第27話 思い出話聞いてみた
「商売の話はもう良いよね!
じゃあトナーの話、聞いてくれないかな!」
…商人ギルドの頭は暇なんだろうか。
ティーエは町の名前になっちゃったヒト、トナー・リーさんの話をしたいみたいだ。
まあ生まれ変わりの話を胡散臭く思うであろう普通のヒトビトには言えないでウズウズしていただろうけども。
けど自分だってヘンな事聞いたら冷たい目するよ?
其れからティーエのお膝の上というポジションはどうにかして下さい!
「あたしが出会う以前の事は本人談になるけど…」
当たり前だろう。本人以上に知っているヤツが居たら怖えーわ。ストーカーだわ。
「物心がつくのが矢鱈早くて喋るのも歩き出すのも普通の子よりも早かったんだって。
信じてる仲間達だって話半分みたく聞いていたけれど……ちいを見たらストンと腑に落ちちゃったよ」
話半分つーか、どう反応しろと言うのかって所だろうけどな。そんな小さい頃からの知り合いでもないのだろうし。
「幼い頃は神童って呼ばれていたけれど、育つにつれて体力が足りないのがあからさまになって、随分悩んだみたいだよ。ちいと出会ってたら凄く悔しがっただろうね」
「自分だって体力は少ないよ。技術と言うのは少ない力をどう上手く使ってやろうかって事」
「そ…そうなんだ。それで、口癖みたく時々言ってたんだけど、チートなんて無かったんやー、とか」
「cheatと言うのは元々騙すとか狡とか言う意味なんだけど、世界の仕組みを無視した凄くて狡い能力なんて意味で良く使われる様になったねえ。一部地域で」
勿論オタク王国日本の事で御座います。
「そうなんだー。
それからね、もう一つ悩んでいたのが別人として生きていた記憶が有る、詰まり生まれ変わりだ!って事でねえ?しかも結構な年まで生きた男のヒトだったんだって」
自分としては記憶が有る詰まり生まれ変わりって、話が飛躍してると思います。
「それで男と恋愛するなんて無理!て言って、結局一生独身で子を残さなかったんだよねえ。
心から信じてた仲間達が居た位だから結構言い寄られていたみたいなんだけどね?」
そりゃあそーだろ。
「まあ、何処の家もキョーダイ沢山居るだろうから?直接の子でなくても血筋は残ってるでしょ」
一応フォローの積もりで言ってみた。
「そうそう!多産多死型社会って言うんですって?」
ほう、トナーさんは社会科方面に強かったのかな?
「一生独身だったんだけど。魅力有る女性ではあったんだよ?
いつも凜として堂々としてて、格好いい女性だった」
おーい、そんな女性女性言ったら不本意だろトナーさん!
「まあ、凜として堂々とはしていたけど、やっぱり腕力は弱いなあって。況してや男の腕力を知っているから尚の事ね。いつも悩んでいた」
「ヒトの間では男の腕力は脅威ではあるけど。
獣相手なら気にする程でもない誤差と見なされるね」
「……ちいの言う事は、いちいちダイナミックと言うか、野性的ね?」
「田舎村出身なもので」
「其れからね。分かるでしょ?男の象徴的なアレ!女の身に生まれてアレを失った喪失感が――」
「黙れ」
下品だな!!それにだな!女にだってアレに当たる部分は有…いや何でもありません。忘れて下さい。
「えー…と…喪失感が半端ないって…分かんないの?ちいはやっぱり純粋に女の子なの?」
「黙れと言うに!」
自分はだな!チートは無かったと言った人物が何をどうやって偉業を達成したと言われるまでになったかを聞きたいのであってだな!!股間のモノの話なぞ聞きたくねーわ!
「うーん…
神童と呼ばれながら冴えない日々を過ごしていたトナーなんだけども…」
神童も、20を過ぎれば只のヒトってか。しかし。
「実は日常生活出来る程度に健康なら充分幸運なんだけどね。トナーさんは持病か何か有った?」
「いや、そういうのは聞いてないけど。けどぱっとしない幸運だね」
「重病が有って生きているだけで苦しい、長生き出来ないなんてのと比べてご覧よ」
想像したのか、ティーエはぶるりと身を震わせる。
「し…幸せかも知れないね。
ちいは重病人の生まれ変わりなの?」
「生まれ変わりなんて信じてないと言うに」
「頑固だね~。
えーと、幸運だけど冴えない日々を過ごしていたトナーは或る日気付きました」
何じゃそりゃあ。まあ今聞いた事を織り込んだんだろうけど!
