第31話 職人ギルド始めました
第1回、おみせやさんが終わった後の事。
商人ギルドの一室にて。
「いやー、驚いちゃったよ!
ちいがあんなに上手く商売しちゃうとはね!」
ティーエが言う。
「ビギナーズラックっていうのが有るから、初っ端の成果を実力と見るのは甘い考えというモノだよ」
自分は言葉を返す。お金の勘定をしながら。
二人だけ居る部屋で、商売の後処理をしているのだ。
具体的には持ってきた品物の数と今残っている数、其れから手に入ったお金の額を照らし合わせてどれだけ売れたか正確に記録し、ギルドに提出するのだ。
商売するからには正確な記録はとても大事だ。どんな店でも仕事終わりに品数チェックはするのではないか?
この間、村の子達は大部屋で食事大会だ。
…食事大会って何だよって自分でも思うけど。
村では食べられない料理が並んでいる事だろう。オロチも子ども達と一緒だ。どうせアレはダメな大人だし。
一緒に後処理をしているティーエは問う。
「びぎなーずらっくって、何だっけ?」
日本人の記憶を持っていたトナー・リーから言葉は聞いた事が有る様だ。が、意味まで覚える程ではなかったらしい。
「何事も、初めてやる時はついてる場合が多い様だって事ね。
自分としては外れが少ないくじを引く様なモノだと思っているけど」
「どーゆー?」
話に付いて来られない様だ。やっぱりシャールの方が頭良いな。
「運が悪い日を外れくじとして、それは少ないとする。
となれば、初っ端でいきなり運が悪い日に当たるなんてそうそう無いって事になる。
で、実力が問われるのは運が悪い日こそだと思うんだよね」
「ふーん?
……ちいってさ、さっきも何だか難しそうな話をあの子達に聞かせてたよね?いつもなの?」
「難しい事言ってる気は無い。
寧ろ子ども達には分かり易く教えてあげなきゃあね?」
「あたしには分かり易くなかったんだけど?」
「ティーエは子ども達に劣るんだね☆」
「酷ぉーい!!!
ホントにちいは口悪いよ!!」
事実を述べたまでです。
ティーエは不満そうだったが、不意に微笑みだす。
「ふふ♡それにしても、ちいってすっかりお母さんなんだね♡」
「誰がお母さんかぁー!!!」
「あれ?分かってないの?」
何だとぉ?!自分に分かってない事をコイツが分かってるみたいな言い種は聞き捨てならないぞ?!
「何がだよ」
「あの子達がちいを見る目はお母さんに甘える目だよ?
特にちいが撫でてたあの子!」
自分がティーエの見てる所で撫でた子はワットだった。
「無い無い。
あいつ、何かと言うとケチ付けて来る奴だし」
「分かんないかなあ?其れ、構って欲しいんだよ。
それにちいだってお母さんって顔で撫でてたじゃない」
「どんな顔だよ!!」
「仕様の無い子ねえ♡うふふ~♡って顔」
「キモいわあああああぁぁぁ!!!」
「えー?分かってないなあ」
コイツ目と頭が腐っているんだ。確定だ。
「実の親から放り出されたヤツが何を語るか!」
「そうなんだけど~。
でもあたしにとってはお母さんって言えばトナーだから!」
「トナーさん嫌がるんじゃないか?
二人して前世は男だったんですぅ~とか言い合ったんだよね?」
「それがねそれがね!此処だけの話なんだけどね!!」
「はあ?」
「二人っきりの所ではね♪
おっぱい揉んでも――」
「ぶぁっか!!」
「――満更でもなさそうって言うか、あれは母性がキュキューンと湧いちゃっていたね!!絶対!!」
コイツ……出鼻を挫く様に口出したのに言い切りやがった……!!
「この下衆め!」
「えー?何でぇー??
あたし、トナーに引き取られた頃は幼かったんだよー??」
「生まれ変わったとか言ってる奴は、体は幼くても心は大人なんだって言うモンだろうが!」
「あたしはむしろ、力強い大人の男の体を知ってるのに幼い女の子の貧弱な体でいるのはいつも恐くて仕方なかったなあ。
だから頼りになる格好いい女性がいたらすがって甘えたくなっちゃうよ~」
だから女性女性言ったらトナーさん立場無いだろう!
