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ちい誕生

 いきなり話の前提覆します!自分、生まれ変わりって信じてません!それに付随して異性に生まれ変わっちゃったって言っても…ねえ?生まれ変わりの段階で信じてないからねえ?まあどんな身に生まれようとその身での全力を尽くすだけよ。自分ねえ、手術なんかで体を改造しようというヒトにはやめといた方が良いよ?って思うし。多分大体のヒトは言われれば怒るから言わないけど。

 なのでこれは自分の身に出来る全力を尽くす、それだけの話です。

 初回限定特典!(笑)第0話から第16話までの一挙17話掲載です!じっくり一話ずつでも一気読みでも、読者様のお好みでお楽しみ頂ければ幸いです。

 前書きになってない?でも自分のヒトとなりは分かったでしょ?

第0話 前世(?)にて

「あなたには異世界で女の子として生まれてもらいます」

 光のみがあふれる何処かで、目の前にいる誰だかにそう言われた気がした。

 光のみが溢れる、というのは文字通りで、つまりは自分の体の感覚も無い。じゃあ何で目の感覚が無いのに光が溢れるとか耳の感覚が無いのに誰かに何か言われたとか分かるんだよ!とは自分でも思うが、そう感じたのだから仕方ない。

 その戯言には、何言ってんだ?と返した、気がする。うん、口の感覚も無いからね。

 しかし目の前の誰だかは聞こえているのかいないのか分からない言葉を続ける。

「いやあしかし便利ですよねえ。

 今どき異世界モノってひとつの分野になっていて、直ぐに分かってもらえるし、直ぐに納得してもらえますからねえ」

 いや納得した覚え無いんだが、と返した気はするのだが、やはり目の前の誰かは聞こえているんだかいないんだか分からない言葉を続ける。

「では良き人生をお送り下さい」

 だから待て!と返した気がしたところでふと気付いた。目の前の誰かは何かを持っている。

 冊子だった、気がする。カタログ、な気がした。表紙には宣伝文句があった、と思う。

『日本人を女の子にして異世界に送り込むとすごい!』

 ………何じゃそりゃあああ!!!

 絶叫したつもりになったところで、ガクンっと後ろに引っ張られる感覚がした。正確には背中に向かって落下する感覚だ。それもとてつもなく速い。地球上の重力加速度は9.8メートル毎秒毎秒だが、軽くブっちぎっている。目の前の誰だかがグングン遠ざかる。

 待てえぇえぇえぇぇえぇえ!!!!

 しかし目の前の誰だかはにこやかに手を振るだけだった。どんどん遠ざかる割にはなぜかはっきりと分かった……



第1話 物心がついた頃

 ………ということを突然思い出した。

 いや、正確ではないな。たった今、意識がはっきりしたのだ。

 意識がはっきりしたならば、即座に現状把握するべきだ。自分は今――


     ――――自分は、

         巨大な女性に抱えられていた――――


 ………失礼だな、うん。女性は標準サイズなのだろう。自分の方が小さいのだ。

 ここは何処かの一室で、テーブルがあり椅子があり、女性は椅子に座って小さな自分を抱えている。

 自分の体を確認。手足がやけに短い。幼児体型ということか。…いやしかし貧弱過ぎないか?なんか、立って歩くことも出来なさそうではないか?むう…

 これらの状況を纏めると、自分は今物心がついたばかりの幼児で、女性は自分の母親。……で、先程思い出した妄想だか実際の過去だかよくわからないものが真実だとすると、自分はこの女性の娘さん、ということに、なるのか………?

 誰得だよ!自分に何をどうしろというんだよ!

 …ハアハア…落ち着け、ここで嘆いたって現状は変わらない。というか、さっきの妄想が真実と限ったものでもない。現状把握を進めるのだ。

 少なくとも女性が母親とすると、自分はこの女性を幼くしたような顔、ということになるだろう。

 女性の容姿を細かく見る。まず、髪は明るめの茶色、目は濃いめの茶色だ。顔立ちは日系の白人、という感じだ。

 髪型は、伸ばしっぱなしの髪を無造作にひとつに束ねている。物心がつく前の薄ぼんやりした記憶を辿ると、これは男女ともだ。散髪する道具にも不自由しているためだろう。毛髪は刃物が簡単に傷んでしまうくらいには硬いのだ。

 服装は半袖長ズボンだ。もんぺ、とまでは言わないが、農業用の服装だろう。これも男女ともだ。スカート姿の女性など、この身に生まれて以来見た覚えは無い。

 ……しかし、物心つく前の記憶が思い出しづらいな。幼児に聞いてみると結構覚えているというのだが。

 記憶といえば、ここの言葉は身に付いた。日本語では勿論なく、英語ですらない。

 はっきりといえばここの言葉は、言語自体が拙い。日本人が本気を出せば、日常会話くらいはその日のうちにどうとでも出来そうだ。…て、日本人来たらおかしいよ!ここ異世界だよ!

 ……うん。ここ、異世界だ。西洋の言葉ならば知らない言語でも、ラテン語という古典言語から枝分かれしたため何となく位は似てると思うものだが、ここにはそれが無い。

 さて、女性に話し掛けてみることにする。相手が母親であれば、よっぽどでなければこじれるということはあるまい。

「おろして」

 女性はギョッと目を見開いた。それはもう、眼球がこぼれ落ちはしまいか、という程に。

 おい母親!そんな顔したら、ちょっとくらいは整った顔してても、超絶台無しだぞ!

 母親の顔は、時間と共に驚きの色は薄れてゆくが、反比例して悲しみの…いや絶望の色に染まってゆく。

 それでも取り繕うような笑みを浮かべて…いや取り繕えてないや。兎に角言う。

「ち…ちいちゃんはままに抱っこするのはいやなのかなああ?」

 聞いてる方が恥ずかしくなるようなこと言うなよ!…ああ、自分幼児か…

 ちい、というのは自分の名前だ。拙い言語圏の名だが、小さい、とか少し、という感じだ。

 ……『寿限無』という落語で、”ちょっと”と名付けられた子がちょっとで死んでしまった、とか言うのだが………自分はしぶとく長く生き続けてやるぞ?と、反骨精神を燃やすことにする。

 それで、絶望してる母親どうするか…正直ままに抱っこは嫌なのだが。分かるだろう!大人並みの精神を持った者には何の罰ゲームだよ!としか思えない、と。

 しかし仕様がない。大人の対応として、首を振って否定しておいてやる。ところで首振りだが、縦振りと横振りで意味が反対になる所が、元の世界でさえある。ここでは日本と同じ、横振りが否定だ。

「早く歩けるようになりたい」

 そう言ってやると母はまた目を見開き、今度は喜色満面に染まってゆく。

 そして自分の両腋に両手を差し込み、下半身をぶら下げる抱え方に直してゆっくりと床に降ろしてゆく。

 自分は足を床に着き、そして……

 ぺたん!直ぐに手を着いた。

 ………

 ……………

 立つことも出来ないのかよ自分んんんんんんん!!!

 打ちひしがられていると、ひょいと持ち上げられた。

 足がぎりぎり床に着く高さで支えられ、母は楽し気に言い出す。

「いっちに、いっちに、いっちに」

 ………歩く練習でもしろと言うのだろうか………足に体重が全く掛かってないので、練習というよりは真似事にしかならないのだが………

「いっちに、いっちに、いっちに、いっちに」

 ………あのー…そっとしておいてもらえないでしょうか?………

「いっちに、いっちに、いっちに、いっちに、いっちに、いっちに、いっちに」

 …自棄になって足踏みを始めた。いや、足に体重が全く掛かってないので、足踏みですらない、ただ足を動かしただけだ。

 なのに母はもっと面白がるような顔をして、ずっといちにーいちにー言い続けた。

 フツー、幼児の方が何が面白いのか分からないことを繰り返して、大人の方がウンザリするものではないのか?

 結局、かなりの時間足踏みモドキは続いた。

 ………………勘弁して?



第2話 一家団欒(?)してみた

 答え。ちいちゃんは女の子でした。………物心がついたばかりで心が折れそうだ。

 その後も試練は続いた。おトイレしたくなったのだ。…ククク……どこが試練かだと?

 自力では立つことも出来ない自分は、母に頼むしかなかった。が、母は危ないからダメ!と言う。

 何が危ないか。ボットン便所なのだろう。

 ボットン便所………平成生まれな者には最早どんな物だか分かるまい。

 蓋を開けると和式便器、便器の下に糞尿溜まり、という便所だ。

 蓋といっても洋式便器のような開閉式ではなく、クロッシュというのか?気取ったお料理の皿に蓋が被っているように、便器とは独立している蓋をかぱっと外すと中に便器があるのだ。例えが酷い?ごめんねえええ?

 ちょっと考えれば分かると思うが、便器のすぐ下が糞尿溜まりというわけではない。便器の内側は床に空いた穴で、下にはちょっとした部屋くらいの空間がある。その底、便器の真下辺りに糞尿溜まりがあるのだ。

 なので結構な高さがあり、体の小さな幼児は気を付けないと落っこちてしまう。もし本当に落ちてしまったら……想像もしたくないな。うん、危険だ。

 ではおまるは無いかと聞いてみた。母は理解出来なかった。無いんだろうなあ!

 おしめにしたら後で洗濯が大変でしょう、何とかトイレに連れて行って欲しい、と頼んでみると、母は少し考えておしめを開いた。つまり、自分、母の目の前で下半身全開になった。

 ぎゃあああああ!!!!何すんのおおおお!!???

 母はのほほんと言った。

「おしりに付いちゃうのが嫌なんだよね?すぐ拭いてあげるから、いいよ!はい!」

 出来るかあぁあぁああああああ!!!

 物理的には可能に決まっている。しかし精神的に無理!!という、これ程顕著な例もそうはあるまい。

 しかし、だがしかし、である。幼い体は我慢も碌に出来なかった。

 しちゃいました。母の目の前で。

 処理されちゃいました。母親に。

 自分は泣いた。声は無く、はらはらと涙を溢した。

 新しくおしめを着け直した母は、楽しそうな顔をして言った。

「あらあ、どうしたの?」

 分かれよ。つか、しょんべんの始末が楽しかったのかよ。

 健常者に話して聞かせたら、殆どのヒトは下らない、と言うだろう。

 だが、自力でトイレも出来ないなんて状況にいっぺんなってみろ?

 泣けるぞ?絶望というか、無力感がすげえ味わえるぞ?

 しかし、この体は発展途上なのだ!これから自力で出来るようになるのだ!

 ………とでも思ってなきゃあやってられるか畜生!!!

 と、考え込んでいたせいか、無意識に現実逃避してたのか、日が暮れる時間帯になった。

 文明度の低い所では日が暮れれば外で作業なんかやってられないので、家族が皆帰ってくる。

 家族構成は夫婦が一組、あとはその子ども達だ。自分は末っ子だ。

 そして夕食の時間、自分を抱えた母が突然皆に呼び掛けた。

「みんな聞いて聞いて」

 母は何を言う気だろう、と思っているとこちらを向いた。

「ねえちいちゃん、ままの名前は何かなあ」

「………サラ?」

 だよな?普通親を名前呼びしないからな。

 と、家族が皆目をギョッと見開いていた。全員が眼球こぼれそうな程。

 何なの?家族でリアクション芸人目指してんの?

 一瞬の硬直のあと、きょうだい達が詰め寄って来て騒ぎ出す。

「おれは?」

「ぼくの名前!」

「わたしわたし」

 きょうだい達は末っ子に呼び捨てにされたいのだろうか。呼んでやるけども。

 生まれた順だ。長男、次男、長女、三男、次女の順になる。

「シン、トモ、ナナ、タク、ネネ」

「「「「「おお~」」」」」

「まだ2歳なのに天才か!」

 きょうだい達は名前を呼ばれて盛り上がっていたが、今長男シンが聞き捨てならない事を言った!

 ここでは数え年を使っているはずだ。

 数え年とは、生まれた時が1歳、以降元日毎に1歳追加、という年齢の数え方だ。

 なぜ1歳から数えるか。たかが数を数えるだけのようだが、ゼロから数えられるのは1歩進んだ数学なのだ。ここは文明が遅れているってことだな。

 そして元日毎に1歳追加ということは、個人の誕生日は考えない。つまり、古来元日はみんなの誕生日だったのだ~!………てことは今はどうでもよくて!下手をすると、生後24時間しないで2歳になってしまう、ということだ。

 そういうときは早生まれ、ということにして1歳のままだった気もするが、ここではそんなところまで気が回らないとも思う。となると…

 まだ生後1年は絶対に経ってない。薄ぼんやりした記憶から、いくらなんでも生後24時間ではないとは感じるが、満年齢では0歳何ヶ月だか………

 幼児じゃなく!乳児じゃあねえかあぁあぁああ!!!通りで立って歩けないはずだよ!記憶もぼんやりしている筈だよおおおお!!!だって新生児は碌に目も見えないって言うからなああ!!!

 何で自分は幼児だと思っていたか。普通、物心がつくのは3歳くらいだからだ。だが0歳何ヶ月だか。そりゃあいきなり喋ったら吃驚もするわな。

 きょうだい達がひとしきり盛り上がった後、母の音頭で皆席に着く。父親はずっと席に着いていたが、名前を呼ばれていないので寂しそう。

 父は威厳がある振りをして座りっぱなしだったのだ。父の名はベン。内弁慶の外地蔵な奴だ。余所では大人しいが、家では威張り散らしているヤツという意味だ。文明度の低い所では典型的なオヤジ像なのだとか。

 寂しそうなオヤジはスルーして、皆席に着い…んんー?次女ネネが自分が抱えられている側とは逆側の母の膝に座った。

『いただきま~す』

 皆が挨拶するとネネは母の服を捲りあげる。うおい!!!

 で、吸い始めた。何をって……ねえ………?

 日本でも昭和初期以前、つまり戦前には、今でいう小学校低学年位までの子が母の乳吸うのは珍しくもなかったというが、目の前でやられると吃驚するだろうが!本当に目の前だぞ!自分も母の膝に座っているからな!

 で、驚いて呆然としていると、母が言った。

「ちいちゃんどうしたの?」

 ……………は?!

「どうぞおお~」

 待って!待て待って!!胸を突き出してこないでぇええ!!!

「ああああのあの!固形物などありませぬでしょうか!!!」

「こけいぶつ?」

「形のある食べ物ということです」

 ………ぶはははは!!!

 皆が大爆笑した。

「ちいちゃんにはまだ無理よお」

「こんな事言う赤ん坊初めて見た!」

 トモうるせえ!!それよか家族とはいえ恥ずかしがれよ!

 母も何平然としちゃってんの?この子たちは皆コレで育てたとか思って誇っちゃってんの?

 しかし小耳に挟んだことがある。胃腸の出来上がっていない赤ん坊に無理にモノを食わすとアレルゲンになってしまう、と。

 アレルゲン…アレルギーの原因物質である。

 食物アレルギー…アレルゲンを飲み食いしてしまうと息が詰まって死んでしまう病気である。

 窒息死というものは、命を失うその時まで意識を失うことがないという。で、当然とても苦しい。ちょっと息を止めてみたって分かるものではない。何故なら、とても苦しいが故に無意識的に息を止めるのをやめてしまうからである。自分で首を絞めて自殺出来る者など絶対にいない、ということからも分かるだろう。息の詰まる苦しさはなった者にしか分からない。

 ………ブルルっ恐ろしい………無理は出来ないか………と、なると………

 ………あれ?これって言う事聞いておくしか無いのか?ええ?でも…ええ?………

「…………………あの…………し………失礼します…………」

 また家族みんなが大爆笑した。

 面白くねえええよ!!!!



第3話 公園(?)でびゅうしてみた

 見るからに文明度の低い田舎村の中を長女ナナは行く。両手を三男タク、次女ネネとつなぎ、背に自分、ちいを負ぶって。

 村の子ども達は、日中村の中央広場で過ごす。村の中央なのは獣除けのためだ。まあ比較的マシかなあという程度であろうが。

 子ども、というのは小学校中学年くらいまでの年の子達だ。10歳位までということだな。

 それ以上の子達は、というと、もう大人並みの役割を何かこなしている。現代日本でなら児童保護法違反なんて言われるだろうが、文明度が低い所では当たり前にやっていることだ。

 文明度が低いということは、誰もが腹一杯食えないということであり、取りあえず体が動く者は皆何か生活の足しになることをして、やっと細々と食っていけるかなあ、というところなのだ。

 あまり文明度が低い低い言うと悪口になるだろうか。発展途上と言っておくか。

 発展途上という言葉はなるべく聞こえが良いように、ということで出来たのだが、そんなに聞こえ良いかねえ?

 柵が見えてきた。獣どころかヒトでも大人ならぶち破れそうだ。子どもを外に出さない為の柵なのだろう。何だか犬かなにかの散歩コースみたいだが、仕方のない事だ。

 歩き始めの幼児は、ちょっと目を離すと本当に信じられない所まで歩いて行ってしまうからな。況してや面倒を見るのは兄姉とはいえやはりまだ幼い子達だしな。

 広場、とはいうものの、更地ではない。かなり木が植わっている。

 この木は一応食える実が成るようだが、農園にして収穫するほどではない。そんな木だと、虫が鬱陶し過ぎて広場にいられなくなるだろう。

 小屋もある。天気が悪いこともあるだろうから当たり前だ。

 さて、ナナは広場に着くと、自分を抱えて切り株に座る。タクは背負っていた荷物を置いてネネと手をつなぎ、遊びに行く。荷物というのは飲み水やらおしめやらである。おしめ………自分のなあ!…………ふうぅ………

「ちいっていつもはぜんぜん動かないねえ」

 ナナはそんなことを言っているが、楽で良いだろう。

 自分はこれから考え事に没頭しなければならない。だってそれしか出来ることがないからだよ!!畜生め!

 発展途上な世界でどう生きていくか、である。

 発展途上ということは、とかく命の危険が多い。文明がどんなに発達したって、命ある者はいつも死の可能性があるのは当たり前だが、それでも文明度が低い方がもっと危険というのも誰もが頷くことだろう。

 まず、異世界だからチート、なんて期待するのはバカだ。

 ちょっと考えればわかるだろうが、作り話の主人公は異世界モノに限らず皆チートなのだ。

 ヒトは皆自分の人生の主人公だ、などという。それは別に構わないのだが、作り話とごっちゃにしてはいけない。

 現実のヒトは、死ぬときはあっさり死ぬし、誰からも好かれるということも無いし、冴えない人生なヒトが大半だ。それでも誰だって早死にはしたくないから足掻いて生きるのだ。

 現実的には、チートどころか生きるのに不利な体に生まれる可能性もそう低くはない。取り敢えず日常生活が送れる程度に健康ならば、充分幸運だ。

 それから環境だ。健康だって殺せば死ぬからな。

 君子危うきに近寄らず、と言う。金言だな。将来起こり得る事を予測し、危険を回避するのが利口な生き方というものだ。

 予測しきれないで危険に出会ってしまったら、力不足だったということだ。おつむが足りなかったってことだな。とはいえ、全ての危機を予測するなんてのも現実的には無理といえば無理なので、次善の策は必要だ。策とはいっても身体能力だが。

 どれ位身体能力、言い換えれば強さがあればいいかだが、取りあえずは幼くても大人に対抗出来る位だろうか。ここは文明度が低い田舎村なので、そこらに野生の獣がいる。じゃあ獣に対抗出来る位強くなろう!なんていうのもバカだ。

 野生生物の身体能力はヒトを圧倒的に凌駕する、というのは常識だ。ヒトは獣とは戦わないように生きてきたのだ。戦おうなんて思うヤツがいるなら、それはゲームか何かと現実を区別出来ないヤツなんだな。

 大人に対抗出来る位、といっても具体的には、だ。どんな状況でどんな対抗か、だが。

 有りそうな事といえば、イタズラ目的で幼女を誘拐して、挙げ句殺しちゃいました、とか………

 ある!!最早文明度に関係無くある!!!もう定期的と言っていい位時々そんな事件が報道されるではないか!そして自分幼女だ!!やべええ!!!

 ………大の男が不意討ちで襲って来ても返り討ちに出来る位……だな………

 しかしそれはとても難しい事だ。格闘技をやっている女性が、不審者に襲われた時何も出来なかった、などと聞く。まあ、格闘技といっても不意討ちに対する心構えなんぞ無かったろうし、ルール外のことをする相手にまごついてもしまったろうが。それを合わせても、だ。

 武術だな。実戦を想定した、ルール無用の戦いを制する技術。それしか無い。

 体が動くようになったら即修業開始だ。が、気を付けねばならないことがある。

 スポーツ関係者は聞いたことがあるだろう。幼い者は体が出来上がっていない、と。

 体が出来上がっていない者が無理な猛特訓を続けると、必ずと言っていい程一生元通りには治らない怪我をしてしまう。体が出来上がる頃…高校生になる位だろうか。それまでは無理は禁物だ。

 しかし幼い体で大の男に対抗したいのだから、最適な効率で無理のない修業、というものを考えなければなるまい。考える時間だけならある。今は自力で動けないからな!

