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9 早朝、教室のベランダで

 


 期末テストに向けて授業の追い込みが始まる中、昨日教室にノートを忘れて宿題をやり損ねた。これで何度目だろうかと自分に毒づきつつ、早朝に家を出た。学校にきて教室でこなすしかない。

朝早く教室に着くと、教室のベランダに楓が佇んでいた。楓は時折、早朝から教室に来てああしてベランダの手すりにもたれて景色を眺めている事がある。頻度までは分からないし、踏み込んで聞いたことはない。

 楓はかつて、根暗で猫背で友達のいない女子生徒だった。いつも朝早く教室へ来て、ベランダから外を眺めている変な女、というのがクラスの評判だった。入学から二か月たった梅雨の日に突然不登校になり、夏が終わって夕暮れが早くなった頃、両腕に包帯をして保健室に登校するようになった。包帯が取れて教室に復帰した時、楓は別人になっていた。背筋は伸び、声は低くつややかで、気さくな態度を身に付けていた。隣に座っていた僕は、戸惑いつつも程なく意気投合した。楓と僕はかつて同じ住宅地に住んでいて、小学校も中学校も同じだった。小学校の途中で楓は引っ越したが、学区は変わることなく同じ学校に通った。同じクラスになる事もあったが、全く話したことはない。それだけに、楓の変身に僕はひどく面食らったが、楓との軽快なやり取りをしている間に抵抗感は消えていった。

 かくも変身した楓ではあったが、早朝のベランダで佇む習慣は変わらなかった。僕は以前、ベランダの楓に声を掛けたことがある。落ち込んでいるような低いテンションだったし、言葉も出にくそうだった。少し話せばいつもの調子に戻ったが、人に見せていない部分が楓にもあるのだろうと想像がついた。


 窓の外の楓には声を掛けず、教室で宿題に没頭した。だからいつの間にか楓がすく側に立っていて声を掛けてきた時、僕は不本意なくらいうろたえてしまった。

「宿題、終わりそうか」楓は言う。

「ぼちぼちだな」僕は言う。

「もしキリがついたら少し話さないか」

「ああ、いいよ。今終わったところだから」僕は嘘をついた。



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