第47話 一応只今と言ってみた
只のちいと名乗っているちいちゃんが、只今と
挨拶する。
おもしろぉおぉおぉおい!
……詰まらん?ご免して?
村とトナー・リーの町で今後の話をし終えて、再び王都にやって来た。
王に報告をしなければなるまいか。今日を抜かして三日は余裕が有る筈だったが、場合によっては全然余裕が無くなるな。
お偉いさんに会う場合、事前にアポイントメントという奴を取らなければいけ
ないからな!面倒臭い!
只、王都に入る際には勅命書を門番に見せれば行列に並ばなくても良いというのは救いか。いや、行列が出来るという事自体がやっぱり面倒臭いがな!
さて、街門を潜ると。
「師匠ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉう!!!!」
即ライナが抱きついて来た。と言うかのしかかって来た!
おい!普通の幼女にこんな事したら死んじまうぞ!!割と本気で!!
自分は重心を把握してそこを即座に支え、事なきを得たが!さり気ない様だが
達人級の技術じゃあないかな!!
と、言う訳で。お仕置きだ!支えて直ぐ脇に放り捨てる!!うっちゃり!!ってか!ああ、うん。相撲の技ね。
どさりっ
「痛ぁぁぁぁぁい!!師匠!何するんですか!!!」
「そっちこそだよ。殺す気か!」
「え?誰が誰をです?」
本気で分かってないのか!!
「ライナが。自分を」
「ええええええ?!!何でですか!!」
「幼女に全体重を掛けてのしかかって来るんじゃない!!」
「よーじょ?」
「自分、幼女」
「………」
「…」
「ええええええええええええええええええ??!!
師匠、女の子なんですか??!!!」
言ってなかったっけか。いや、男の子ならのしかかって良いって訳じゃないが!!
「幼児は本当に弱くて脆いから丁寧に気を付けて扱いなよ。
どんなに気を付けても付け過ぎって事はないから」
ホントにね。至れり尽くせりのお世話って、実現するのは迚も難しいのだ!
「あははははは!!師匠が言っても全然説得力が無いです!!!」
「下らねえ所にばかり機敏に反応してんじゃねえよ!!」
詰まり。自分を見て幼児が弱くて脆いだなんて聞いても笑っちまうよって、
コイツは思っている訳だ。
実際は危機一髪だったのだ。
所で危機一髪というのは、髪の毛一本分の幅程の隙で危機を脱したって事…だよな?
辞書を見たら逆に髪の毛一本程の違いで危険に追い込まれたとか書いてあったのだが。
ぱちぱちぱち
此の遣り取りに向けて拍手を浴びせられる。
「お見事!
あの……えーと、名前は何だったか、おっさんをぐるっと投げ飛ばしたのは伊達じゃなかったって訳だ!」
拍手してたのはメイザスだった。あほが集まってきた!勿論自分以外!!
「おいメイドちゃん!今のは本当にちいじゃなければ危なかったぜ?」
「あー、コイツメイドなのは格好だけだから」
それは言っておかなければなるまい。
「左様です。ちい様のメイドはわたくしで御座います」
メイが言った。うん、喋ったのは今だけど、ライナがのしかかって来た時には
もう居たのだ。
「メイは王宮のメイド。何で此処まで来ちゃってんの?」
そう!集まってきたあほというのはメイも含むのだ!
「国王陛下への謁見の段取りは整って居ります」
「え?あ、有難う。手際良いね?」
「全てはちい様がご予定を違えずにいらっしゃったお陰で御座います」
えっ?!
待て待て!其れって、自分が予定通り来なかったらどうなるか。
国王を無意味に動かしたって事になる。一メイドが、だ。
メイの首が飛ぶ事態に成っただろう。物理的に。
物理的ってどう言う表現だよ!って個人的には思うけど。
詰まりは、例えでも何でもなく、本当に首を刎ねられるという事だ。
「随分危ない真似したね?」
自分の意思に関わらず予定通りに行かない可能性だって有るのだ!