 考えるついでに、ステータス、のようなものも考えよう。……ゲーム脳という訳ではない。飽くまで現実を認識しやすくするためなんだからね!…コホン。

 身体能力、とは突き詰めれば筋力のことである。となれば、精神力とは神経の力、ということになるだろうか。勿論大ざっぱに言って、である。

 筋力、と言ったのは、体を思い通りに動かす筋肉、随意筋の力である。体を思い通りに動かすのだから神経も関わっているが、これは筋力とセットだ。となると、神経と言ったのは思い通りにならない部分で、自律神経と言う。これら筋力と神経は2種類ずつある。持久力と瞬発力、体を活発にする交感神経と穏やかにする副交感神経だ。

 これを確かソクラテスが言った四元素、土火風水にそれぞれ当てはめる。

 四元素、勿論現代ではそれ元素と違う、と分かってはいるが、ファンタジーでは定番だな。

 数値は年齢を基準にしたい。といっても、百歳まで生きれば数値100、という訳ではない。

 ヒトの身体能力は20歳位が頂点、なので、一般人は大体10台後半になるだろう。一方伝説級の人物とて、30に届くことはまずあるまい。物理的やら人体構造的におかしなことになってしまう。

 もっと細かい数値が必要ならば、小数を使う。客に売るゲームならば避けるだろうが、自分の頭の中だ。自分が分かりやすい、ということを基準にする。

 そしてそれら能力値を相加平均して、小数点以下を切り捨てしたものをレベルにしよう。

 このレベルは、ゲームのように経験値を貯めて上げるものではないし、一度上がれば上がりっぱなしな訳でもない。飽くまでも、取り敢えず見たままの肉体の力である。

 となると、幼い自分はレベルや能力値では絶対に大の男には敵わない。ならばどうするか。

 技術で能力値を修正して相手を上回ればよい。言い換えれば、目的に沿うように能力を運用すれば良い。 例えば、梃子という道具がある。通常は、少ない力で重い物を動かす、という道具である。その為には動きが遅くなってしまうのだが、つまりは速さという能力を重い物を動かす目的に運用している、ということだ。

 しかし能力値をひとつふたつ修正しても大の男を上回るのは容易ではないな。幾つもの技術を重ね掛けせねばなるまい。つまりは、小細工を幾つも重ねて何が何でも勝ちをもぎ取る、ということだ。技術とは小細工を幾つも重ね合わせたモノに他ならない。

 ゲームっぽいことを考えるならば、能力値を照らし合わせなくてはなるまい。能力値が4つではゲームと比べて少なすぎるだろうからな。

 ゲームでよくある能力値といえば、力、体力、防御、器用、知能、精神、素早さ、といったところか。

 単純に言い切ってしまえば、だが、持久力は体力と器用、瞬発力は力と防御と素早さ、交感神経は知能、副交感神経は精神と対応する。現実的にはこれに体格と体重、経験や知識が関わって複雑になってくるのだが。

 ここまで考えた所で喉が渇いてきた。自分の記憶にある日本の誰だかさんのばあちゃんがよく言ったものだ。赤ん坊は小鬢の毛が震えるくらい喉が渇く、と。

 小鬢ってどこだ?とは思うものの、問題はそこじゃない。喉が渇く事だ。そして、赤ん坊にとってお乳は飽くまで食事、飲み物は別に飲ませる必要がある。

 つうか自分が赤ん坊なんだよ。飲み物欲しいんだよ!という訳でナナに頼んでみた。

 ナナは水筒からカップに水を注いだら、服を捲り上げようとする。…っておい!

「何やってんの?」

「お水を飲ませてあげようと」

「カップに注いだ後何しようとしたの?」

「う~んと、将来のれんしゅう?」

「何の練習だよ!!いらん事すんなよ!」

「喋るようになったら急にはんこうてきに!」

「反抗って言わねえよそんなのはよお!」

 って、物心がつく前にもやったのかそれ!もしかして自分、ナナのを吸わされたりしたのか?!………考えるのやめとこう。うん。

 ナナと阿呆な言い合いをしていると何人かの女の子?達が寄って来た。皆髪型と服装が同じだから分かり難いんだ。

「ナナどうしたの?」

「ちいがはんこうきで~」

「違ぁあぁあぁあう!!」

「「うわ喋った!?」」

 驚かれた。けど仕様がないだろう。ナナが何を言い出すか分かったもんじゃないからな!

 女の子の一人が手をつないでいる弟?がニコニコしながら指差してきた。

「あ!あ!あ!」

 男の子はしきりに指差しながらあーあー言っている。まだ喋れないようだ。標準的な2歳児といったところか。ああ、満年齢で言えば、な。

「赤ちゃん喋ってるねえ。すごいねえ。ワットも早く喋れるようになろうねえ」

 姉が言った。弟はワットというようだ。そこへナナが言う。

「やっぱりしゃべらない方がかわいいねえ」

「余計なお世話だ」

「うわ怖!ワット、喋れないままでいいからね!」

 良くはないと思うが、余所の子なので好きにしてください。それよりも、だ。

「喉渇いたんだけど」

「うわ何この子!すげー偉そう!」

 偉そうなんじゃねえよ。頼んだまま、まだ飲ませてもらってないからだよ。

「はいどおぞお~」

 何だかナナは楽しそうだ。それにしてもやっとだよ。んぐんぐんぐ。

「いい飲みっぷりだね」

「お母さんのおっぱいは嫌がるんだけどねえ」

「ぶふうぅうう!!何ゆっちゃってんのおおお?!!」

「うわどうしたのこの子急に」

「何だか恥ずかしいみたいでえ」

「恥ずかしいだろがあぁああ!!」

「何この変な赤ちゃん」

「変だよねえ」

「変じゃねえよ!」

 ナナはまるで姉のような顔をして………ああ、姉だったわ。で、言った。

「あのねちい、赤ちゃんはお母さんのおっぱいを飲まなきゃ死んじゃうんだよ」

「教え諭すような気になってんじゃねええよ!!」

「うわー……ナナ大変だね」

「でも大変な子ほどかわいいって言うからねえ」

 言うのかよ!それ、アレだろ?馬鹿な子ほど可愛いってやつだろ!!

 と、しょうもない言い合いをしている最中、突然年長の子が叫んだ。所謂ガキ大将というやつだ。

「みんな木にしがみつけ!!!」

 子ども達は真剣な表情になって即座に木にしがみつく。弟妹を連れている子は木にしがみつかせた上に覆いかぶさる。

 自分も木との間になるようにナナに抱えられた。そこから見えた。猛禽らしき鳥が飛んでいた。

 広場に結構木々が生えているのは鳥除けの為だったのだ。

 決して大袈裟な話ではない。広い世の中ナマケモノを狩るでっかい鳥もいる。ナマケモノは大人が一抱えする位の大きさはある。小学校高学年位はあるだろう。

 今見た鳥はそこまで大きくはなかったが、赤ん坊くらいなら狩られてしまう可能性は充分にある。

 昔から言う神隠し、それはただ単に鳥に狩られて人知れず食われていただけだろうと自分は思う。

 昔の農民はよく田んぼの脇に赤ん坊を置いて農作業をしていたというから、気付かれないうちに狩りたい放題だったろう。

 …やっぱり文明度の低い所は恐ろしいな………!!!



第4話 ちいが立った

 数えで3歳になった春、やっと自力で立って歩けるようになった。満年齢で言えば1歳何ヶ月だかだ。

 標準的な子と比べてどうだかは知らんが、ここまで長かった。長かったよ………

 断言しよう。赤ちゃんプレイだ~、とか言って喜ぶような変態どもでも本当の赤ちゃん生活やらされたら絶対に音をあげる。

 幼い子が平気な顔してお世話されていられるのは、やっぱり本当に何にも知らない本能だけで生きている存在だからだ。身に染みて思い知った。

 ところで数え年で年齢が上がる日、つまり元日は春の最初の日だ。新春と言うだろう。現代日本では冬の真ん中の日に新春とかおかしなことを言っているが、使う暦を途中で無理矢理替えたからそんなことになってしまったのだ。 

 さて、修業を開始せねばなるまい。まずは村の中央広場で練習道具を見付けることから始める。

 練習道具………刀を持っている気分になれる木の枝である。

 ……………仕方ないだろう!!今は木を加工出来る道具すら無いのだ。

 大人と認められた者は青銅のナイフを貰うことになっている。試すまでもなく切れ味悪そうだが。ゲームなんかでは木の棒と並んで最弱の武器という感じだが、現実的には小振りの刃物は生活必需品なのだ。

 刀の修業をするのは、たまたまガッコの授業よりは少しだけ知っているからだ。

 勿論、その程度の知識で実戦で使えるのか、という不安はある。が、現代日本で自信を持って武術の修業出来る奴なんぞどれ程いるというのか。いや、戦乱の世でも不安無く修業出来る者などいるまい。不安は誰でも有る。が、それで効率を乱されないように結果を信じて突き進むしかないだろう。

 どんな剣豪よりも有利な点が有るとすればそれはただ一つだけ、通常では考えられない程早くから修業を開始出来ることだけしか無い。

 普通は物心がつくのは満年齢で3歳位だ。物心がついたからといって直ぐ将来の為に修業しよう!なんて幼児がいるわけも無い。そんな幼児いたらヤだ。少しでも将来を考えるのはせいぜい10歳過ぎた辺り位だろう。

 何事も10年続ければ第一人者と言う。ならば、普通の子がやっと少し将来のことを考え始める頃にはちょっとした使い手には成れるだろう。

 例え自分が、全く、才能のカケラすら無かったとして、もである。何でそんなに自分をケチョンケチョンに言うのか。

 よく言うだろう。常に最悪を想定して動け、と。結果が出てしまった現実は無かったことには出来ない。

 ならば最悪を想定しておけば、将来どうなろうと対応は出来るものだ。

 広場を彷徨っていると、手頃な枝切れを発見。長さといい、曲がり具合といい、枝分かれなんかも無いことといい、手に持った感じといい、いい仕事してますね!

 早速納刀状態のように左手に持ってみる。漫画やラノベのイラストを見ると、殆どが間違っていると思うのでここはハッキリさせておきたい。

 刀という物は長さで種類分けされる。

 戦場用の太刀と比べれば比較的短めな打刀、時代劇なんかで見る町中用のヤツな、それは腰に差す時は刃が上を向いているのだ。今どきあまり時代劇やってないが、目にしたらよおおく注意するといい。

 右手を上向きにして柄を握る。いや、コレはただの木の枝ですけどね!

 そして抜刀!それから手首を返せば刃が下を向く。つまり前を向くのだ。

 直ぐに正眼に構える。つまり中段の構えだ。…右腕は肩の高さなどと聞いた覚えがあるのだが、本当にそこまで腕を上げて試合してる奴見たこと無いんだが?自分的には肩の高さな気分~とでも言うのだろうか?

 ………それは兎も角、枝を振りかぶる。とは言っても上段の高さまでだ。

 そして振り下ろす。と言っても中段の高さまでだ。

 これが刀の最も基本的な練習、素振りだ。つまり中段と上段をひたすら繰り返すのが素振りなのだ。

 自力で歩けない間、考えに考え抜いた。

 幼い体を壊す事無く、それでいて大の男にも対抗出来る様になる最適効率な修業とは何か。

 結局素振りが最適と結論したのだ。

 素振りには刀使いの全てが詰まっていると思う。前後の足捌きを交えた駆け素振りなんてのもあるにはあるのだが、自分に言わせればそれは普通の素振りから全てを読み取れないヒトの練習だ。こちとら、体を壊さない為に無駄なものは削りに削らなければいけないのだ!で、必要なのは素振り!余分なことは寧ろしてはいけない!と考え至った次第である。

 上段の構えの高さまで振りかぶる。ただし最初はゆっくりだ。中段の構えの高さまで振り下ろす。これもゆっくりだ。何故なら、まずは正しい動きをじっくりと探らなければいけないからだ。

 正しい動きとは、何がどう正しいのか?それは自分の体にとって、無理の無い動きである、ということだ。刀に関わる気の無いヒトにとっては全くピンと来ない言葉だったろうか。しかし、である。刀に限らず数々の職人技でも言うことだ。

 別に職人と呼ばれる程仕事に没頭する気は無いヒトでも働かなくては生きてはいけまい。同じ働くなら比較的楽になる、と聞けば、むしろ目の色変えて知っておくべきだろう。

 正しい動き、それは結局のところヒトそれぞれが自分の感覚で確かめるしかない。ヒトは皆体格が違うからである。それで職人は自分の体格に合わせた専用の仕事道具を揃え、自分の道具は他者には触らせられない、と言うのだ。

 しかし、である。よくよく考えてみれば、同一人物でも長期的に見れば体格は変わる。となれば正しい動きの確認は毎日欠かせないだろう。況してや自分、幼子である。変化具合は大人より激しいだろう。

 正しい動きを確信した。それからは正しい動きを保ったまま速く振る。前回よりも速く!前回よりも更に速く!無駄なものを段々削ぎ落としてゆくつもりでどんどん速く振ってゆく。

 ある程度振ったら次は左手持ちに替えて正しい動きを追求し始める。

 剣道では利き手に関わらず右手持ちなのだとか。それは試合開始時相手と竹刀を交差させる為だ。左手持ちがいたらうまく交差させられなくなる。

 が、自分は異世界で剣道やりたい訳じゃない。生き残りに使いたいのだ。

 左手持ちも練習しておけば、運動量を全身に分散することで無理なく修業量を増やせると思ったのだ。

 いかに最適効率な修業と言えどもやはり修業量が多い方が強くなるだろう。とはいえ無理をすれば体が壊れてしまう、と思って捻り出した答えだ。

 そして、生き残りの観点から言えば選択肢は出来る限り増やしておくべきなのだ。どこかに生き残る可能性が出てくるからである。

 両手が同様に使えれば単純に選択肢が2倍、というものではない。上手く連携させることが出来れば可能性は無限大にも拡がるものだ。空手には夫婦手めおとてという技法があるしな。両手を息の合った夫婦のように連携させましょう、と言っているだけなので技というには微妙なのだが。

 左手も正しい動きを確認し、素振りを速めてゆく。

 そしてまた右手に持ち替えたところで野次が飛んできた。

「や~い!変なの~!」

 ………ワットだった。クソガキに育ちやがって。

 それでも続けようとすると更に言ってきた。

「無視すんなよお」

 うるせえな!極論を言えば、例え自分が全く無意味な事をしていたとしても、ケチ付けられる筋合いは無い!…うん。自分、ケチ付けられるのは大嫌いなんだ。

 と、遠慮がちな別の声が掛かって来る。

「あの、僕の知る限り剣とは片手で振る物ですけれども…」

 知性の光が見える少年、シャールだった。まあ、文明度が低い世界の田舎村にしては、だけれども。そして何故か馬鹿野郎のワットとよく一緒に居る。………いかんいかん。心が乱れているな。平常心平常心。

 ふむ、しかしシャールの方には気遣いが見えた。知識が見えた。洞察も見えた。

 どこでそう判断したか。村で剣振っている者など皆無である。どうやってか、までは知らないが、村の外の知識を得た、という事である。で、多分ワットも知っていたのだろう。が、自分はワットの言い様に腹を立てた。それを察するまでなら簡単だろうが、シャールは多分間違い無く、自分が見たことも聞いたことも無い事をやっているが妙に様になっている、とまで読んだ。だから遠慮がちになったのだ。釈迦に説法ってことになってしまうからな。

 シャールにはちゃんと返事をしよう。”休め”の姿勢になる。刀を右に下ろして直立する姿勢だ。刀は両手で持ったままだがな。いや、今持っているのは刀のつもりの枝だがな!

「両手で持つ武器は実は使いづらい。況してや刃物の武器は振るのに技術が要る。だから世界的に広まるのは片手剣。

 でも広い世の中、使いづらいものを敢えて使いこなしてやろうという少数派は必ず居る」

 シャールは大きく目を見開いた。そんな細かい返事が来るとは思ってもみなかっただろう。

 が、直ぐに立ち直って言って来る。頭の回転が速い。

「あの、後でいいので話せませんか?」

「いいよ」

 こんな文明度が低い所だが、この子は仕込めば話し相手くらいにはなりそうだ、と思ったのだ。


「もういいんですか?」

 シャールがそう聞いてくる位直ぐに素振りを切り上げた。

 自分でも思った以上に心が乱れたのだ。変な癖が付くのが恐かった。毎日続けるなら尚のこと無理はするもんじゃない、と思っての事だ。

 すぐ隣、シャールが座っている切り株に自分も座る。するとまたワットが野次を飛ばして来た。

「や~い!シャールが女とアッチッチ~!」

 ………

「何であんなバカとつるんでんの?」

 思わず言ってしまった。

 対してシャールは微笑まし気に返す。余裕だなあおい。

「ワットにも良い所はあるんですよ?」

「どこら辺が?」

「とても友達想いです。本当に情に厚いんですよ」

 シャールはすらすらと答える。普通取り繕う様に「アイツにも良い所はあるんだ!」とか言うヤツは聞かれるとまごつくもんだが、本当にご立派だ。が、しかし。

「シャールは友達想いなヤツに今罵られたのですが」

「友達を取られると思って慌てているんです」

「女々しい野郎だ」

「あはは。そう言うちいは何だかおとこらしいですね」

「まあな」

「あれえ??そういう返事なんですか??」

 シャールは今初めてあわ食った。まあそういう反応でしょうね。ちいちゃんは女の子だものね。

「それより、自分がどんな武器を想定して練習していたか、だよね」

「!はい、そうです!」

 シャールはハッとする。話が早いに過ぎる、と思っただろうか。

「武器の名は刀。片刃で反りのある片手半剣バスタードソード

「バスタードソード、ですか?」

「何とか片手で使える重さで両手で持てる長い柄の両手片手兼用の剣」

 間違ってないよな。二刀流なら右手だけで一振り持つものな。

「片刃で反り、というのは?」

「普通に剣といえば前後両方が刃だけど刀は前だけ。

 反りというのは後ろに曲がってること。だから先端が向いている方向が後ろ」

 因みに剣という字はけんと読むと刀も含むが、つるぎと読むと両刃の直剣のみだ。

「後ろに曲がっているのは意味があるんですか?」

 質問が的確だ。本当にシャールは頭が良いようだ。

「切れ味を増し、衝撃を逃がす為」

「衝撃、ですか」

「真っ直ぐな棒で、何か硬くて重い物をぶん殴ってみれば分かると思うけど…」

「ちい!口を開くと過激ですね!」

 シャールはつい横槍を入れてしまった様だが、今武器の話をしているのだぞ?

「…当たる部分はちょっとだけ。後は弾かれる。

 そうなると例え武器が刃物でも斬れないし、衝撃が武器と手にも伝わって武器は傷むし手は痺れてしまう」

「武器が傷む、ですか」

「手に持って振るう武器も使用に限りがある消耗品と思った方がいい。刀は特に傷みやすい。

 まあ、命懸けの戦いになれば武器勿体ないとか言ってらんないけど」

「そう…ですね」

「これが後ろに曲がっていると、何も考えないで振るっても刃が長めに当たるし衝撃も比較的逸れる」

「何か考えて振ると何処か違うのですか?」

 着眼点が鋭い。シャールは本当に賢いな。

「刀で斬ろうとするなら刃を触れさせつつ思いっ切り引く。刃を出来る限り長い部分当てて、それでいて刀の重みを出来る限りぶつけない様にするとスパッと斬れる。恐ろしい程に…ね」

 武器というものは恐ろしいんだよ、という注意はしておく。青銅のナイフを貰えるのが大人の証というのも、危険だと分かってそれでも生活に必要なことも理解出来るということだろう。

「刀なら引く、ですか。では真っ直ぐな剣なら?」

「直剣なら押して斬る。突きを掠らせる感じで。引くと使い手の動きが不自然になるかな」

「ちょっと形が違うだけのようでも使い方が変わってくるんですね」

「そうそう、そう言う事」

 この子本当に賢いな。年はワットと同じくらいか?ワットは見た感じ3歳くらいだよな……ええ?

「チートキャラ?」

「何です?チート?」

 理解出来なかったらしい。全うなこの世界の子の様だ。けど3歳でこんな田舎村の子で、頭良過ぎだろう。

「世の中の仕組みを無視したかのような、なんか凄いヒト」

「はあ?」

 シャールは疑問の目…というか何言ってんのコイツ?という目をした。なにさ?

 まあ、気を取り直して。

「刀の修業、してみない?」



第5話 仲間にしたそうに見詰めてみた

 思うところはあったのだ。

 端的には一人でやるより修業の不安が紛れるな、ということだ。勿論物理的には何人でやろうが自分に影響は無い。気休めなのだが。

 それから、ひとつの保険だ。例えば、修業としては正しいが、自分はいくら修業をしても全く強くならない、なんてことがあった場合。

 そんなのは現実的にあり得ないという程おかしいのだが、最悪を想定するとはこういうことだ。

 その場合自分以外の誰かに強くなってもらわなければならない。他力本願で情けないのであるが。

 ラノベ等でも日本人が野蛮な世界に行っちまったら弱いに決まってんだろ~、という話はちらほらある。それ以前に異世界と言えばチート、という流れは、素のままの現代日本人では発展途上な世界で生きていける訳がない、と、誰もが思っているいい証拠だ。況してやこの身は女性であるし。

 シャールとしても、例えそこらの幼児よりは強いという程度で終わったとしても損はあるまい。どんどん強くなるならば、まあ、弟子が師匠より弱いとは限らない、ということで、こやつはワシが育てた、とか言ってみたり。

 わざわざ負けてやる気は無いんだがな!寧ろ負けてやるもんか!というモチベーションになるんじゃないかな!