「友達がね、他所の家に働きに行く事になっちゃったんだって。その娘とはそれっきり会えなかったんだって。それで、このままじゃいけない!世の中を変えなきゃいけないんだ!って」
ほー。
「そうは言っても女の細腕。こうなったら知識チートだ~って思ったみたいなんだけど」
まだチートにこだわってたんかい!それよりティーエがソレって何?って様子だ。
「だから知識的なね。記憶に関する反則能力ね」
「ふ~ん?うん、でも、上手くいかなかったみたいだけどね?」
だろうな!そもそも能力とは何だっていうのが分かってない!
「トナーは自分には何も出来ない事を悲しみました。
そして結論!特技が有る仲間を集めて、お側で甲斐甲斐しくお世話して、気分良く特技を発揮して頂こう、と」
部活動のマネージャーかよ!
けどまあ、自分に出来ない事は仲間を作ってやって貰おうというのは割と常套手段だ。主役にはなれないけどいつも隣に居るトナー・リー。ぶふっ!!
「それでねえ、仲間達って、殆ど男のヒトなんだけど…」
あー…修羅場の予感だねえ。しかもトナーには全くそんな気は無いという。
「旅するなんて事になったら仲間達の間を取り持つのがいつも大変だったみたいだよ?」
ひでー。誰も幸せになれねー修羅場。地獄だね。
やっぱり自分一人で何でも出来れば一番面倒無いね。
「でもその経験が冒険者ギルドの設立に役立ったみたいってトナーは言ってたけどね」
はあ。基本冒険者は言う事聞かない荒くれ共。仲間の男達をあやしていたらそういう技能が身に付いちゃったってか。羨ましくねー。
「それともう一つ。経済を回さなきゃあ世の中は豊かにならないって。それで商人ギルドを創った訳だね」
ふむ、道理だね。やはり社会科系統の者だったか、トナー・リー。
「勿論もっと昔から商人はいたんだけどね。けど排他的で秘密主義で、部外者は関われないんだよね」
発達したって商売には秘密にしなきゃあいけない事は有る。企業秘密というヤツだ。が、文明度低いと必要以上、どころか明らかに害悪な程に何でも秘密にしてしまうものだ。
「けどどこで身に付けたか物凄い計算力と経営能力でその辺りの商人達を打ち負かし、配下に加えていった。
どこでってニホンでだよね?」
「だろうね」
文明度低い所の商人なんか算数程度でも圧勝出来るだろ。経営は兎も角。
「物流を整備して、護衛は冒険者の仕事にして。
ヒトビトが豊かになれば不幸な子は減るかな。もう会えなくなったあの娘には報いる事が出来たのかな。って、トナーはいつも気にしてた」
「成る程ねえ。為になったねえ。めでたしめでたし」
「まだあたしが登場してないよ!!」
「いーじゃん。そんなの」
「そんなの呼ばわり?!ちいって意地悪なの?!!」
「いや~、それ程でもぉ?」
「何で照れてんの???」
ティーエの話は足しにならなそうだし?
「もー!…でー、もう商人ギルドが軌道に乗ってからトナーとあたしは出会ったのだけども。
あたしは元から此の世界の住人なんだけど、今の体で生まれる前に別の男として生きていた記憶が有る訳ね?」
「ほー、で?どんな男だったのかね?」
わざと右手を左頬に当てる、おかま?のポーズで問う。
「もー!そんなんじゃないよ!この体でだって前は男らしくありたかったし!
前世はねえ、戦士だったの。冒険者ギルドが今みたいな体制じゃなくて、冒険中に死んじゃった…と、思う戦士」
死んだ辺りははっきり思い出せないってか。追求するモノでもないだろう。
「こんな戦士?」
両拳をやけに反らせた、詰まりは女っぽさをあざとく見せ付けるポーズになって体をくねらせて拳を横に振る仕種をした。わざと茶化したのだ。
「もぉー!!ちいは意地悪ちゃんだよぉ!!
あたしはねえ、片手剣と盾を使う戦士だったんだから!」
ぶふふぅっ!!コレが?コレがぁぁ??
「くくくっ円盾ね」
「おお??良く知ってるね。けどあたしが使ってた盾は凧盾だよ!」
ティーエは自慢気に言った。
「バカ?」
凧盾とは縦に細長い、身長位有る盾だ。長距離移動を前提とした冒険者が間違っても持つ様なモノではない。
「なんでぇ~??」
ティーエはまだ冗談の積もりの様な反応をする。
けど自分は真面目な顔で返す。
「馬鹿に決まってるでしょう。カイトシールド?馬鹿だよね?」
「え~?盾は大きい方が良いに決まってるじゃない!」
「決まってないよ。大ききゃあ良いってもんじゃないよ。バカなの?死ぬの?」
ゲームなんかではカイトシールドどころか塔盾を装備したのが平気で旅してたりする。塔盾とは一応縦長ではあるが、横幅も有って直立したヒトでもすっぽり隠れられるでっかい盾である。
現実にそんなの居る訳ねええだろ!!!
