第18話 幼児のお巡りさん始めました
確かに自分は大人にお手伝いという雰囲気で自警団に加わった。
そしてたまたま盗賊団と戦っちゃったりもした。
しかしだからと言って。
「僕達も自警団に加わりたいです」
シャールがそんな事をほざく。何処の世界に幼児に自警団させる村が在ると言うのか。
「死ぬよ?」
脅しでも何でもない。厳然たる事実である。
「ちいは生きてるじゃないですか」
シャールにしては聞き分けがないな。ふぅーっと溜息を吐き。
「自分は気配を探るし魔法は使うし刀も使うし」
改めて考えると何でも有りだな。バーリトゥードゥだな。ははは…
「じゃあ僕達にもそれ教えて下さい」
特に気配は教えてどうなるもんじゃないんだが。ふむ?そうか!
「魔法でどうにか…いけるか?」
要はどういう方法でも危険を察知出来れば良いのだ。
現代日本の町でだってしょっちゅうイノシシが出た~とか騒いでいたのだ。こんな発展途上な世界の田舎村でなんか中央広場に居たって全く安心等出来ないだろう。
危険察知の魔法を身に付ければ今後どうしようと損という事は無い。と、なれば。
「付いて来られるかな?」
にやあっと笑って見せた。と、思う。自分の顔は見えないし。
子ども達を自分の前に集めて語り出す。
「これからみんなに魔法を覚えてもらいまーす」
子ども達はざわめき出す。こんな世界でだって魔法はやっぱりお伽話なのだ。
「魔法名は生命感知!生命を見る魔法…」
言いながら考える。それはもう高速で頭を回転させる。気配が生体電流を知覚する事なら魔法を使って見る事も出来る筈!何しろ天気図を参考にして魔力を見る事が出来るのだからな!と思った所…
「ぎゃあーあぁあおぉおう!!!目が!目があぁぁああああ!!」
某天空の城のアレの様に目を押さえてのたうちまわってしまった!!ぎゃああああ!!
「ど…どうしたんだ?」
ワットに言われてしまった!!
「み……見え過ぎちゃって困った…!!」
「はあ…?」
詰まり、植物の電流まで見えてしまうと周り中木だらけだから目が酷い事になってしまったのだ。
植物にだって生体電流はあった筈だ。ヒトには認識出来ないが、植物だって実をもがれたり枝葉を折られたり草食獣に食われたりすると絶叫やら断末魔の様な波動が発生するとか。何か果物でも齧る度絶叫してるとか思ったら……何も食えなくなるな!
一応安全な筈の場所で分かって良かった。危険な状況でぶっつけ本番なんかしたらそこでアウトだ。
耳の話になるが、聞きたい音を無意識に選別しているのだとか。対して機械の録音は全部の音を平等に拾ってしまうので周りがうるさいとワケが分からなくなってしまう。声優さんなんかは余計な音を極力立てないお仕事じゃなかったか。
この魔法もその様に調節出来ないか?詰まり意図的に植物を無視するとか。と考えると。
それでも何か小さいものが無数に周り中に蠢いて見えた。星空みたいでキレー………
じゃねええよ!蠢いてたらやたらキモいよ!これ虫だ!これでも周り中電流だらけで訳わかんねーよ!
虫は動く生き物の全体の四分の三を占めると言う。これだけ居たら其れも納得だね☆どうでもええわあああ!!!
むううう…虫には危険なのが間違いなく居る。虫は省けないか?
いや、此処は魔法なんかが使えちゃうファンタジーな世界だ。植物にだって危険なのが居るかも知れない。よく有るだろう。虫どころかヒトだって取って食うマンイーターとか。少なくともここらでは見ないが。
…考えたらキリが無い。虫までは省く。でないと魔法で見る意味が無くなってしまう。が、虫も植物も結局は油断出来ない。それどころか。
生き物ではない罠は見えない。ヒトや他の生き物が設置するばかりではない。天然の罠なんてモノも広い世の中には有るものだ。底なし沼とか。
………
「やっぱり村から出るのやめない?」
「黙って突っ立ったと思ったらいきなりソレかよ!」
ワットに突っ込まれた。あー、傍から見たらそうだったかー。
「外は危険に満ちているんだよ。冒険ってのは危険を冒すって事なんだよー」
「マジョオの所まで歩いて行ったろおお!」
あ!やべえ。
「「「狡ぅ~い!!!」」」
大部分の子ども達が騒いだ。やっぱりな!だから外出たからって面白い事なんか無いっつーの!
「山菜採りにも行けなかったし!」
誰かがそんな事言った。ぎゃああああ!!
ず・る・い!ず・る・い!
ほぼ全員の狡いコールが始まってしまった。こうなると手を付けられない。
「……魔法の勉強を続けましょう」
「続けるも何もちいは突っ立ってただけじゃん」
ワットに突っ込まれてしまった。傍から見ればそうだったかあ。
先ずは折角なので生命感知を、と思って説明した。したが。
本当に分かり易く、と思って説明したのだが。誰も身に付かなかった。シャールでさえ。
あれ?ピュアは?ピュアを見ると目に魔力がこもっている様だ。
「使えてる?」
ピュアは只にこにこしているだけだ。…使えていたとして、お話にならない。何で未だに喋らない子なの?