 と、シャールにとっても悪い話ではないだろう、と思ったのだが。

「ひとつ聞いてもいいでしょうか」

 あまり乗り気には見えない。

「刀というものをどこで知ったのです?」

「成る程、自分の言ったことは幼児の想像力を遙かに超えている。けど実際問題、シャールの目の前にいる自分、ちいは、それこそ赤ん坊の頃から知っている、普通だったら村の外なんて発想すら浮かばない幼児の筈だ。だから刀の修業なんて言われても決断出来ない、と」

「ちいは幼児というより今…いや何でもないです。

 それよりも、そうですね。そう思いました」

 何故つらつらとシャールの言わんとする所を言ってみたか。

 シャールとてそこまで細かく考えていなかったろうが、明言化して見せた事で納得しただろう。

 そしてこちらの言語力も見せつけた。

 更に話を誘導してもいるのだが。我ながら汚い。幼いシャール君かわいそう。…て、今何を言いかけた?

「どこで刀を知ったか。うん。

 自分、他人の記憶を知覚してしまったみたいなんだ」

 自分は生まれ変わりというやつをはっきり言って信じていないので、こういう表現になる。何故信じていないかという根拠まで話すと、幼児には言うもんじゃない位には重いのでそこは流す。

「してしまったって…」

「自我意識というものは記憶なんだよ。他人の記憶が混ざると混乱することは必至だね」

 作り話でも混乱して悩む主人公とかよくあることだ。

「ちいは悩んでいないですよね?」

「今はね。今まで自分で立って歩けないうちは本当に、ほんっとうになあ………」

「あれ?そういうのですか?」

 分かってる。話がずれているのは。けど本当に自力で動けないのは苦痛だったのだ。年寄りが言いそうな、やっぱり健康な体が一番の宝だ、というのが、すごく、すっごく身に染みたのだ。

「兎に角、他人の記憶がある訳だ。それなりに色々知ってるよ」

「色々、ですか」

 目を輝かせるシャール。夢が膨らむ少年心、という所か。

「それは追々ね。今は刀だ。どうする?」

 意地悪や誤魔化しで言っている訳ではない。話をゴチャゴチャにしない為だ。たわいもないお喋りならゴチャゴチャでもいいんだが。

「分かりました。やってみたいと思います。

 ……けど、直ぐ諦めたりしても、怒らないですか?」

「怒らない怒らない。お試し期間は必要でしょう。少年よ、若いうちは色々試すべきだぞ」

「お試し期間?」

 流石にシャールとて、商売っ気た言葉は分からない。言わんとする所が何となくでも伝わればいい。

「ではまず、練習道具を見つけよう」

「木の枝ですね」

 目敏い。鈍いヤツなら何を?とか言う所だ。

「ナイフを貰ったら直ぐ木刀を作りたい所だけれども…」

「大人と認められたら、ですね」

「真剣、つまり金属製の本物の刀は手に入る当てが全く無いけども、木の刀、木刀でも充分戦える武器だから。代わりに練習の手合わせも出来ない位危険だけど」

「手に入る当てが無いんですか?」

「刀を造るには、それに一生を費やす程の職人が必要なんだ。それにこしらえ、つまり部品を造る専門職も何人か、更に造った後の手入れも一人専門職が欲しいかな」

「そんなに専門職が要るんですか?!」

「だから真剣は無理だと思う。けど必要でもないでしょう」

 話をしながら探した。結果、自分が持っているのより良さ気な枝が見つかった。

「……」

「……」

「…ええと、自分が持っているのと取り替えてしまいたい位良い枝だね」

「ええ?!」

「しないってば。はい」

「あ、ありがとうございます」

 シャールにとってのこの枝の価値を高める為に言ったのだ。ホントだぞ!

 そして広い場所に移動して言う。

「じゃあ、最初から上手く真似出来る訳無いから、気楽に見てて」

「ええ??」

「ああ、巧くやろうと思って気張っても疲れるだけだよ、てこと。

 ひとつ技を伝授しよう。遠山えんざん目付めつけ

 何処にも焦点を合わせず視界全体を把握する。戦闘に有利な視覚だよ。

 徒手空拳の場合は観の目と言う」

「遠くの山を見るつもりで、てことですか。

 でもそれ、本当に有利なんですか?」

 素人さんは思うことだろう。何で敵が近くにいるのに遠くを見るつもりになるんだよ!と。

「例えば相手が手で攻撃してくるから手をよく見ようとする。

 そしたら絶対って言ってもいい。避けられないね」

「遠山の目付なら避けられるのですか?」

 必ず、とは言えないのだがね。見切った!とか言いながら殴られる、なんてカッチョ悪い展開もあり得るからねえ。

「可能性はある。攻撃を当てようと思えば先ずは丁度良い距離に移動しなければいけない。

 誰だって手を振るよりは全身移動する方が時間がかかるから全体を見ていればその時点で気付ける。

 更に筋肉で動けば体のどこかに予備動作が現れる。それで予測も出来る」

「筋肉?予備動作?」

 流石にシャールも筋肉は知らないか。具体例として腕を曲げ伸ばししながら言う。

「体を思った通りに動かせるのは随意筋という筋肉を使っているから。思った通りに動かす為に勢い付けするのが予備動作」

「筋肉を使わない動きも有るのでしょうか」

 気付いたか。多少は匂わせたが気付かなければ今回はそのまま通す気だった。内容を盛る程話はごっちゃになるからな。

「なんばと言う。出来る限り重心移動のみを推進力とする機動術」

「重心、ですか?」

「一番体重がかかる所」

「それから、避けるには相手が移動しなければいけない距離が必要なのですね?」

 そこまで読んだか!シャール、本当に賢過ぎるぞ!!

「一刀一足の間と言う。相手が1歩踏み込めば攻撃が当たる距離」

「1歩だけですか?」

「あまり遠過ぎても予測も対応も出来なくなる」

「成る程……そうか!一生懸命見るつもりでも一部分だけ見ているとそこを見逃す上全体も分からない!

 最初から全部は分からなくても全体を見て大部分を覚えろ、と。そう言うのですね!」

 質問は一通りしたが、話の本題を忘れてはいないで帰ってきたようだ。何でいきなり遠山の目付か、というのも理解して。君、賢過ぎるよほんと。

「では先ず納刀状態から。打刀は刃を上に向けて鞘に納っている」

「うちがたな?」

「打つ刀。刀でも手裏剣でも攻撃することを打つって言うんだよ」

「しゅりけん?」

「投げる専用の武器。今はそういうのも有るんだなって思っておけばいい。

 刀は長さで種類分けされる。打刀は比較的短め、だけども…」

 腰を落として柄を握る動作をする。実際持っているのは枝なので真似事なのだけども。

 ただ腰を落とすだけではなく思いっ切りがに股になる。

「右手で刀を抜きながら左手で鞘を押さえて体ごと引く。それでやっと抜ける位の長さ。

 で、抜刀は丁寧且つ一気に抜かないと刀が傷む」

「そんな所で傷むんですか」

「納刀も。丁寧且つ一気に」

 時代劇では刀に触れる度にチャキチャキ音がするが、あれは演出だ。本当は音をさせてはいけないのだ。

「た…大変ですね」

「抜刀したら即構える。これは基本中の基本、中段の構え」

「それ以外もあるんですね?」

「それは追々。構えたら振りかぶる。この状態が上段の構え」

「あ、はい!」

 追々と言いつつ直ぐ上段の構えとか言って、シャールも慌てた様だ。意地悪じゃあないよ?!

「振り下ろす。振りかぶって振り下ろす。これを繰り返すのが素振りという練習。

 そして刀を使い終わったら血振り、納刀」

 言いつつ外側に強く振り下ろしてから鞘に納める動作をして左手に持つ。

「血振り?」

「真剣使ったら斬った相手の血脂が付くでしょう」

「そ…そうですね」

 シャールはちょっと怖そうな顔をした。うん、その恐怖心は大切にしなさい。平気になってしまったらアブないヒトだ。

「さあ、シャールもやってごらん。やってみなきゃ分からないこともあるから」

 シャールはぎこちなく枝を左手に持つ。初心者はやはりぎこちないものだ。

 それから抜刀の動作をするが。

「あれ?」

 右手に持った枝の向きが変だった。

「納刀時は刃が上を向いているから、右手を上向きにして柄を握る。

 抜刀して手首を返せば刃が下を向く」

 実演しながら説明する。

「成る程!そして抜刀したら中段の構え、と」

「柄を握る時両手の間を拳一つ分開けてね」

 ここが野球のバットの握り方と違う点だ。

「それにはどんな意味が?」

「梃子の原理で刃先を操りやすくするため」

「てこ?」

 いくらシャールでも知らない様だ。

「梃子というのは通常は重い物を少ない力で動かす為の道具。それを応用して使い易くしようということ。

 少ない力で使えるということは使い易いという事だから」

「通常でない使い方があるみたく聞こえます」

「その通り!生き物の関節は大きな力を使って速く動ける梃子で出来ている」

「ふむ、ということは少ない力で重い物を動かせる梃子は遅くなるんですか?」

「そうそう、そう言う事。

 しかし刀は剣速が尋常でなく迅いと言うけども、やはり使いづらいだけではお話にならないという事かな」

「成る程、ただでさえ両手武器は使いづらいので速さを犠牲にして使い易くしている。

 それでも刀は攻撃が速い、ということは他の所で工夫しているのですね」

 最早シャールは言葉にしていない部分まで読み取っている。一を聞いて十を知る、という言葉を体現しているかの様だ。

「構えたら振りかぶる、と」

「実戦ではそんなに振りかぶらないけどね」

「え!?」

 何だかシャールは騙された!みたいな顔をした。

「だってそんなに振りかぶっていたら、これから攻撃しますよって相手に教えているみたいなものだからね」

 所謂テレフォンパンチというヤツだ。

「つまり実戦的ではない。けれども練習ではやる。そんな事も世の中結構あるから気を付けてね」

 つまり、どんなに真面目に練習しても、練習そのままでは世の中通用しないのだ、と知って欲しかった。

「いっそ省いた方がいいんじゃないですか?」

「意味があるから練習するんだよ」

「ええと…どんな意味が?」

 シャールはちょっと不貞腐れた顔をした。そんな所はまだ子どもだな。

「まず、これは刀を振る練習なのだから振る距離は長い方が良いということ」

「あ!」

「それから振りかぶった状態は上段の構え、振り下ろした状態は中段の構え。

 つまり、構えを移行する練習でもある、ということ」

「あ…はい」

「戦闘中、構えの移行はさり気なくやらないとね。あからさまだとやっぱり相手にバレバレだからね」

「はい…」

 シャールは、やられた!という顔になった。賢いだけに浅はかな事を言ってしまったと後悔したのだろう。

「中段の構えが基本中の基本なのは攻防一体の構えだから。実戦で防御を考えないヤツはハッキリ言って長生き出来ない。

 とはいえ、戦いというものは攻撃を当てなければ勝ちは無い。上段の構えは防御を考えないで攻撃する構え」

「え?それって…」

 シャールは口篭った。後悔したばかりだからな。

 しかし自分は今、防御を考えないヤツは長生き出来ないと言ったそばから防御を考えない構え、なんて言った。わざとだ。

 シャールはとても気になっただろう。

「刀の戦いは攻撃が当たったら終わり、と考える」

 つまり死ぬってことだが、そこまでは言葉にしない。当たり前だ。話している相手は3歳児だ。

「防御しているだけでは戦いは終わらない。そのうち相手から攻撃を受けてしまうかも知れない。

 ならば攻撃に集中しなければいけない時も有る、ということ」

 いつも(・・・)防御を考えないでいればすぐ死ぬが、攻撃するとなればどうしてもその瞬間は無防備になってしまう、というものだ。

「難しいですね…」

「それはその場その場で判断するしか無い。臨機応変、ということ。

 それは一人でする修業では身に付かない」

「ではどうしたら…?」

「本気で強くなるなら、だけど。徒手空拳で手合わせしてみる?」

「徒手空拳、というのは?」

 おや?知らないのか。先程はスルーしただけか。まあ、スルーしただけ話の腰を折らない知恵は有るということだ。

「武器を持たない戦い方。武器使いには必要なことだよ。武器が壊れたとか奪われた時の事も考えないといけないから。

 ああ、強くなる気があるならだけど」

「えーと、今はやめておきます」

「うん、偉い」

「何でです??」

「いっぺんに色々やっても身に付かないからね。今は素振りを続けよう」

 それに戦わせる気も無いからな。やたら賢いけど幼児だぞ、この子。

 シャールは言われた通り素振りをする。が、しかし。

「握り過ぎ、それに腕で振り過ぎかな」

「ええ??!?」

 手で持つ武器は手で握って、武器を腕ごと振るのは当たり前だ、と思うだろう。が、

「握る力はなるべくギリギリ武器がすっぽ抜けない程度」

 打撃系の格闘技でも言うだろう。力を入れるのは攻撃が当たる一瞬だけ。それ以外は脱力してないと動きが悪くなる、と。

「刀を振るのは雑巾を絞るようにって言うね」

「ふむ?…そうか!刀を振るつもりで腕を振るのではなく、腕や肩の関節を絞り込んだ結果刀を振っている。

 そういうことですね!」

「おお、表現が上手いね。そう言う事」

 自分なりの言葉で表現出来るのはちゃんと理解出来ている証拠だ。

「うん、良くなった。後は毎日欠かさず続けられれば巧くなれるよ」

「強くなれる、ではないんですね。あ、分かってます。一人の練習では強くはなれないと」

「それからひとつ注意。練習は疲れ果てる程は絶対にやらないこと。

 将来体が何処か一生不自由になってしまう。

 それ位なら軽くでも毎日続ける方がずっと良い」

「不自由になるんですか?」

「幼い体は出来上がっていないんだ。17歳位までは無理しない方がいい。

 ああ、17歳過ぎれば無理していいって訳じゃないけど」

 数え年で言えば、である。つまり現代日本で言えば大体高校生になる位ということだ。

「17歳ですかぁ。遠いですねえ」

 さり気ない様だが、シャールは両手の指の数より多い数字を理解しているようだ。本当に大したものだ。

 文明度の低い世界の田舎村では大人だって分かるかどうか怪しいものだ。

「あの、ちい。

 もし僕が本気で強くなりたいと思ったら、ですけど。

 手合わせしてもらえます?」

「覚悟してね?」

「は?」

「自分、誰にも負けてやる積もり無いし、お情けの一つもくれてやる気無いから、覚悟してね?

 負けるととっても悔しいらしいよ?」

 何故ならば。一度負けたら後は絶対に勝てなくなってしまう、という、不安…否、恐怖心があるからだ。

 ただでさえ小さく軽く非力な自分は物理的に圧倒的に不利だ。

 精神的な問題であるが一度負けてしまえばもう、負けるのが当たり前なんだ、と、心の中で自分に言い訳するようになってしまう、と思うのだ。

 それは物理的には全くの無意味、であるのに精神に途轍もなく影響する。最後の最後に諦めない、粘る気力というものが失われてしまう、と思うのだ。

 それ故手加減も手心も加えてやれない。余裕が本当に無いのだ。

「それって自分は負けないから想像で言うしか無いけどもってことですよね。

 …えーと、お手柔らかにお願いします」

 シャールは苦笑いしながら言うが。それは約束出来ないなあ?

「ふふふ……」

「ちい!怖いですよ!!」



第6話 おかいこ様育ててみた

「何だそれ。卵?」

「繭」

 ワットが聞いてきて自分が端的に答える。

 村の中央広場で自分は木に登り、一見卵とも思える丸い物体を取って来たのだ。

 広場の木。一応食える実が成るけど農園にするほどではない、例の木だ。

「何かの虫がオトナになる前の段階ですよね」

 シャールが解説する。何の虫かは分からないようだ。

「ほ~、オトナになると何になるんだ?」

 ワットが質問する。何だかワットは質問キャラ、シャールは解説キャラみたいだ。

 それに答えるのは自分な訳だが。

「蛾」

 言った途端。

「ぎゃああああああ!!!きたねええなあああ!!!捨てろよおお!!

 何でそんなもん持って来るんだよおおおお!!!」

 ワットは絶叫した。シャールは何も言わないものの、明らかに嫌そうに離れた。

 この世界でも蛾は嫌われ者のようだ。

「いやあ、村が潤うかもよ?」

「はあ?!!雨でも降るのかよ!」

「生活の足しになるってことですよね?幸運を呼ぶ蛾だとでも言うのですか?」

 ワットはトンチンカンな事を言い、シャールは補足する。いや、ワットをスルーしたみたくも見えるが。

 シャールにも何がどう足しになるかは分からない様だが。

「あはははは!!」

 自分は笑い出した。声だけで。シャールはビクっとした。

「幸運なんてのはね、自力で何も出来ることが無いヤツが言うんだよ。

 自力で出来る事があるうちは全てやっておくもんだ」

 それが人事を尽くして天命を待つ、という事だ。

「えーと、ではその蛾にどんな実用性が?」

「それは確証が無いからねえ。羽化するのを眺めていることにするよ」

「羽化…繭からオトナの虫が出て来る事ですね」

「うげえ!おれに見せに来んなよ?そんなもん」

 ワットはまだ嫌そうだ。

 そこで突然後ろから抱きしめられた。勿論シャールでもワットでもなく。

「えーと、ピュア?これ、嫌じゃないの?」

 繭を見せながら言うが、ピュアはただにへ~っと笑いかけてくる。

 ピュアはハニーブロンドというのか?甘い蜂蜜のような金髪の女の子だ。瞳は黒だが。

 自分が独自に活動するようになってからどこが気に入ったのか、やたらと抱きついてくるようになった。

 素振りをする時等は危ないので離れてもらっているが、尚のこと隙を見付けては抱き付く様になってしまった。今みたくな!

 で、ピュアは恐らく満年齢で3歳位、シャールやワットと同年代の筈だが、声は発すれども喋るのは見たことが無い。ただいつもニコニコ笑っているだけだ。いや、そっちが普通か?

 シャールと並んでいると霞んでしまうが、ワットも3歳の割には喋り過ぎだろうか。女の子の方が幼いうちから口が達者な筈だが、何でこの二人はピュアより先にペラペラ喋っているのだろうか。

「何だよ!」

 ワットも割と反応するよなあ。チラッと目をやっただけなのだが。

「いやあ、君たちは口が達者だなあと思ってね」

「くちがたっしゃ?」

 言葉の意味は知らねえんだけどな!

「えー、喋るのが上手、みたいな意味です」

「そっか~!へへ~!!」

 ワットは無邪気に喜んでいるが、シャールは褒めている訳でもないと察している。言葉に含みがありまくっているし。

 ついでだが、シャールは赤っぽい茶髪に碧眼、ワットはあまり綺麗とは言えないくすんだ金髪に青い瞳だ。この村の人種はどうなっているのやら。

「それでは乞うご期待!」

「何が?」

「これ」

 繭。

「要らねえって言ってんだろおー!!!」

 あ、ワットをからかうと面白いや。

「それでは今後をお楽しみに!!」

「楽しくねええええよ!!!」


 しばらくの後、自宅にて。

「「「「「「ぎゃああああああ!!!」」」」」」

 夕食時、一家団欒が阿鼻叫喚になってしまった。悲しい事件であった。

「ちいいい!!!何手に乗っけてんのおお!!!!」

「ぽいしなさい!!ぽい!!!」

「でけええええええ!!!!」

 うん。自分、手の甲に羽化したばかりのでっかい蛾を乗っからせて食事する部屋へ趣いたのだ。

 羽化したばかりの虫は柔らかく、触ってしまうと変形し、そのまま固まってしまうのでそっとしておいてあげてね!自分だって虫の方から乗っかってくるようにしたんだよ!

「家の部屋を一つ、これを沢山育てるのに使って良いかな」

「「「だめえええ!!!!」」」

「「「何でだよおおおお!!!!」」」

 女性陣みんなからの拒絶、父以外の男性陣からの総突っ込みを食らった。

 父は何故黙っていたか。例によって威厳がある振りをして席に着いたままだったのだ。が、顔がものっそい引き攣っている。ぶふっ!

 ただ家族たちは皆父の後ろに回り込んでいるので、自分以外には見えていない。良かったね。

 しかしうちは駄目かあ。中央広場の小屋かなあ。


 またしばらくの後、中央広場の小屋にて。

 一室の半分は占める広さの囲いを作り、内側に木の葉を敷き詰めてある。

 かさかさかさ、と音がする。幼虫達がひたすら木の葉を食う音だ。

「かわいいねえ」

 何人かの子たちが一緒に部屋に居て、自分が世話しているのを眺めているのだ。

 ピュアは相変わらず後ろから抱きついている。まるで子を負ぶいながらお仕事している気分だ。

 幼虫はかなりでかく育つので、虫というより小動物のような感覚で撫でている子が何人か。

 肌触りはひんやりすべすべしていて気持ち良いのだが、多分虫はヒトの体温程度でもヤケドするから、そっとしておいてあげて?