「はぁ~。今さら言ったってどうなるもんでもないか。
ねえ?元凧盾を使ってた冒険者さん」
「え~?何か引っかかる言い方だなあ!まあ良いやぁ。
前世がそうだったあたしは幼い頃は棒切れを振り回して男の子とチャンバラをする女の子だった。
それどころか育つ毎に女になってゆく体にムシャクシャして暴れる、手を付けられない子だったなあって、今からしたら自分でも思うよ」
ソレが何でコレになっちゃったかね?体がどう育とうとクネクネする必要は全く無いと思うのさ。
「そんな暴れ者なあたしを見て面白がる様な顔をしたのがトナーだった。
実の親がもうあたしを放り出そうとしてた所だったから丁度トナーに引き取られちゃった」
そんな簡単に親が放り出すだの他人が引き取るだの言う世の中なのだな、文明度低い所ってのは。
「で、トナーが言う訳よ。あんたはひょっとして生まれ変わったなんて言う子だったりするのかい?って。
自分もそうなんだって。しかも前世は男で、更に此処とは別の世界に生きていたんだって」
「んー?トナーさんの一人称は自分なん?」
「え?ああ、いやいや。わたしだけどね。言い訳してたけど。公式の場ではわたしと言うのが当たり前なんだってね?」
日本の男子高校生の諸君は経験有るだろう。高校生ともなれば受験の一つや二つは受けており、面接も当然有る。で、面接やら公式の場では一人称はわたし、若しくはわたくしを使え、と教わる。けど実際に使ってみたらキモー!!馴染めねえ!!!と多少は思った筈だ。
しかし社会人は必要に迫られるのだか、日常的にわたしと言っている男は少々居るな。それどころか極希にカマな訳でもないのにあたしと言っているおっちゃんも居る。某アニメにも居たな。
「トナーは言ったんだ。周りの目なんか気にする必要は無い。自分が自分らしいと思える生き方をすれば良いんだって」
詰まり。女の身で男らしく生きようとすると周りから反発を受けるのだろう。文明度低い所では物凄く。余計なお世話も甚だしいのだが。ティーエが荒れたのもそのせいだろう。で、その言葉を送られたのだろうが。
「失敗作だね」
いや、何でその言葉でコレになっちゃったの?
「失敗作ってあたしが??失礼ねぇー本当に!もー!
ちいってアレなの?わざと口悪くして注目して欲しいかまってちゃんなの?!」
「絶対違ぇー」
何て事言うか!この元男!
「むー!もー兎に角!
トナーに引き取られたあたしは商売のノウハウを教わって、商人ギルドのミストレス?になれるまで成長した訳よ。
で、思ったの。商売は腕力のではないけれど戦いなんだって。戦士としての前世は無駄ではなかったんだって、ね」
ほー。そう纏めましたか。良いんでないですか?
「トナーはあたし以外にも沢山の子達に教育を施してね」
知は力なりってな。日本の学校式に大勢の子達の前で授業でもしたんだろうな。
「最期は…子ども達に囲まれて……幸せ……そう…に………」
もうティーエは涙を零しながら語っていた。反応しないであげるのが大人の対応だろう。
しばらくじっとして落ち着いた頃、ティーエはぽつりと言った。
「さーて、晩ごはんを食べて一緒におねむしましょうねー」
向かい合わせにしっかり抱き締められた。
おい!
「そろそろ帰るけども?」
「いやー!!これあたしのー!!!」
ティーエは自分を抱き締めてイヤイヤと身を捻る。
おいっっ!!!
「子ども欲しきゃ自分で産めよ!!」
「いーやぁー!!」
「こぉの失敗作!!!」
「あーん!口悪いのが何か可愛らしいぃー♡」
「マゾかてめー!!!」
流石に大騒ぎしたのでギルドの職員達が駆けつけたが脱出するのにしばらく悶着した。
大丈夫かよこのギルドというか町!!
文章はもう少々前に出来ていたのですが、特殊な記号、今回は♡が上手く出せなかったので投稿が遅れました。
辞書が設定されてないとか時々発生して記号が出せなくなるのですが、手動で直せるのですかね?
詳しいヒト教えて頂けたら嬉しいです。