第40話 ライナさん初めまして(大爆笑)
何だか良い家の方々が使うとやら言う戦闘訓練場所で。
初見には這いつくばっていた女性が、今は自分に向かって土下座をしている。
額を地面に付けるほんまもんの土下座や~。ってのはどうでも良く!
此の女性、這い蹲うのが趣味なんだろうか。
女性が顔を上げて言う。
「師匠!!今の御技!!わたくしめにお教え下さいませぇぇぇぇ!!!」
「誰が師匠か」
うん。当然の疑問だよね?
「そんな殺生なあぁぁぁ!!!」
「抑も君何なの?」
「あ!申し遅れました!わたし、ライナと申します!
家名は………一応、ジャクシャア家です!」
「ジャクシャア?」
「あ、ご存知なんですね?」
「知らん」
「あっれぇえぇえぇえぇえ?!」
変な家名だと思っただけだ。日本語知ってるヒトなら同意してくれるよね!!
ホントにね!!
それよりも、コイツの反応凄え三下臭がするんだけども!
それからこの言い様、家を放っぽり出されたクチだな?
「あー……ご丁寧にどうも。自分は…」
「チイ・タダノ様ですよね!!覚えました!!!」
一寸間違ってる!それよか、ヒトの言葉を遮んなよ!!
「先程の御技!!それはもう見蕩れました!!
一体、何て技なんですか?!」
「えー……ちゃんと見えたの?」
「はい!曲がったひょろい棒を縦にしてうおーって言うと敵がうわーってなるん
ですよね!!」
「超弩バカ」
全然分かってねえじゃん!!
「これ、曲がったひょろい棒じゃなくて木刀。
これで打った。詰まり攻撃したの。分かる?」
「え?!あれ、魔法か何かじゃないんですか?!!」
「魔法覚える気だったのか。君は」
「いや~!わたし、魔法なんて使えませんよぉ~!!」
コイツもうヤダ!!何なの?ホントに!!
「でもその曲がったひょろい木刀を使ったんですよね!
それならわたしにも出来ます!!」
「曲がったひょろいから離れろおおおおお!!!」
あれ?さっきコイツの相手してた男四人がスゴスゴ退散してる!!
……
擦り付けられたあああああああああああ!!!!
「……あー……部屋行って話そうか……」
ライナが這い蹲っていて、男四人が囲って見下ろしていたら、男達がライナを
いびっていたと誰もが思うだろう。が、真相は違った様だ。
ライナにはいびられた様な悲愴感が全く無い。傷の一つも無い。男がいびると言ったらまずは暴力だろうから。
男達がにやけていたのも、嫌味ったらしくではなく単純に女に関わっていたからだろうか。
男ってバカなんです。女が関わったというだけで顔がだらしなく緩んでしまうんです。況してやアイツ等非モテだろうしな!
世の中予想外が一杯だぞ!んな予想外いらねー!!
……ふう……
さて、自分が寝泊まりする部屋だ。
メイドのメイがライナと自分に茶を淹れてくれた。
自分から言葉を切り出す。
「さっきの技の練習法だけど。
説明だけならこの場で直ぐ済む。けど問題なのが、だね。
練習道具を用意するにはもう土木工事としか言い様が無い程手間が掛かる。
激しい音を出し続けても近所迷惑にならない場所も必要。
そして結局はライナが練習を毎日続けられるかが一番の問題」
「ふむふむ。場所はわたしん家にすれば良いですね!
工事はお金を出せばどうとでもなります♪」
「ライナ、お金持ちなん?」
「わたし、小屋とある程度のお金を持たされて家から出されたんです!
だから少し自由に出来るだけです!」
「小屋って?駄目じゃん」
文字通り小屋だったら音出せないだろ。
「だぁーいじょーぶですよーぉ!
音ったって何キロメートル先までは届かないでしょ?」
「キロメートル?」
「庭くらい何処の家だって在りますよね?そん位!」
「無えよ」
「あれええええ?」
あれええじゃねえよ!んな事ほざきながら歩ってたら貧乏人に刺されるぞ!
