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第28話 おみせやさん始めました

 露店が並ぶ大通り。

 自分達は無事、場所を確保出来た。

 自分達は茣蓙ござを敷き、品物を並べてゆく。

 年齢にそぐわずテキパキとしているのはやはりシャールだ。他の子達も頑張ってはいるが。

 そしてピュア。しゃべりこそはいまだにほとんどしないが、手捌てさばきがプロ級か?という感じだ。

 コンビニなんかが限られた空間を余す事無く利用し、しかもその時その時の需要じゅようが有る、すなわち客が求める物から順に見易みやすい位置へ配置していく、なんてするのだが、ピュアはまさにコンビニ店員なの?と聞きたくなってしまう手際てぎわなのだ。本当に何者だよ!

 シャールも明らかにピュアを参考にしている。

 そしてただ呆然ぼうぜんと眺めているのがオロチとティーエだ。ダメな大人だ。初めっからアテにはしてないケド。

「ほ…本当に魔法を使うんだね…流石さすがランク5の魔法使い……」

魂消たまげたのう……まさかこれ程とはのう……」

 物資の搬入はんにゅうは勿論搬送魔法を使ったのだ。魔法とは言え、持ち難さは解消されても重さは変わらないので自分一人では大変な所だった。他の子達は靴底魔法だけで精一杯だろうと思っていたので。

 が、やはりピュアが重さを半分担当してくれて随分ずいぶん楽になった。

 ちょっと考えれば分かるだろうが、物資の搬入をするためには靴底魔法と搬送魔法を併用へいようし、更に周囲の警戒と、そもそも走るのも全て同時にこなさなければならないのだ。それを半分担当し、更に今コンビニ店員ばりの手捌きを見せるピュア。恐ろしい子!つか、恐ろし過ぎるわ!

 それはそれとして、ダメな大人のつぶやきを聞いたワットが言う。

「らんくごのまほーつかいって何だ?」

「冒険者の強さの目安」

「大人に判定してもらったんですか?」

 シャールも言って来る。そしたらワットは黙っていない。

ずりーいなあ!オレにもやらせろよ!」

「判定開始したらいきなりカーっとなって武器を振り回しながら追いかけ回し、ブチ切れたら武器をブン投げて来る、そんな大人に判定して貰いたいなら連れて行くけど」

「え"??」

「何ですかそれ!」

「強さを判定するヤツがそんなだった。

 武器ぶん投げられて避けるか払うか出来る?」

 二人共が力一杯首をブンブン振る。連れて行かないよ。勿論。

 実は大分だいぶのち後悔こうかいする事になるのだが、仕方ないだろう!

 そんな判定員はお子様にお見せ出来ないモノだ!そいつが全面的に悪いのだ!

 さて、店の配置は終わった。あとは客がやって来るのを待つだけだ。

「お疲れ様!水飲んで水!」

 そう聞くとシャール、ワット、ピュア、ネネは心得たものでしゃがんで両手を合わせる。戸惑いつつも四人のマネを他の子達もした所で子ども達の手に水を出す。

「「「「うわぁーあ??!!」」」」

 やっぱり驚いた子達はいるがシャール達が平然と手を洗っているのを見てマネしだす。

 全員手を洗った所で次は手をすくう形にさせて水をそそぎ、飲ませる。

「あれ……何?……魔法?………」

 ティーエが誰に問うでもなく呟く。が、そんな事には構わずワットは言う。

「そろそろそれ教えろよ!」

 魔法水鉄砲の事である。これで只攻撃しようと思っても水をぶっ掛ける以上にはならない。が、それでも危険か?と迷っている所なのだ。

 或る家庭の母親が湯舟に三十センチメートル位湯を張って二人の幼子おさなごを遊ばせ、風呂から上がった後の準備をしていたらその間に二人共湯に顔を浸けて死んでるうぅうぅー!!!なんて事件が有った。幼子はちょっと目を離すと本当にどうなってしまうか分かったものではないのだ。

「うーん。考え中」

「何をだよ~!」

 ワットがおねだりして来るが…うーん。

 言葉は乱暴だが甘えて来ている様だ。………じゃなくて!!

 そうこうしている内に客が来る時間になったようだ。

 露店のヒト達が一生懸命呼び込みをしだす。が、ヒトビトの声だけだ。これはいけるか!