「ちい様は命を懸けてお仕えするに値するお方で御座いますれば」
「だから!!メイは王宮のメイド!!!自分、王宮とは無関係!!」
もうコイツ恐いわ!
「…はあ、じゃあ陛下のご尊顔を拝しに参りましょうかね」
「あれ?わたしんちに行かないんですか?」
「国王を差し置いて自己主張してんじゃねえよ!」
ライナは何時か命取りな発言をしそうで恐い。
と、いうか。過ぎた事ではあるが、ライナの家に自分を泊めるのはどうかというアレが既に命取りな発言であった。王の発言に口出ししたから。咎められなかったのは幸いだったのだ。ホントにな!!
そして王宮、謁見の間。
臣下の礼をし、顔を俯けて待つ。自分の後ろにはメイ、ライナ、メイザスが控える。何で?
「面を上げい」
陛下が仰り、自分、以下後ろのあほ達が顔を上げる。
陛下は更に仰る。
「そろそろ此の遣り取り、面倒ではないか?のう、武神」
…何て?!
「お主は神と認められた存在なのだ。只のヒトと同じ仕来り等やってられるか!と思わぬか?」
「お戯れを」
「ふうむ。予も面倒は省きたいのだがな」
無茶振りぃぃぃぃ!!!
「其れは追々な。
して、用事は済んだのか?武神よ」
やけに武神武神繰り返すね?
「はい。皆に声は掛けて参りました。今後、必要があらばこの場からでも連絡は
取れますが」
「むう?伝書鳩か何かでか?」
「魔法で御座います」
「は……はぁーっはっはっはっは!!!そうか。魔法か!!魔法使いランク5は
伊達ではないと!!
成る程成る程!!!……とんでもない事をさらりと言いよる!!」
気のせいか、王は言った後憎々しげな視線を向けて来た様な?
「して、騎士達に稽古を付けてやるのは何時からになるのかな?」
「予定通り、後三日を掛けて準備を整えてから、にして頂ければ幸いに御座い
ます」
「成る程な!先見の明も相当だな!」
買い被り過ぎ!!
単純に、余裕は持たせて予定を立てないと行き詰まるってだけだよ!
「では四日後という事で良いな。楽しみにしているぞ」
「ははっ!しかと承って御座います!」
ははってのは笑った訳じゃないよ?了解!って返事だよ?念の為。
「相変わらず白々しいな」
王がぼそりと言った。なあに?ホントに!
で、謁見が終わった後も千里眼と地獄耳を付けていたら、だが。
「ふぅぅぅぅ!!緊張したな!」
「左様に御座いますな!」
王と宰相の会話だ。
何と言うか、盗聴を仕掛けたスパイみたいだが。別に悪事を働く気は無いから
許せ!
「本に、奴は得体が知れんな!」
「左様に御座います!わたくしめは身震いが止まりませぬ!!」
「原始人が神に祈りを捧げるとはこんな気分なのであろうな!
ご機嫌を取って気分良くお力を奮って頂く!
まるで予が側仕えか何かの様だ!」
「ご冗談を!」
「宰相よ!余り予を追い詰めてくれるな」
えー?誰の事言ってるのかなー?
「師匠!何ぼーっとしてるんですか!」
ライナが言う。そう、遠くを気にしているので自身の目の前は気がそぞろに
なってしまうのだ。
「ああ、一寸ね。陛下のご機嫌を窺ってた。
何かやたらと突っ掛かって来るからねえ」
「突っ掛かってましたっけ?」
ライナはやっぱり鈍い様だな。
「いや待て!窺ってたって今か?どうやって?!」
メイザスは一寸鋭い様だ。
「魔法でね。他言無用でお願いします」
無用な疑いでも掛けられたらたまらんからな。
「魔法?!マジか?」
「マジ。言っとくけど、万能って程ではないから」
例えば、王から気を逸らした今はもう分からない。又見る事も出来ない。
「待てよ!魔法が使えるなんて聞いてねえぞ?」
「今知った。もう良いでしょ?」
王が言ってた段階では話半分だったのか?
