第46話 又会おうねと言ってみた
トナー・リーの町に間もなく着く。
知人に挨拶したら一泊し、それから王都に行く予定だ。
やろうと思えば村から王都までその日に行けなくもないが、可能ではあるがやりたくはないと言うヤツだ。
一方、明日に王都に着いたら王に頼んだ一週間には大分日数が余る事になるが、社会生活というモノは予定には余裕を持たせなければ成り立たない物なのだ。
例えば借金。借金と聞くだけで嫌悪感を催すヒトは多いだろう。それは正常な
感覚ではある。平気で借金を重ねられるヤツは壊れている。ヒトとして終わって
いる。それは否定しない。つーか全面的に肯定だ。大賛成しまくってやる!
だが甘~い。社会に出るとは、言い換えれば借金を背負って始めるモノ、と言える側面が有るのだ。
借金を背負ったら稼がなくてはならない。当たり前だ。逃げられないだろお~?って訳である。何と言うか、悪魔との契約みたいだ、と思う。
お伽話は現実離れした話ではあるが、暗に子ども達に伝えたい事を含めると良く言う。となれば、悪魔との契約そのものと言って差し支え無いな。悪魔とは現実的な恐い存在を例えたモノだ。恐い、けど利用はしなければ生活出来ないって訳だ。
具体的に何で借金を負わなければならないか。生活の基盤は言うまでも無く衣食住だ。少なくとも住宅を手持ちのお金で一括払い出来るヤツなんて居ないと思うが。食事だって早急に用意しなければ餓え死にだ。衣服だって、どこぞの裸族でもあるまいし、着なきゃあ居られまい。
だが社会に出ていない者には抑も収入が無い。ほら、借金が発生するのだ。
で、借金だが。ローンを組む、なんて話になると、だ。必要な額ピッタリに借りようとすると、だ。言った金額に足りない位しか寄越されないのだ!
詐欺だ!と思う。自分だって納得し難い。けどそれが社会の仕組みなのだ!
(号泣)
まあ兎に角、社会とはギリギリピッタリに行動しようとすると挫折する事確定なモノなのだな。シクシク…
で、だ。王都から村に帰って一日、村中にこれからの事を言って回って一日、村からトナー・リーの町に来て一日、トナー・リーの町から王都に行って一日だ。
予定通りなら四日で王都に着き、三日余裕が有るという事だ。王都に着いたからと言ってそれで済んだとも言えないか。ならば余裕は二日弱だな。
…あれ?半分近くから急にやっと一日は有るけどもって所になったか?結構忙しいな!
さて、トナー・リーの町だ。町門、とも言えない入り口だ。門番、とも言えない入り口のヒトだ。ミハリーさんと、今日はもう一人別のヒト、ヨーコソさんだ。
うん、気さくそうな名前のヒトだね。変とか言っちゃダメだよ?
「こんちはー!」
「「今日は」」
「今日も元気だね!」
特に初日に会ったミハリーさんとは知った仲だ。
「今日はもうしばらく会えないと言いに来ました!」
「「えっ??」」
いきなりな様だが、じっくり話す仲でもなければ言うしかないだろう。
「二年間兵役に就く事になりましてね!」
「「はあああああああ?!!!!」」
吃驚はするだろう。けど言わなければ(以下略)。
「い………いやいやいや!」
「兵役?それって、国の兵隊さんになれって事??」
「まあ、戦争に行く訳ではなく、毎日ひたすら騎士さん達と試合し続ける事になりそうですけどね!」
「「いやいやいやいや!!」」
「どんな修羅道だよ!!」
修羅道とはあの世の六道の一つ、ひたすら戦い続ける世界だ。地獄道とそんなに変わんねえな!!それと、ヨーコソさん良くそんなモン知ってるな!!