「沢山の子ども達に教えを施す頃にはトナーってばホントにお母さんって顔しちゃってねえ。
血の繋がりは無くてもみーんな私が産んだ子ーって感じだったね」
それはな、子どもが可愛いという感情は男女問わず母性と言うのが正式なのだがな。
何だか張り合う感じで、母性は女だから男は父性だ~、なんて言葉は一応有るけど、中身の無い薄っぺらな言葉感がひしひしとするんだよな。まあいずれにしろ、だ。
「血の繋がりが無きゃあ産んだ子じゃないだろ」
「だからぁ!そんな感じ!なんだよ。ふぃーりんぐだよ」
イラっとするな。その言い種!
「あー分かった分かった。
所で織機の事だけれども」
「返事が適当過ぎるよぅ………
それで、織機の話は今しなきゃあダメ?」
「んー?」
「ほら!今品数チェックしてるから。
お仕事の話したらこんがらがっちゃうよ!ただのお喋りなら良いんだけどねえ」
「ふーん。じゃあそれやんないで良いよ。元々一人でやる気だったし」
「うわー……ちい、バリバリの仕事ニンゲンだねえ……」
「全然それ程じゃあない!」
「そっかぁ………ふふふ♡」
「何だよ」
「いやあ、トナーも仕事を幾つか一遍に片付けられるヒトだったなあって思ってね!」
「擬似的にそう見えるだけだろうねえ」
「え?」
「本当に幾つかの事を同時に処理出来るのは並列思考と言って、それこそ特殊な脳味噌したヤツだけの特技だからね。
普通のヒトはどうにか工夫してソレに近づけて行くしかないねえ」
「ノウミソってナニ?」
そこからかい!まあ発展途上な世界じゃあ仕方ないか!
頭を指差しながら言う。
「頭の中に有るねえ、主に人格と無意識の生命活動を司る部分」
「はー、ソコが特殊だと特技になると……」
間違って伝わってるぞー?!普通って、こんなもんかあ??
「あー……特技の事は別にして聞いといてね?
それより織機だけども!職人に頼まないといけないよね!」
「そーだねえ………」
「職人ギルドって、在る?」
「無いよ?」
そこからかーい!!
トナーもそこまで手が回らなかったか。
江戸時代辺りから士農工商なんて言っていた位だから、商人とは別に職人の組織も創っておいて然るべしなのだがな!
「そしたら職人探しからが手間だよねえ。ティーエが職人ギルド創っちゃうのはどう?」
「あたしがぁー??」
「職人なんてみんな口下手なボッチだから、放っといたら何時まで経っても組合は出来ないよ?」
その点、オロチは比較的気さくな方だろうか。
「ティーエが職人ギルド創ったらさあ、名実共にトナーさんの後継者って、言われるんじゃあないかな?」
「トナーの、後継…者…………」
ティーエの目に涙がぶわっと浮かぶ。
「そっか………うんっ…………やるよ!!
いっくぞぉー!!!」
声が段々と大きくなり、ついには部屋を飛び出して行った。
それ、意味有る行動か?自分、話続けられないよね?
結局は余所の事なのだし、任せるしかないのだけどね?
後は眺めていれば良いかあ。
ティーエは割と遣り手だった様で、年内には職人ギルドが建ち上がった。中身はどれ程出来上がっているか知らんけどね?
織機の製作も併せて始まった。うん、それでこちらは用が済んだんだけどさあ。
製作の過程も見ておかなきゃあ片手落ちだよな。
職人ギルドにもコネクション作っておくかあ。
題名が職人ギルドなのに話にはちょっとしか出てねえわあ……
そりゃあ余所の町の事だからそんなに手出し出来る訳も無いけどさ!
ティーエとか言うアホの子がハッスルして部屋を飛び出して行ったから話もソコで打ち切りなんだけどさあ……