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第57話 パブロフの犬です!!

「左で持つ!右で使う!左で持つ!右で使う!」

 レイジが何やらぶつぶつ言いながら槍で打ち合う。レイジが言うのは槍の使い方、の基本だ。

 説明した言葉とは微妙に違うが、寧ろ良い兆候であろう。レイジなりに解釈しているという事だ。

「慣れてきたかな?

 じゃあ段階を上げようか」

「段階?!」

 かつん、かつん、かつん、かつん、かつかつかつかつ

「は?!速い!速い速い!ままま待って?!!」

 待たない。どうせ、槍は両手で持てばそうそう手から落とされるものではない。ならば少々無茶をしても構うまい。

 かつんっっ

 レイジの槍を大きく弾く。やっぱり手放しはしないな。

 しかし今は都合が良い。誰も自分との勝負に応じてくれないからな。

 レイジがを上げるまでずっと練習台にしてあげよう。酷くはないよ?レイジにだって練習にはなっているのだし。パワーレベリングって奴ですよ!

「なっ………今の何?!」

「原理は簡単。只両手で槍を振っただけだよ」

「え?こ………こう?」

 レイジは解釈した振り方を実演するが。

 両手を同じ方向に振っている!

「違う違う。両手を逆方向に動かすんだよ」

 自分は実演して見せる。

 梃子、という道具を知っているヒトの場合。支点は位置固定だと先入観を持ってしまうだろう。

 しかし、なが武器を持つ場合は支点は左手だ。当然動かせるのだ。

 まあそういう発想が浮かんだとしても、殆どのヒトは右利きな上右手専門にしか使えまい。左手なんか殆ど只持っているだけという所だろうが。

「えー?それで何か違うの?」

「二倍近い速さで振れる、かな?」

「にばい?」

 此処は発展途上な世界だ。高校生位かな?と思うレイジでも小学生レベルの計算も出来ない。

 多少はがくが有る騎士達の方から失笑が聞こえてきた。其奴そいつら、前に立たせて授業させようか?

「速さも大きさで表せる、其れは分かるよね?」

「う、うん」

「其れを量で表せる単位、スカラーと言うのだけれども」

 騎士達もギョッとした。スカラーとかいう言葉、聞いた事無いだろ。

「その、大きさを表せる速さが二つ分って事。速さで二つ分って分かり難いだろうけどね」

「えーと、すっげー速いって事で良いんだよね?」

「それで良いよ」

 れぞ界王拳にば…げふんげふん!なんにも言ってないぞおぉ~!

「或る所に空手という武術が在ってね」

 武術の空手と言うものはスポーツ空手とは別物と思って下さい。

夫婦手めおとてという技が有るんだ」

「技!?どんな?!」

「両の手を、心が通じ合った夫婦の様に、巧く連携させましょう!」

「ふむふむ!それで?!!」

「おしまい!」

「は?」

「それだけ」

「……………技?其れが??」

 まあそう言いたい気持ちも分かるが。

「先ずは意識する。其れが無ければ何も始まらない。で、今実際両手を連携させて二倍速の攻撃をして見せた訳だよ」

「そ……そう??」

 だ分かってないって顔だなあ。

「どんな凄い技なんてのを聞いたとしても、使うには自分で考えて実行しなきゃあね?」

「考える?」

 レイジ君、考えるのはダメそうだね。

「じゃあ練習再開だよ!さあ構えて!」

「うわわわっ待って!!」

「待たない!!」

 其れ位で丁度良さそうだ。

 かつかつかつかつかつ!

 レイジと打ち合いをしていると。

「お……おれも手合わせして貰っても良いかな?」

 なかば独り言の様に。言った騎士が居た。おや?さっきから突っ込み入れていた

ヤツだ。

「じゃあ順番待っててね~。レイジが降参したらねえ~」

「ぅおあ?!!………ああ、頼む」

 返事が来るとは思っていなかった様だ。打ち合いしながらだからな。

 ざわざわ

 騎士達が困惑した。

「打ち合いしながら話したぞ?!」

「世の中舐めてないか?」

「でも実際やって見せているからなあ……」

 漫画なんかでは。行動しながらセリフを言うなんてのは当たり前にやっている事だ。行動とセリフを分けて描くとテンポが悪く見づらいからだ。が、現実では。

してや模擬戦とは言え戦闘中に話す等。出来るものならやってみろ!ってなモンだ。

 どうやっているのか、と言うと。遠山えんざん目付めつけと気配察知の総動員、で、打ち合いの方に意識をく、という感じだ。

 実戦では目の前の相手に注意しつつも、周囲にも警戒しなければ生き残れない。まあ良い練習にはなるだろう。

「こここ降参!降参降参!!!」

 レイジ…今の聞いていてこれ幸い、と乗ってきたな?