「おかしいよね?」
「君幾つだよ!それ、正気じゃないよね!」
このヒト達は正常な感覚だ。それは大いに賛成する。
「けども村の税として刀鍛冶が連れて行かれそうになりまして、その代わりに、ね」
「カタナ……ああ、君の所から売り出した武器か」
「災難だったね……無理はするんじゃないよ?」
自分は余所者なのだが、このヒト達は悲しそうにしてくれる。良いヒト達だ。
「まあ、中々鍛え甲斐の有りそうな騎士さん達ですけど、ね」
何故か入り口のヒト達はビクッとする。
「君、もう騎士さん達とは会ったの?」
「よくそんな大胆不敵な笑みを浮かべられるね?」
「ふっふっふ!では、挨拶しなきゃあいけないヒト達が未だ未だ居るので。これで!」
「あ………ああ。頑張ってね?」
通り過ぎて少ししたら二人は喋りだす。
「あ………あの子、一体何?」
「いや………おいらもそんなには知らないけど」
何だかなあ。まるで化け物でも見た!みたいな反応せんでも。
先ずは商人ギルドからだろう。やっぱり顔パスでティーエに通される。
「やっほーちいちゃーん♡あたしに会いに来ちゃったのー?」
…前世は男だったとか言ってる奴の態度ではない。あっちゃあならない。
「あー…二年間村を留守にするって連絡をしにね、来た訳だけどね」
「え?どういう事?」
流石に直ぐに真剣な表情になる。
「兵役に就く事になってねえ」
「……おかしいよね?言ってる事」
うん、正常な反応だ。
「村の税として刀鍛冶が連れて行かれそうになって、その代替案って事でね」
「ふうん?ちいは村の税として通用する程強いって事?」
「いやあ、いくら何でも自分一人じゃあ村の税に届かないから国軍全体の力を底
上げしてやるよーってね」
「それでも無理なんじゃない?」
「いや?騎士達のケツ引っ叩いて焚き付ければ良いだけだよ」
「ぷっ!!それじゃあ騎士と言うより馬じゃない!!」
おお!此のネタ、分かってくれたか!
「……それでも、やっぱり大変なんじゃない?」
「いやあ?武器の技術に甘い所が有るの、もう見付けちゃったよ?」
「恐!!ちい何だか恐い!!
……でもさ?騎士の戦闘技術ってさ?一般よりはずっと上なんじゃないの?」
前世では冒険者の戦士だった(笑)というティーエには気になる所だろう。
「ふっ!もう実際に何人かしばき倒して来たし!国王陛下にもご覧頂いたからねえ。
今度戦士でランク6になったよ」
「え…………?!」
ティーエの前世の頃は冒険者ランクは無かった様だが、トナーの一番弟子だったのなら仕組は知ってるだろう。
「え?一寸待って?
ちいって、ランク3から5までは魔法使いだったよね?
なんで戦士でランク6なの??」
「木刀で騎士達と御前試合したもの」
「えー?!!ちいって、刀は何か知った風な事言ってるだけじゃなかったの??」
「ほう。そう思っていた訳だ?」
「あわわわわ……だって魔法使いでランク5だったじゃあ……」
「都合により、だよ。まあ、どうしても近付けない様な相手なら魔法で片付ける
けど、近付けるなら武器の方が手っ取り早いかな?」
さり気ない様だが、冒険者ギルドでは自分に合う防具が用意出来なくて認定試合が流されそうになった。のに対して、御前試合では自分は防具を身に着けた。王には自分専用の防具を用意させる力が有ったと言う事だ。
「魔法戦士!!……両方使えるなんて聞いた事無いよ!!!
それが4歳にして魔法戦士!!」
4歳というのは数え年ならば、だ。数字に強い商人でも数え年使ってんだな。
「だから、騎士達の戦闘技術は甘々だと断言出来るんだよ。
まあ、その分向上の余地が有るとも言えるね!」
ふっふっふ!びしびし鍛えてやる!!村の税の為に!!!
「凄い………ちいって本当に凄かったんだ………
トナーが夢見た姿がこんな所に……!!!」
ティーエがなにやら感動してるが放っとこう。
「それで、だけど。自分が居ない間、村と渡りを付けておいて欲しいんだ。商売
関係でね」
「うん!!今は刀が流行なんだよ!!此の流れを止めちゃあいけないよね☆」
ティーエは燃えている様だ。そこはもう任せてしまって問題ないだろう。
「……でも。刀は難しいんだよね?実演は出来なくなるね?」
「村の子達がそれなりに出来るよ。けど品物の搬送はそちらでやって貰いたい。
ああ、子ども達に真剣は使わせないでね。絶対に。絶対だよ?」
「え?何で?」
「前世で戦士(笑)だったら分かるんじゃないかな?刃物の武器は自分を斬っちゃうのが怖いって事は」
「あれ?何か戦士って笑いを含んで言ってない?」
「さあ?それよりも子ども達がやろうとしたら絶対に止めてね?」
「んもー!そんな惚け方まるっきり女の子だよ!」
「何処がだよ!子ども達が真剣使おうとしたら絶対止めろ!」
「随分繰り返すね?分かったけど、実演はやっぱり出来ないって事だよね?」
「客には素振りを見せて先ずは木刀を売って自分で納得するまでしっかり練習
しろって言って欲しいんだ。
まあ、真剣を売った後はどうなろうと客の責任だけどね」
「ああ、ちいがやったみたいにね?あたしが笑い者になったアレね?」
「根に持ってんの?ティーエが刀買うとか言ってたから実力を知っといて貰いたくてね?」
「あははー!何もあんなやり方しなくてもー?」
「女の腐ったのみてえにぐじぐじ言ってんじゃねえよ!」
現代日本では腐った女と言うとホモ好きなんて意味になるが、本来は陰湿拗れさせたという意味で特に男に向けて言う。女に陰湿拗れさせたって言っても効かないからじゃないかな?
