8 難民教室にて
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三人での昼食は、なるべく教室から離れた場所で食べることにしていた。男女混合で食べているというだけで、面倒な噂を流す人間がどのクラスにも必ずいるものだ。岬は僕と楓の前では天真爛漫にいられたが、クラスの女子には岬の奔放な態度に目を付ける輩もいた。僕や楓はクラスの誰が何と言おうと気にしないでいられるが、岬は別の女子グループから僕たちの元へやってきたから、そのあたりの事は気を使うらしい。
温かい時期には学校内の中庭のベンチで、今のような寒い時期は空いている教室に勝手に入って食べた。もっとも、その教室にはクラスの垣根を越えて食事をしたい人々が集まっていたから、こそこそと隠れて食事をしているわけでもない。昼食の度に集まる常連たちは、この部屋を難民教室と呼んだ。四十年前に建てられた校舎は、教室の数が余りがちだった。時代と共に子供の数が減っているからだと、先生たちは言う。
僕はいつもの難民教室で、楓と岬が仲良くじゃれ合うのを見ていた。岬はこのところ、楓に教わって弁当を手作りするようになった。岬は師匠の楓に味見をしてもらおうという名目で、楓にあーんをさせようとする。楓は三回に一回くらい応じる。照れてはいるが、もちろんまんざらではない。今となっては、自分だけでなく、岬にもそれが分かっている。
岬の邪魔はしない、と口に出したあの日以降、僕は岬と楓のやり取りを以前にもまして微笑ましく思えるようになった。岬が一層アピールを強めたのもある。僕は実質的に恋のレースから降りたのもある。あの日岬が見せた信頼の微笑みを思い出せば、彼女が思い悩んでいる恋に分け入って行こうとは思えなくなった。ひとたび思いの重荷が下りると、女友達が仲睦まじくやり取りしているのが、一層可愛らしく感じる。もっと見ていたいとさえ思った。
昼食を終えて教室に戻るとき、岬は楓の腕を取って胸に押し当てながら歩いた。僕はその後ろから緩みそうになる頬を抑えつつ歩いている。楓は弱りながらも岬を振りほどいたりしない。それどころか、目線がうなじや胸元に注がれているのを、僕は見逃さなかった。おい、楓、お前揺れてんじゃないだろうな、と僕は心の中で茶々を入れた。