「ぶはあっぶははあっっ」

「だらしないなあ」

「無理っ!無理無理!!」

 レイジは首をぶんぶん振る。まあ、初心者さんは不要に力が入って無駄に疲労

するか。

 仕様がないので騎士団の団長さんに話を振る。

「団長さん、騎士は任務に就いても訓練が日程に組み込まれているんですよね?

 じゃあ庶民兵さん達はどうなってます?」

「む!庶民兵は徴兵された間だけの任期だからな。初めの一月ひとつきだけ訓練し、後は

其れを合わせて一年間ずっと任務に就かされるな」

「それは…良くなさ過ぎですね」

「むむ?!」

「筋肉だけに限って言えば、訓練した成果が出るのは二ヶ月半後なんです。一応

訓練した様でも、何の成果も無いまま放り出すみたいなものですね」

「筋肉?」

「皮膚の内側に有る、筋を束ねたみたいな部分で、体を動かすのに使う所です。

 団長さんもお肉食べますよね?ソレですよ」

「むう!私は料理は食うだけだからして、料理人程肉を見慣れている訳ではないがな。

 して、二ヶ月半後と言う根拠は……神の知識と言う事か?」

 神の知識と来たよ…面倒無いし、良いやあぁ…

「はい。団長さん、まさか庶民だからって行って死んで来い!なんて言わないですよね?」

「言う訳無い!そんな事っ!!言う訳が無い!!」

 人情有るヒト…なんだろうね?

「団長さんが決めている事じゃあないでしょうけど。気にめておいて下さいね」

「……うむっ!!」

 決意に燃えている目をしているな。大改革でも始まるか?

「直ぐには体制は変えられないとしたら…筋肉以外の鍛えられる所を徹底的に鍛えて、のちには自主的に出来る練習を続けて貰う、という所ですかね」

「うむ!宜しく頼むぞ!武神殿!!」

 庶民兵の訓練も自分持ちに成っちゃったよ!まあダメ教官な騎士達に具体例をじっくりと見せてやる事にするかね。

 さて、待たせていた騎士と手合わせするかあ。

「お待たせ!其処の騎士さん!勝負しようゼ?」

「お……おう!」

「改めて名乗るよ。武神只乃山椒(ちい)だよ」

「おれはガンバル・チュウノゲ!」

 うわあ…其の報われなさそうな名前なに?

「ひとつ、訊いて良いか?

 ちいが個人名、タダノが家名なんだよな?じゃあブシンってのは何だ?」

 そうだよねえ。疑問に思うよねえ?

「武術の神様だぞ?」

 神だとか、名乗りたい訳ではない。が、世渡りというものは舐められない為に、ハッタリと言うかネームバリューと言うかが必要な事も有る。況してや自分、幼女な訳だし。

「カミサマ?………って、あの?」

「ヒトビトが、あがたてまつれば良い目を見させてくれるんじゃないかとか思ってる

その神様だぞ?」

「とか思ってるって………」

「ちゃんちゃらおかしいよね☆良い目見たきゃあ自分で努力しろ!って思うよ。自助努力じじょどりょくって言葉知らないのか!ってね」

「そ………そうか………そうだよな!その通りだ!!」

 何だかりき入っているなあ。ガンバルさんだしね。

「よし!行くぞ!

 すうぱあ!!野菜じんんんんっ!!!」

 ……………ガンバルさんが真面目な口調で、そんな事をほざいた。

「何、言って、いるの?」

「さっき、お前が言ってた事だろう?」

「お前呼ばわりはキライ!!」

「ああ済まん!えーと、武神サマがおっしゃってた事だろ?」

 げぶおっ!!それ、呼ばれると厨二的精神ダメージがあ!!

「それって、アレだろ?戦闘態勢に切り替える合図みたいな」

 む!此奴こいつ、何となくだが認識している様だ!

 世の中、そういう人種が居るのだ。他人から見れば、無意味な目立たない何やらの動作をして、身体能力を日常から戦闘態勢の運用へと切り替え(スイッチ)する者が。

サムライなんかは血筋的に無意識で切り替えが出来るとか言うが。

 其れは心理学で言うオペラント条件付けだと思われる。大体のヒトには分から

ないか。パブロフの犬、と言えばもうちょい知られているだろうか。分からない?

 条件反射、詰まり、本人の意思と関係なく体が勝手に動く事を、意識的に出来る行動で発生させようという試みである。

 体が戦闘態勢になるのは意識で出来る事ではないが、何か簡単な動作をスイッチにして、意識的に戦闘態勢に切り替えよう!という事だ。

 そういうのが確かに世の中には有る、の、だが。

「巫山戯て言っただけに決まってるでしょう!アホなの?!」

 ガンバルさんは本日一番の大爆笑を勝ち取った。

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