「そっちこそ言われたら倍返ししてない?口じゃあ敵わないなあ」
「商人が口で敵わないって、ダメじゃん!!」
「ふふふ♡ちいちゃんさ、あたしの養女になって商人目指してみない?」
「目指さない」
「バッサリだね!流石刀使いだね!!」
「んじゃあ、まだ挨拶するヒト居るから」
「待ってよ!一緒に行こうよ!」
ティーエは言うと自然に手を繫いで来た。抵抗はしないけどさ?
やっぱ商人ギルドってヒマなの?
其れから職人ギルドに行った。まだ建物は完成してはいないが、受付みたいな
部分は在った。職人達が作業出来る部分も造る様だ。勿論、本格的な作業は職人達それぞれの工房で、であろうが。
結局はそれぞれの工房に行って挨拶回りをした。職人は基本、職場から出ない
ものね?
最後が冒険者ギルドだ。疎かにした訳ではないが、仕事関係が先になるのは仕方なかろう。
「おっちゃーん!」
受付のおっさんにそう声を掛けてしまった。自分でおっちゃんって言ってたし。
「おーう!ちい!!……って、なんて登場の仕方だよ!!」
ティーエとお手々繫いでの登場だ。自分のせいじゃないし!
「自分、ランク6になったからね!」
「ぶううう!!マジかよ!!!」
「何時かは分からないけど、連絡は来るんじゃないかな?」
何しろ、ギルドは情報管理(笑)してるし!
「職業は戦士で、ね!」
「はああああああああ??!」
驚いてる。ランク5まで魔法使いなのは知ってるからな!
「あの時の紹介状の代金、出世払いしよっか?」
「いらねえよ!サービスだって言っただろ!」
そう言うと思って疑問形だったのだ。
所で、日本でサービスと聞くと無料という意味にしか取らないだろうが、本来は便宜を図るという意味で、外国では有料サービスなんて当たり前に有るだとか。
自分の記憶に在る日本の誰かさんは国外に出た事無いんだけどな?
「それから、二年以上は会えないから。お国でお勤めするからねえ」
「はああああああああああ???!
連発で驚かせまくるなよ!!もう訳分かんねえよ!!」
自分のせいじゃない。紹介状無料で貰っちゃった位しか。
「じゃあまたねえ♪」
「明るく言うなよ!!縁が切れるのを喜んでいるみたいじゃねえか!!」
「今生の別れみたいだね」
ティーエのアホウがぼそりと余分な事を言い足した。
「又会おうね♪絶対にね!」
念押しする羽目になった。阿呆な元男の戦士(笑)のせいだ。
「……ああ!」
気のせいか、受付のおっさんちょっと泣きそうかと思った。
読み仮名って難しいですよね?
以前、ひざまづくと書いたのですが。さて、何処でしょう?ああ、ちょっと
待って下さい?話がまだ終わってません。
公式にはひざまずく、が正しい様です。納得出来ねえって思うんですけどね?
片膝を地につく訳ですよね?なのに点々が付くとすになっちゃうんですね?
そう言えば、地面の地だって地下とか地上とか言う時はちなのに
点々が付くとしになっちゃうんですね?おかしいですね?
さては公式な表記も結構いい加減だなあ?!
…まあ、言語は元は音声が在って後から文字を当てはめているので、どうしても
齟齬は出てしまうのでしょう。
そんな事を考えるだけでも一寸した暇潰しにはなるんじゃない
でしょうか?
んな暇無え?まあ、忙しい方はそれはそれで結構なものです。