「そんな事より、あほあほさんは何時まで付いて来る気なんです?」
「待てえ!!!あほあほさんっておれか?!!」
ライナは平気で口挟んで来るなあ。しかし、あほあほさん!ぶふっ!!
「師匠があほあほ言ってたじゃないですか」
聞こえてたのか!ホントに!!御前試合でしか言ってないのだ。
耳は小学校六年生、詰まり12歳位から衰え始めると言うのだが!
勿論ライナはどう見ても其れより上だ。但し頭の中は除く!
「おい!ちい!!!」
メイザスは御不満な様だ(笑)。
「まあまあ(笑)」
「笑ってんじゃねえか!!」
「それで何で付いて来んの?」
「ヤクマルジゲンリューを教えて貰う為だ!」
おお!ガイジンさんは聴き取るのも難しいと思うのだが!よっぽど気に入ったのかね?
「師匠から教わって良いのはわたしだけです」
「そんな決まりは無い」
誰が何時ライナの専属師匠になるだなんて言ったか!
「師匠ぉぉぉ!!!師匠は一体どっちの味方なんですか!!」
「誰の味方でもない。って言うのが中立って事なのかな?」
「わたしだけを構ってぇぇぇぇ!!!」
「子どもか!!」
ライナは頭の中がホントにアレだったな!
「コイツって……」
メイザスが絶句って感じだが。
「安心しろ!自分以外みんな同程度だ」
「「「待(っ)てええええええええ!!!」」」
ライナ、あほあほさん、メイの絶叫が唱和した。
因みに、促音「っ」が入っていないのがあほあほさんだ。念の為。
しかし、みんな同程度と言われて不満そうとは、みんな自覚が無いねえ。兎も角。
「薬丸自顕流の練習道具は東郷示現流よりは用意し易いから。準備しておいてね」
「お?……おう!」
「先ずは細めの木々、曲がっててもぎざぎざでも良いから沢山束ねる。
で、両端を結わえて少々地面から浮かせて支える。
それから長くて真っ直ぐで硬い棒を両手で持って、離れた場所から駆け寄って
其れをぶっ叩く。
横木打ちって練習」
最初は移動せずその場で打つ練習から始める様だが、メイザスは重心機動がそれなりに出来ていたから省いて良いだろう。
「ふっふっふ!わたしの練習道具、立木の方が用意が難しい!
わたしの方が上って事ですね?師匠!」
「子どもか!!!」
しょうも無い所で張り合うライナ。あほだなあ。
「師匠、着きました!此処がわたし達のお家です!!」
わたし達じゃあねえだろう。兎も角、そこは。
塀に囲まれた広大な土地だったが。
野っ原だった。と言うか草っ原だった。
ライナが出入りしていると思しき筋が一本、開けていた。獣道か何かの様だ。
そりゃあまあ、広すぎる土地を一人で手入れ出来る訳も無い。庭師なんかを頼むにしても無料じゃあない。こうなっちゃうだろうけども。
先ずは恥ずかしがらないか?ライナよ。平然とし過ぎだ。
「ぶははははは!!何じゃこりゃあああ!!!」
あほあほさんが笑ってる。まあ、そうだね。
「あほあほさん失礼です!用が済んだのならさっさとお引き取り下さい」
「その呼び方やめろ!!」
同レベルだっての!
あー、兎も角。此処に住む訳じゃない。一寸長いけど一定期間の滞在と決まってはいるけども。
一応、な。
「只今」
「お帰りなさい!!師匠!!」
ライナが快く応えた。
お知らせ致します。
パソコン様、やっぱりご機嫌宜しくありませんでした。ヤヴェエです。
どの位ヤヴェえかと申しますと、若しかしたら此のアカウントに繋げなくなる
かも…と、思ってしまう位です。
しかしっ……しかしですね!まだまだ語り足りないのです!!
話はまだまだ触りの部分でしかないのです!!
この先何が有っても何とか続けて行く所存でありますので、暖かく見守って
頂ければ幸いで御座います!
また明日も大丈夫、そう願ってひとまず筆を置きます。