「このコは大きくなったらなにに成るの?」

 聞いてきた子がいたので端的に答える。

「蛾」

 途端。

「「「きゃああああ!!!」」」

 子ども達は逃げ出した。今までニコニコして撫でていた癖に。

 殆どは部屋から出て行ってしまったが、勇気がある振りか残っている子が何人か。まあ壁にピッタリ張り付いているが。

 ピュアは全く関係無く自分に抱きついたままだ。

「な…何でケムシなんかお世話してるの??」

「毛虫じゃあない。芋虫」

 そう、この幼虫達は細長くて毛は無い芋虫である。蛾の幼虫だって毛虫とは限らないのだ。

 確か子ども達が面白がって捕まえていた筈の尺取り虫や蓑虫だって蛾の幼虫だ。成虫の姿を子ども達が知らないのは、不幸にして捕まった虫達は成虫まで生きられないからだろう。

 子どもって残酷だね。

「なな…何でイモムシなんかお世話してるの?」

「多分糸が採れるかな」

「糸?」

「織れば布になって服が作れる糸。高級品だよ。

 まあ、糸を採るには繭を煮殺しちゃうんだけど」

 そう、絹…のような物。この虫達はお蚕様!…に近いんじゃないかなあ。

 ここは異世界なのだ。そうとしか言えないんだよ!

「かわいそうだよ?」

 虫自体は怖がっている癖に健気にもそんな事を言う壁に張り付いた子。

「食べはしないけど生活に使うんだから仕様がない。いや、食えるか?」

 虫は貴重な蛋白源とか森林の原住民にはよくある事だし日本でだって今日日は見ないがイナゴの佃煮とか蜂の子とか。広い世の中にはでっかいゴキブリの一種を砕いてピラフの具なんてのも…それはいくら何でも食いたくないが。

「でも…」

 愚図っている壁に張り付いた子(笑)。もうかわいそうとか関係無くなってないか?

「ヒトは生きていくのに他の命を奪わなければいけない。

 いや、植物でさえ目立たないけど生存競争はしている。

 生きるとは命の奪い合いなんだ」

 子どもにするには早い話だろうか。けど極たまにだが、肉を食う時は子どもも見える所で生き物捌いているからなあ。

「自分は少なくとも早死にはしたくない。ならば命を沢山奪っていかなければならないねえ」

「う…ううっ」

 泣き出した壁に張り付いた子。知らんがな。

 そうそう、壁に張り付いた子の名前はセツだ。他の村人は無造作に髪を束ねているだけだが、この子は真っ茶色の髪を如何にもポニーテイルにしている女の子だ。田舎村の子だけに手入れが行き届いているとは言い難いが。瞳も真っ茶色だ。

 ピュアはニコニコと抱きついている。話は聞いているのかな?


 だがこの幼虫を今すぐ処理するという訳ではない。

 後何世代経てば実用化出来るやら、と思っていたが。

 思いの外とんとん拍子に進み、後に村の主要産業の一つになった。

 中央広場の木も、広場とは別の所にも殖やされて桑畑…のようなものになった。

 煮殺した虫はやっぱり食料の一つになった。まあ、煮てあるのだしねえ。


 しかしこの産業で作られた絹織物…と言って良いだろう物が、あんな使い方されることになろうとは……

 というのはまた別の話だ。



第7話 発酵パン焼いてみた

 焼き立て、であるにも関わらず、一種腐臭にも近い様なニオイが立ち込める。

 いや、腐臭と言い切ってしまっても間違いではない。

 何故なら、腐敗と発酵とはヒトが都合で言葉を使い分けているだけで、どちらも菌が食べて排泄する現象だからである。

 発酵させた小麦粉を焼いたモノ、発酵パンを焼いたのだ。

 発酵パンなどと言うと特殊なモノみたく聞こえるかも知れない。が、現代日本で目にするのは殆ど発酵パンだ。

 一つ手にとって齧ってみる。うん、ぼそぼそだ。現代日本で出したら絶対クレームが付くな。

 しかし手で潰してみるとふかっと弾力で押し返してくる。これがここでは無かったのだ。

 現代日本では耳にすることはあっても意味不明な物。皮を食べるパンとか中味を食べるパンとか。だって全体食えるのが当たり前だもの。

 しかし文明度の低い世界に生まれて思い知った。皮を食べるパンと言う物は中まで火が通ってないのだ。中味を食べるパンとは外が焦げ焦げなのだ。昔の西洋が舞台の話、というか作者自身が昔のヒトな話でよく出て来る黒パンとはコゲコゲのパンという事だったのだ。

 小麦粉は火が通っていないとお腹を壊すとか。マンガ知識だよ?自分のお腹で試した訳じゃないよ?

 コゲは発がん物質だ。我慢して一生懸命食う様なモノではない。

 現代日本でなら、こんなモン食えるかあ!!!とどやされる物が、平気な顔して食卓に上る。それが文明度の低い世の中だったのだ!…ふう…

 自分はまだその脅威に触れてはいない。だってキョウダイの中でも年少のふたりは母の乳吸ってろみたいのが暗黙の了解になってて自分の分は用意されないんだもの。いや、文明度の低いメシなんて食えそうもないけど。

 しかし赤ん坊が自然とモノを食うようになるのは、母乳だけでは栄養が足りないからだ。

 でも文明度の低いメシはハッキリ言って恐怖だ。ホラー映画なんかメじゃないね。現実に迫ってくるもの。

 で、恐怖に迫られてこっそり、でも必死に発酵パンを焼いたわけだ。

 一応、現代日本ではドライイーストなるものをぬるま湯で溶かせば数十分で発酵出来るが自然発酵は凄く時間がかかるぞ、という知識はあった。

 発酵させる菌もどこかに探しに行って持って来るなんてモノではないので、醤油や味噌の菌が蔵に住み着く、という知識から、じゃあ日常的に小麦粉を使う台所に菌は居るかと、でも他の野菜で培養した方がいいのかと、雑菌は除けなければいけないか、では加熱するか、でも加熱し過ぎると小麦粉固まっちゃうなと、試行錯誤を繰り返し、やっと焼き上げたのだ。1年かかった。

 感動してしまったのか、パンを載せた木の皿を天に掲げて震えてしまった。うん、自分でも何やってんだと思ったけど。

「ああー!!コドモは台所に入っちゃいけないんだよー!!」

 ネネだった。まあ、当然な事言っているのだが。

 台所は火を扱うところだ。村の住居は大部分木造だ。大火事になれば大惨事になる。青銅のナイフ等問題にならない程子どもには触らせられない。

 こっそりしていたのはそういう理由だが。パンの皿をネネに差し出す。

「え?これちいが作ったの?

 …なんかくさったみたいなにおいがするよ?」

 無言のまま、手に持っていた齧りかけを齧って見せてやる。

「ええ~?おなか壊しちゃうよお??」

 ネネは言いつつも、食欲に抗えなくなってきている。誰もが腹一杯食えない世の中だからな。

 とうとう一つ手に取って齧った。

「おいしい!!ふかふかだよお!!」

 現代日本でならクレームが付く程度の出来でもこの反応だ。いかに低文明のメシが食えたモンじゃないかというものだ。

 ネネが夢中になって食べているのを眺めていると。

「ネネ、ちい、何やってんだ!!」

 今度はタクが怒鳴り込んで来た。

 無言で皿を差し出す。

「何だコレ?…腐ってねえ?」

 やっぱり言うか。だがやはり食欲には勝てず…

「うめえええ!!!何だこりゃあああ!!」

 タクは両手にひとつずつ持って食い始まった。いいんだけど。

「ふうう、ちいが料理まで出来るとはなあ…」

 タクはご満悦の表情で言う。

「こんなの料理の内に入らない」

 例えば米の飯で、丼飯のみをドンと出して料理ですなんて言っても、そうですねなんて頷くヤツはいないだろう。そう思ったのだが。

「うわー生意気!」

「なまいきなまいき~」

 タクとネネは両側から自分の頬をつつきだした。

 貶すのではなく面白がっているのだろうが、結構痛いよ?

「三人とも!何やってるのー!!!」

 母親サラが何時にない剣幕で台所に来た。まあ、普通の子どもなら危険だからねえ。

 自分は皿を突き出した。母サラはちょっと嗅いで、

「腐臭がしない?」

「「それはもう良いから!!」」

 タクとネネに突っ込まれた。

 以来食卓には発酵パンが上る様になり、更に一週間後。

「何だコレ?」

「マカロニグラタン」

 長男シンが尋ね、自分が一皿一皿配膳しながら答えた。

「何でちいが答えてんだ?」

 次男トモが聞いてくる。

「それがねえ、ちいちゃんが一人で作ったのよ」

 母サラが返事した。

「え?ちいが一人で?まさかあ!」

 普通信じないよな。

「ここ最近の柔らかいパンもちいちゃんが焼いてるのよ」

「「「ええ!?」」」

 シンとトモと、ついでに親父ベンも驚きの声を上げた。

 母に発酵パンを認めさせて以来、台所には出入り自由だからな。自然発酵は時間がかかるから後々のために毎日仕込みはしているのだ。

「ではいただいちゃいましょう」

 やっぱり母の音頭で話が纏まる。

「「「い、頂きます」」」

「「「「「頂きまーす」」」」」

 ベン、シン、トモは少々不安気に、他は元気に挨拶する。

 タクは真っ先に一匙食べる。

「うめえええ!!!何だこりゃあああ!!!!!」

 それしか言えないのかよ。しかしそれを聞いたシンとトモも一匙食べた。

「「う…旨い!!」」

 料理マンガのキャラかよ。

「このびよーんと伸びる黄色いのは何だ!?」

 長男知らんのか?

「チーズ」

「え!?何かの乳が手に入ったのか??まさか母さんの?!」

「バカじゃねえの?!!!!」

 確かに動物の乳は手に入り難いけども!!

「頼めば出してあげたんだけどねえ」

 母親あああ!!!余計な事言わないいい!!!

 豆乳で作ったチーズだ!!テレビで見たことがある、植物由来の材料だけで作る何とか料理の知識を元に作り上げたのだ。

 何とか料理…精進料理ではなくもっと洋風の、動物由来の材料と遜色ない料理。名前は忘れたが、そういう完成形が有る、という知識があるだけで気分的には随分楽だった。後はサバイバル精神でここまで漕ぎ着けた。

 サバイバル関係あるのかって?食わなきゃ生きてけないだろうが!!本当に低文明メシは恐怖なんだって!!

「この細長くて穴が開いたヤツは?」

 次男が聞いてくる。

「マカロニ。小麦粉を練った物」

「小麦粉がこんな形にも成るのか!」

「白くてぐちゃぐちゃのはー?」

 長女ナナが言う。もうちょっと言い方どうにかならんか?

「ジャガイモを蕩けるまで煮込んで小麦粉を混ぜてとろみを出した」

 こちら牛乳の代わりに豆乳を使ってお芋と小麦粉でとろみを出した多分ホワイトソースと言って良いものとなっております。

「おいもを入れるとぐちゃぐちゃになるの~?」

 だから言い方どうにかならんのか!

「溶けるまで煮込んだのと具にしたのは別」

 品種が色々あれば煮込むのは男爵、具はメイクイーンとか出来たのだろうが無ければ投入する時間をずらして工夫するしかあるまい。

 説明していると長男が席を立ってこちらにやって来た。目から涙を流して。

「おれは…おれはちいの兄である事を誇りに思う!」

「ああ、うん」

 感動しているところ悪いが、どうでもええわ。

「ちい冷めてるなー」

 次男が言うが、どう返事しろと!?

 と、突然自分のグラタン皿がひょいと取り上げられた。

 母が当たり前の顔をしてそれを食っている。

「まま頑張るからねえ」

 何を頑張ると言うのか。想像はつく。否、答えは決まり切っている。けど、あれだ。心が受け付けないものは目の前に転がっていても認識出来ないというヤツだ。

「はい、ママ」

 ネネは食い残しを渡した。否、一通り味は見たと言う風に大部分残っているのを母に渡した。

 幼児だって満腹にはならない位しかないのをだぞ?

「有難う!ああ美味しい!!美味しいものをお腹いっぱい食べるのがこんなに幸せだなんて!!」

 母は涙すら流しながら食っている。一方親父は羨ましそうに、物欲しそうに母を見ている。けど何も言わない。

 内弁慶な親父すら母が一番多く食うのに文句は言えない。母は授乳するからだ。

 母も涙流しちゃってるのは、授乳するために今までは不味い物でも我慢して食ってたからだ。

 それが今日は、まあ、まともには食える物が出た。そうなると量が少ないのが浮き彫りになった。それで親父が物欲しそうになったのだ。今まで少ない量で済んでいたのは、不味いからもう要らねえや、というのも大きかった様だ。

 自分も食材が少ないのは増やし様が無いからな。

「よく噛んで食べると満腹感が出やすいよ」

 母は満足している様だが、他はやっぱり量が少ないだろうから助言はしておく。

「ふうう。ご馳走様!さ、おいで!」

 母は両手を開いて受け入れ体勢OK!みたくなった。

「わ~い!!」

 ネネは母の胸に飛び込んで行った。で、例の如く母の服を捲り上げ…もう見てられるか!

「ほ~ら!ちいちゃん!!」

 は!?自分は母にさっと抱き上げられた。自分、ちっちゃいもんでえええ!!

「ちいちゃん………ありがとね……」

 母は涙ぐんで、感極まったとばかりに声を詰まらせる。

 そして胸の方に持って行かれ……待って待って待ってええええ!!!


 それで自分は大人の証、青銅のナイフを貰った。

 なのに未だに自分に用意した料理は母に取り上げられる。何コレ。



第8話 ナイフ使い込んでみた

 への字型の板を回転しながら飛ぶように投げる。

 すると放物線の頂点でしばし回転しながら滞空し、使い手の方へ戻ってくる。

 はしっと板を手に掴む。失敗したらカッコ悪いからな。

「何だよそれ!何なんだよそれは!!魔法か!?」

 ワットが早速食いついてくる。大声なので周りの子達も注目してきた。

「単なる物理。世の中の仕組み。

 言うなれば、この世の中はコレを投げれば戻ってくるように出来ている」

 ここでは日本のあるあの世界の物理が通用するか試してみたかったのだ。まあそんなに違和感は無いので失敗する疑いは無かったけどな。

「世の中の仕組みとは壮大な話ですねえ。それで、ソレは何て言うのです?」

「ボーゥムェロァーァン」

 英語っぽく言ってみた。元はオーストラリアのモノなので英語でもないだろうけど。アボリジニ語か?

「ええと??」

「ブーメランね。ブーメラン」

 流石にシャールもワケ分からんみたいなので言い直す羽目になった。そこまで言うと。

「「「わ~い!!貸して貸してえ!!!」」」

 子ども達が群がってきた。何の気なく渡してやる。さっと持って行かれた。

 さて次は、と。

 マフィンみたいな形、ああ、ハンバーガーのバンズみたいな方な。何でカップケーキみたいなのと白くて粉っぽいバンズみたいなのの二種類をマフィンと言うのかね?そんな形、小さめな円形の板を二つ合わせて間に糸が巻き付いている物を取り出す。

 糸を輪っかにした部分に指を通し、地面に叩きつけるかの様に振り落とす。

 と、糸が伸びきった所でしばらくビイイっと高速回転し、シュルっと手の内に戻る。

「何だよ!!今度は何なんだよ!!」

「ヨーヨー」

 ワットって何かね。大道芸のサクラみたいだね。

「「「わ~い!!貸して貸してえ!!!」」」

 ブーメランに群がっていた子達の半分位が来たので渡した。さっと持って行かれた。

 次はT字型の細い板と棒を組み合わせた物を出す。縦線の棒の部分を両掌で挟みキュっと捻る。合掌捻りだな。すると横線の板の部分が高速回転して舞い上がって行く。しばらく飛ぶと地に落ちるけども。

「今度は何だああ!!」

「タケトンボ」

 竹じゃないけどな。竹な必要も無いだろうと思って作ってみた。

「「「貸して貸してえ!!!!」」」

 大体子ども達は三分の一位ずつに分かれた。面白いな。

 今度は歪な十字型と言える木の細工の中心に球が糸でぶら下がった物を出す。

 十字の下部分の握りを持って球を上に放り上げる。

 十字の横、受け皿になった部分を、球を放り上げては交互に上向きにして受け止めてゆく。

 十字の下部も受け皿になっているので、時々下部でも球を受け止める。

 そして最後、大きく球を放り上げ、十字の上部、尖った棒の部分を球の穴に嵌める。

 そこまで黙って見ていたワットは叫ぶ。

「それ何だあああ!!!」

「剣玉」

「「「貸して貸してえ!!!」」」

 子ども達に渡した。大体四分の一位ずつに分かれた。本当に面白いな。

「色々作りましたねえ」

 シャールは苦笑い気味に言う。

「技術を磨こうとね」

 青銅のナイフは切れ味が悪いので技術で補おうということだ。早くも挫けそうだけども。

 切れ味悪いのはやっぱダメだあぁ。

 さて、子ども達に大体おもちゃが行き渡った所で…おもちゃ?おもちゃかなあ…まあいいや。

「動かし方教えるからやろうぜ」

「ふむ、それは何です?」

 シャールに向けて道具を差し出しつつ言う。

 9×9のマス目を刻んだ盤と、初期は四十個の駒を載せて駒を取り合うゲーム。そう――

「将棋」

 一番多く18個有る駒、歩兵ふひょうがちょっと不揃いだけれども。ナイフの技術度合が分かるかと思って作ってみたのだ。最後嫌になってきたけどな!!

 シャールは一遍で駒の動かし方を覚えた。が、やはり2度は勝つことが出来た。

 2度目の勝負の後、シャールは言い出した。

「分かってきました。一度に動かせるのは交互に一駒ずつですが、盤に載っている駒全てがどう動けるか、というのが重要ですね」

「うん、睨みを効かせるって言うんだよ」

「そして一番強気に攻められるのは歩兵ですね」

「何でだよ!歩は一番弱ええじゃん!」

 ワットは横槍を入れてくる。でも初心者は絶対そう思うよね。寧ろシャールが特殊なのだ。

「弱いからこそ、相手も欲しがりません。だから前面に押し出せば相手は攻めて来られません」

「そうか?」

 そこで一言目が生きてくるのだが、それを読むのは、ワットには無理だろう。

「じゃあもう自分はシャールとは勝負しないね」

「え??」

 シャールは愕然とした。今度こそ勝ってやる!と間違いなく思っていたな。

「負けるかも知れない勝負はしない。それが負けないコツ」

「えええええええ????」

 シャールはもの凄く不満そう。でも重要だからね?現実は負けたらお終いだからね?

「じゃあおれがやってやる!!」

 ワットが喜び勇んで乗り出した。少年らしい元気さだ。しかし…

「ぐ…うっ…ううっ………」

 ワットは何度やってもシャールには勝てなかった。当然だな。

 ワットも駒の動かし方は既に覚えていた。充分優秀ではあるのだが、シャールと比べるのは酷というものだ。ワットはもう、泣きが入っている。

「え…と。もうやめにしません?」

「ぐ…も…もういっがい……」

「………」

「勝ち続けるのも心苦しいでしょう。でも手加減もするもんじゃない。勝負とはかくも厳しいものか」

 シャールの心情を言葉にしてやると目で語ってきた。何とかしてください、と。続けてもワットが負けるに決まってるからな。

「ワット、これ使ってみない?」

「………なんだよその曲がったひょろい棒」

 ………あー…そう見えるかねえ。初見では。

「それはもしかして!!」

 シャールは直ぐ気付いた。

「木刀。本当に戦いにも使える武器」

「弱そう」

 即座にワットは言う。率直な感想だね!

「それ…ちいが使うつもりで作ったんですよね」

 シャールは羨ましそうに言う。子どもには木を加工する道具が無い。如何な賢いシャールとて手の届かない品だ。

「ほおら見て御覧。シャールがとても欲しそうにしてるよ。これを村一番で使ったら…凄いよ?」

 何がだよ!とは自分でも思うがワットをあやす為だ。

「やっぱり男は戦える強さだよね!!」

 いや、幼児に戦わせる積もりは無いけどね!

「女が言うな」

 ………はい、ちいちゃんは女の子です。

 ワットはヨーヨーの所へ行ってしまった。ああうん、ヨーヨーを武器にするテレビ番組がいくつかあったよね。全部言えるヒトは結構な年輩さんだ!自分?分かんなーい。

「えーと…有難う御座います」

「どういたしまして」

「それで、その、木刀は…」

「あげるよー。また作るし」

 正直、青銅のナイフ使うの億劫なんだけどな!けど幼児に言っても仕方ないからな!