仕方ない。質を落とした魔法を試すか。
ヘビのピットアイを参考にする。体温位でも熱を持った物体は赤外線を発するとか。赤外線とはヒトの目には見えない光、赤の外の方ということで赤外線だ。ヘビはそれを感知出来るという訳だ。
これだと体温が無い生き物、植物、虫、爬虫類なんかが感知出来ない。マムシがタガメに斃されるなんて映像が有ったしな。マムシとは毒蛇、かなり強力な毒持ちの生物だ。タガメは絶滅寸前の虫。みんな!自然を大切にね!…って話では今はなくて。昆虫なのだ。まああヒトがタガメに殺られるとは思えないが、ピットアイで危険が感知出来なかったという話だ。
だが生命感知が出来なければ仕方ない。次善の策というヤツだ。
「みんな良い?よく聞いてね?」
魔法は想像で発動する。想像の手助けは懇切丁寧な説明しか無いのだ。これでダメなら使えないという事だ。
「光って、有るよね?」
「たいよ~!まぶしい!」
「ひもあかるいよね!」
子ども達が合いの手を入れる。聞いているという証拠だ。辛抱強く静まるのを待つ。
「目に見える光は可視光線と言う。けど目に見えない光も有るんだ」
シャールなんかは好きそうな話だが、他の子は興味を失ったら終わり、と思っていい。慎重にしなければならない。
「光とは実は波なんだ。水が揺れるのと同じ、あの波」
光の粒子性とか今は言わない。混乱するだけだ。
「波は盛り上がって盛り下がる、そこまでの長さが有る。波長って言うんだけども。
波長が長い、見えない方の光を赤外線と言う。
けどヒトには見えないけどヘビには見えるんだ。それをピットアイと言う。
それを思い浮かべながら長い光の波を見よう!と思ってご覧?
出来たなら、それが魔法、熱感知だよ」
言った途端。
「うわ!まわりじゅうが何かかたまりに見える!」
と言った子が居た。今此処には子ども達が集って居る。勿論子ども達には体温が有る。それが見えたという事だ。
よし!成功だ!
出来た子は…極一部だが。仕方ないだろう。次は…
「もう一つ、これは全員出来た方が良い魔法が…」
靴底魔法である。スニーカーって、良いよね?文明の利器だよね?
これはみんなが覚えるまで根気強く教え続けた。
しかしこれだけで子ども達に自警団とかやらせられる訳は無い。
これから言う事をしっかり心に刻みつけて貰う。口酸っぱく言うってヤツだ。
「世の中には冒険者ってお仕事が有る。主に悪いヒトや害獣をやっつけるってお仕事かな」
お~!と子ども達は盛り上がる。やっぱり子どもにウケが良いんだな。ワルいのをやっつけるってのは。
「で、冒険者にも色々役割が有る。全員が戦えるって訳じゃない。けど絶対に必要で大事な役割が」
どうしても注目されるのは直接戦える者だろう。が、戦う者だけで生き残れる程世の中甘くない。注目されない者も同様に大切にして欲しい、と願いを込めて言う。
「斥候という役割が有る。兎に角真っ先に危険を察知してみんなを守る役割。戦えなくても必要なんだよ。
危険を知ったらみんなに教えなくちゃあいけない。自分だけで戦って殺られるなんてあっちゃあいけない。先ず絶対に生き残ってみんなに危険を教える役割。逃げてでもだよ。かっこ悪いって思うかも知れない。でも絶対に必要なんだ」
真剣に皆を見回しながら言う。危ない事はするな、と。
「じゃあ今日はおしまい!みんな気を付けて帰ってねー」
「誤魔化すなー!」
ワットが野次を飛ばす。余計な事をぉ!!
「今日はもうみんな疲れたでしょう。帰って休んだ方が良いよ」
けどワットはもう靴底魔法が使えてたから疲れてねええんだよな。
「じゃあオレだけもっと他の事をやる!」
子どもって自分勝手で我が儘だよねえ。
「え…と僕も。他の子達も見ているだけでも足しになると思います」
シャールもかよ!
むう、体を動かす事は体が出来上がってない幼児にあまりやらせる訳にはいかない。
もう一つ魔法という所か。アレいっとくか。
「酸素吸入の魔法が有るんだけど…」
結局今日の所は誰も使えなかった。シャールなんかは興味深そうに聞いていたが、やはり目に見えないモノは想像しづらい様だった。ワットはやはり地味過ぎるとか愚痴りやがったし。あの時少しは楽になっただろうが!
で、次の日村長宅前で。
「僕たちを自警団に参加させて下さい!」
成る程、マジョオの所に行った時もこうやって談判した訳か。
村長は困った顔をする。自警団に参加させろと言う幼児集団。何コレですよねー。
「ちいは参加したじゃないですか!」
ぶほっこっちに飛び火したああ!!
じとっと目を細めてこっち見る村長。自分が盗賊団追っ払って助かったでしょうがあ!!
「大丈夫です!僕達はちいから絶対生き残れって教わってますから!」
シャールにしては分からず屋だよな。それで生き残れるなら誰も苦労しねえってヤツだよ。
村長は大きく、本当に大きく溜息を吐いて言う。
「絶対に、危険な事には手を出さないと約束出来るかね?」
「そう!それですよね!それが斥候という役割なんですよね!かっこ悪くても逃げてでも無事に帰ってくるべきなんですよね!」
珍しく熱く語るシャール。それ君の役割ちゃう。
驚きの表情を浮かべる村長。それから呆れた目をこちらに向ける。やめてよ。
「ふふふ。では君達に斥候の役割を頼もうかな」
村長の宣言で幼児のお巡りさんが始まった。始まってしまった。
まあ幼児なのだから、ローテーションに組み込まれるなんて事はなく子ども達がやりたーいと言った時だけだったが。それでも異常だろ!