 セツ、ユキ、ピュアが楽器の演奏を始める。客達は…否店の関係者も口をふさいで注目する。

 自分は曲に乗せて…という程でもないが、口上を述べ始める。

「寄ってらっしゃい見てらっしゃい!

 ずは取りあえずパンとお水で軽くお食事は如何いかがですかぁ!」

「取りあえずパンって何だよ!」

「取り敢えずは取り敢えずです」

 野次気味の質問が飛んで来て一応返答はする。

 観衆がドッと沸く。答えになってないだろ!という感じだ。

 これが昔ながらの商売というモノだろうか。現代日本ではよっぽどでないと客は店員に何も言わないものな。

「よおーし!おっちゃんが買ってやるぞぉー!いくらだ?!」

 おっさんが一人名乗りを上げる。

 何だかこちらが仕込んだサクラみたいだ。その一方で観衆に向けて俺が先ず毒見してやるぞ!という宣言の様でもある。

「パンは一つ銅貨三枚です。お水は先ずカップを銅貨四枚でお買い上げ頂き、一杯注ぐのが銅貨一枚です」

 銅貨一枚八十円位とすると、パンは二百四十円位だ。文明度低い所ではおかずはごく少なくパンで腹一杯にするのが一般的だろうから一個がかなり大きめに焼いてある。全然高いって事はないぞ!

 カップは木製だが、形はアイスコーヒーのトールサイズのグラスみたいなのだ。オロチに小刀こがたなを造って貰って青銅のナイフよりもずっと作業効率は上がったが、それでもひとつひとつ手作りなので手間賃だ。手間賃。それで三百二十円位なら安いもんだろう。品は客の手元に残るのだし。

 水は1リットルは無いで八十円位だとちょっと高いかなあと思えなくもないが、此処等では先ず飲める水が貴重なのだ。許容範囲だと思っておこう。

「えーと?全部でいくらだ?」

「パン一個とお水一杯で銅貨八枚ですね~」

 おっさんは咄嗟とっさに計算出来ない様だ。まあ一般的なのだろう。

 自分が即答すると商売関係者側からおぉ!!と感嘆かんたんの声が漏れる。どころか指折り数えているヤツも居る。おーい、大丈夫か?そこの商売関係者!!

 銅貨八枚だと六百四十円位か。軽食としてはちょっと高いかなあ。仕方ないか。

 アレだ。屋台の品はちょっと高め。そんな感じだ。

「それで水ってどうすんだ?これからだろ?」

「はぁ~い、ではこぼさない様に持っていて下さいねぇ~」

 言ってカップを指差す。魔法には言葉も動作も必要無いのだが、これから水を注ぎますよ、というアピールの為だ。

 カップの中に直接注水して、見た目カップの底から水が湧いた様になる。

「何だこりゃあぁあ!!!」

 おっさん騒ぎ出す。まあ、吃驚びっくりするだろうけど。

「ご安心下さい。それは急流の水です」

 水の説明のみをする。えて、だ。

「急流?」

 おっさんには分からない様だ。此処ここ、文明度低いしな。

「山に流れる、高低差が在るから流れが速い川です。

 川自体は近付くのも危険ですが、飲む水としてはとても安心なのです」

 水に関する本が有った。

 飲み水を確保したい、そういう時。加熱すれば良いのか、いや良くはない。じゃあ蒸留すれば良いか。いや、良くない。じゃあどうすれば良いんだよ!!と、思ったが…実は買ってないので定かではありません。まさか、ただアレ駄目!コレも駄目!だけでは終わってないだろうとは思うが。

 独自にだが考えに考えた結果、急流の水なら良いんじゃね?と結論した。何故なぜなら。

「急流は天然の濾過ろか装置ですからね。

 濾過とは、汚れを取り除く事だと思って頂ければ。

 そしてミネラルも豊富です」

 現代日本で言うならどこそこの天然水って所だ。

「みねらる?」

 無論、文明度低い所のヒトには分からんだろうが。

「実は生き物にはちょっぴりですが金属も必要なのです。その微量金属がミネラルです」

 はあ~、と分かったんだかどうだかな顔でうなずくおっさん。

「ささ、お水がぬくまらない内に、どうぞお召し上がり下さい」

 いつまでも呆けているおっさんに、内心さっさと飲め!と思いつつおくびにも出さずに言う。

 おっさん、先ずは一口飲む。目立たないが一瞬動きがピタリと止まり。

 ごっごっごっぷはぁーっ!!