「………!!」

 シャールは木刀を受け取ると目を輝かせた。ここらは幼さを感じるねえ。

「有難う御座います!修業…頑張りますね!」

「おーう、そこそこ頑張れ若人よ」

「そこそこって…あ、分かってます。無理はいけないんですよね」

「そうそう、体が出来上がってないからね」

 シャールは広い場所に行って素振りを始める。

 将棋は他の眺めていた子達がいじり始めたが……無茶苦茶だった。やっぱりワットもそれなりに優秀だったようだ。仕方ないのでもっと簡単なはさみ将棋でも教えるかねえ。


 尚、別の日にピュアが将棋を弄り始めてみたらシャールでも全く敵わない程強いことが判明した。この日も実はずっと後ろから抱き締められて居たのだがな。見ていただけだったのだ。一体何者だよ。



第9話 山菜採り…どころではなくなった

 ある日、何人かの大人が子ども達を引率して山菜を採りに行こう、という事になった。

 山菜採りには知識が必要だ。キノコとか、大ざっぱに言えば派手なのは毒キノコだ!とか言うが、食用と毒を見分けるには結局はひとつひとつ覚えるしかない。

 海のモノだってそうだが。平成の中頃辺りだったろうか。事件が一時期に頻発した。素人が山菜採りをする気になって毒を食べて死んでしまった、とか。海藻採りをする気になって毒を食べて死んでしまった、とか。フグの肝吸いを何人かで食べて勿論全員死んでしまった、とか。

 フグくらいは誰か知ってて止めろよと思うが、まあ詰まりは素人が大自然に手を出したら生きていけないということだ。自然には食える物等そんなに無いのだ。

 いや、食用とされていても実は毒、というものも有る。確か山菜ではゼンマイとか、いやいやもっと身近にもあるではないか。梅とかこんにゃく芋だ。余りにも食える物が無いと、毒と分かっているモノでもヒトは何とか加工して食おうとするのだな。

 そう言うわけで山菜の知識は大人たちから得なければならない。況してやここ異世界だし。

 自分は青銅のナイフを持っているので、子ども達の護衛兼知識を教わる生徒だ。護衛と言っても幼児に何させるんだよってものだが。

 そしてその当日。子ども達は期待に目を輝かせていた。何しろいつもは村の中央広場に行くわけだから村から出ることがないのだ。まあ外行ったからって面白いもんじゃないけどな。

 ピュアには離れてもらっている。抱きつかれていたら護衛もへったくれも無いからだ。ものっそいお預け食らった犬みたいな顔してるけど。

 引率の大人が子ども達に注意を促している最中………

 気配、としか言い様の無いものを感じた。具体的には待ち伏せする獣だ。

 危険感知というものは常に気を張っていないと気付けないし、気付いても咄嗟には避けられない。

 なので常に意識していると、ある時点で目には見えていない筈のものを感じられるようになる。

 目には映っていない筈だが確かに居ると感じる。うん、気配としか言えないな。強いて言うなら生体電流でも感知しているのか、と思えなくもない。

 嘘だと思うならやってみるといい。常に気を張っていられるヒトなどまずいないのだがな。況してや平和ボケした日本にはな。

 問題はこのまま出発したら必ず犠牲者が出る、ということ。なれば――

 自分は一人、村を飛び出した。大人達が騒いでいるが構っていられない。

 一人で走る。走り続ける。こうなったら山菜採りは中止だろう。他のみんなはさっさと村に戻ればいい。

 自分は一人、走り続ける…と思ったのだが。付いてきている者がいる。

 目の届かない所でどうにかなっても困るので、わざと速度を落とす。追って来たのはワットだった。

 見るからに無理をして付いてきている。それは辛いだろう。実は自分、魔法を使っているのだ。

 その名も靴底魔法だあ!!!ばばあーん!!!………うん、何だソレって言われるよね絶対。

 前々から考えていたのだ。ここのモノは文明の利器と呼ばれる道具と比べると著しく劣る。当たり前だ。

 それを補えるものは何か無いか、と。

 で、試したのが魔法だった。

 精神的に辛かったのだが。分かるだろう!魔法よ発動しろ!とか念じるのは凄く恥ずかしいと!黙っていれば誰も気付く訳無いが、それでも悶えてしまうと!!

 厨二臭えよ~厨二臭えよ~と悩みながら念じてみた。

 出来た。出来てしまった。

 であるからには、使えるモノはどんどん使っていかなければならない。どんなに厨二臭くても!

 必要に迫られてまず試したのが台所で着火だ。今でも魔法で点火しているのだが、母は全然気付いてなさそうだ。

 次に靴だ。ここにはスニーカーに勝てる様な靴は無い。あるわけない。

 これが結構な問題になるのだ。歩数が増える程に。

 もしここの靴を履いてマラソンでもしようものなら、完走出来ない上に全身痛くなって一週間は動けなくなるだろう。

 そこで靴底より下、地面との間に結界?を張って衝撃を吸収する。それが靴底魔法だ。

 ………うん。言わなきゃ誰も気付かないし、言ってもはあ?ってなるだろうけども!でも大きいんだよこれが!

 現に自分は体力ではワットに敵わない。が、結果はこれだ。自分はまだまだ余裕だがワットはもう止まった方がいいよ?て状態だ。何でそんな必死に追いかけて来てんの?

「ちい!……何………やってんだ!!!」

 言葉をそっくりそのままお返ししたいのだが。

 誰でも分かると思うが、走るのが辛いと思えば止まりたくなる。と言うより直ぐ立ち止まってしまうだろう。自分の足なんだから。

 なのにワットは見るからに辛そうなのに我慢して、明らかに能力を超えて無理して付いて来ているのだ。大人だって付いて来ていないんだぞ。はっきり言って独りの方が戦り易いのだが。

 仕方なく酸素吸入の魔法を掛けてやる。スポーツ選手だってやるだろう。息が上がったときスプレー缶位の酸素ボンベに吸入マスクが付いたのをシューって。それを想像するとその通りの現象が起きるものだ。ワットも少しは楽になっただろう。

 ――!!!

  来る!!!

  そう感じた瞬間――

 全体重を乗せてワットを押し飛ばした。

 その一方で自分は反作用で出来る限り退る。

 ワットには靴底魔法を応用した受け止める結界を張る。これで転んで痛いとも掠り傷の一つも負ったとも言わないだろう。押し飛ばしたのは痛かったかも知れんけども。

「何すん――!!!」

 やっぱりワットは文句を言おうとしたが最後まで言えなかった。ワットと自分の間に上からドサリと落ちてきた者が在ったのだ。

 自分は即座に木刀を抜き打ちにして大きく振るう。まあ、木刀なもので真似事なのだが。

 抜き打ちとは抜刀の瞬間に攻撃を仕掛ける事を言う。予告なしでテストをする抜き打ちテストの語源だ。

 落ちてきた者はとても大きく跳び退る。そう、ヒトにはとても真似出来ない程に。狙い通りだ。ワットと自分の間に居られてはワットを守る事も出来ない。

 跳び退った者、それは獣だった。

「ぎゃうぅーぅうぅーぅう!!」

 中型ネコ科の獣だ。ピューマのように甲高い、心を激しく掻き乱される唸り声を上げる。

 落ち着け!!心を乱されるな!!!冷静に間合いを把握するのだ!!!!

 位置取りから既に戦いは始まっている。獣の位置は一歩跳び退っただけの所だ。このままではいけない。

 自分は咄嗟に中段に構えたのだが、ゆったり素早く上段に移行する。

 今、矛盾しているだろう!と思ったヒトは二流だ。達人の動きは無駄を削りに削った結果、ゆったり動くが実は時間掛けてないよ?となるのだ。何故ゆったりかと言えば、急激に動けば体に負担が大きいからだ。達人とはいえ体が頑丈、という訳じゃない。誰だってなるべく無理はしたくないのだ。

 上段に移行しながら火急速やかに間合いを目測し、さり気なく移動する。

 相手は待ってなどくれないのだ。行動は同時進行で、出来る限り早く済まさなければならない。

 最適の間合いを計算する。基本は一刀一足の間だが、それはヒトが相手の場合。野生生物の場合は修正しなければならない。

 相手が野生の獣であることを加算、機動力に優れた四足獣であることを加算、瞬発力に特化したネコ科の獣であることを加算、最初上から落ちてきた事から攻撃手段は飛び掛かりであることを加算、更に予想を超えたことが在った場合の余裕を加算、その上でもう一つが上段への移行だ。

 計算した距離、そして獣から見てワットとは角度的に少しずれた位置に目立たぬ様移動する。あからさまだと獣を刺激するかも知れないからだ。

 ワットと少しずれた位置なのは、一直線だと獣が突進して来た場合避けられなくなるし、さりとて全く別の位置だとワットが襲われた場合助けに入れないからだ。

 獣と睨み合う。

 しばし睨み合い、そして――――


 ばしっ

 咄嗟に獣の顔面を打った。

 危ねえええ!!!!!ギリギリだった!!!後ちょっと距離を甘く見積もるか構えが上段でなかったら、今自分は喉に食いつかれていた!!!!

 しかし安心している場合ではない!獣の鼻面は急所ではあるが、今の威力は精々怯んだ位と思うべきだ。このまま済ませば又万全の攻撃が来る!

 獣の万全の攻撃等ヒトの身でいつまでも受け続けられるものではない。と言うより二撃目も受けたくはない。ここだ!ここで何とかしなければ!!!

 どすっ

「ぎゅふっ」

 すれ違いざま、獣の左腋に突きをくれてやる。腋の下も急所の一つだ。

 着地して即向き合って睨み合う。

 よっっし!!!左側の動きがおかしい!!効いている!!!

 次は下段に構え直す。今度は真正面からド突いても力負けしない、と思ったのだ。

 睨み合い、睨み合い続け、そして―――

 しゅるっ

 獣は後ろの茂みに潜り込んだ。まるでその場から掻き消えたかの様だった。

 自分はまだ獣の居た方向に構えていた。残心だ。

 向いているのは獣の居た方だが、警戒は全方位に向けている。実戦の敵は目の前だけとは限らないからだ。

 たっぷり一分以上は警戒しただろうか。危険は去ったと確信し、構えを解いた。

 大きく息を吐く。額から汗が噴き出てきた。

 それで戦いは終わったと判断したか。

「ちい、つえええええええ!!!!!」

 ワットが騒ぎ出した。

「何だよ!何なんだよそれは!!」

 ワットにだって今回の相手は問答無用で命狙ってきた位は分かるだろう。身体能力はヒトを遙かに凌駕するとまでは分かったかどうだかだが。

「何って、ワットは自分がいつも素振りしてるの知っているでしょう」

 血振り、納刀の動作をしながら言う。鞘の無い木刀なもので左手に持っただけだが。木刀には血は付いてないだろうが、獣に触れはしたので、何か変なモノが付いてたらヤだし、ねえ。

「素振りと今の全然違うだろう!」

「それはそうだ。素振りは基本、実戦は応用だから」

「およ?」

「基本は身に付けるべき出来る限り単純な動作。

 応用は身に付けた基本をその場に応じてどう上手く使ってやろうかってこと」

「えー?てことは…素振りが今の戦いみたくなんのか?」

「なる」

「素振りは1歩も動かないじゃんかよ」

「それでも素振りには足捌きも入っている。後は練習するヒトがそれに気付けるかってだけ」

「えー??ホントかよ??」

「話しながらでいいから帰らない?」

 さっさと歩き出す。ワットは慌てて付いてくる。

「さーて、帰ったら面倒くさいぞ~」

「何で?」

「大人たちから見れば自分達は突然村から飛び出した、話も聞かない悪ガキ共」

「何でだよおおお!!!」

 何でもなにもないだろう。

「何で村から飛び出したんだよ!!」

「見ての通り。あのまま山菜~とか言いながらゾロゾロ歩ってたら誰か殺られていたと思わない?」

「うっ…そ…そうだな。じゃあそう言えば良いじゃないか」

「誰か信じてくれるかねえ?」

「ホントの事じゃねえか!」

「証拠もないし、第一自分、まだ4歳」

 数え年なら、だ。満年齢ではまあ、2歳にはなったよって所だ。普通だったらまだ物心ついてさえいねえ!

「何でだよおおおおおおお!!!」

 そんな事言われても。

「アイツを逃がさないでやっつけちまえば良かったじゃねえか!」

「深追いは禁物。倒せる程の攻撃力無いし。

 倒したとしてどうやって持って帰るの?」

 ここに居るのは2歳児と4歳児だ。獣は大人なら抱えられるかなあ位は大きかったし。

「何でだよ!なんでだよおお…!!」

 ワットはこの世の理不尽を嘆いているようだ。君は子どもの話をちゃんと信じてあげられる大人になってね。

 さあて、どうしたもんかねえ。



第10話 村長に叱られて?みた

「何か言いたい事はあるかい?」

 村長宅、村の外からの客も通すであろう部屋、ワットと自分は並んで椅子に座り、長テーブルを挟んで向かい側に座る初老の男、村長が聞いてくる。

 相手が幼児だから言葉は弱めだが…怒る気満々だろう。

 自分はメンドくせえなあーと思いながら黙っていたが、ワットは熱く語り出す。

「ちい、強ええんだぜ!でかいヤマネコと戦って来たんだ!」

「何だと?!」

 村長は驚く。当たり前だ。普通、幼児が野生の獣と遭遇して無事で帰って来る筈はない。

 が、実際無事で此処に居るのだから、幼児でも何とか出来る程度の事だったのだろう、と心で折り合いをつけたようだ。

「そうかい、無事で良かった。

 けど危ないだろう?大人の言う事はちゃんと聞かなきゃあいけないよ?」

「何言ってんだよ!ちいはみんなを守ったんじゃないか!」

「はあ??」

 村長の雰囲気に明らかに怒気が滲み出た。いかんなあ。

 村長から見たら、例え獣と戦ったのが本当だったとして、勝手に外に飛び出た悪ガキが獣と戦ったのが何で皆を守った事になるんだよ、という所だ。

「外で獣が待ち伏せしてたから」

 端的に一言だけ付け加えておいた。

 村長はむう?と唸り、考え込んだ。聞いた事を頭の中で組み立てているのだろう。

 ふむ、村長は幼児の言葉でも一応聞く大人の様だ。

「むう、外で獣が待ち伏せしていたから誰かが襲われない様に戦いに行った…と言うのかな?」

「初めっから言ってんじゃねえか!」

 いやあ、ワットの言い様だけで分かってくれるヒトいないと思うよ?

「むう。しかし、それを信じるには疑問があるのう。

 待ち伏せしていた獣とやら、大人は誰も見ておらんのだ」

「結構遠かったから当たり前だろ!」

「いやいや、そしたらちいはどうやって気付いたのだ?」

「あ!………どうやってだ?」

 今頃になってワットはこちらに向いた。気付くのおせえよ。

「気配」

「「はあ???」」

「目に見える所にはいない。けど確かに何か居る、という感覚」

「「はあ…」」

 言葉の意味は兎も角、言っている内容が分からない、と言った所か。これ以上の説明はしないけど。

「ちいはいつもこんな感じなのか?」

「いつもだな。シャールなんかはこんなちいの何が面白いのか、よくお喋りしてるけど」

 失礼だな!それはそれとして、村長は一応幼児の言う事も聞くが意味が分からない事は放置するヒトだ、と判断する。まあ良い大人な方でしょう。それから、分からない事は質問して理解しようとするシャールはやはり頭が良く柔軟な思考の持ち主なのだと再認識した。

「ああ、うん。ちいは獣に気付いたとしてだ、先ずは大人に言うべきだろう?

 子どもが獣と戦ったら危ないじゃないか」

「獣とて先ずは子どもを狙う。大人に言った所で子どもが狩られるのを呆然と見送るのが精々」

「な!!」

 いくら発展途上な世の中だって、否だからこそ、そんな事分からない村長じゃあないよな?

「む…むむ……むう……ちいが戦ったヤマネコとやら、どれ位大きかったのだ?」

「だからこおおんなにでかかったって言ったろおお!!」

 ワットは両腕を広げて精一杯アピールするが、幼児がそんな事したって伝わらないよ?

「体が育ちきった大人から見ればやや小さめですがね、幼児から見れば自分より大きな獣ですね。

 大人は襲われる心配は低めでしょうが、野生の獣が自分と同じ位の大きさなら、ヒトはもう敵わないって言いません?」

「むう、確かに……しかしそうなるとちいは敵わない筈の獣と戦って無事に帰ってきた、ということになるな?」

「誤魔化し誤魔化し、相手が逃げる様に促しただけです」

「そんな事ないだろお!あのまま行ってたら勝ててたじゃん!!」

「あのねえワット、追い詰められた獣は恐ろしいんだよ。全力の死に物狂いになるから」

「分かった!分かったわい」

 村長が両手で押す様な仕種をして待て待てと合図する。

「ちいの言う事はいちいち赤子らしくない。なさ過ぎる。分かった。

 ちいは大人並みの判断をして必要と思ったから、村を飛び出してヤマネコと戦って来た。

 それで良いな?」

「赤子ってどういう事です?」

「赤子だろう」

「赤ちゃんじゃん」

 ワットこら!赤ちゃん言うな!ワットの方を赤ちゃん扱いしてやるぞ?!

「はっはっは。子どもの悪戯を叱ってやる筈がとんでもない話になったな。

 ちいにナイフを渡すなんて聞いた時は本気か?!と思ったものだが」

 何処をどう見ても村で金属製品が造れるとは思えない。となると村の外から村長を経由して自分の手元に届いたのだろう。だから知っていたのだ。

「ちいはヤマネコとどう戦ったのだ?聞かせてくれんかね?」

 もうお叱りの時間はお終い。雑談しようぜ、という感じになった。面倒が済んで良かった良かった。

「まずな、すげえ走ったんだ。おれは死にそうって位走ったのに、ちいは平気な顔してどんどん先に行っちまうんだ」

 ワットが一生懸命話してるから自分は眺めていれば良いな。

「全然迷わず一直線に走っていたからヤマネコの場所は分かってたんだろうな。そこでいきなり突き飛ばされたから、何すんだちいてめえって思ったら、上からヤマネコが降って来たんだ」

 良く見ていたな。普通転がされたら、視覚的に平衡感覚的に無茶苦茶になって一時混乱するものだが。

 おまけに、ヒトの視覚は上下の変化に弱いから、上から降って来るというのは気付きづらく恐ろしい攻撃なのだが。

「何だと??!!!」

 村長が驚愕した。上から降って来る、という事で大体獣の種類が分かるからだ。本当に殺される戦いだったのだ、それを生き延びたのだ、と認めざるを得ないのだ。

「突き飛ばされずに走っていたらおれの上に乗っかっていたな。で、ちいはヤマネコに向かって、こう!」

 手振りで抜き打ちの真似をするワット。面白そうに言っているが、乗っかられたら殺られる所だったって分かってる?

「それから睨み合ってこう!ジョーダンの構えって言ったか?で、バシーンって!」

 上段の構えから面打ちの真似をする。良く見てるな本当に!!

「で、ドスってやって、睨み合ってたらヤマネコは逃げちゃったんだ」

 左腋に突きを入れる真似をするワット。あの時の動きを全部再現されちゃったよ。

「ふうう、そうか。そうか………」

 ワットの物真似でどれだけ伝わったかは判らないが、村長は考え込んだ。

「ちい、その技は一体どこで覚えたのだね?」

「何処でもないですね。自分が村から出たのはその一件のみ。村長もご存知でしょう?」

「ふふふ、本当に赤子らしくないな。

 それでその技、本当に獣と戦えるのなら、他の子ども達にも教えてやってくれんかね?」

「教えるのは吝かではありませんが、赤子ってやめてください」

「はっはっは。すまんすまん。立派な淑女とでも言えば良いかね?」

「ぶふううう!!!もっとダメえええ!!!」

 キモいわああああ!!!

「はっはっは。やっとちいが慌てる所を見られて溜飲が下がったわ。何がそんなに嫌なのかはわからんがな」

「性格悪いですね」

「すまんな。だが、子どもに言われっぱなしでは大人は立場が無いのだよ」

 分かるけど!分かるけどもさ!!

「それでですね、戦う技を教える話ですが。子どもだけで良いのですか?いや良くないですよね。寧ろ大人が率先して学ぶべきですよね」

「む!それはそうであるが…」

「本当に学ぶ価値があるか判らない。それに子どもの言うことを大人がまともに聞くとも思えない。ですね?」

「本当にお主は赤子…いや子どもらしくないな」

 言い直すの遅っっ!!わざとか!!?

「ならば実力を見せ付ければ良いですよね。

 村人達の前で自警団の団長辺りと勝負する、というのはどうです?」

 ふっふっふ!こんな、悪ガキ共は村長に怒られてしまえ~、みたいな場を設けやがった大人共に仕返ししてやんよ。まあ、普通の幼児が言うには相当な無茶、いや無謀だけども。

「危険過ぎないか?」

「勿論、武器は使わないで素手で勝負ですよ」

「それでも、大人は兎も角子どもは只では済まないだろう」

「それで勝って見せれば実力に文句の付けようも無い!という寸法です」

「しかしだなあ」

「本当に獣と戦えたのか、知りたいでしょう?

