんな事言ってちいは全然勝たせてくれないじゃないかよぉ」
「HAHAHAHAHA!図に乗るな小僧!意地でも勝たせはせん!!」
「小僧て………」
獅子は我が子を千尋の谷に突き落とすのだ!
…その獅子って、どんな生き物かね?ライオンは平地の生き物なのだし?
その時、騎士の一人が訓練場に駆け込んで来た。
団長さんの斜め前に立ち、気を付けの姿勢になる。
「伝令!風ドラゴンが出現しました!陛下より討伐の勅命が下って居ります!!」
おおう?!!ドラゴンかよ!で、風って、四元素の属性ですか。
騎士達に緊張が走り、団長さんが号令を掛ける。
「只今より此処に居る騎士を討伐隊とする!全騎士、整列!!」
そして自分の方を向き。
「武神殿!庶民兵を率い、輜重隊として同道お願い致しまする!」
「了解」
「庶民兵に告ぐ!此れよりドラゴンの討伐に向かう!!
此れは初の任務とする!武神殿に従い、心して付いて来るが良い!!」
成る程ねえ。庶民兵は訓練が一ヶ月、任務期間が訓練を含めて一年、と団長さんは言った。
自分が御前試合をする時にはもうレイジは居たのだし、訓練期間はあまり残っていなかった。
だから仕上げとして騎士と試合しろ!と言ったのだが、これが任務ならばもう一寸だけ余裕をくれる、と言う事だ。
団長!お母さん!!おっさんだけど(笑)!!!
庶民兵さん達はざわついた。まあ仕様がないね。庶民だものね。
「は~いみなさ~ん。聞いて下さいね~!
軍隊ってモノは上司の命令は絶対なんです。従って下さいね~?
まあ、悪い様にはしないとは約束しておきますよ」
団長さんが苦笑いする気配を感じた。話が早いだろ?
「輜重隊ってのは物資、主に食料ですね、其れを運ぶお仕事です。
皆さんに戦えなんて間違っても言わないので安心して下さいね~!
ドラゴンって何だ?って、見物にでも行く積もりで付いて来て下さい」
団長さんはもう言う事が無いって感じで笑っていた。