 一気に飲み干した。

「もう一杯!!」

「銅貨一枚になりま~す」

「あ!そうだったな!!畜生!!商売上手め!!」

 そんな積もりではないんだが。

 おっさんは二杯目は落ち着いて二口飲んで言う。

「何だコイツは!冷たくて美味い!」

「川の水を今そのまま引っ張って来ましたからね~。

 急流の水は夏でもヒンヤリです」

「そのまま?……って?」

「言葉通りです。カップに注ぐまで川で流れていた水です」

「え?どうやってカップに注いだんだ?」

「えー、魔法って、在りますよね?」

「魔法ぉー?!」

 一般的ではないのだろう。が、この世界には在るのも事実だ。

「まあ、折角ですのでパンの方もお召し上がり下さい」

「お…おう」

 おっさんはパンを一口(かじ)り。

「何じゃこりゃあぁぁぁぁ!!!

 ふかふかして柔らかい!!

 美味い!美味いぞおぉぉぉぉぉ!!!!」

 そうだろうそうだろう。此処等では堅いパンをカリカリ齧るのが一般的だろう。

 そこまで見ていた客達は。

 一気にぅわっと押し寄せて来た。予想はしてたので。

「はい~押さないで~一列に並んで下さいね~」

 なるべく即座に整列させた。周りに迷惑掛けてない…と、思う。

「水くれ!」

「俺にも!!」

 カップは購入しても当然空なので、皆こちらにカップを差し出して来る。

「皆さん零さない様に持って下さいね~」

 さらりと、しかし全員ちゃんと持っているときっちり確認して全員同時に水を注ぐ。

 おおおぉー!!!

 大勢のうなる声が上がる。

 さり気ないがここでも遠山の目付を使っているのだ。

 自分の目の前にどう見ても冒険者な三人組が出て来た。

「き…君!!これは…ひょっとして魔法か!!」

「はい~左様で~」

「お…俺達のパーティーに加わってくれないか!!?」

 たかが水を注いだだけ、なのだが、大勢のカップに一遍に注いだので魔法の制御力が尋常でない。と見て取ったのだろう。三人とも魔法に関わる職業ではないだろうに、お目が高いものだ。が。

「申し訳ありません~。

 自分、子育てが忙しくて~」

「は??」

「この子たちです~」

 村の子達を示しながら言う。

「誰がちいに育てられてんだよ!!」

「否定出来ませんねえ」

 やっぱりワットは反発するが、シャールは苦笑いする。

「何でだよぉ!!」

 ワットは今度はシャールに噛みつくが。

「ちいからは色々教わってますよね」

「うん」

 ぶふっ!だから何でそこでうんなんだよ、ワット!

 周りからも笑い声が起こる。コントでもやってんのかよ!

 しかし周りからの囃し声にワットは萎縮している様だ。いつもの元気が無い。

 んん??ワットって、人見知りなの?

 それはそれとして、冒険者達に断っただけでは後味が悪いので。

「そちら様をお見守りする事は出来かねますが、又機会が有れば元気な姿でお会いする事をお約束致しましょう。

 自分はちいと申します。お名前(うかが)っても?」

 えんを繫いでおこうという申し出だ。

 現実的には何の足しにもなってないかも知れない。しかしこれがきっかけで少しでも生き続ける足しになっていれば良いなと願いつつ。これが藁にもすがる思いと言う物だろうか。

 今此処で会ったばかりの相手だが、又無事で会えれば良いね、と本当に思う。

 三人は戦士、女盗賊、新米っぽい戦士の順に答えた。

「俺はサエン」

 ぶぅーっっ!えんのかよ!!

「あたいはショウシンシア」

 ごはあぁぁっ!!シンシアだけなら普通なのに!!余分なのが付いてる!!初心者かよ!!

「僕はワカバー」

 若葉マーク!!それが名前じゃあいつまで経っても若葉マークっ!!!

「い…良いお名前ですね…」

 ウソです。そうは思えません。

「ははは。有難うな。そっちも頑張ってくれ、小さいお母さん」

「お母さんはやめて下さい。

 其れから、後で少々見世物をやりますので、ご興味がお有りでしたら是非ともご覧くださいませ」

「ほう、さり気なくあんな魔法を使っている君の見世物とは見なければ損だな!」

 何だか宣伝させたみたいになった。

 そして、一通りパンと水を売りさばき。

 ひと段落()いて始めた見世物とは!

 次回に続くってヤツだ。

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