 ヒトと勝負しても同じ尺度では測れませんが、少なくとも戦える、というのは分かる筈です」

「お主本当に子どもらしくないな!しかし必要でもないのに危険な事など…」

「必要だからやるんです」

 大人の証青銅のナイフを貰ったのだって実力を見せ付けたからだ。立場を確保するには、自分の存在を誰かに認めさせるには、実力を見せ付ける以外にない。

「さあて、内容を詰めましょうか」

 自分は不敵に笑んだ。と思う。だって自分の顔は見えないし。



第11話 実力見せ付けてみた

 村長宅のほど近く、何か催しが開ける程度には広い場所で。

 村の皆が集まって居た。

 辺りはもう暗く、明かりを一定範囲毎に灯している。植物性の油がそれなりの量採れるのだが、それでも村としては大量の物資を消費する一大イベントだ。

 この位の時間帯にならないと大人たちの手が空かないからな。皆に集まってもらうには仕方ない投資なのだ。

 食事しながら眺める、という事で長テーブルに囲まれた空間が用意されている。食事は各家庭の持ち寄りだが。

 どうしても明かりを灯せば虫が寄ってくるので、弁当と呼べる程体裁は整ってないが各料理は蓋付きの器に納っている。蓋を開ければちらりと覗くそれらはというと。

 不味そうな料理、見た目からして味見すらしたいと思わない料理、最早料理と言って良いか判らない物体等、彩とりどりの料理が並んでいる。………碌なのねえな!!!

 そんな中、うちだけはまともな見た目の料理が並んでいる。で、奥様方がそれを見ながらお喋りするわけだ。

「それ!どうしたの??凄く美味しそうな料理じゃない!!」

 余所んちのが不味そう過ぎるだけです。

 だって煮カボチャ、人参を細切りにして油で炒めたの、ほうれん草のお浸し、その位だ。そんな大したことの無いもので圧勝出来ちゃうんだぜ?

「ふっふっふ!うちのちいちゃんが作ったお料理なのです!」

「ちいちゃんが!?あの子まだ赤ちゃんじゃない!!」

 赤ちゃん言うなぁあああ!!!

「私、もうあの子をお嫁さんにしちゃおうと決めているのです!!」

 母がパーな事を言った。今時パーって通じないか?母は頭がアレな事を言った。誰が誰のお嫁さんやねん。

「ずるいずるい!!あの子私に頂戴!!」

「私にも!!」

「「「私私!!!」」」

 何処の家もキョーダイうじゃうじゃ居るだろう!文明度低いから!!そんなに増やしてどうすんだ。

「今度みんなでちいちゃんのお料理を眺めてみましょう!!」

「「「「「賛成ー!!!」」」」」

 何か勝手にイベントが増えてしまったようだ。

 奥様方が盛り上がっているのをよそに、村長のお言葉が始まる。

「皆、よく集まってくれた。本日はだな、ちいが皆に実力を見せたいと言うのだ」

 ざわざわ、と、多くの者達が戸惑いの声を漏らす。

「それで、自警団団長と勝負をする事になった」

「勝負ってえ、何をするんで?」

「頭の良さ対決とか」

「「「「あ~っはっはっは!!そりゃぁあ良いや!!!」」」」

 村の者は皆家族、と言った感じに気軽な合いの手やら冗談が飛び出す。

「お前等俺を何だと思ってんだよ!!!」

 それを笑えない者がひとり、自警団団長だ。

「それがだなあ、無手むででの勝負だそうだ」

 村長が逸れた話を元に戻す。

「無手ってえ、何なんで?」

「武器を持たない勝負、詰まり素手での殴り合いかのう」

 はい話に齟齬が出た。誰かに思う所を伝えるって難しいね。

「自分、打撃は使わないよ」

 村人達が割とギョっとした。自分が流暢に喋るのを見るのが初めてな者も結構居るからな。

「打撃とな?」

「無手の攻撃は大まかに打投極だとうきょくに分かれる。

 殴る蹴る体当たり頭突き等、自分の体のどこかを相手にぶつける攻撃を打撃と言う」

「ほおう、ならばどうやって攻撃するのかね?」

「投げか極めを使う。

 投げは相手の体勢を崩し、主に相手を地面に叩きつける技。

 極めは更に二つに分かれる。関節が曲がらない方向に力を加えて痛めつける関節技と、息や血流を詰まらせる絞め技」

 勿論打撃技を知らない訳ではない。只、どんなに手加減しても打撃を使うと痣だらけになるだろうと思っての事だ。

 それはそれとして、村人達の反応は、というと、右の耳から左の耳に抜けて行った、という感じだなあ。

 聞くのを拒んでいる訳ではない。長くて複雑な話は頭が受け付けない様だ。普通の村人ってこんなもんか!

 何でこんな村にシャールみたいな子が生まれたんだか。

「ほ…ほう。だそうだ。分かったかな?皆の者」

「な…何だかちいは難しそうな事知ってるな」

「将来偉いヒトになれるんでねえべか」

 難しくねえよ!徒手空拳の基本だよ!

「おいお前!難しい事言ってこんがらがらせようなんて思っても無駄だぞ!」

 自警団団長超バカ。敵に塩を贈りまくってるっての。話を理解出来るなら、だけども。それと自分、お前呼ばわり嫌いなんだ。

「では、始めるかね?」

 村長が宣言する。

 村人達はざわつく。止めた方がいいのではないか、という否定的な方向で。常識で考えれば当たり前だな。が、自警団団長は、というと。

「俺はな、例え相手が子どもでも容赦はしないぞ!」

 それ、ヒトとしてダメだよね?何偉そうに言ってんの?

「始め!!」

 村長は合図する。村人達から本気か?!と言う声や悲鳴が上がる。自警団団長は殴りかかって来る。

 あー…素人パンチだな。

 弓引きパンチ、テレフォンパンチ、素人パンチ。どんな呼び方でもいいが、弓を引く様に右拳を後ろに引いて勢い付けるパンチだ。素人でも思い付く勢い付けだが、これから殴るのが相手に丸わかりだ。

 まともに当たってしまえば只では済まない。それは分かっている。しかし。

 獣の攻撃と比べれば全く怖くない!!

 自分は抜刀の体勢の様に構える。素振り以外の練習は全くやっていないこの身だが、ならば刀の扱いを応用すれば良いのだ。本来使いづらい両手武器の技故、効率的な体の運用法、詰まり体術をも含んでいるのである。

 左手は腰の高さに。右手は正面、柄に手をやるかの様に。両手共平手で、腰を落とし、自警団団長のパンチを迎え撃つ!!

 抜き打ちの様に右手刀で団長の拳を切り払う。とは言っても小さく軽く、非力なこの身なので、寧ろ団長に押される様にたいをずらすのを主とする。

 実はただの手刀ではない。小指側に手首を曲げて、団長の手首に引っ掛けていたのだ。

 団長の拳を避けきった瞬間、右手で団長の手首を摑み、両腕を出来る限り伸ばして左手で団長の肩を押さえる。団長は自分を殴る為かなり姿勢を低くしていたのだ。

 数字だけを考えれば、物理的に大きくて重い者程強い。が、あまりにも体格が違う場合、大きい者が小さい者を殴るには状況的に結構無理な体勢になる。なので。

 団長を右腕から引き倒す!自分が両腕を出来る限り広げて団長の右腕を押さえたのは、団長の右腕を梃子に見立てて、というより梃子そのものとする為だ。更に団長が殴りかかって来た力も利用し、その上団長の体勢の悪さをも利用して引き倒したわけだ。非力なもので、これ位の小細工はしないとな!

 腹這いになった状態の団長の右腕を、後ろから回して捻り上げる。脇固めだ!

 …プロレス的脇固めってこれでいいんだよな?柔道的脇固めは全然違うのだが。

 団長からは抵抗する力を感じる。極め技は一度極まると外せないと言うが、自分は小さ過ぎるので腕力で強引にぶん投げられてしまうだろう。そうされる訳にはいかないので。

 団長の腕をちょっと捻った。

「ぎゃあああああああああああ!!!!!」

 おわあびっくりしたあ!!

 驚いて直ぐ手を離してしまった。だからそんなに効いていない筈、なのだが。

 団長は全く起き上がる様子が無い。勿論呼吸はしているので死んではいない。つーか、死ぬ訳ねええだろが!大袈裟だよ!さっさと起きろ!!

「えーと、ちいの勝ち、で、いいのか?」

 村長が自信なさ気に言う。いいと思います。

「団長おおおおおお!!!」

 若いのが団長に、文字通り泣いて縋った。若いの、と言っても中学生位だ。そして皆が満足には食えない発展途上な世界故、現代日本で思い浮かぶ中学生よりも貧弱ではある。副団長だ。

「くそおおお!!ガキめ!!調子に乗りやがってえええ!!!」

 そう叫んで掛かってこようとする、が。

「待て!これは喧嘩ではない!正式な勝負なのだぞ!」

 村長に止められる。仕方ないなあ。

「じゃあ村長の合図で勝負を始める。良い?」

「ガキがあああ!!!」

 激昂された。助け船出してやったのに。

「落ち着かんか!ほら、ちいと距離を開けろ!良いな?では、始め!」

 自分は中段の様に構える。両手を前、正中線上に。右手を胸、左手を腹の高さに。両手とも平手に。

 副団長は腰を低くし、両腕を広げて掛かって来た。タックルだ。

 自分は地を滑るかの様に姿勢を変えず体をずらす。実際は地面を滑ってはいないよ?足を僅かに地面から浮かせているよ?

 それだけでは避けるには足りないので、触れそうな瞬間ぎりぎりの距離で背を反らして躱す。傍目にはすり抜けたかと見える高度な避け方だ。

 避けきったら副団長はどうなったかというと。

 ずべしゃああ!!!

 思い切り地面に突っ込んだ。外れた時の事を考えてなかったのか。

 と、いうか、自分をクッションにして地面に叩きつける気だった様だ。殺す気か!実現してたら只では済まなかっただろ!!

 もう容赦しない!腹這い状態になった副団長の両脚の間に左足を踏み込み、副団長の左足首を右膝に引っ掛けて右足首を自分の左脇に抱える…のは体格的に無理そうなので、左肩に担ぐ。

 蠍固めスコーピオンデスロック!!の変形。プロレスなんかでは仰向けの相手の足を組んでひっくり返すが、自分には体格的にも体力的にも無理!なので腹這いの相手の足を何とか素早く組んでみました!!

 副団長から脚に力を込めるのが感じられた。脚を伸ばして自分をぶん投げる積もりだ。簡単に実現出来てしまう。脚は腕の2~3倍の力を簡単に出せるし自分は軽くて非力な幼児だ。そうはさせまじ!

 外されてはいけないので副団長の足首だけは両手でしっかり肩に押さえつけ、背を反らす!

「ぎゃあああああああああ!!!!!!」

 今度は驚いてやらないよ?抵抗の力が抜けたのを確認してから手を離してやる。副団長の脚は力無く地面に落ちた。痛そうなんだけども。でも知らん。

 うおおおおお!!!村人達は盛り上がった。ちいは何か本気で大人に勝っちゃうんだ、と。

 そしてしまいにはおれも勝負してみたい、おれもおれもー、という声が聞こえてきた。

「こら!そういう集まりではなかった筈だぞ!」

 村長は嗜めてくれるが。

「じゃあ希望者は順番に並んでくれるかなあ?」

「ちい?!!!無茶が過ぎるだろう??!!

 何がお主をそうさせるのだ!!」

 何がって、サバイバル精神が、ですよ?



第12話 村の外探検してみた

 思う所は在ったのだ。

 思い出すのは親知らずの事。ああ、自分の記憶に有る現代日本の誰だかさんの事な。

 現代人は食べ物が柔らかいせいもあって、必ずと言っていい程親知らずは歯並びが悪くなると。そこで何事も無いうちに親知らずを抜いてしまうヒトも居るとか。

 一方、親知らずを抜くのは他の歯よりもずっと痛い、というのはちらほら聞く。どっかの女性漫画家さんが3日寝込んだとか顔が腫れ上がったとか体験談をマンガ風に描いてコミック本に載せてたり。

 で、だ。記憶に有る現代日本の誰だかさんだが。何事が有ってから親知らずを抜いた。恐怖体験と言ってよい事態になった。

 みんなー、親知らずは何事も無いうちに抜いた方が断然いいぞ~!

 あー、詰まる所は、だ。放って置くと悪くなると予測出来る事は嫌々でも今のうち済ませなきゃあいけない、ということだ。結局はその方がましなのだ。

 何でそんな事を思い出したか、といえば、だ。

 挑戦希望の村人達を全員捌いたのが今のうち済ませなきゃあいけない事だったわけだ。うん、全員に勝っておいた。

 何でって、村人如きに勝てない様ではこの先戦っていけない。自分の戦闘技術が有用である、と証明しなければいけなかったのだ。村人達に、ばかりではなく自分に対しても、だ。

 それに、シャールにも言った事だが、戦いというものは相手が在っての事だから、一人の練習だけではどうしても分からない所が有る。

 挑戦してくる村人が居るならば丁度良い、悪いが練習台になってもらおう、難易度も程々だろうし。と、思った次第である。

 勿論村人如きといっても大の男の攻撃が直撃すれば自分は只では済まない、という恐怖心はあった。

 終わってみれば拍子抜けなのだが。だって、殆どの村人は素人パンチしかしないんだもの。

 何人倒しても素人パンチ。次から次から素人パンチ。ゲームか何かの雑魚キャラか!!学習しろおー!!

 まあ、何十人と連続で勝負する事自体が大無茶だったので実は幸運だったかも、とも思ってはいるのだが。その代わり何十人と勝負した経験と言えるかは微妙だが。

 それでも何十勝負も全勝したのでご褒美もそれなりに要求出来た。

 その一つが、自由に村を出入り出来る権利だ。これだけ戦えるのだから外にだって出られるでしょう、と。

 山と言えば川だ。合い言葉とかではなく。

 うちの村は山村なので、急流の川が有るだろうと思ったのだ。

 何故急流かって、水が綺麗だからだ。天然の濾過槽だからな。飲むにも安全なのだ。川自体は近付くのも危険だが。

 で、急流を見付けて水道を想像すれば魔法で水を出せるのではないか、と思ったのだ。

 そうした理由で何日か掛けて川探しをした。とは言っても毎日晩には家に帰るのだが。

 川探しの間は当然中央広場には行っていなかった。外に出るのを羨ましがる子はいるだろうなあ、とは思ってはいたのだが。

 川探しは終えて、別の目的で出掛ける事になったその日。村長宅前での事。

「えーと、付いてくる人数が増える程守り切る自信無くなるよ?」

「ただの足手纏いになる気はありません!」

 そう言うのは勿論シャールだ。

「具体的にどうやって?」

「うっ…帰り道を覚えるとか…」

 無論分かってはいるだろう。自分には必要無い。が、シャールにはそれ位しか言える事が無い。

「ふー。外出たからって面白い事無いよ?」

「何言ってんだ!山菜採り潰しといて、ちいだけはしょっちゅう外出てるじゃないかよ!」

 そう言ってくるのは勿論ワットだ。

「知ってるでしょうが。あの時は獣が居たって」

「そ…そうだけどよ!」

「それ狡いです!僕はそれ見ていません!!」

 珍しくシャールが横槍入れてきた。そんなに見たかった?

 それから無言ではあるが正面から抱きついて来るピュア。目を覗き込んでくる。

 ピュアの方が背が高いので見下ろされているのだが、その目はまるで親に縋るかの様だ。

 そんな目されても困るのだけど………

 ピュアの目が悲しみを帯びてくる。どうしろと??!!

「村長?」

「済まんな。この子達がどうしてもと譲らなくてなあ」

「分かってますよね?」

「その内容を省いて質問するのやめんか!頭脳戦仕掛けられている様で落ち着かんわ!」

 分かっているじゃないか。たかが田舎村とは言え纏め役はバカじゃ務まるまい、と信用しているんだよ?

「安全第一だと思うんですけど」

「あー、何だ?気配だっけか?危険は避けて行けるのだろう?」

「そこまで都合の良いばかりのものだとお思いで?」

「外に出ても毎回無事に帰って来るではないか。しかも時間も気にしながらだ」

「独りなら何とかなっても大勢では、とは思いません?」

「ちいなら何とか出来ると思っておるよ」

「危機管理というものは自分は無力、という前提から始まるんです」

「ご立派だな。とても年相応とは思えん考え方だ」

「自分を過信しないで下さい、と言っているんです!」

「責任は儂が持つ。頼む!」

 村長は真剣な眼差しを合わせてきた。

「仕方ありませんねえ」

「有難う!」

 村長と自分の会話を眺めていたワットがポツリと言った。

「何話してたんだかさっぱり分かんねえんだけど」

 それにはシャールが応える。

「大人の会話ですねえ。頭脳戦です」

「だからずのーせんって何だよ!」

「言葉を省いて話が読めているか測っていたのです。村長さん、有難う御座いました」

「うむうむ、良いのだよ」

「さっぱり分かんねええええ!!」

 ワットはそれで良いと思う。シャールが幼児らしくなさ過ぎるのだ。

 さて、この場には実はもう一人居るのだが、やっと口を開いた。

「ネネはね、ちいのお姉ちゃんなんだよ!」

 だから何?

「ちいはネネをもっとかまわなきゃいけないんだよ!」

「逆じゃねえ?」

 ワットに突っ込まれた。然もありなん。

「ネネもちいに付いて行くんだよぉ~」

 泣き出してしまった。

「分かった、分かったから!」

 ネネの背中をぽんぽんしてやる。自分の方が小さいもんで!

「逆だよな?」

 ワットが又突っ込む。言ってやるな。追い討ちだ。

「じゃあ行くよ?」

 皆に呼び掛けて先にさっさと歩き出す。

「ちいこの中で一番年下だよな?何で一番偉そうなんだろうな?」

 ワットがポツリと言う。文句有るなら付いて来んな!

 村から出て直ぐ、付いて来る皆の方にくるりと振り返る。

「一緒に行くなら皆に覚えて貰わなければいけない魔法が有る」

「魔法!?」

「オレに使えっての?」

 シャールとワットが驚く。ピュアはいつも通りにこにこ、ネネは驚いてはいないがどう思ってるかは分からん。

「難しい事は無い。只なるべく具体的に想像すれば、割と思った通りの現象が起こる。

 覚えて貰わなければいけないのは…靴底魔法!」

「それって?」

 シャールが先を促す。

「靴底に結界…力の膜の様なものを発生させて足にかかる衝撃を和らげる魔法」

「衝撃ですか。武器を傷め、手を痺れさせるあの?」

 シャールが良い反応してくれる。

「そう。歩くとは言ってみれば足を地面に連続でぶつけまくる事だからね。しかも体重を掛けて、何千何万何十万と」

「そう考えると、無意識に恐ろしい事してますよね、みんな」

「なんぜんなんまんなんじゅうまんって何だ?」

 ワットには通じていなかった。けどこっちの方が普通の反応なのだろう。ここ、発展途上の田舎村だし。

「物凄い数ということです。ここまで歩いて来ただけでも何歩足を地面に着けたか思い出してみてください」

「………えーと、すげえ数だな」

 細かい所はシャールが説明してくれる。楽で良い。それに、説明出来るという事はそれだけ理解出来ているという事だ。シャールの頭脳の一端を見て取れる。

「それがこの魔法を使えば何十キロメートルでも比較的楽に歩けるんじゃあないかなあと思えなくもない優れものなんだ!」

「ショボく聞こえるんだけどぉ!!!それにキロメートルって何だあ!!」

 ワット君、突っ込みありがとおー。

「えー、距離の事…ですよね?」

 シャールでさえ自信無さ気に言う。仕方ない。此処等に距離の単位など出回っていないだろうから。

「地平線やら水平線の位置が大体4キロメートル先だとか」

 と、考えると一里という単位は其れを意識して出来たのだろうな。

「地平線?水平線??」

 流石にシャールもお手上げの様だ。

「この大地は大雑把に言って球に近い形に成っている。だから縁から向こうが見えないんだよね。そこが地平線、又は水平線。おっと、話が逸れ過ぎたかな」

「そこをもっと詳しく!!」

 シャールが食い付いて来た。世界の不思議に興味津々なシャールらしい。

「歩きながらにでも話すよ。今は靴底魔法」

「だから、ショボく聞こえるってば!」

 ワットが突っ込み直す。うん、話が元の道に戻った。

「効果の程はワットが良く知っている。付いて来るの、辛かったでしょう」

「あー!!あの時!!魔法使ってたのかよ!!」

 魔法はそもそも文明の利器を模して発動させたものだ。文明の利器って、やっぱり、偉大なんだよねえ。

「当たり前。自分、素の体力ではワットに敵わない」

 幼くてちっちゃいちいちゃんですからね。

「さ、想像して御覧?靴底に自分の力で膜を張る、という所を」

 言いつつ自分は魔力を見る、と意識する。子ども達が使えているか確かめる為だ。天気図とか、目に見える筈の無いものを図式化するのを参考にした。

 シャールは少々時間を掛けて発動させた。熟考した故だろう。

 ワットは意外、割と早く発動させた。一度見たからだろうか。本当に、感覚が鋭い様だ。

 ピュアは驚きだ。一通り説明を終えたらパッと発動させた。見た目はいつも通り只ニコニコしているだけなのに。

 一番てこずったのはネネだった。が、それが普通の子なのだろう。

 想像力というものは結局は記憶量がものを言う。年齢が大きい方が有利で、思考力があれば多少は変動するかなあという所だ。

 簡単そうに言っておいて実は無茶振りしていたのだが、発動させたシャールは流石思考力が突き抜けていた。割と早く発動させたワットは実はシャールとは別方面で特殊だった。パッと発動させたピュアは…何だろう。謎な子だ。

 対して自分は、というと、それなりの年齢な他人の記憶が有り、しかもこの世界では有り得ない文明の利器を知っている、という、正しく打って付けな仕組みなわけだ。狡過ぎる程に狡い、と自分でも思う。

 ………それにしてもこの村、特殊な子、多くないか?チートな村なの?それとも田舎村如きではちょっとやそっと才能有る子でも一生日の目を見る事無いのが当たり前なのかねえ。勿体ないな。

 さて、ネネだが、全員であやす様相になっている。いや、ピュアは只ニコニコ眺めているだけだな。自分には直ぐ抱きついて来るけど、他の子にはドライなのか?姉なのだから見た目は似ている筈なのだけど。

「ほら、足の裏に板か何かを付けている様に考えて下さい」

「力だ!足の裏からふんって放つ力を感じるんだ!考えるな!」

 ワット、ブルースリーかよ。しかもシャールが言った傍から矛盾してるよ。ネネが混乱するだろうが。

 でも、大人だって何人かが教えてやろうとかでしゃばると矛盾しまくった事言いやがるよね。で、自分は正しいんだ、とどいつもこいつも思っているのだ。で、困るのは教えられた、と、いう事になっている者ひとりなのだ。

「ネネ、自分のやり易い様に、自分が正しいと感じた事を試してみるんだ。失敗しても良い。黙っていれば誰も判らないんだから。で、次を試せば良いだけだ」

 うん、素振りや職人技にも通ずる教えだな。良い事言った、と自分でも思う。

「全然具体的じゃねえだろ!分かんねえよそんなのじゃ!」

 ワットが文句言った。仕方ないだろう!正しい動きというものは自分の身に合わせたヒトそれぞれのものなのだ!

