7 彼女の、僕だけに見せてくれた表情
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西日が車内に差す急行電車に乗って、僕と岬は街から地元へと戻っていく。僕は岬のペースに付き合い続けたのもあって、幾分疲労を感じていたが、満足感はあった。岬は微笑みを浮かべて車窓の景色を眺めている。夕焼けの光が岬の横顔当たって、柔らかな頬を浮かび上がらせている。
「今日はありがとうね」岬は言う。「いろんな話が聞けて楽しかった」
「楽しかった」そんな事を言うと余計に好きなるぞ、と僕は岬に心の中で言う。
「私たち、これからもうまくやれるかな」岬は車窓を見続けて言う。
「楓が変な気を起こさない限りは、大丈夫さ」僕は何でもないように意地悪を言う。
察した岬が、笑みを湛えつつ、怒った振りをした目で僕を見る。いろんな表情ができる子だ。表情を戻した岬が、車窓に視線を戻して言う。
「楓くん、私たちの関係について何か言ってるかな」
「もっと仲良くなれ、岬の悩みを聞いて応援してやれってさ」
僕は岬を見るのをやめ、同じく車窓に広がる風景を見た。電車は河川の上を跨ぐ鉄橋を走っている。河川敷に広がる常緑の植物が夕日に照らされて、冬とは思えない温かさを感じる。
しばらく無言でいた岬は、車窓を眺めたまま言った。
「応援してくれる?」
僕は何を言うべきか迷いながら、十数秒は掛けて言葉を選んだ。
「岬の気持ちを邪魔したりしない」
僕もまた車窓を見ながら言った。心に鈍い痛みが広がっていくのを感じた。
どれくらいそうしていたか分からない。僕は次につなげる言葉が見つからず、岬に視線を移すこともできないままずっと車窓を眺めていた。沈みゆく夕日が車窓の景色を徐々に夜のトーンへと変えていくのを見守る事しかできない。気が付くと、岬がじっとこちらを眺める視線に気づいた。
「やっと気づいた」岬は少しだけ涙を目に浮かべているように見える。
「ありがとう」岬は言う。「智生くん、信頼してる」
それは僕の為に浮かんだ涙で、僕の為の笑顔だった。




