第33話 徴税吏がやって来た
今まではひたすら土台固め。
これから歯車は動き出す。そんな感じです。
秋、もうすぐ農作物を収穫か、という頃。
村長と向かい合う見知らぬ男の姿が在った。
その男自身は弱そうではあるが、護衛であろう者達を従えていて、何よりも威張っている雰囲気がある。
見るからに嫌な野郎っぽいし、村長の顔が苦々しかった。
ので、直ぐに割って入った。
「どちら様ですか?」
「「「うおおっ!?」」」
その男だけでなく護衛達も驚きの声を上げる。なんば歩きですっと間に立ったからな。
「何だこのガキは!関係ない!!あっち行ってろ!」
やはり言い方からして嫌な野郎だ。が。
「関係無いって事はないんじゃありません?
貴方は徴税吏ですよね?」
「どこから見ていたのだ?けどガキには関係無いだろうが!」
ふむ、この返事は当たり、という事だ。そして。
「税は村全体として納めるんですよね?
なら、幾ら幼い子だろうと関係無いって事はないでしょう」
此処の文明度で個人個人が税を納めるなんて体制な訳がないだろう、と予測して言ってみる。
「な…何だこの口の回るガキは!!教育はちゃんとしとけ!!」
その男、徴税吏は村長に八つ当たりをする。ひでえ性格してるな。
所で、その反応も当たりという証左だ。
「一体、どんな話をされていたのでしょうかねえ。ねえ村長」
村長はあまり話したくなさそうだが、この期に及んで黙ってはいられまい。
「刀鍛冶をな、差し出せと言って来ておる」
「それは困りますよね」
「そんなもの言い訳になるか!税を納めるのは義務なのだ!」
徴税吏は勝ち誇った様に言っているが。
「貴方達が、ですよ」
「何だとおー!!」
キャンキャン犬みたく喚く野郎だな。
「税と言うものは先ず民に稼がせてから取るモノ…でしょう?
稼ぎ口を一つ潰すのは得策とは思えませんね」
「ぐぬぬぬ!!本当に口の回る小賢しい餓鬼めが!!」
「お上の命令で仕方なく言っているなら自分が話付けに出向きますよ?」
徴税吏は嘲る笑みを浮かべ、鼻で笑う。
「ハッ!良いだろう!ならば付いて来るがよい!!」
「待て!ちい!!」
村長は慌てて止めようとするが自分は掌を向けて村長を押し止める仕種をする。
「じゃあちょっと行ってくるので宜しく。
家に言っといて下さいね」
「待つのだちい!!」
村長はまだ言っているが、自分はもう振り返らずに手をひらつかせるだけだ。
村を出てしばし。
此処等を治める誰だかさんが何処に住んでいるかは知らんが、何日かがかりになりそうだと思い、取り敢えずは徴税吏に質問する。
「付いてる護衛さん達は騎士さんですか?」
「騎士をこんな道中に引っ張って行ける訳なかろう!徴兵された庶民だ!」
予測は付いていたので只の確認だが。
陣形、とは言える程ではない並び方は、兎に角徴税吏を囲っていて、何か来たら肉の壁にでもなって何が何でも徴税吏を守れ、と言っているかの様だったのだ。
皆庶民とはいえ、一応指揮を執っているらしきヒトに当たりを付けて話し掛ける。
「斥候役って、前歩いてるヒト達ですよね?」
「お?坊主、物知りだな!」
ちいちゃんは女の子なんですけど……どうでも良いや。
「お粗末ですよね?」
「あははは……結局、おれ達は素人だからなあ………冒険者の知り合いなんかも居ないし」
「自分、冒険者です。ご相談など有ればどうぞ」
「あはははは。有難うな!」
子どもの戯言だと思っているな。
冒険者証は作るだけなら年齢制限無しだし。
「ランクは5です」
ぶっふ!!
指揮者さんは噴いた。
「はあぁあぁあ??!」
「冒険者証見ます?」
本来初対面の相手にほいほい見せるものではないだろうが、この方が手っ取り早かろう。
指揮者さんは冒険者証を顔に近づけてそれはそれは凝視した。
「そうみたいだけど、これ、本当に坊主のか?」
「書いてあるでしょ?名前、性別、年齢」
言いつつ、このヒト字が読めないんだな、と思った。ランクは印の数で分かる様になっているのだ。
冒険者証を眺めてみた結果、非常によく考えて作ってあるのだなあと思ったものだ。
文明度が低い所では識字率は極めて低い。それでも何とか年齢とランクは分かる様に出来ている。
「年齢?これがそうか?えーと………4歳?!!!」
数え年では、である。満年齢ではもう3歳にはなっただろう!という所だ。
「その年齢じゃあ他のヒトのって訳にはいかないでしょ!」
「確かに……凄いな、坊主!」
相変わらず坊主呼びだな。どうでも良いけど。
「と言う訳で。斥候役の方々に助言差し上げても?」
「ああ、頼む」
所でアドバイスという言葉だが。日本人は殆ど発音間違えてる。
殆どのヒトはアドバイスとアを一番強く、バを次に強く、最後スをちょっと持ち上げて発音してるのが日本人なまりみたいな感じだが、正式な発音は最初は低くアドバイスとバの所だけを跳ね上げるのだ。…と、辞書にも強める点を打ってあるよね?