「はいはい、落ち着いて下さいね二人とも。ネネが泣きそうです」

 うおう!シャールに諭された!!

 ここでピュアはネネに後ろから抱きついた。そして後ろを向いたネネと目を合わせてにっこりと微笑む。

 ネネの表情が和らいだ様だ。

 おやあ?ピュアは機会を見計らっていたのか?それに意外とそれぞれ役割分担出来てた様な?

 何?この子達!恐ろしい子達だな!!

 そして四苦八苦したものの、ネネも魔法が成功し、出発する事と相成った。

「じゃ、行くよみんな!」



第13話 森の魔女に会ってみた

「何処に何しに行くんだ?」

 ワットが物凄く今更な事を言った。

 分かるけどさ!子どもは、いや大人だって、只外に出るというだけで冒険にでも出る様なはしゃいだ気分になってしまうという理屈は!自分はインドア派だけどな!

 けど散々反対を押し切って付いて来ておいてそれかよ!

「えー、森の魔女さんの所へお使い、ですよね?」

 シャールは村長から聞いていた様だ。

「アムリタと農作物を物々交換」

「アムリタって何だ?」

「霊薬。魔女が作る薬」

「魔女が?薬ぃ?」

 ワットは魔女に悪いイメージがある様だ。

「森の魔女、と言うのは森で独り暮らししていてちょっと薬草に詳しいってだけの只のヒト」

 実は日本の在るあっちの世界にもあった話だ。

「ええ??ウィッチクラフトとか無いんですか?」

 シャールは少し知っている様だ。それはちょっと期待しているのだが。

「ういっちくらふとって何だよ」

「魔女が使う魔法をそう言う。けどそれが有ったとして、君達ももう魔法を使ってる。全然特別な事じゃなくなった」

「地味じゃん!見ても判らねえじゃん!」

 ワットは不満な様だが、それこそが相手を判別出来る手段だ。魔女が地味な魔法に気付く事が出来れば、ふむヤるなお主!となる訳だ。

 それでデキる魔女ならば魔法の話を聞きたいのだ。自分のはたまたま出来ちゃった我流だからな。

「一つ出来れば後は応用だよ。これからは君達の想像力次第」

「例えばどんなだよ!」

「直ぐ聞いちゃうのは想像力有るとは言えないなあ」

「意地悪いなあ!!ちいのは具体的じゃないって言ってるだろ!!」

 失礼な!先回りして何でもお世話しちゃうと、子どもはやる気が育たないと聞くからそう言っているまでなのに!

「まあまあ、一つ一つ僕たちに必要な事を考えて行きましょう。

 必要は発明の母、そうですよね?」

 シャールはワットを宥めつつ、こちらに確認してくる。

 シャールは頭の良い子だ。少しは文明度の低い貧しい生活が改善出来るかと思って教えておいた言葉なのだ。

 ワットがまだ愚図るのをシャールがあやしている間にネネを見てみると、遅れがちになっていた。魔法の維持も怪しい感じだ。ああ、ピュアは平然と危なげなく付いて来てるよ。更にネネがはぐれない様に気遣っているし。

「ちょっと休憩しようか」

 皆に声を掛ける。なるべく広めの場所に移動しつつ。

「みんな、しゃがんでなるべく両手を体から離して突き出して。それから両手で何かを掬う様に」

「何言ってんだ?」

 ワットは一言言わないと気が済まない様だが、全員言う通りにはする。さてと。

 じょぼぼぼ。皆の手の内に水が注がれる。

「何だこりゃ!水?!」

「はい洗って!」

 自分が実演しながら皆に促す。立ったまま手を洗うと凄く水が跳ねるだろうと思ってしゃがませたのだ。

「はいおやつ!」

 洗い終わったらさっと煮カボチャを皆の手に一切れずつ乗せる。

「食べて!」

「お…おう」

「美味しい!」

「甘~い」

「食べたら又手を器にして。今度は溢さない様に!」

 じょぼぼぼ。又手の内に水を注ぐ。

「はい飲む!」

「美味い!もっと!」

 ワットが催促してくる。水くらいはいくらでも飲ましてやるけど。

「落ち着いたかな」

「はい。有難う御座います。今の、魔法ですよね」

 シャールはちゃんとお礼が言える子だな。さり気なく流した所もちゃんと見てるし。

「魔法”水鉄砲”。どうかなあ、ワット」

 水鉄砲と言っても今のは手水場ちょうずばの様にちょろちょろ出したけど。

「お…おう」

 魔法の具体例は見せたぞ、と言う事だ。水源の場所を把握しなきゃ使えないだろうけど。

「水は飲めたけど魔法って言ったら、もっと、こう、パアっと…」

 攻撃魔法の様な派手なのがお望みの様だ。が、わざわざ水鉄砲だと言ったのは分かってない。

「ほう、顔面に勢いの有るヤツを食らいたい、と」

「ワット!今のは攻撃にも使えるんですよ!」

 シャールが慌ててワットを嗜める。よくぞ気付いた、流石シャール。

「所で、ちいの分のカボチャは…」

 更に言い難そうに続ける。よく気付いたな。

「はっはっは。無い!」

 取り繕っても仕様がないのではっきり言う。だって独りで来る気だったもの。

「御免なさい!」

 シャールはちゃんと謝れる子だ。対してワットは…

「そこらの何かを採って食べればいんじゃね?」

「山菜の知識が無いのにそこらのモノを採って食ったら…死ぬよ?」

「え?マジで?」

真剣マジで。皆、適当にそこらのモノを採って食う等決して無いように」

「何で山菜採り潰しちゃったんだよ!」

「獣と戦ったの見てたでしょうが!」

 バカなの?何回言わすんだよ!

「僕は其れ見てないんですよねえ」

 シャールはまたも羨ましそうに言う。命危険だったんだよ?

「森の魔女には山菜の知識も期待している。森で独り暮らししていてるなら必要な筈」

 寧ろそちらがメインで魔法は出来れば、という所だ。

「じゃあ行こうか!」

 話している間にそれなりの時間は経った。が、明らかに嫌そうなのが………

「ネネ、疲れたかな?」

「あのね、えっとね…」

 ネネは言いたい事が上手く言葉にならない、といった様子だ。まあ、ネネはシャールやワットと同年代、満年齢で4歳位。こちらが普通なのだ。ワット位でも特殊、シャールはもう年齢詐欺だろう!てなもんだ。

 そのシャールがネネの後を継ぐ様に言う。

「気疲れと言いますか、魔法の維持に大分力を持って行かれますね。それでいて足の衝撃が完全に防げている訳でもないので、正直、使う価値が有るのかな、と疑問に思ってしまいます」

 ネネがコクコク頷いている。シャールがネネの言いたい事を代弁した様ではあるが。実はシャールも魔法の維持がやや危うかったのだ。だから先程歩きながら話そうと言った事を話さなかったのだ。聞いている場合じゃなさそうだったので。

「使っていれば慣れるよー」

 と、軽く言ってみたが。

 確かに靴底魔法は今の所、現代日本のスニーカー程の性能は発揮出来ていない。

 だがそれでも合成ゴムの靴底のスニーカーを知っている者には此処の靴で歩く等耐えられたモノではなかったのだ。

 だから自分にとっては魔法の疲れの方がマシなのだが、シャール達が言うのは此処の靴が当たり前と思っている者の意見なのだろう。

 一方、ワットはもう魔法に馴染みつつある。やはりシャールとは別方面で特殊な子の様だ。世間一般ではセンスが有る、と評される感じだろうか。

 ピュアはもう当たり前の顔して魔法を使っている。この子凄く謎なんだけど!将棋も矢鱈強いし!

 まあ元気な子達は良いとして、先ずはネネだ。

「どうしても歩けないと言うなら考えている事は有るけど、もうちょっとだけ頑張ってみない?」

 だがネネは嫌そうだった。仕方ないかあ。

 さて、考えるのは滑車の原理だ。滑車というのは先ず両端を壁か天井に固定した綱を用意し、綱渡りをする様な車輪を載せたものだ。何故そんな事をするかというと、車輪は重みのある何かをぶら下げる部分であり、綱を固定した部分、支点に均等に重みを分散させる位置に自動的に移動するからだ。

 そして魔法の結界だが、とても脆いモノなのだ。形を固定した板状の結界を発生させると、何か固体が触れた瞬間消滅してしまう。紙一枚程も物体を受け止められない。

 存在を保つには物体が触れると変形する結界を張れば良いが、形を固定した結界よりももっと物体を受け止められない。

 防御魔法!とか言いながら結界を一枚ばかり発生させても、形を固定した結界にしろ存在を保つ結界にしろ、攻撃する者は全く違和感なく当てられてしまうだろう。

 では靴底魔法はどうしているかと言うと、結界を、それこそ靴底から地面まで多重に、何十と発生させて踏み抜いて衝撃を吸収しているのである。工夫するとすれば、靴底側の結界は存在を保つ結界、地面側に行く程変形が少なくなる、言い換えれば弾力の少ない結界にしていく。という位しか今の所思い付かない。

 言うなれば毎歩使い捨ての靴底を付けながら歩いているみたいなもので、それは考えただけでも気が遠くなる。実際やってみれば、そんな事気にしてられるか!という心境になるのだが。

 その、凄く脆い魔法の結界であるが、今回ネネを乗っけて運ぶのに使おうというのだ。

 先ず、乗せて直ぐ消えてしまう結界では困るので、最大限存在を保つ結界にネネを乗せる。それだけではネネを全く動かせないので、段々弾力の少なくなる結界を多重に張る。それから滑車の原理を参考に、重みを分散させて支え、結界ごとネネを持ち上げよう、という試みだ。

 滑車ならば分散させられる力は半分ずつまでだ。綱は二カ所を固定しているのだから当たり前だ。それ以上に分散させたい場合は、綱渡りをする滑車、動滑車の他に位置を固定した滑車、定滑車を併用して綱を通す。ふむ、ネネの乗った部分を動滑車、結界の縁を支える積もりの部分を定滑車に見立てるか。

 とても脆い結界に、どれだけ支える点を付ければネネを持ち上げられるか…言うなれば金魚すくいのポイでネネを掬う様な心境だ。支点を四つ付けた時。

「ふぁ??」

 ネネはふわりと浮き上がった。このままではギリギリ浮いただけなので、支点を二つ、結界を三枚追加する。まあ弾力の少ない結界程早く消滅するので適宜追加しなければいけないが。

 運ぶには障害物を避ける都合上、自分のすぐ後ろ、一定距離に固定すれば良いか。

「じゃあ行こうか」

「待て!待て待て待て!!何だそれ!何なんだ!」

「搬送魔法」

 やっぱりワットは突っ込んで来て、自分は答える。

「ちいっていくつ魔法を使えるんだ?」

「いくつったって、コレ、今考えてみただけのモノだし?」

 当たり前だ。今までこんなの使う機会なんて無かったし?

 強いて言うならいくつとか決まってない!って事になるかな?まああ項目分け(カテゴライズ)した方が後々使い易そうだけども。ああ、そうそう。

「これが応用、必要は発明の母ってヤツだよ」

「あははは………良く分かりました」

 シャールが珍しく呆けた顔をワットと並べている。どした?

 うん、具体例を見せられて良かった。説明に深みが出るというものだ。

「シャールも疲れたら何時でも運ぶよ?」

 出来るだけさり気なく言う、が。

「僕はまだ歩いてみます」

 男の子の意地ってヤツか。幼児のクセに。フフッ。

 そして程なく魔女の家に着いた。

 その人物は――――



第14話 仲間にしたそうに見詰めてみた(笑)

 魔女の家は周り中畑に囲まれた、こぢんまりした小屋だった。当たり前か。自然の恵み、なんて言うものの、山菜採りだけで食っていける訳も無し。

 その中に居た人物は。

 体重だけで言えば間違いなく軽い、だが背は高い、ひょろ長い人物だ。皺はあるので老齢だろうが、背筋は伸びてしゃきっとしている。何より耳が尖って細長い。

「エルフ?!」

「何だって?!」

 つい言ってしまって言い返された。聞こえなかった訳ではなく、言葉が通じなかったのだ。ここではエルフを何て言うのか知らないし。

 しかし、原典的なエルフだ。ラノベを見てみると、ヒトなら年寄りな年齢で小さく幼いなんてのが主流の様だが、こちらこそ原典の筈だ。まあラノベでは小さく幼い方が喜ばれるのだろうが。

 それにしても、森の魔女で、森の人と書く事もあるエルフとはね。

「失礼しました。自分、ちいと申します。お名前伺っても?」

「何だい、生意気なガキだね。あたしゃあマジョオだよ」

「ぶっ?!!」

「ああ?!」

「し…失礼しました」

 酷え名前だな?!ジョオって渾名の女性は間違いなくいるんだが、マが付くだけでこんなに酷くなるなんてな!

「やっぱり千年二千年は生きるんですか?」

「はあ??植物じゃああるまいし、そんなに生きられる訳無いだろが!

 言い伝えではわが一族の長生き記録は百二十歳だね!」

 ほう、それはヒトが生きられる理論上の最大値だ。理論上、である。日本の有るあっちの世界では達成出来ていない。…出来てないよな?

 況してや文明度の低い所では人間五十年とか言ってたのである。織田信長だっけか。

 そう考えると2.5倍近くである。更にここでは15位で子どもがデキちゃうとすれば八世代位前のヒトが生きてたって事になる。一応現実的で、それでもスゲえ長生きだって事になる。

「自分はアムリタをお譲り頂きたく村から参りました」

「はあ??こんなガキを寄越すなんて、村長はボケたのかい!?」

「口悪いばあさんだな」

 ワットが言った。ヒトの事言えないぞ?

「何だこっちのガキは!」

「ちいは見た目通りの子だとは思わない方が良いです」

 シャールも言った。

「あたしゃああんた等の名前を聞いてないんだけどね!」

「あ、僕はシャールです」

「オレ、ワット」

「ネ…ネネ!」

「ぴゅあ!」

 おお!流石にピュアも名乗ったよ!

「あんた等も見た目通りの子じゃあないってか?」

「いえ、僕たちはちいに付いて来ただけの普通の子です」

「ええ??!」

「何です?」

 こいつ等自分達の異常さに気付いてないよ!ビックリだよ!

「あんた等あたしの前で勝手にお喋りに来たのかい?」

「ああいえ、ですから傷薬と痛み止めをお譲り頂きたく」

 此処の文明度ではそんなもんだろう。因みに、痛み止めは熱冷ましを兼ねている。現代日本でも、だ。

「はあ、客は客か」

「それから村とは別件ですが、マジョオさん、村に引っ越してきません?」

「はあ??何だい藪から棒に!」

「お一人では何かと大変でしょう」

「分かってないねえ!!わざわざ独り暮らししてんのは――」

「村の面倒臭さよりはマシだからですか?」

「ヒトが言おうとしてる事を引ったくるんじゃないよ!!」

「コミュ障ですねえ」

「は?何だいそれは」

「コミュニケーション障害。まあ人付き合いが苦手って事です」

「ばっ馬鹿にしくさってぇ!!」

「いえ?自分もコミュ障ですよ?」

「「「えええ?!!!」」」

 シャール、ワット、ネネが叫んだ。何?

「それでもどうにかこうにか暮らしていけるもんです」

「は!そんなもん、小さくて可愛い子ぶったガキだからそれで済んでるんだよ!」

「実は自分、貴方の薬草と山菜の知識を求めてましてねえ」

「あれ?魔法は?」

 ワットが口を挟んだ。するとマジョオはニヤリとした。

「魔法はねえ、何十年と修業して、その中の一握りだけが使える様になるんだよ」

「「「ええ???」」」

 ぶふっ。子ども達は戸惑っている。今使えちゃってますよって。

 マジョオは其れを、実らないかも知れないのに何十年も修業してらんない!と解釈して得意気になってる。ものっそい得意気になってる!ぶふふっっ。

 詰まりだ、やっぱりマジョオには魔法の事を聞く価値は無かったのだ。只、何十年も修業という事は記憶量が有る方が有利、という裏付けが取れたかな、位のモノだ。

「ざぁーんねんだったねえ。おととい来るんだねえ!」

「は?おとといって、昨日の前の日?」

「もう来るなという意味です」

 ワットは意味が分からずシャールはさらっと解説する。今時意味分かるヤツいないよねえ。自分?わかんな~い!

「そう言う訳で、自分は知識を得る対価として、貴方には村での快適な生活を約束させて頂きます」

「聞いてなかったのかい?」

 だから分かんな~いってばよ!

「村とは別件って言ったねえ。ガキの独断が村で通るって思ってんのかい?」

「通りますよ」

 シャールが答えた。

「ちいは文字通り腕っ節で存在を示しましたからね。多少の意見は直ぐ通ります」

「はあああ!?こんな小っこいガキが腕っ節ってどんだけ弱っちい村なんだよ?!」

「いえ?村人は普通に日々農業に勤しめる程度には体力有りますよ?

 言ったではないですか。ちいは見た目通りではないと」

「はあぁ~…ガキの言う事なんか信じらんないね!」

「では、自分の目で確かめに来て下さい」

「行かないって言ってんだよ」

 今日だけでは無理だろうな。けど、先ずは言ってみて、何度もしつこく勧誘するのに意義が有るのだ。三顧の礼とか。という訳で。

「じゃあ今日はお暇しましょう。考えておいて下さいね」

「あれえー??ちい?良いんですか??」

 シャールにもそこまでは分かれとは言えないな。

「マジョオにも考える時間は必要だよ。ではまた!」

「待ちな!ちゃんと帰れんのかい?」

「ご心配なく!」

「えええ~?待てよー!」

 ワットも慌てて付いて来る。ネネとピュアはワットより先に付いて来ている。

「じゃあ少しじっとしててね」

 魔女宅から出ると、自分以外全員に搬送魔法を掛ける。

「オレは自分で走れるぞ?!」

「良いから!」

 ワットを嗜めつつサッと駆け出す。魔女宅から見えない所までパッと移動してしまう。

 その後マジョオはのっそりと出て来てポツリと言う。

「もう行ってしまったのかい。どうにかなったら寝覚めが悪いだろうが」

 うむうむ、気にしてる気にしてる。

 何故其れが分かるかというと。

 テレビカメラと集音マイクを参考にした魔法、千里眼と地獄耳を使っているからだ!…地獄耳て……もっと良い言葉無かったかなあ?

 兎も角上手くいってるな!とほくそ笑む。

「何いきなり笑ってんだ気持ち悪い」

 ホントに口悪いなワット!

「マジョオの様子を見てたんだよ」

「え?今か?」

「魔法…ですね。今考えてみた…ですか?」

「うん」

 流石シャール。良く分かった。

「ははは…どう言えば良いやら…」

 今はもうみんな自分の力で走っている。最後は自力で走りたいんだと。良いけどさ。

 何やら皆達成感に満ちた顔している。シャールでさえ何処か誇らし気だ。

 今日、別に大した事してないよね?いや、幼児だったらお使いするだけでテレビ番組に成ったりするけどさ?まあ、水を差す様な真似はしないけどさ?

 喜び勇んで村に駆けて行く子ども達を、自分は殿に回って見守っていた。

 …前から何か来れば水鉄砲かまして駆け付ける気だったのだが、ピュアは積極的に前に出て、露払いする気だった様だ。君は素手でしょう?



