第36話 王への謁見してみた
広い部屋で。
真ん中を絨毯が縦断しており、その先は、登り階段になっている。
一番上の段には、背もたれが大人二人分位は高い、随分ご立派な椅子がある。詰まり、玉座だ。
所謂、謁見の間である。
玉座の真ん前、但し最下段には徴税吏が居て、自分は徴税吏の右後ろだ。
徴税吏も自分も跪いている。でえ、左胸に右掌を当てて臣下の礼ってか。
そして顔を俯けてしばし待つと。
「面を上げい」
声が掛かってから正面を向く。
すると、いつの間にやら国王陛下が玉座の位置にご降臨あそばされたぞお~!!とな。なる訳だな。
笑ってはいけない。バカみてえとか言った日には死刑だ。マジで。
現代日本人なら失笑してしまうだろうが、昔の国王やらそれに類する国の主という者は、本人からして本気で我は偉い神なるぞ!!と、言っていたのである。
只の神ではない。偉い神である。
偉いヒトの地位に在るだろう。帝王の帝、帝は偉い神、皇帝の皇、皇は最高神という意味なのである。
さて、お偉い神様からお声が掛かる(皮肉)。
「して、本日は何用か?」
「わたくし、徴税吏のボッター・クールと申しますが……」
徴税吏!!名前酷ええ!!!
「わたくしが税を取り立てていた所、マウントークの村にて異議を申し立てる者が現れまして」
マウントークの村?
……マウントーク→マウントおく→山奥……
……
酷えええ!!!うちの村も酷え名前だったあああ!!!
がっくし……!!
「ふむ?その後ろの者がか?
お主、幼子に言いくるめられておめおめと戻って来た訳か?」
「めめめめ……滅相もございません!!」
「そして我が手を煩わせると。そういう訳だな?」
「けけけ決してそんな訳では………!!」
ぼったくるさん(笑)やっと気付いた様だ。
コイツは間違いなく自分に死刑になってしまえと思って連れて来た。
が、それはぼったくるさん自身も危うい事態になる。
ヒトを呪わば穴二つと言うだろうが!バカめ!!
王様はきっと裏では書類の束にハンコを押し続ける仕事をしている事だろう。
国の運営を王が承認したという意味の仕事であるが、大量の書類に判子を押し続けていたらもう意味が分からなくなって書類の内容もゴチャゴチャになって程よく精神を病んでいるだろう。
ゲシュタルト崩壊である。もう仕事というより拷問だと思っている事だろう。
そこへ部下が面倒事を持ち込んだ。
ぶっ殺すぞてめー、と王は間違いなく思っている。
ぼったくるさんご愁傷様(笑)!!
「こここ此の者はですね!
とても見た目通りの年齢とは思えないのです!!
なんとランク5の冒険者でしてね!!野営をすれば山菜や獣を採って来て魔法で料理しますしね!!
護衛の庶民兵どもに妙な技を仕込んでいましたしね!!
口は矢鱈と達者ですしね!!
本当に無茶苦茶な餓鬼……いやいや村の子なのです!!」
うわー……胡散臭せえ……
ぼったくるさん必死だけど尚更荒唐無稽で見苦しいよ~。
所で庶民兵ってナニ?いや、意味は分かるけどさあ……
徴兵された庶民の方もずっと兵士を続ける気なんか無いだろうから?どう呼ばれても割とどうでも良いと思うだろうけどさ?
王はジッとぼったくるさんを見詰める。
ぼったくるさんは滝の様な汗をダラダラと流す。
「まあ良い」
がっくり!
王の言葉にぼったくるさんは項垂れる。ツラを見た所、安堵して脱力した様だが。
王は取り敢えず今は放っとくと言っているだけだぞ?まだ全然安全を確保出来てないぞ?
でもね?教えてあげないよ!
勝手に頑張ってね☆
「して、其処な者?名は何と申す?」
「ちいと申します」
「ふむ、して、異議とは如何なる事か」
「徴税吏の方がですね、我が村の刀鍛冶を連れて行くと仰いましてね?」
「カタナ鍛冶?ふむ、宰相。カタナとは何だったかな?」
王は向かって右後ろ、詰まり王の左後ろに控える老人に尋ねる。
「最近トナー・リーの町から出回り始めている新しい武器で御座いますね。
何でも、凄まじいばかりの切れ味を誇るとか」
ふむふむ。王がそんな質問をするのは王が刀鍛冶連れて来いと言った訳ではないという事だ。
そして、宰相が刀を新しい武器などと言っているのは、此の世界に刀が存在していなかったという事だ。
「ふむ?凄まじいばかりの切れ味のう?」
「わたくしがお見せして差し上げられますが?」
此処で自分のターン!自分は刀使いの腕を披露するぜ!