それはそれとして。前を歩いているヒト達の所へ行く。
「ちは。斥候役の皆さん」
「「「え?」」」
「あ………えーと、今日は」
先頭には三人居たが、話す代表をひとり決めた様だ。
「斥候に必須の技能いらんかね?」
「ええ?ああ、あったら良いね」
適当な相槌だな。
「技能名は気配察知。
目に見えない、例えば隠れて待ち伏せしている敵なんかに気付く技能」
「はあ?どうやって?」
音を探るのかなあ位の予想はしろよ!
まあ、実際に気配を感じると音とも違うなあと思うのだけど。だから五感とも違う第六感と言うではないか。
「それを身に付けるには只ずっと周囲を警戒し続けると良い」
「それだけ?」
「それだけなんだけど……例えば寝ている間も警戒し続けられる?」
「無理に決まってるじゃん」
「それが出来れば身に付くかもって所なんだけど」
「いやいやいや!無理だってば!」
「じゃあ気配察知が身に付いたという具体例を見せるけれど」
「は?」
「見ててね」
自分は或る木の上の方を指差す。
零距離凝縮水鉄砲!!
びしっ!!
「ぎゃあああぁぁぁおう!!!」
木からヤマネコが落ちて来た。
着地した所にもう一発!
ビシッ!
「ふぎゃああぁあぁあぁぁぁ!!」
ヤマネコは大きく跳ね上がる。
着地する度水鉄砲を撃って思う様には行動させない!
びしっ!!ビシッ!!びししっ!!
「ぎゃおぉぉあぁぁああ!!!」
見た目には何故かヤマネコが木から落ちて地面を跳ね回っている様に見えるだろう。
終いには離れる様に何処かに逃げて行った。
護衛達は皆ポカンと見ている。
「今の………何だったんだ?」
「ちょっと攻撃魔法で追っ払いました」
「「「魔法ぉー??!!!」」」
皆驚いた。うん、魔法使いは希少なんだろうね。どの程度かは把握してないけど。
「気配察知は魔法ではないので、頑張って身に付けて下さい」
「「「あ………ああ」」」
次は殿、詰まり最後尾のヒトにも言っておかなきゃあな。
「餓鬼!!何をコソコソしておる!!!」
徴税吏がケチ付けて来た。護衛に何かを吹き込んで反乱でも起こされたら…と恐れているのだろう。
庶民はバカな弱者の方が支配し易い、とかお偉いさんは誰かが言うからな。しかし。
「徴税吏さんも素人に守られるよりちょっとは使えるヒトの方が安心でしょう。
黙って見てて頂けます?」
「ぬぬぬぬぬっ!!!糞餓鬼めがぁぁぁぁ!!」
憎々しげに睨め付ける。が、それ以上には何も言えない。うん、了解した、という事で。
殿のヒト達にも気配察知を講義しておいた。
勿論、説明した所で直ぐに使えるヒトはいる訳無かった。が説明はしておかないとこの先もずっと誰も使えないままだろうからな。
所で。何日付いて歩く事になるかは分からないが、その間ずっとは我慢してられないモノが有る。
「お花摘んで来ます」
指揮者さんに言ってみた。
「花?!何でいきなり!!」
通じていない様だ。
「おしっこ、若しくはうんちしに行くという意味です」
「ぶふっ!!!」
指揮者さんは噴いた。
因みに、男の場合は雉を撃ちに行くと言う。と言うか、男は隠語なぞ使わずに、おれはしょんべんするぞ!!ぐわはははは!!!とか言うか。言わない?そーお?
「そんな事を直接言うのは恥ずかしいので誤魔化すためにお花摘むと言うのです。
それを隠語と言います」
「恥ずかしがってないよな!!?平然と言っているよな!!?
………まああ良い。じゃあ連れションと洒落込もうか!ぐわははは!!」
言った!!こいつ言ったぞ~!!!
それはそうと、付いて来んの?まあ自分は三歳児、恥ずかしがる年でもないか。
結果。
「女の子かよっ!!!」
指揮者さん気付いた。当然だわな。
「ごごごっご免!!すぐどっか行くから!!今するな!!恥ずかしがれぇー!!!」
絶叫しながらどっか行った。紳士だねぇ(笑)。