第15話 盗賊退治してみた

 ファンタジーで盗賊って結構定番だよなあ。盗賊をどう退治するかで話の方向性が決まるよな。具体的には、悪人ならヒトでも殺す、いやいくら悪くても殺しちゃいけないんだ、という方向性だ。

 何でそんな事考えたか、というと。

「不審者発見。十中八九盗賊の偵察と思われる」

 ということだ。一言で言えば、浮浪者が革鎧着てる、といった風情のヤツがこちらを眺めていたのだ。

「どこだどこだ?」

 隣に居る大人、自警団員がキョロキョロする。そう、今自分は自警団に加わっているのだ。村の自警団など大人達が農業の片手間でやっているものだから、自分が加わった所で手伝い有り難うというノりだ。

「キョロキョロしたって見えないよ。山向こうだから」

「遠すぎるだろ?!!本当かよ!」

 遠見の魔法を使ったのだ。そんな大袈裟なものではない。目は元々筋肉を絞って遠くを見る様に出来ている。サバンナの民とかモンゴル人等草原の民は何キロメートル先までハッキリ見えるとか言っているし。紙に開けたちっちゃな穴から向こうを見るなんて小細工位でちょっと遠くが見えるのではなかったか。

「報告してくるから見張りよろしく」

 言い捨てて物見の塔を降りる。田舎村故そんな上等なモノではないが木の上に大人二人が座れる位の台を打ち付け、梯子…とも言えない足場を段々に付けたのだ。直ぐ下に自警団の詰め所が在る。

「本当かよ!」

 団長も信じないなあ。言うのは言ったという事実確認だけで信じるかどうかはどうでも良い。

「直ちに殲滅して参ります」

「怖ええよ!それからちょっと待てよ!大人二人と一緒に行け!副団長達!良いな?」

 副団長二人がまごつきながら了解する。足手纏いだな。

 二人はそれぞれ鎌と連接棍棒フレイルを持って来た。只の農耕具だ。それで戦う気か。

 其れを見て団長は言う。

「待て待て!先ずは確認するだけだ」

 ダメダメだね。

「其れでは間に合いません。自分がその場で確認、敵性存在ならば直ちに排除致します」

「だから怖ええよ!それにちい一人でどうにか出来るとでも思っているのかよ!」

「出来るか、ではありません。やるんです」

「盗賊じゃなかったらどうするんだよ!」

「あり得ませんね。自分の目をお疑いで?」

「だから先ず確認して、本当に盗賊なら村のみんなで相談して…」

 お役所か!みんなで集まって相談してたら津波に流されて死んじゃった、なんてのが確かあったぞ?

 だから。

「直ちに作戦開始します」

 話を切り上げて、否切り捨てて回れ右し、駆け出す。

「本当に大人の言う事聞かねえな!副団長達付いて行ってやれ!」

 団長のぼやきなど聞いていられない。

 それなりの時間を掛けて盗賊の拠点までもう少し、という所まで来た。と言うのも。

「ぶひゃーっぶひゃひゃーっ」

「はひゅーっはひゅぅーっ」

 副団長達に追い付かせてやったからだ。例によって目の届かない所でどうにかなったら後味悪いからな。

 調子はガタガタだが耳は聞こえているだろうから構わず言う。

「盗賊に見付かったら殺されるから隠れて見ている様に。助けてあげないからね」

 二人はハッとしてこちらを見た。誰でも命は惜しい。そう言っておけば余計な手出しはするまい。

 二人が充分隠れられるかな、という位時間を掛けながら悠々と盗賊の拠点が在るであろう方へ向かう。

 そこは素人が適当に組み上げた小屋だった。前には見張りとおぼしき革鎧を着た浮浪者みたいなのが一人立っている。自分は無造作にそいつが見える所まで歩いて行く。

「お?何だ?」

「尋ねますが、貴方は盗賊ですか?」

 そいつは質問には答えない。が、下卑たツラしてこちらの腕を摑もうとしてくる。

 ペキッ

 手の甲を抜き打ちしてやった。臭い!寄るな!

「うごおぉああ!」

 骨まではどうもなっていないだろう。が、後遺症まであるかどうかは知らん。

 そいつの呻き声を聞いて三人新手が出て来た。

「何している!」

「お?何だこのガキ」

 一人右手を押さえてうずくまっているのに又こちらの腕を摑もうとしてくるバカがいるので。

 パキャッ

 小手打ち。もう右手を打ち抜いてやった。

「ぐああああ!!」

「な…何だコイツ?!」

「捕まえろ!!」

 流石に後の二人は戦闘態勢になった。まだ素手だけどな。

「貴方達は盗賊ですか?」

「何だお前!まさか冒険者?な訳無いよな?」

 やっぱり質問には答えない。が、冒険者という職業が有って、冒険者には盗賊退治の仕事が有るのだな、と、推測は出来た。その位聞ければいいか。

 ふっ!!

 一気に呼気し、二人の相手に一撃ずつ放つ連撃をする。刀で技と言えば大体連撃だからな。燕返しとか。

 パキャキャッ

 二人の右手を打ち抜く!

「「ぎゃああーあぁあ!!!」」

「何だ何だ!!」

「どうした!」

「何だコイツは!」

 これだけ騒げば相手も気付く。もう五人出て来た。勿論既に警戒している。

 自分は八双に構える。八双とは…大体書物には八相と書いてあるだろうが、自分はそちらの文字にしたいのだ!コホン!兎に角、八双の構えとは、顔の横に刀を立てる姿勢だ。野球のバッターにちょっと似てると言えば想像つくだろうか。勿論細かい事言えば全然違うのだが。

「きえええええええええええええ!!!!!」

 気合を発する!まあ、要するに大声なのだが。もう相手に気付かれているのだから構わない!

 パキャキャキャキャッ

「「「「ぐぅあああああああ!!!」」」」

 一息に四人の右手を打った。一人逃したか!

「な…何なんだお前は!!」

 残った一人は短剣ダガーを抜きながら言う。む!鉄製か!

「お前呼ばわりは嫌いなんだ」

「知るかあああ!」

 そいつは叫びながら掛かって来たが。

 パァアンパキッ

「ぎゃああああ!」

 ダガーを叩き折ってから右手を打った。木刀は金属の武器より低級と思われるであろうが。

 平を叩けば金属の方が折れ易いのだ!

 又六人出て来た。一人弓持ちが居る。それから何か偉そうなヤツが。恐らくボス!これで全員という所か。

 ボスがギロッと睨め回して言う。

「どうなっても構わねえ。ヤれ!」

 全員が武器を構える。短剣一人双短剣一人片手剣二人弓一人。ボスは広刃剣ブロードソードだ。

 弓使いに向け中段に構える。当然、飛び道具は無視出来ない。他のヤツ等も先ず矢を射てから、と思っている。弓使いから自分までの空間が空いているのだ。

 落ち着け!飛び道具だろうと相対していれば避け方は直接攻撃と変わらない!寧ろ手から離れる時点が早い分直接攻撃より避け易い筈!!そうとでも思っていなければやってられるかぁ!!!

 ばしゅっ

 びぃいぃんん

 矢が突き立った。

 後ろの木に!

「なっ…」

 一矢で片が付くと思っていただろう。弓使いは一瞬呆けた。

 そして自分は既に間合いに入っている!姿勢を出来る限り変えない移動だ。気付くのも遅れた筈!

 パキパキドスッ

 両手を打って腹に突きを入れた。弓は弾力を使う武器なので破壊を諦めた。その分使い手の方を徹底的に倒しておいたのだ。

 再び八双に構え。

「きいぃええええええええええ!!!!!」

 パパパァンペキペキペキッ

「「があぁあぁあ!!!」」

 短剣は投擲に使う可能性が有るので優先的に破壊し、双短剣の奴は両手共打っておく。当然の処置だ。

「な…コイツ!!」

 パァンペキッ

「ごっっ」

 片手剣使い一人がうろたえている間に武器を破壊して手を打つ。後二人!

 その二人は距離を開けて一遍には攻められなくなった。当たり前か!

 取りあえず二人の間の空間に向けて中段に構えるとボスが何か言ってくる。

「てめえ…何なんだ?」

「自分が何だろうと、盗賊はやっつけておかなきゃねえ」

「覚えてやがれよ?」

「君等に後が有るとは思えないね」

 何とか脅そうとしているのか、平然としてやると悔しそうに歯噛みする。

 がさりっ

 後ろから落ち葉を踏む音がした。

 びくりっとしてそちらを向く。

 盗賊たちが!

 一直線に駆け抜けて何とか盗賊達を攻撃できる位置を割り出し、そこへかくっと体をずらす。

 そして一気に!!

 パァンペキパンペキッ

 武器を破壊、そして持っている手を打った。

「ぐうああああああああああああ!!」

 ボスの叫び声が一番でかかったかな。

 振り向いて言う。

「大活躍だね」

 足音を立てちゃった副団長の一人が返す。

「な…何が?」

 そういう事だった。

 倒した盗賊達を一カ所に纏める。木刀でつついてだ。触りたくもないし、弓使い以外は手を打っただけだからな。

「さて君達、何処か襲う気だったかな?」

 答えようとするヤツはいなかった。

 パキッ

「ぎゃああああああああああああ!!!」

 ボスの左手を打ってやった。

「む…村を…山向こうの村をおしょうきでじた…」

 やっぱりか。

「じゃあ其れは取りやめてさっさとどっか行っちゃってくれるかな?」

「まま、待って!やしゅましぇてくだしゃい!手がいだいんでしゅう!」

「知らん」

「おにぃ~!あぐまぁ~!!」

「さあ、此処にいる間中何処か叩き続けてあげちゃうぞ☆」

「「「「「ぎゃあああああ!!!!」」」」」

 皆逃げてった。足は無事だものね。

「ちい…おっかないな…」

 後ろで眺めていた副団長の一人が言う。

「ほう、あいつらの好きにさせて良かったと?」

「それは…良くないな、うん」

「じゃあ汚い小屋ぶっ壊して帰ろうか」

「「え?」」

「盗賊どもの秘密基地!残しといちゃあ良くないでしょ」

「徹底的だな…」

「仕返しされないか?」

「あー、あいつらまず生き残れないよ」

「「え……?」」

「本調子じゃない、武器減った、厳しい大自然。死ぬでしょ。自分、直接は手を下してないだけ」

「「怖ええよ!ちい本当怖えええよ!!」」

「いやあ、それ程でもぉ~」

「「何で照れてんだよ!」」

 盗賊の小屋を壊すのはなかなかの手間で結局副団長達に魔法を見せる事になってしまった。今後どう噂にされんだか分かったものではない。

 今回使った木刀はお亡くなりになられた。だって汚いヤツ等に触れまくったもの。廃棄だよ。良い出来だったのに!



第16話 お風呂入ってみた

 完成したモノを、嬉しくてつい天に掲げてしまった。自分でも何やってんだ?とは思ったが。

「何です?その白い塊は」

 シャールにさえも分からなくて聞かれた。

「石鹸♪」

 声が弾んでるなあ、と自分でも思う。

 灰と油、それから水か。それらが有れば石鹸は出来るという最低限の知識はあった。最低限過ぎた。

 どうも完成は遠いな、と思っていたのだが。盗賊の一件で加速、前倒しな感じで多分石鹸と言って良い物が出来た。

 と言うのも、盗賊どものニオイがさほど気にならなかったのが大ショックだったのだ。

 どう言う事か。盗賊どもよりはマシなものの、村人達も同系統のニオイがしてて、鼻が慣れてしまっているのである。…で、自分も……認めたくはないが………そういう事だ。

 ニオイが原因で戦闘力が落ちなかった、というのはあの場に限って言えば幸い、だった。…のだろう。

 しかしそれでショックを受けないなんて文明人じゃねえ!そりゃあもう何が何でも石鹸作っちゃうさ!

 そして湯舟を用意する。容量は洗面器一杯の湯が有れば半身浴出来る位。どうしても湯舟の中で体を洗う事になりそうなので中味を零し易く、それでいてしっかり立たせられる工夫した逸品だ。

 他にも桶をいくつか用意し、湯沸かし器を参考にしてそれらに湯を張る。

 湯舟の方は水で埋めて温度を調節し。

 よ~し、入るぞ!と服を脱ぎ始める!

「な…何やってんですか!」

 シャールが騒ぐ。此処に服を脱ぐという習慣は無いし。詰まり、同じ服をずっと着っぱなしということだ。汚いよね。

 あー、折角風呂入っても着替えが無いな。先ず服を洗ってその内乾く事を期待、しかないか。

「は…恥ずかしくないんですか!?」

 そりゃあ恥ずかしいさ!自身は幼女、周りは子ども達ばかりとは言えな!

 しかし自分は風呂を子ども達に広めなければならないのだ!汚過ぎると病気になるからな!

 ヒトは汚くても死にはしない、などとちらほら聞いた事があるが、そいつらは本当の汚いということを知らない。

 日本の在るあっちの世界の話だ。昔の西洋の町では生活排水、どころか糞尿さえ道路にぶちまけていたとか。家々からも汚れを垂れ流した結果、黒死病ペストとか酷い病気が大流行し、港町辺りでは海の水に浸かってしまったら病気になってしまう!なんて有様だったとか。今でもオリンピックやった所で在ったよな、汚い海。

 なので恥ずかしいのだが涙をのんで自分は子ども達への見本となるのだ!自分、裸を見せて喜ぶ様な変態じゃないよ?

 と、服を洗おうとしてたら、後ろから抱きついて来る者が在った。いつも通りピュアが…

「全裸ぁあぁあ???!!」

「ヒトの事言えないでしょうに」

 珍しくシャールが余分な突っ込みを入れてくる。のは置いといて。

 ピュアが既に裸になって抱きついて来たのだ。いくら幼女同士とはいえ裸で抱き合っちゃあ危うい状況だろう!と、思ったのだが。無邪気で無防備な笑みを向けられると文句は言えなくなった。

 考えてみればピュアはまだ全面的に誰かに世話になってても全くおかしくない年齢だった。

 つい失念してしまうのは…自分の方が小っちゃいからだよ!自分は同年代よりも小っちゃいから、自分より小さいのって自力で歩けない赤ん坊位じゃねえか!

「ピュア?服を洗うから持っておいで?」

 すぐ抱きついて来るけど、言う事はちゃんと聞くんだよな。

 さて、服を洗うには。60度のお湯だ。

 服は水洗いだとどんなに一生懸命洗っても段々古臭くなってゆく。と言うのもニオイの原因菌が排泄物をバリケードにして、それはそれはしぶとくこびり付くからだ。それが60度以上のお湯には弱いのだ。

 高いにしろ低いにしろ極端な温度に生物は弱いからな。広い世の中クマムシとかいう特殊生物も居るが。

 服をちょいとつまんで熱湯に浸ける。指でつつきながら掻き回す。おぅあちい!

 それでもしっかりと洗い、水気を出来る限り取って畳んで置く。干す場所無いんだよ!

 それからピュアを洗ってやる。頭も石鹸で、だ。石鹸は髪に悪いとは聞いた事はあるんだが。

 とは言え、じゃあシャンプーは石鹸とどう違うんだ?などと、現代日本人でも答えられる奴などまず居るまい。それこそ生まれた時から当たり前に有るから使っているだけだ。

 考えてみるに、頭皮は多分他の部分より弱い。となれば石鹸よりも皮膚にやさしくなければなるまいか。 しかし頭は脂っこい汗をかく所でもある。脂こそニオイと汚れの原因であり、毛穴が詰まる原因でもある。詰まり、髪に悪いということだ。何で髪に悪い汗が頭から出るのかね?となると脂を強く落とさなければなるまい。

 しかししかし、脂を強く落とすと聞くだけで肌にやさしくはなさそうだ。矛盾していると言っても良い。

 ふむう、薬草を配合して何とか効果を調節する、位しか思い付かない。早い所マジョオを仲間にした方が良さそうだ。

 シャンプーの為に!マジョオを!仲間にする!…思わず笑ってしまいそうだが、実際はかなり切実だ。

 決意を固めながらピュアを湯舟に浸からせてやる。と、次の子が名乗りを上げる。

「オレもフロってやつやっても良いか?」

 自分、ピュアのお世話したばかりの所でまだハダカなんだが…仕方ないか。

「オレは自分で洗えるぜ!」

 何偉そうに言ってんの?と、思ったが…ワットもまだお世話されてて良い年齢だった。

 何だか、褒めて褒めて♡♡、とか言っている様に見えてきた。まさかな?

「熱湯だから服洗うのは気を付けてね」

 注意しつつも触らせる気は無かったのだが。ワットは後ろからひょいと手を出した。出してしまった。

「ぉあちゃあぁあああ!!!」

 言わんこっちゃない。

「何だよ!何でこんなに熱いんだよ!!…って、何で笑ってんだよ!」

 だって……ぉあちゃーって、………ぉあちゃぁーって……ぷくくくっっ

「ほぉーおあー」

 いきなりピュアが奇声を発した。のんびり声だが。見てみると。

 ピュアは湯舟の中で立って、何やら奇妙な動きをしていた。…これってヌンチャク振り回す動きじゃないか?素手…というか素っ裸なので知らぬ者が見ても変な動きとしか思わないだろうが。うわやっぱり!ヌンチャクを左腋に挟んで右掌を前に突き出すポーズしてるよ!

「ほぉーぅおー」

 ポーズ決めながらぷるぷるしてる。……黙って見てたらジークンドー始めるんじゃないか?と言うかあっちの世界の誰かの記憶持ってるだろう!の割には未だに喋らない子なのだが。無邪気な顔もニセモノとは思えないし。あっちの世界の知識を隠す気も無さそうだし。……謎の子だ…

 さてワットだが、服は洗わせなかったが体は自分で洗ってた。頭も自分で洗ってたが、驚きと言って良いだろう。あっちの世界でだって幼児はやれシャンプーハットだ目に入ったら痛いだと大騒ぎになる筈だ。

「ふぃ~」

 如何にもサッパリ!といった感じで湯舟の縁に腕を引っ掛けてくつろいでいる。おいおい…

「え…と。僕も試してみて良いでしょうか」

 其れを見ていたシャールが怖ず怖ずと言う。自分、ずっと裸のままなのだが。もういいやー!

「どんどん来ーい!!」

 シャールもよく見ていた様で自身は自分で洗った。服は最初から手を出さなかった。そして。

「何だか生まれ変わった様な気がします…」

 ぼうっとした、夢見心地と言った感じで呟く。大袈裟と思えなくもないが、生まれて初めて風呂に入ったならそんな感想にもなるかなとも思う。

「わ…わたしも良いかな?」

「ぼくも!」

 シャールの感想は言葉になっていただけに、聞いていた子ども達がどんどん来た。予想以上の大盛況なのだろうが、心の準備が追いついて……ええい!全員面倒見てやらあ!!

 その数日後。自分は村長から呼び出しを受けた。

「あのだな。少々心当たりを尋ねたいだけなのだが」

 はっきり言って答えは決まっている。が、聞いているよと態度に示しつつこちらからは何も意見しない、というのが相手から話を引き出す技術であり、カウンセリングなんかの常套手段だ。

「此処何日か大人達からな、泣き付かれておるのだ。その、何だ。子ども達から臭いと言われて避けられて、な」

 やっぱりな!というか実は今ちょっと自分が村長に近付きたくないし!

 子ども達が風呂に入る様になって、体が汚い者がどう臭うか、というのが分かる様になったのだ。

 何だか村全体が娘さんに嫌がられる体臭オヤジみたくなってるな。

 しかし、である。体臭は自分では気付き難くどう対策出来るかもよう分からんが、今は大人達が汚いと分かり切っているので。

「村長、お話があります」

 村人全体が風呂に入れば良いだけだ。その計画を練り始める。そう!

「俺達の戦いはこれからだ!」

 打ち切りエンドみたいな事言うなー!なんてね!

「ちい?儂は時々お主が何言っているのか本当に分からん事があるのだが」

 ですよねぇー!これだからネタが通じないのは困ると言うかぁー。

「これから村全体の為に出来ることを詰めていきましょう、てことです」

 文明度低い…おっと、発展途上な世界で暮らしていくにはまだまだ忙しくなるぞ!ってな!

 読了有り難う御座いました!此処まで読むのも大変でしたよね?

 自分、リアルを心掛けているので、各種専門家の方々にも成る程~と思って頂ける、知識の宝庫な話にしたいのです。ので、素人風情が知った風な口を~!という方がおられましたらご意見を。但し、「これはこういう理屈なのだ~!」と詳しい解説付きでお願い致します。ただ「コレはダメだ!」と言うだけなら幾らでも言い掛かりつけられますからね。ほら、自分、ケチ付けられるのは嫌いなのです。

 ご意見が話に反映されているかはー、読者様の判断なさる所でしょう。が、自分、聞こえてないという訳ではないのですよ?自分、アレかなあ?アスペルガー症候群とかいうヤツ。話を聞かないヤツめ!とか言われると周りからはどう見えるか知りませんが傷付いているのですよ?大事にして欲しいなあ。

 次回は何時だ!とは追い詰めない程度にお待ち頂ければ幸いです。

 自分、忙しいのだ!一生懸命ポケ○ンもらいに行かなければ!………あれ?怒った?


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[一言] 長かった(笑) 面白いです 蚕ですが、食べられます 昔、自転車旅行した時、群馬県の桐生で、古老が養蚕の話しをしてくれました 繭玉を煮て、絹糸を取り出す訳ですが、最後に蛹が残ります この蛹を甘…
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