「あー……練習道具だけど……
先ず棒を立てる。なるべく硬い棒を縦に真っ直ぐ。
詰まり、かなり深く穴を掘って棒の大部分を地中に埋めて固定するんだね。
但し地面から出た部分だけでも大人の身長以上は残す。
そしてもう一本、ヒトが持てる位だけど長めの棒を用意して、それを持って地面から出た棒を叩き続ける。
立木打ちって練習。なるべく速く連打してね」
「ふむふむ。それで完成したら、師匠が実際に練習を見せに来てくれるんですね?」
「無理じゃない?」
つか、師匠呼び決定なん?
「何でですかああああああ!!!」
「自分、今はちょっと此処に泊まっているだけの客だし。
その後も一寸都合がつきそうも無いし」
「その後って、何なさるんです?」
「兵役に就いて毎日騎士達と試合かな」
「「ええええええええええ??!!!」」
ライナとメイが絶叫した。
「「な………何ですか?それは!!無茶苦茶でしょう!!!」」
何でライナとメイがハモってんの?
「国王陛下と約束したからねえ」
でもその前に実力を示さないとな!
「お…王様何でそんな馬鹿な事を!!」
おーい!!ライナ!それ王の部下に聞こえたら死刑だぞ?!
「陛下……何でこんな可愛い子にそんな仕打ちを!」
「可愛い言うな!」
メイ、さっきから言う事おかしいぞ?
「………分かりました!」
「何が?」
あほの子のライナが何分かるってんだ?
「では!準備して来るので失礼します!」
あほの子……おっとライナが何だか勢い付いて部屋を出て行った。
何だろね?
そして次の日。
自分の後ろにはメイドが二人付いていた。
だが一人は明らかになんちゃってだった。
「ライナ……何やってんの?」
「弟子は師匠の身の回りのお世話をするものです!」
「それは一寸違うよね?」
日本……というか東洋の昔の師弟関係というものは、弟子はもう奴隷か召使いかという所が多分に有った。
師匠といっても教える気などまるで無く、弟子はずっと師匠の身の回りの世話を続けて時たま見せるかも知れない特別な動きを探るのだ。
此処では昔ではなく今そんな感じなのだろう。
が、メイド服は違うだろ!しかも服装だけのなんちゃってだ。アキバかよ!
「えーと、ね?
そんな格好しなくても説明はするからね?
寧ろ鬱陶しいから、元の服装でおいで?」
元の服装というのは長袖長ズボンで革鎧を着けた騎士の日常ルックだ。
騎士だっていつも金属鎧を着てる訳じゃない。
そして説明。昔ながらの師弟関係やら修業やらには圧倒的に足りない…いや無いモノだ。
はっきり言って説明皆無な修業なんて発展しないのだ。幾つもの古い技術が失伝した、なんて言うが、成るべくして成ったのだと思う。
自分は出来る限りの説明はしようと心掛けているのだ。が。
「師匠、酷ぉーぅい!!メイ!わたし鬱陶しくないよね?!」
ライナはそっちの方を気にしていた。しかしメイに対して馴れ馴れしくない?
メイは軽く愛想笑いを浮かべたが、本当の所は嫌そうだ。
ライナは気付いてなさそう。
ふむ。さりげない様だがライナは危機だな。
家から放り出された。あっけらかんと言っていたが。
男達から相手されなくなった。女というだけで顔が緩む様な女日照りな連中に
さえ。
そして今メイに嫌がられている。
居場所が無く空回りしている。一応当人は一生懸命な様だが。
此れは自分の教育の腕の見せ所だね。救い様の無いあほの子をどれだけまともに出来るか。
ライナは自分の教育技術の練習台と言う訳だ。利用しているという事になる。
が、ライナにとっても悪い訳ではない。何処からも文句は出ないだろう。
……出ないよね?
お笑いと言うモンはですね?ホンマは頭良うなきゃ出来んのです。
ライナさんは素でアホなんやから、無理しても面白く出来へんのです。
関西のおうどんはあっさり薄味やねん。お笑いのネタもそうあるべきですな!
……誰だーって、思った?




