第51話 騎士への教練始めました(遅!!)
はい、異世界です!
此処の世界のヒト達は、武器の持ち方が間違ってました。戦闘のプロでさえ、
ですよ?
だから教えてあげようと思うのですが、反発が凄いんですよね。
ヒトビトの常識になっている事って、矯正するのが手間なんですよね。例えば、村人達の髪型が、無造作なひとつ結びになっているという件。
オロチが村にやって来た事により、青銅ナイフなんかよりずっと切れ味の良い小刀が村に出回る様になった訳です。が、未だにみんな無造作なひとつ結びのままなんですよね。誰も髪を切ってないんです。まあ自分も伸ばしっ放しなんだがな!
それより武器、今回は槍。スピアです。
自分が実際使って、騎士さん達に見せてあげますよ~って所です!
はい!長柄武器は両手で持つ物です。当然ですね!長いので片手では思う様には使えません。使う、と言うのと只持てると言うのは違う訳です。オレは片手で
持てるぞ~とか自慢しちゃっている君!(誰?)それで使えるもんなら使ってみなさい!
昔には槍と盾を持つスタイルが有ったなんてのもちょろっと目にしましたが、
どうやって槍を使っていたんですかね?操作性、詰まりは使い易さを考えないで
いたのでしょうか?槍は長い上盾で防御力も有るから、武器が使い難くても仕様が無いとか。
はい、両手で持つ、そうなるとどっちの手を前にするか。其れが問題になって
きます。
刀の様に右手を前にする?外れでぇ~す!刀の場合、左手は添え手なんですね。右手主体で持っていて、左手はオマケなんです。
柄が長い武器だと左手が只のおまけとは言っていられなくなる訳です。で、左手を前にして持つとですね、一本の武器が丁度梃子になる訳ですね。
「始め!」
はい、審判の騎士団団長さんの合図が有りました。実際に使ってみましょう。
相手は元鬼教官(嗤)さん、名前はマッケイヌさん…だそうですwww。はい
そこ!笑わない(笑)!!
此の勝負、相手の武器を叩き落とせば勝ちという取り決めです。マッケイヌさんは槍を叩き落とそうと、木剣を真っ直ぐ振り下ろしてきます。唐竹割りですね。
自分は穂先、槍の先端を下ろします。左手を支点にして右手、力点を上げる訳です。
穂先を下げた瞬間。
「おらっ!!!」
マッケイヌさんは木剣を跳ね上げましたね。Iターンです。片手剣は両刃なので向きを変えずとも攻撃になりますね。上に攻撃対象が有れば、ですけど。
あー、さっきの勝負を見ていて対策を立てたぞ!と言いたかったのでしょうね。
けど、自分は穂先を下げたままでいれば勝手に外れになります。
マッケイヌさんはよく分かっていない様ですが。
先手を取る構造には三通り有ります。
個人的には先手を取ると言うより一方的に攻撃を当てて終わらせると言った方が正確だろうと思いますが、まあ広まっている言い方で先手を取る、と。
素人さんでも大体知っていそうなのが“後の先”ですね。後から動いて先手を
打つ、と。
後の二つは“先の先”と“対の先”と言いますが、今は後の先の話です。
後の先は相手の後から動くんです。相手の動きを見て、其れから対応するん
です!後出しジャンケンみたいなものですね。
マッケイヌさんは先程の勝負を見て予測はした様ですが、今!目の前の相手を!!全然見ていない訳です!あれかね?お年を召していらっしゃるので急速に
変化する現状にはついて行けなくて、完全に予測だけで動くとか。
しかしですね。身体能力に不安が有るヒトこそ後の先の戦い方をするべきなんですよね。
何故なら、どんなに身体能力が上回る相手であっても、一度始めてしまった動きは無かった事には出来ないので、迎撃されれば避けられないのです。
見た事有りますでしょうか。達人が攻撃すると、まるで相手の方から当たりに行っているみたいだ、というのを。そういう風には見えても、本当は達人の方が
相手に合わせて攻撃している訳です。
昔のロボットアニメと言えばなにかと合体するモノでしたが、科学的検証をした方が言っております。空中で合体するなど現実的には無茶だ。不可能と言っていい。合体なんぞするより最初から完成形な方がずっと現実的だ、と。
そもそもヒト型ロボットで何十メートルなんて大きさというのも非現実的なんですけどね。
兎に角、相手の方が攻撃に当たりに行っている様に見えてもわざと出来る様な
ものではない訳です。本当に達人さんは難しい事をさらっとやっているのですね。例えが変?ごめんね!!
そういう訳で(どんな訳だっ!!)自分はマッケイヌさんの動きに対応して穂先を跳ね上げます。此れが後の先ですよ~。あ、所で下から真上への攻撃を逆風と
言います。
こおぉぉぉぉん…
マッケイヌさんの木剣に追い打ちを掛けたら真上に飛んで行きました。
はい、自分の勝利ですね。取り決め上では。
からららあああん
誰にも当たらない所に木剣は落ちました。おし!狙い通り!!