「刀とは扱いが非常に難しい武器なのです。
わたくし以外に陛下にお見せ出来る者など居りはしません」
「ほおう?お主の如き幼子がか?」
「最近出回り始めた武器と言うのも、わたくし以外には扱える者がいないからで御座います」
「はあっはっは!何だそれは!!
まるで伝説の武器を手に入れた英雄の様ではないか!!
それがお主だとでも言うのか!」
食いついた!ファンタジーでよくあるお伽話の様だろ?興味津々だな?
「そして刀鍛冶で御座いますが、王都に連れて来てしまいますと迚も困った事になってしまいます」
「お主がか?」
「いいえ。わたくし以外の全ての方々が、です」
「何だそれは?占いか?よもや呪いなどとは言うまいな?」
王は不穏な雰囲気を纏わせる。が、これも興味を惹かれている証拠だ!
「いいえ。単なる理屈。丸い物を坂から転がせば高い所から低い所まで落ちる如きに当たり前に起こる事で御座います」
「ほおう?」
王は頷きだけで先を促す。此処が分からなければ盆暗認定されるのだ。
「先ずはお国で御座いますが、刀鍛冶を連れて来てしまいました場合刀鍛冶の価値が激減してしまいます。
詰まり、税と見立てた者を連れて来たら、納税に足りなくなってしまう訳ですね。
税収が減ったらお国が困りますでしょう?」
「刀鍛冶を連れて来たら価値が下がるとはどう言った訳だ?」
王が分かっていなければ愚王って事になるが。此方のおつむを確認して来ていると思っておこう。
「刀鍛冶が真価を発揮出来るのは、刀を正しく扱える者と共に在ってこそ、で御座います。
詰まり、我が村に居ないと刀鍛冶も村も困ってしまう訳ですね。
村も収入源を失ってしまいますからね。
それでも陛下が刀鍛冶に興味がお有りでしたら、王都で十人以上は弟子を募って頂ければ宜しいかと存じます」
「十人以上だと?多過ぎないか?」
「実は刀はですね、専門職が何人か掛かりで造るのが望ましいのです。
今は一人で造っておりますが、正直少々無理なのです。
ですから、弟子が多くてもそれぞれ別々の専門職になって貰えれば刀の質も向上する、独り立ちすれば刀造りを他の地にも広められると、良い事尽くめなので御座います。
それに、刀は使った後の手入れにも専門職が居た方が望ましいですしね」
「手入れにまで専門職だと?」
「ええ、少なくとも素人が出来る事では御座いません」
「しかし、弟子が多過ぎても育てられるのか?」
「刀鍛冶一人では無理かと存じますが、其の際にはわたくしも関わってこなそうかと存じます」
詰まり、自分はこれからも生き続けてやるぜ、という宣言だ。
「ふうむ……あい分かった。刀鍛冶を村から引き抜くのは望ましくない、と。
しかしそうなるとだな」
わざとだろう。王はそこで言葉を切る。
自分に、続きが分かるかと問うているのだ。
「村の納税はどうなるのか、ですね?」
「そういう事だ」
「わたくしがですね、2年間兵役に就くというのは如何でしょう」
自分を生け贄に!村の納税を召喚!!
……いや、自分、死ぬ気なんか更々無いけど。
某カードゲームの様なノリでって事ね。
交渉を題材にした作り話でよくカードゲームに例えたりするじゃん。
手札だの切り札だのってね。うん。分かり易くて良いんじゃあないかな?
さあて!!これからが正念場だぞ!!
存じております。お貴族様の家名の前にはvonを付けるという事は。
どこの言語でしょうね?読みからしてどう考えても英語が元ではないですよね?
兎も角。フォンを付けると面白名前が付け難くなってしまうのでぼったくるさんはお貴族様だけどフォンを付けてないのです。
変な名前は確信犯かーい!!(セルフ突っ込み)