「ちいの勝ち!」
団長さんの宣言があって、勝利が確定です。
「ぐぐぐぎぐっ!!!」
マッケイヌさん悔しそうに歯を食いしばっていますね。ぷるぷるしています。
「お?素手で来る?ん??」
「ぎぎぎぎっっ!!!」
勿論、来たら来たで対応する心構えは出来ています。けどマッケイヌさん、足は動きませんねえ。
がくっとうなだれて、マッケイヌさんは騎士達の囲いにすごすごと戻って行きました。
「はい次~!!自分に文句有るヒトどんどん来てね~☆」
「あっはっはっは!ヒデえ挑発だなあおい!!」
「お?メイザス来る?」
「おれは先ずヤクマルジゲンリューが見たいんだ!槍なんかじゃなく!!」
仕方ないなあ。別の、やっぱり知らん奴が来た。
「おれはスグマ・ケイル!剣とは騎士の誇りだ!負ける訳にはいかん!!」
「始め!!」
こぉぉぉんかららん!
すぐ負けいたね!
「おれはカテヤ・シナーイ!!意地でも勝って剣が槍より強いと証明して
やる!!!」
「始め!!」
こぉぉんからららん
勝てやしなーかったね!!
「デヴァン・チョイト!!」
「始め!!」
こぉぉぉぉんからん
出番ちょいとだったね!!
ふむ!槍の扱いに馴染んできた気がする!!何時ぞやシャールにも言ったが、
やはり戦闘関連の練習は相手が居てこそだね!
うん、騎士達は自分にとって練習台なのだ!教えてもやっているんだから酷くはないよな?
正直、槍に使い易さは期待していなかったのだが。
武器は長い程強い、というのは確かなのだが、別な側面としては長い程使い難く成るのだ。一寸した長さの棒で何かボタンを押すとか試してみると良い。先ず上手く出来ないから。
しかし、使い難くてもヒトは長い武器を使いたくなるものだ。だって敵に近付くなんて誰でもおっかないもの。
自分は騎士達に槍の使い方を教えてあげる積もりで使ってみた。それだけだったのだが。今、これでも中々イケるな♪と思い始めた所だ。
やっぱり刀の方が好きなんだけどね!槍の方が強いと言われてもこだわりでね!あ、騎士達が剣に拘りたいのも分かるわ。
まあそんなのどうでも良いや~(酷い)。さあ練習練習!
「次~!!次誰来んの~?はやくはやく~☆」
「そ………そろそろ勘弁してくれ……」
「おれ達の心が受け止められるのを待ってくれ……」
あー、幼女に連敗したら大の男の心はボロボロか。況してや騎士の魂、剣でぼろ負けだからな~。でもね?
「まだ半分も勝負してないじゃん!次!!」
「ぎゃあああ!!何コイツ!!!」
「助けてぇええええ!!!」
野郎が情けない悲鳴上げてんじゃねえよ!!次っ!!
「ふふふ…ではお相手願おうかな」
ヘイキンさんが出て来た。
「勝てるとは思ってはいないがね」
「おお?ヘイキンさん、剣使うの?あの時は手加減の積もりだったとか」
「まあ、そうだな。しかし剣より槍が強いだなんて君が言うから、失敗したかなと思っている所だがね」
「武器としては強くても慣れてない武器では上手く使えないでしょう。失敗では
ないよ」
「そう言う君は随分槍を使いこなしているな?」
「あー、今調子が掴めてきたとこ」
「!!……ははっ…脱帽だな!!」
言って互いに構える。
「始め!!」
団長さんが言った瞬間!
かかかかかかっ!!!
打ち合いが始まった!!
巧みな打ち合いをしたかったら。短い武器の方がやり易い。なので、槍では精々相手を近付けない為の打ち合いが出来れば上々か、と思っていた。槍は近間に入られると弱いからね。
けど結構使えるものだ!某戦国漫画で、槍は先ず打つもの刀は先ず突くもの
みたいに描かれてあったが、成る程ね!!そう思える!!
「くっ!!君はっ本当にっっ!!!」
かかかかかかかかかっ
打ち合いが加速していく。ヘイキンさん、やっぱり剣の方が本来の武器なのだな!
だがヘイキンさんは苦しそうだ。では此処らで。
「剣喰らい!!」
相手の剣を巻き込む様に内回し!!そして相手から剣をもぎ飛ばす!!
からららああんんっ
ヘイキンさんは剣を落とした。
「ちいの勝ち!」
………
囲っていた騎士達は唖然とする。見応え有ったろ?
「有難う!良い練習になった!」
「はあっはあっ!!……君にとっては只の練習っ…か……」
残念そう、ではあるがニヤリと笑むヘイキンさん。オトコだぜ!!
「おーし!!じゃあ今度こそヤクマルジゲンリュー見せてくれよ!!」
やっぱり空気を読まないメイザスが言い出した。脇にはものごっつい木の束を
抱えて居る。
横木の積もり?!!やっぱりあほだな!!三分の一位で丁度良いという程
ものごっついぞ!!
「はいはい、じゃあ準備しようねえ。でも其の前に!」
騎士達みんなに向けて言う。
「明日から、庶民兵の皆さんと一緒に訓練しよう!」
ざわっ
騎士達は不満そうにざわめく。地位が低い者と一緒に訓練なんて!って考えが
主流なんだろうな。
「文句有るヒトは自分に勝ってから言って下さいねえ?」
「あっはっはっは!!違えねえ!!」
メイザスは豪快に笑う。空気は読まないが、地位なんかも全く気にしない
らしい。
ヘイキンさんもスカッとした、みたいな笑みを浮かべていた。




